特集/重度・重複障害児者のリハビリテーション 最重度遅滞児に対する感覚―運動訓練

特集/重度・重複障害児者のリハビリテーション

心理

最重度遅滞児に対する感覚―運動訓練

Sensory-Motor Training of the Profoundly Retarded

Ruth C. Webb

山下皓三**

摘要

 脳疾患を有する、最重度に遅滞した32名の施設入所児に対し、5~10か月間感覚―運動訓練を実施した。この訓練で、感覚刺激に対し子どもの運動反応を促進した訓練技術の概略がここに記してある。訓練前、後における行動の変化に関しては、臨床分析による比較が統計的分析による比較に比してより目的的であったが、これは使用した測定器具の相違によるものである。なお将来における理論構成の発展にと、最重度遅滞児に対しこのような感覚─運動技術を適用する基礎となった仮説が示してある。

 近年脳損傷児の訓練を助成するため、おおくの思索と新しい実践がなされてきた。このような冒険の基礎をなしている理論は、主として正常幼児の感覚―運動および姿勢の発達をたどろうとの試み(Getman, 1965 ; Piaget, 1952)、および神経学的機能不全の症候を記述し、これを軽減する方法の案出(Barsch, 1965 ; Kephart, 1960)、といった方向の研究に強くよっている。しかしながら、このように脳損傷児、とくに微細脳損傷児の学習問題に対する治療訓練が高度に発達してきているにもかかわらず、これらの技術が、覚醒メカニズムを高揚ないしは減弱させ、また非脳損傷児の獲得するのと同様な運動統制を得させるのにいかなる効果をおよぼすのかについては、その実証的文献が不足している。また理論と実践のより以上の不足は、最重度遅滞児の意識性および運動反応を改善する方法に関しても同様に言うことができる。

 本論は、過去2年間試行錯誤的に展開してきた感覚―運動技術、およびその経験的原理を簡潔に記したもので、このような経験に根ざした技術が、中枢神経系機構についてのある認識を増す、といったそのような日の到来することを願うものである。

症候

 最重度遅滞者は、行動における以下の一般的4領域で総体的に発達が遅滞している。

1 意識性の水準 Level of awareness これらの子どものうち、あるものは非常に不活発であり、感覚刺激に対して判然とした反応を示さず、また他方ある脳損傷年少児にあっては、積極的に自閉的な殻に閉じ込もろうとしているかのようである。このような状態は、快い刺激と不愉快な刺激に対しての認識、および過去においてこれらの刺激を受けたことの想起、また未来にあってこれらの刺激を受けようとしたり、避けようとする識別力の正常な発達をさまたげることになる。従って反応ないしは選択的反応能力のみられない最重度遅滞児には、即時的、意図的行為は不可能であると言える。

2 運動 Movement 覚醒水準に障害があった場合、一般的に総体的な身体運動に顕著な障害がみられる。不活発な子どもはほとんど動くことがなく、他方過活動のある子どもは絶えず動いており、この両者にあっては、基本的な運動反射、およびその後に完成する多様な感覚受容器(触覚、筋肉運動感覚、聴覚、視覚等)と運動効果器との統合がともに妨げられることになる。また頭部、体幹、四肢の正常なパターンの発現が不十分であれば、最重度の遅滞児は、正常児が感覚刺激に対して漸進的により適切な運動適応をする際もちいる粗大運動を獲得することができない。

3 環境の操作 Manipulation of the Environment 全般的に障害を有する子どもは、意識性および運動発達の障害により、まず身体的ニードの満足を、次いで情緒的なニードのそれを得るための物理的環境、社会的環境の改変に極度の困難さを示すものである。また覚醒反応および運動パターンの質、とくに目と手の協応といった微細筋肉群の協応の質が、子どもの手を伸ばす、握る、持つ、扱う、といった努力の質、すなわち周囲の物やひとを受容ないしは避けようとの努力の質に影響するものである。そしてこれら行為の反復を通して感覚─運動の統合を達成しないかぎり、障害児の環境を改変する能力は発達しない、と言える。物理的対象物を操作することのできない障害児は、またえてして対人接触の不能も伴うもので、このようなケースにあっては、社会的経験を通して協調とか競争といったものが生起せず、自己同一化も、他人との交渉を通して基本的欲求を満足したり、不満に感じたりすることがないため発達しないのである。

