白人の子供の黒人及び身体障害者に対する態度―その発達的研究

白人の子供の黒人及び身体障害者に対する態度―その発達的研究

White Children's Attitudes Toward Blacks and the Physically Handicapped:A Developmental Study

Phyllis A.Katz*,Irwin Katz** & Shirley Cohen***

田中久美子****

要約

 本論文は、子供が、人種、身体障害という二つの面で自分とはちがっている大人に接したとき、どんな行動をとるのかを発達的に研究したものである。被験者は、白人の幼稚園児男女と小学4年生児男女で、各被験者は、白人女性、黒人女性、車イスにのった白人女性、車イスにのった黒人女性のそれぞれのテスターに接するという四つのテスト場面の行動を、テスターとの距離をどの程度におくか、テスターの模倣をするか、テスターの手伝いをするか、といった三つの観点でチェックされた。従来の研究結果にもとづき、白人の子供は、二つの年齢水準の両群とも、白人とか健常者のテスターに接したときよりも、黒人とか身体障害者のテスターに接したときの方が、近よらない、模倣をしない、手伝いをしない、という傾向を示すと予想した。結果は、身体障害の有無にかかわらず白人の方が好感をもたれた。ただし、人種、身体障害、年齢、性の各要因間には交互作用がみられた。このことは子供が自分とは異なるある種の人に示す態度というものは、複雑な過程を経て形成されていくことを示唆している。

 

 従来の研究は、黒人や身体障害者に対して白人の子供が拒否的な態度をとる傾向にあることを示唆している(例、身体障害者への態度について、Billings 1963,Richardson 1971,Richardson & Royce1968,黒人への態度についてHorowitz 1938,katz印刷中、Williams & Roberson 1967,Yarrow,Campbell & Yarrow 1958 )。しかし多くの研究は、アンケートとか記述的分類とか象徴的刺激を用いて測定した言語的態度のみを扱っている。そのために、実際に黒人や身体障害者に接する場面にまでこれらの結果を一般化することはできない。

 白人の健常児を被験者にして、人種の違い、身体障害に対して示す反応を観察して、この二つの要因のうち、どちらの方が強い影響力を持つのかを調べた実験がある。(Richardson& Royce 1968 )。この実験では、10~12歳の子供に好きな順に絵を選ばせたことろ、人種よりも身体障害の有無ないしそのタイプが決定的な影響を及ぼしていたという。この結果は男女児ともに同じであって、RichardsonとEmerson (1970)、RichardsonとGreen (1971)も追試をして同様の結果を得ている。しかし実際に身体障害者に接したとき、絵で示されたときと同じような反応を示すのかどうかは、はっきりしない。性差やスティグマ(負の感情をひきおこすような示標)のちがいを発達的観点から比較するために、年齢の異なる子供を被験者にして調べるのは興味のある問題である。

 本実験は上記の問題を調べるために、幼稚園児および4年生児が、見なれない大人にどんな行動をとるか観察した。見なれない大人の人として、白人、黒人、整形外科的障害のある人、ない人、を選んだ。整形外科的障害としては、車イスに座っている状態を利用した。これは、RichardsonとRoyceが、車イスに座っている状態というものは、身体障害の中で最も嫌悪されるものでも、また逆に、最も嫌悪の少ないものでもない中間的なものであることを発見しているからである。

 従来の研究よりもっと明確に、スティグマと感じるようなものに子供がどんな反応を示すのかを調べるために、3種類の基本的な社会行動:接近―逃避、模倣、手伝い:を測定した。大人を被験者にした研究(Katz,Cohen & Glass,1975)を参考にし、ここでは、黒人よりも白人、身体障害者よりも健常者に積極的な行動(接近する、模倣する、たくさん手伝う)を示すだろうということだけを仮定した。

方法

被験者

 被験者はニューヨーク市立学校の80人の白人の子供である。この学校は白人の中流家庭の子供が多い。年齢は、5~6歳の幼稚園児と9~10歳の4年生児が半数ずつで、各グループとも男女同数である。

処理

 因子デザイン上、実験者の人種(白人、黒人)と身体障害(有、無)の二つの変数を扱った。したがって実験条件は、白人の健常者、白人の身体障害者、黒人の健常者、黒人の身体障害者が実験者になる4条件である。同一実験者が健常者と身体障害者の場合を演じ、身体障害者の場合には鉄製の補装具をつけて車イスに座った。両実験者とも20歳代前半の女性である。

手続き

 学校内の一室で個別にテストをした。実験者とは別人の健常な白人女性が、子供を部屋につれていき実験者に紹介する。案内してきた女性が部屋を出たところで、実験者は子供にいままでやっていたこととは違うこと、たとえば、私と一緒に絵をかいたりしましょうと言って、ドアからテーブルの方に進み、子供にイスに腰かけるよう言う。まずはじめに、子供がどのくらい実験者の近くに座ったかを記録する(着席時の社会的距離)。着席したら、カバとクジラの2種類の絵を見せ、まず実験者が自分の好きな方の絵を言ってから、子供に描きたい方の絵を選ばせる。このときの子供の選択を「絵の模倣の測定」とする。ついで実験者は、クレヨンでこの絵をぬりましょうと言って、オレンジとみどりのクレヨンを出し、また実験者が好きな色を先に言ってから子供に選ばせる(色の模倣の測定)。

 絵の課題がすんだら、幅1.5 mのフランネル板に子供の注意を促し、フェルトでできた種々の形で模様を作るように言う。実験者はフェルト板の一方の端に立ち、子供の実験者からどのくらいの所に立ったかその距離を記録する(起立時の距離の測定)。ついで実験者はフェルト板に動物の形をおき子供にまねをさせる。実験者が置いたものからどれくらい離れた所に子供が置いたかを記録する(遊びの時の距離の測定)。

 この課題がすんだら、一応絵のゲームは終了したことを告げ、教室に戻るか、それとも他の子の準備をするのでここにいて手伝うか、好きな方を選ばせる。手伝う方を選んだ子供には、たくさんのカードを二つの容器に分類する課題を与え、いやになったらいつやめてもよいと言う。ここでは、a手伝いをすると決める、b分類したカード数、c分類に費やした時間の3項目を測定する。

 二人の実験者は実験手続きを暗記し、しかも二人共同で役割行動がとれるようあらかじめ訓練をうけた。距離の測定は、目立たないように床やフェルト板にしるしをつけ、それを手がかりにして測った。これも二人の実験者が正確に測定できるようになるまで練習してある。したがって筆者は、実験者のちがいが実験結果にあらわれたとは考えない。

結果

社会的距離の測定

 おのおのの社会的距離(着席時、起立時、遊びの時)の測定結果を2×2×2×2分析した(変数は、実験者の人種×実験者の身体障害の有無×被験者の学年×被験者の性)。起立時ならびに遊びのときには有意差がみられなかった。着席時には実験者の人種F(1.63)=4.02、P<.05、に有意差がみられ、学年×人種×身体障害の交互作用もF(1.63)=3.14 P=.054有意差に近い傾向がみられた。人種についてみると、子供は黒人(67.39cm)よりも白人(46.53cm)の実験者の方に近づいて座ることを示している。交互作用についての各群の平均は表1の通りである。学年×性の交互作用をみると、男児は、幼稚園児よりも4年生の方が実験者から離れて座る傾向にあり、女児は反対に4年生の方が実験者の近くに座る傾向があった。学年×人種×身体障害の交互作用をみると、被験者の年齢により実験者の変数が異なった影響を与えている。幼稚園児は白人の実験者の場合には身体障害を伴っているときの方が離れて座り、逆に黒人の実験者の場合には身体障害を伴っているときの方が接近して座った。4年生児は実験者の条件による差は少ないが、幼稚園児とは逆の傾向を示し、黒人で身体障害を伴っている実験者のとき一番離れ、白人で身体障害を伴っている実験者のとき一番接近した。