4 姿勢と移動 Posture and Locomotion 最重度遅滞児は、正常児であれば早期に達成することのできる、重力に対する直立姿勢の獲得が非常に困難である。しかしかれらのなかにも起立や歩行を学習するものがおり、また坐位、匍匐、這行姿勢をとることのできる子どももいる。ただ多くの子どもは、頭部、体幹のコントロールができず、何年もの間うつ伏せやあお向けに寝ているため、筋肉が硬く、ゆがんでしまい、体幹や四肢の使用が不能になってしまうのである。さらに空間における運動の開始から終わりにいたる安定した、しかも直立した姿勢をとることができないため、運動経験を通して方向性および片側優位性についての情報を学びとることができない。

 またしっかりした坐位および歩行姿勢のとれないものにとっては、環境との安定した身体的、知覚的関係を確立することが困難であり、周囲の身体的空間を明確に分ける境界の探索に制約があるため、実際経験を通してボディイメージとか自己概念の生起する心理学的空間を形成することが不可能となる。

 従って、もし最重度遅滞児が、ボディイメージおよび自己概念の発達の基礎となる静的姿勢、動的バランスをとることが可能であるとすれば、外部から与えられる刺激を通して発達が促進されるに相違ない。

訓練技術の原理

 大抵の最重度遅滞児には、既述の行動の症候がみられる。これらの症候は、感覚―運動統合の欠けていることに起因しているようである。正常児にあっては、「意識性」といわれる行動は初め感覚刺激を受動的に感受することから発達する。この感受性は、経験により接近・逃避反応から、最終的には弁別的反応へと進むのである。このような漸進的学習は、子どもが自由に動くことができなければひどく妨げられることになる。その後の物理的環境と社会的環境の統合は、刺激を受容し、処理する能力と、粗大および微細運動技能の出現に左右され、また空間における直立姿勢と移動は、早期の粗大運動技能の発達次第である。

 そして粗大な身体運動は、空間における静的・動的バランスの漸進的発達の基礎を構成するのである。およそこれらの姿勢は、その後の知覚―運動および概念発達段階でのボディイメージとか身体概念を生起させるといわれる。このように生後1年における感覚―運動の統合は、本論の中でAMMP(Awareness, Movement, Manipulation of Environment, Posture and Locomotion)として既述した行動を織り合わすことを意味する。従って四つの行動症候は、感覚―運動統合の障害に起因する、これが本仮説の命題である。

 最重度遅滞児に対する感覚―運動訓練の目的は、個別刺激に対する単一の、注意深い運動反応の発達と、これら単純反応を、行動の4領域と関連する複雑な感覚―運動単位に統合することにある。この方法は、触覚、筋肉運動感覚、視覚、聴覚といった1次感覚を刺激するよう努めることであり、これら相互の統合を喚起することはもちろんのこと、感覚統合における行動パターンの表出に必要な運動反応との統合を促進することである。

被験児

 実験プロジェクトの訓練を受けるため、重度および最重度遅滞者収容施設の病室担当者により32名(男児17名、女児15名)が選ばれた。これら被験児は、改善の能力がある、とスタッフにより判定されたものであるが、この判定の規準には、スタッフになじむ能力、物理的環境の意識性、行動問題が重度であること、過去にいかなる治療、訓練も受けていないこと、の四つが含まれている。

 男児17名、女児15名の暦年齢は、2歳6か月~17歳6か月で、平均9歳11か月である。バインランド社会成熟尺度(Vineland Social Maturity Scale, VSMS)による社会年齢は、2か月~21か月の範囲にあり、その平均は8か月で、12か月以上の社会年齢にあったものは、わずかに7名である。入所期間は、1年~10年以上にもおよび、すべての被験者が病因の既知なもの、不明なものを含めて脳疾患を有すると診断されている。

 既述の4行動領域における32名の機能不全症候は、極めて多様であった。すなわち覚醒機能不全を示したものは、4名の「不活発」児と20名の「自閉性」児であり、この24名すべてに接近反応(approach reaction )、逃避反応(avoidance reactions )がみられず、うち20名には弁別反応(discriminatory reactions)がみられなかった。なお残り8名は、「敏活な」子どもであると判定された。視覚障害は6名に、聴力欠損が5名にみられた。運動に関しては、17名が単肢またはそれ以上に障害を有する痙直型で、4名がアテトーゼ、1名が失調型、3名が低血圧であった。さらに7名の子どもは過活動児であり、17名に発作がみられた。なお7名には、明らかな運動障害はみられなかった。発達的能力の記録からは、15名に回転ができ、21名に揺することが、6名に跳びはねることが、そして2名に揺すり移動が可能であった。ここでの総数が32名以上であるのは、大抵の子どもがこれら活動のうち一つ以上を行うことができたことによる。

 環境の操作領域では、20名につかむ、手で扱うといった能力が欠け、4名はものに手を伸ばして触れることができ、1名はつかむ動作、7名は物を持つ動作が可能であった。訓練開始時に特別な子ども―成人の関係を持っていたのは、わずかに2名であった。なお4名にひどい反復動作がみられたが、これは病的な環境操作を通して注意をひこうとしているのではないかと思われた。

 姿勢と移動の逸脱さの分析からは、32名中16名の被験児に(脳疾患とは別の)六つの組織的欠陥がみられた。すなわち小頭症(microcephaly)、モンゴリズム(mongolism)、脊柱と四肢の捻挫(distorted spines and lips)、先天性股関節脱臼(congenitally dislocated hips)、そして彎曲手・足(clubbed feet and hands)などである。発達的観点からみれば、21名は頭部と体幹のコントロール、および坐位が可能であり、4名が匍匐、1名が直立、5名に歩行が可能であった。

 さて訓練期間は、51/2 ~101/2 か月で、平均8か月であったが、訓練期間に差が生じたのは、訓練スタッフの増員につれて被験児に対するプログラムが付加されていったことによる。訓練は個々の子どもに1日1時間、週4日実施され、かれらは1グループを除いて、居室から教室へ移動して訓練を受けた。なお訓練棟(In-Service Training Ward)の子どもたちは、看護実習生からその棟で訓練を受けた。

方法

 A.訓練技術 Training Techniques(表Ⅰ参照) 意識性を増すための訓練として、まず受動的な刺激にもっとも感じやすい受容器である触知性および筋肉運動性の感覚を刺激することから始められた。手足を摩擦することは、理論上触覚反応と筋肉運動反応を統合する触受容器、およびこれらと密接に連合している運動効果器を刺激することになり、さらに異なる肌ざわりと硬さの表面(スポンジ、針金でおおわれたもの、こまかい紙やすり、体操用マット)上を他動的、ないしは自力で転がることは、触受容器に運動および筋肉運動感覚的要素と統合する機会を与えることになった。

 視覚と聴覚の訓練は、まず懐中電燈ないしは玩具のがらがら、といった特定の刺激に対する接近と逃避反応を促進した。その後にこれらの反応が、手を伸ばして触れることと、つかむことに統合されるようになってはじめて、特別に扱うものを選択するといった弁別を示し始めたのである。このことは、図─地弁別の第一歩であった。

 味覚、嗅覚、および痛覚への刺激は、極端な味(レモン、塩、みょうばん、砂糖)、におい(レモンのエキス、コーヒー、酢、にっけい)、温度(熱い湯、冷たい水)といった体験を与えた。このような刺激に対する過度に拡大した接近─逃避反応は、異なる身体部分の意識性を促進したが、この個々の身体部分の意識性は、自己概念の発達に必須なボディイメージの形成に先行するものであった。この重要な学習には、鏡の前でのプレイも追加された。