表1 交互作用にみられる着席時の距離の平均ならびに標準偏差

学年×性a

幼稚園 M. 22.31 23.14
S.D. 15.38 10.68
4年生 M. 27.00 17.23
S.D. 9.91 6.30

a:幼稚園女児のみ19人、他は各群20人ずつ

学年×人種×身体障害
幼稚園 身体障害 健常
 黒人の実験者  M. 24.50 33.02
S.D. 12.33 19.43
 白人の実験者 M. 20.50 13.60
S.D. 11.93 8.44
4年生
 黒人の実験者 M. 26.20 23.00
S.D. 9.38 11.46
 白人の実験者 M. 18.20 21.00
S.D. 8.36 3.18

b:幼稚園児で白人の実験者群のみ9人.他は各群10人ずつ

模倣の測定

 a実験者が好きだと言った方の色を選ぶ、b色をぬるとき、実験者が好きだと言った方の絵を選ぶ、の2項目の模倣を測定した。aについては有意差がみられなかった。bについては、実験者の人種に有意差がみられ、X2(1)=5.64、P<.05、黒人(13/40)よりも白人(24/40)の実験者を模倣する子供が多い。人種×身体障害の交互作用でも有意に近い傾向がみられ、X2(1)=3.82、P<.10、白人の実験者の場合には身体障害がある(10/20)よりもない方(14/20)を子供は模倣し、逆に黒人の実験者の場合には、身体障害がない(4/20)よりもある方(9/20)を模倣している。

手伝いの測定

 a教室に戻らないで手伝う方を選ぶ、b手伝いに費やした時間、c分類したカード数の3項目を測定した。aについては、年齢の要因に有意差がみられ、X2(1)=18.34、P<.01 、幼稚園児(51%)よりも4年生児の方が(91%)手伝いをした子供が多い。実験者の人種、身体障害の有無は、手伝いをするかどうかの態度決定には無関係であった。

 b、cについては2×2×2×2(人種×身体障害×学年×性)分析したところ、いずれも似たような傾向を示し、実験者の人種と被験者の学年にそれぞれ有意差がみられた。

 その詳細は次の通りである。人種については、カード分類に費やした時間がF(1.63)=18.17、P<.001で、黒人のときには1.76分、白人のときには3.82分であり、分類したカード数はF(1.63)=11.60、P<.01 で黒人のときには101枚で白人のときには149枚であった。学年については、幼稚園児がF(1.63)=15.77 、P<.001で2.21分、59.9枚、4年生児がF(1.63)=83.05、P<.001で3.16分、189.9枚であった。人種では白人の実験者の方を長く手伝い、学年では4年生児の方が長く手伝っている。その他の要因については有意差がみられなかった。

考察

 未知の女性に接したとき、白人の子供が示す社会的反応に重要な影響を与えるのは人種であるという結果が出た。本実験で測定した社会的行動には、人種の要因に有意差がみられたのに、身体障害の有無はそれほどの影響を及ぼしていない。

 今回測定した種々の社会的行動は、子供が大人の実験者に対して持つ何らかの認知や感情を示していると言える。大人にどれくらい接近して座るかは、その人にどれくらい好感を持っているのか、あるいはひかれているのかを示していると言うことができる。Mehrabian(1972)たちは物理的距離を上記のようにみなし、プラスやマイナスの刺激を提示したときにみられる動物の接近―回避行動に似ているという(Miller.1944の結果と比較せよ)。

 大人の人が好きだといった方を模倣する行動は、大人のモデルを模倣することがモデルへの同一視が積極的になされているあらわれだとする、社会学習理論やBandura たちの見解(Bandura,Ross & Ross,1963)に関係づけることができる。Bandura (1963)やMischel (1971)たちの研究によると、報酬や罰を施す能力を持つ大人や、望ましく思われるものを取り扱う大人を子供は模倣する傾向があると言う。本実験でも白人の方が黒人よりも力があり、得るものをたくさん持っている可能性が強いとみなされたために模倣が多かったことを示している。