 さて運動を改善するためには、自己刺激に感応する受容器と同じく筋肉運動感覚受容器が、運動反応と統合されなければならず、エアマットレス、揺りイス、跳躍台、ブランコ、トランポリンを使って、転がる、揺する、跳ねる、振る、といった運動を他動的に与えることで促進させることができた。なお過活動は、手と足を交互に屈伸させることで改善がみられた。これらの運動は、時には受身的な子どもや抵抗を示す子どもに無理に課すということがあったが、ほかの子どもたちは、これらの活動を大変喜んでいた。

 物理的環境の操作といった点での改善には、感覚受容と適切な運動反応、およびこれらのスムーズな統合が必要であった。さて様々な手ざわり、色、音の玩具を用いることで、手を伸ばす、つかむ、持つ、扱う、といった活動に固有の手と目の協応が改善され、また柔軟な材料、たとえば粘土、砂、水、といったものに触れることが触覚刺激となり、さらに、遊戯台での反復経験が満足のできる活動を識別させることになった。社会的環境の操作は、単純なボール遊びのなかで生ずる初期的な社会的関係と、ある特定の大人による親愛をこめた承認から発達した。

 姿勢と移動に関する能力を発達させる方法は、個々の子どもの身体的障害にかなったものでなければならない。この領域での感覚─運動の統合は、子どもの姿勢の発達に左右される。かりに直立した際頭部をあげることのできない子どもに対しては、支えを胸部にあて、ガラガラの音とかおいしい食物のにおいといったもので、重力に抗して頭部をあげるように仕向けられた。支えなしで座る能力では、しっかりした支えとなる、大きいゴム輪の中に座らせることで助長したが、このテクニックは、坐位に必要な体幹の筋肉をも発達させることになった。その後子どもが自身で支えることができ、独りで動くことが可能になるに従い、匍匐器、起立台、平行棒、訓練イス、三輪車、といったものが用いられた。

 さて4領域すべての訓練方法については、その概要が表Ⅰに示してある。

表Ⅰ 感覚─運動訓練技術
(Techniques of Sensory-Motor Training )

目    標

刺激する感覚

訓 練 活 動

準備するもの

意識性水準の向上
(Rasing Level of Awareness )
1.触覚 1.タオルでふく、ブラッシングする、氷でひやす、なでる、たたく、布で触れる 1.タオル、ブラシ(柔らかい素材のもの)、氷のう、肩たたき
2.筋肉運動感覚 2.短時間、“筋肉運動感覚がきわだつ”ような拘束をし、身体の意識性をしっかり抱きしめるとか支えるといったことで促進させる 2.砂袋、副木入りジャケット、強くやさしい腕
3.視覚 3.懐中電燈の光、つるされたボール、色つき玩具を目で追わせる 3.懐中電燈、天井からつるしたボール、楽しいブロックとかボール、人形
4.聴覚 4.子どもの名前を呼ぶ、使いなれた物、そばにいる人の名前を呼んだり、行為の呼び名を言う、ボールとかガラガラをふる、音楽とか指示を与える 4.リストボール、音の出るもの、テープレコーダー、子守り歌とか種々な高低・テンポのレコ-ド
5.味覚 5.極端な味を与える 5.甘い、すっぱい、にがい、塩からいといった物質(はち蜜、レモン、みょうばん、塩)
6.臭覚 6.極端なにおいをかがせる 6.鼻を刺激する物質(コーヒー、にっけい、酢)
7.温度覚 7.冷、温を感じさせる 7.冷たい水と湯の入った二つの洗面器
8.感覚統合 8.鏡映遊び 8.等身大の鏡
運動の改善
(Improving Movement)
筋肉運動感覚 1.回転させる 1.表面の粗い、なめらかな、硬い、およびやわらかいマット(きめの細かい幕、板、スポンジ)
2.揺する 2.揺りイスや馬、大きいビーチボール
3.跳びはねさせる 3.エアマットレス、トランポリン、跳躍シート
4.振り動かす 4.ハンモック、つるされているシート
5.特定の手、足の運動をとおして過活動を“方向づける”  
環境操作の改善
(Improving Manipulation of Environment )
感覚─運動の統合 1.手を伸ばして触れさせる 1.種々なきめ、色、音のでる玩具、水遊び、粘土、砂、フィンガーペイント、パンチングボール
2.つかませる 2.同上
3.持たせる 3.同上
4.投げさせる 4.小さいボール
5.社会的手がかりに反応させる 5.ボール、ほうび、ごちそう、愛情
6.ひとりの他人との関係を発展させる 6.特定の訓練者
姿勢および移動の発達
(Developing Posture and Locomotion )
感覚─運動の統合 1.うつ伏せになり頭をあげさせる 1.胸を支えるもの
2.座らせる 2.ゴム管
3.匍匐させる 3.匍匐器、匍匐路
4.起立させる 4.起立机、ひとによる支え
5.三輪車に乗せる 5.補助イスおよび足をとめるベルトをつけたり、はずしたりできる三輪車
6.歩行させる 6.平行棒、ひとによる支え、動きを制限した手押し車
7.階段のぼりをさせる 7.訓練用階段

 B.テストと評価手続き Testing and Evaluation Procedures 訓練前、ひとりひとりの子どもに、感覚統合および運動遂行水準を判定するための感覚─運動評価がなされ、4領域での行動発達水準がAMMP指標に記録された。この指標は、著者が最重度遅滞者の感覚─運動発達を測定するために開発した評定尺度である。種々な尺度〔ゲゼルの発達表(Gesell Development Schedules)、ビューラー尺度(Buhler Scale)、カッテル幼児知能検査(Catell Infant Intelligence Scale)〕が参考となったが、ピアジェの感覚─運動図式理論(Piaget's theory of sensory-motor shemas)が、「意識性」指標における接近─逃避、および弁別反応のおおきな理論的根拠となった。「操作」、「運動」、および「姿勢」指標の項目は、正常な発達課題の継起に合致するよう選択されている。本尺度はいまだ実験段階で、妥当性と信頼性の検定がなされているところである(表Ⅲには、改訂された現行のものが記載されている)。

表Ⅲ AMMP指標AMMP index #1(改訂3版)

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 AMMP指標には、50項目:意識性─18;運動─10;環境の操作─10;姿勢と移動─12が含まれている。各尺度の項目は、単一の反応から複数の反応へと進み、5段階で評定される。すなわち「1」は、望ましい反応が即時にみられた場合に与えられ、2回の刺激の後にある反応がみられた場合は、「時々(often)」と判定し、「2」が、3回の刺激では、「時に(sometimes)」として、「3」が与えられる。子どもが4回の試行後に望ましい反応をした場合、「まれに(seldom)」と判定し、「4」が、また5回の刺激が与えられても特定の項目に反応しない場合、「反応なし(never)」として「5」が与えられる。当初失敗した項目は、テスト時限内に適宜間隔をあけて5回まで繰り返し実施してよいが、全項目はその時限内に評定されなければならない。

 各行動領域指数は、カテゴリーごとの項目における評点を合計し、そのカテゴリーにおける最高点反応評定数(項目数の5倍)により除した商で示される。四つの尺度、範囲が不均衡であるため、以下の式が成り立つ:すなわち、

 意識性尺度合計=90、 運動尺度合計=50

 環境操作尺度合計=50、 姿勢と移動尺度合計=60である。

 AMMP指標の合計は、4領域すべての評点を合計し、それを250(50項目すべてが最高点をとったと仮定した数の総数)で除した商で示される。

 (意識性の合計+操作の合計+運動の合計+姿勢と移動の合計)÷250=総AMMP指標

 各指標は、その尺度に特有の百分位に基づいて、実際の総評点と、最大評点の総数の比で示してある。尺度は、評定者の便宜のため個々の指標区分の最後に記されている。これは各領域で得られた総点の尺度差を示すもので、計算することなく、その尺度の指数が得られるようになっている。