 手伝いに関しては、そのモチベーションの究明がむずかしい問題であり、子供の手伝い行動の解釈がいかにむずかしいかはBryan(1972)の論じているところでもある。本実験でも子供がなぜ実験者のカード分類の頼みに応じたのか、その理由がいくつか考えられる。たとえば、実験者のそばに長くいたかった、自分に能力のあることを示したかった。課題をやってみたかった、実験者の期待にそいたかった、手伝いをしたかったなどである。最後の手伝いをしたかったという動機のみが、一般的意味での愛他的なものだとみなすことができる。しかし子供の行動には、実験者のそばにいるのが好きだとか、実験者の承認を得たいとか、実験者のために何かしたいといったように、実験者への好感の情が反映されている。

 以上のように我々の結果は、態度の決定因子として身体障害の方が人種よりも重要である、というRichardsonやRoyce(1968)の結果とは明らかに違うものである。

 この結果の違いは、多分実験手続きの違いによるものであろう。第一に、RichardsonとRoyce は、人間の様子を絵にかいて示し、その絵に対する好みを言語的に表現(特に好きな順に並べる)させる方法をとっているのに対し、我々は実際の人間に接したときの様子を3種類の社会的行動でとらえている。いうまでもなく我々の方が本当の感情をとらえている。第二に、RichardsonとRoyceは10~12歳の子供を被験者にしているのに対し、我々は5~6歳、9~10歳の子供を被験者にした。第三に、RichardsonとRoyceは、刺激絵の内容を被験者と同じ年齢の子供にしているのに対し、我々は成人に対する反応をみている。多分、車イスとか人種の違いといったようなたぐいのスティグマに対する反応は、被験者の年齢やスティグマを有する人自身の年齢の函数として、非常に異なるものである。今後、種々の年齢段階の子供がスティグマを有する人が成人とか同年齢の子供の場合、どんな評価をし行動を示すのかを一つのデザインで実験することにより、この問題を明確にすることができるであろう。

 そのほか、本実験では、子供が実験者からどれくらい離れて座るかについて、年齢×性の交互作用がみられ、4年生の男児は幼稚園の男児よりも離れて座るのに対し、女児の方は逆の傾向がみられた。この性差による違いはスティグマの変数とは無関係で、多分、実験者の性と関連していると思われる。つまり両実験者とも女性なので、女児の方は年齢が増すにつれ実験者と関係を持とうとしていくのに対し、男児の方は自主性を示すことに関心がむけられると推測される。

 実験者からどれくらい離れた所に座るかについては、人種や身体障害の要因の影響が幼稚園児と4年生児では異なるので、多分複雑な発達過程があることを示唆し、年齢×性×身体障害に交互作用がみられた。しかしこの交互作用は、人種の要因の影響を無視してしまうほど強いものではないことに注目しなければならない。

 模倣行動では、人種×身体障害に交互作用があり、白人の実験者では健常者の方を模倣することが多いのに、黒人の実験者では逆に身体障害者の方を模倣することが多い。この現象を説明するのは非常にむずかしいことで、単なる偶然かもしれない。しかし実験者からどれくらい離れた所に座るかについて、幼稚園児は一貫した傾向をとり、黒人で身体障害者という2種類のスティグマを持つ人の方が、黒人という1種類のスティグマを持つ人よりも嫌悪感が少ない(より同情的)ことを示している。この説明は、スティグマに対する反応は、単に拒否的になるというようなものではなく、アンビバレント(反対感情が並立する)なものであるとするKatz(1971)たちの仮説と一致する。

 最後に本実験は、車イスにのるという身体障害の中の一種類だけを扱ったものである。今後、別の種類の機能的、外見的な障害を扱うことが大切である。

(Journal of Educational Psychology,1976,Vol.68.No.1. から)

参考文献 略

*ニューヨーク市立大学大学院

**ニューヨーク市立大学

***ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ

****東京都心身障害者福祉センター肢体不自由科


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1976年7月(第22号)33頁~37頁

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