 以下に示す図式は、意識性指標に対する尺度を説明するものである。

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 意識性指標には、18項目が含まれている:かりに評点の合計が18~27の間にあるとすれば、指標「1」が与えられ、28~45であれば「2」が、以下46~63で「3」、64~81で「4」、82~90で「5」が与えられる。指標「1」は、その項目に即時的に反応したことを意味し、指標「5」は、ほとんど反応のみられなかったことを意味するところから、より低得点の方がよいことになる。それゆえ訓練前の評点と比較した場合、それより低い評点になっていれば改善がみられたことになる。

 AMMP指標は、訓練チームのメンバーにより訓練期間の前後、被験児全員に実施された。ここで得られた訓練前後のAMMP指標の比較を基に、新しく獲得され、または改善された反応の数とその質が表Ⅱに記載してある。新しくみられた行動については、病室担当者がAMMP4領域の各々にどのような改善がみられたか、その程度を評価することで、より以上のチェックがなされた。そこでは被験児ひとりひとりの意識性、運動、環境の操作、または姿勢と移動の各変化について、「常に(always)」、「時に(occationally)」、「反応なし(never)」の3段階で評価された。訓練チームは、これらの判定を別々に行い、その両評価の差を検討した。

 また各々の被験児に対しては、情報提供者としての病室担当者とともに心理学者によりVSMSが実施された。(この尺度は、感覚―運動訓練が個人の社会性の発達を助長するものか否かを判断するために用いられたもので、これらの子どもたちを低段階から評価することのできる数少ない発達尺度の一つである)。そして訓練前後におけるVSMS社会年齢の相関係数ρが求められた。またAMMP得点とVSMS社会年齢に関して、訓練前と訓練後の相関については、スピアマンの順位相関で検定された。

結果

 A.訓練前、後におけるAMMP得点の比較においては、この初めての実験的試みにおける主要な傾向のみが検討されたにとどまる。さて訓練前後におけるAMMP総指標の平均の差は4.4であり、中央値の得点差は40であった。この平均値および中央値の変化は、負の方向にあるところから改善のみられたことを示している。個々の領域でのAMMP指標は、運動得点において最大の平均差-7が得られ、以下意識性、環境操作、姿勢と移動、といった順(-4.0、-3.9、-3.2)に変化がみられた。またAMMP修正得点の訓練前後における相関係数は0.82であり、各々の領域で、病室担当者と訓練チームにより評定された改善を示す評点の相関は、意識性で0.997、他の3領域では0.996であった。

 B.新しく獲得され、また改善された行動に関する結果は、それぞれのAMMP指標項目ごとに表に示してある。

 意識性の領域では、当初接近反応のみられなかった24名の子どものうち、8名がこれを獲得し、逃避反応では24名全員が、また弁別反応では、20名のうち12名がこれを獲得した。さらに訓練前これらの反応を示した子どものうち、7名が接近反応に、3名が逃避反応に、そして11名が弁別反応に改善を示した。しかし当然のことながら訓練技術をもって病理学的な運動機能不全を除去することはなかった。さて訓練前に回転することの不可能であった17名の子どものうち、5名にこれが可能となり、また11名中8名に揺することが、26名中6名にバランスをとることが、30名中2名にブランコで振ることが可能となった。このような運動のすべてに改善のみられたのは11名であった。

 環境の操作といった観点からは、32名のうち26名に新しく獲得された行動と改善された行動がみられた。当初はすべての被験児が、伸ばす、つかむ、ないしは持つ、といった点で不可能であったが、うち3名は、新しく伸ばすことを学び、3名がつかむことを学んだ。また20名に、この領域での訓練前の成績に比して改善がみられた。訓練前に社会的関係のみられなかった12名が、その後ひとり、またはそれ以上の人々と関係を持つことが可能となり、当初反復行動のみられた4名は、その頻度に減少がみられた。姿勢と移動については、32名中31名が新しい行動を獲得し、改善された行動を示した(表Ⅱ参照)。

 C.VSMSにおける社会年齢を、訓練前と後で比較すると、平均で2か月の差(中央値で3.5か月の差)がみられ、相関係数ρは0.78であった。なおAMMP得点とVSMS社会年齢間のρは、訓練前と後で、0.82から0.71へと減少した。

表Ⅱ 行動的機能不全:訓練前と訓練後
(Behavioral Dysfunctions : Before and After Treatment)

領 域

訓 練 前

訓 練 後

新しく獲得された行動

改善された行動

意 識 性
(Awareness )

1.覚醒機能不全      
 a.不活発な 4      
 b.自閉的 20      
 c.覚醒機能不全なし 8      
   計 32      
  (Ⅰ)接近反応─なし 24 (Ⅰ)接近反応─新たに獲得された 8 (Ⅰ)接近反応
   ─改善がみられた 7
   ─改善がみられない 1
  (Ⅱ)逃避反応─なし 24 (Ⅱ)逃避反応─新たに獲得された 24 (Ⅱ)逃避反応
   ─改善がみられた 3
   ─改善がみられない 5
  (Ⅲ)弁別反応─なし 20 (Ⅲ)弁別反応─新たに獲得された 12 (Ⅲ)弁別反応
   ─改善がみられた 11
   ─改善がみられない 1
2.感覚の欠陥    2.感覚の欠陥─変化なし
 a.視覚障害 6     
 b.聴力障害 5   
   計 11       

運 動
(Movement)

1.運動機能不全   1.運動機能不全─変化なし
 a.痙直型      
  (Ⅰ)四肢マヒ            12    
  (Ⅱ)片マヒ 1    
  (Ⅲ)両マヒ(両上肢) 1    
  (Ⅳ)単マヒ 1    
  (Ⅴ)対マヒ(両下肢) 2    
 b.アテトーゼ型 4    
 c.失調型 1    
 d.低血圧 3    
 e.外見的運動機能不全なし 7    
  計 32    
2.随伴症候群   2.随伴症候群─変化なし
 a.過活動 7    
 b.けいれん 17    
  計 24    
3.発達レベル    
 a.回転ができない 17  a.回転する能力が獲得された 5  a.回転する能力が改善された 7
 b.揺することができない 11  b.揺する能力が獲得された 8  b.揺する能力が改善された 3
 c.跳びはねることができない 26  c.跳びはねる能力が獲得された 6  c.跳びはねる能力が改善された 0
 d.振り動かすことができない 30  d.振り動かす能力が獲得された 2  d.振り動かす能力が改善された 1
  計 84   計 21   計 11
     e.過活動の減少 3

環境の操作
(Manipulation of Environment )

1.発達レベル    
 a.手を伸ばして触れることができない 28  a.手を伸ばして触れる能力が獲得された 3  a.手を伸ばして触れる能力に改善がみられた 2
 b.つかむことができない 31  b.つかむ能力が獲得された 3  b.つかむ能力に改善がみられた 6
 c.持っていることができない 25  c.持つ能力が獲得された 0  c.持つ能力に改善がみられた 7
  計 84   計 6  d.物をいじる 5
     e.改善がみられない 1
      計 21
2.関係をもつことができない 12 2.関係をもつ能力が獲得された

12

 
3.病的操作─反芻 4   3.病的操作─反芻:改善がみられた

4

姿勢と移動
(Posture and Locomotion)

1.発達レベル    
 a.頭部および体幹のコントロールができない 11  a.頭部および体幹をコントロールする能力が獲得された 1  a.頭部および体幹のコントロールに改善がみられた 4
 b.座ることができない 11  b.座る能力が獲得された 3  b.座る能力に改善がみられた 2
 c.匍匐できない 28  c.匍匐する能力が獲得された 0  c.匍匐する能力に改善がみられた 1
 d.立つことができない 31  d.立つ能力が獲得された 1  d.立つ能力に改善がみられた 6
 e.歩くことができない 27  e.歩く能力が獲得された 1  e.歩く能力に改善がみられた 4
 f.三輪車に乗ることができない 32  f.三輪車に乗る能力が獲得された 7  f.三輪車乗りに改善がみられた 0
 g.階段をのぼることができない 32  g.階段をのぼる能力が獲得された 1  g.階段のぼりに改善がみられた 0
  計 172   計 14   計 17
2.組織上の欠陥   2.組織上の欠陥─変化なし
 a.脊柱の捻挫 1    
 b.手足の捻挫 4    
 c.股関節脱臼 3    
 d.弯曲手・足 3    
 e.小頭症 6    
 f.蒙古症 1    
  計 18    

考察

 主要な傾向についての結果から、わずかながらもAMMPおよびVSMS両尺度に改善の傾向がみられたが、訓練前と後の得点の相関に、わずかな減少のみられたことは、これら二つの尺度で測定された行動が、訓練前と後でより異なっていることを示すものである。両尺度でみられた変化について統計的に有意でない、ということは、両尺度が、比較する意味のない発達領域を測定していることを示している。すなわちVSMS尺度は、絶え間ない正常な成長の傾向を記述した項目で構成されているが、AMMP指標は、生後1年以内の平面的な発達水準での感覚─運動パターンに基づいているのである。従ってAMMP項目には広がりはあるが、VSMSを特徴づける発達の速い項目は省かれているのである。

 運動領域において、訓練前後の得点に比較的大きい平均差がみられたが、これは考察すべき興味ある問題である。4領域での訓練課題を分析してみると、運動領域においてのみ、非協同的な子どもに対する他律的課題で構成されている、ということである。すなわち子どもの意志いかんにかかわらず、転がしたり、揺すったり、跳びはねさせたりするのである。一方他の領域での訓練、例えば、意識性では外部刺激に自発的に反応するように、また操作活動では自発的に手を伸ばしたり、つかんだりするように、移動では定着した姿勢の位置を積極的に変えるように、といったごとく指導することで鼓舞されたのである。従って進歩は遅々としてはいても、自らの運動反応で行動したのである。なお運動領域で最大の改善がみられたのは、他の3領域に比し、より基本的な行動パターンを多く含んでいることにもよるであろう。

 さて臨床的な観点からの関心は、当然のことながら特別な行動パターンに改善のみられた子どもの割合を分析することにある。本訓練では、ほぼ半数の被験児に意識性の増加がみられ、運動パターンではすべての子どもに改善がみられた。また3分の2の子どもに手を伸ばしたり、物をつかむ能力が、おとなの人と関係を持たなかったすべての子どもにこの能力が、姿勢と移動では、1名を除いてすべての子どもにある程度の能力が身についた。このことはAMMP指標で示されたように、ほとんどの最重度遅滞児の感覚─運動行動が、10か月の訓練期間で改善のみられたことを示している。さらに病室担当者と訓練者の改善に関する判定で高い相関のみられたことは、この改善が二つの異なる場で実際に観察されたことも示している。

 統計的分析および行動が新しく獲得され、改善された被験児の割合からは、より高い感覚─運動機能を暗示してはいるが、これらが以後の進歩について、訓練でみられた変化または効果の程度を決定的に評価するものではない。また感覚─運動行動での変化を評価する本指標が、統計的に有意な結果を生ずるほどに十分検討されたものでないことも、統計的、臨床的結果から結論された。しかしながら臨床的分析からは、これらの手続きが最重度遅滞児の感覚─運動統合を促進することを示している。

 ところで主要な二つの疑問に対しては、いまだに答えをだすことができないでいる。その一つは、本研究からは、行動の変化に効果を与えるに必要な訓練期間、および訓練が開始されるべき年齢の上限を予測することができない、ということである。ただ年少児において最大の改善がみられたことは、明らかにかれらの身体的欠陥や分裂的行動パターンが比較的自由であり、新しい感覚─運動反応の発達により効果を受けやすいように思える。

 さて他の問題は、訓練場面で暗黙のうちにある1対1の関係での思いやりの効果である。これについては、感覚─運動訓練課題を与えずに、大切な関係にある成人の、やさしい、慈愛に満ちた保護のみを与える統制群を加えた研究の計画される必要がある。

American Journal of Mental Deficiency, Sept.,1969から)

参考文献 略

 グレンウッド(Glenwood)州立病院付属学校
**東京教育大学付属桐が丘養護学校


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1977年10月(第26号)17頁~30頁

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