心理 テレビ使用による四肢マヒ者に対する看護婦の態度の変容

心理

テレビ使用による四肢マヒ者に対する看護婦の態度の変容

Changing Nurse Attitudes toward Quadriplegics through Use of Television

Marie Sadlick,M.N.,*& Frank B.Penta,**Ed.D.

橋本厚生***

 一人のリハビリテーションを成功させた四肢マヒ者を写した17分間ビデオテープを見、そしてそれについて討論することにより、一社会人及び一労働者としての四肢マヒ者に対する看護学生の上級生の態度が望ましい方向に有意に変容された。この有意な変容は、リハビリテーション施設で四肢マヒ者と接触が行われた10週間以上に持続(少し減少したが)した。

 四肢マヒ者と接触している他の看護婦に対する看護学生の態度は、このビデオテープによっては有意に変容しなかった。四肢マヒ者と接触している自分自身に対する態度は、ビデオテープを見た後に有意に変容したが、その効果は持続しなかった。今後の研究についてさらに考察が行われる。

Ⅰ.はじめに

 障害をもつ患者に対する看護婦の態度については多くの文献がある。しかし、この態度を修正することについてはほとんど文献がない。障害者の看護のために、態度変容理論が適用可能であることを実証できる研究が大いに望まれている。

 看護婦の患者に対する態度は、その看護婦の患者との相互作用に深く影響を与える。恒久的な障害を持ったばかりの患者の自己概念(self-concept)を修正するには、看護婦の態度が重要なものである。リハビリテーションが障害をもつ患者に充実した人生をもたらすことができる、という専門家の積極的な態度が、リハビリテーションの過程では必須なのである。おそらく、クライエントに対するリハビリテーション専門家の態度は、リハビリテーションの治療や計画に対する個々の反応を決めるのにほかの何よりもまして重要なものなのである。

 障害者に対する態度がもつ深い影響力は長い間知られてきた。障害者が新しい自己像に到達するまでの過程は、自己吟味(self-examination)、仲間が示す反応、すなわち、表情、行為、言葉に対する解決、他人が示す態度に対する印象などを通して生ずるものである。障害者は自分の能力を種種な分野に伸ばしたいと願っていても、もし健常者の方がそこまではとても力がないと考えていれば、その障害者はその願いを断念してしまうかもしれない。患者が入院中、看護婦は患者やその家族と接することが非常に多いので、特に彼女たちは障害者の積極的な参加を促進するか、阻止するかを左右する立場にある。看護婦は社会の期待に対する役割モデル(role models)と見られているかもしれない。 

 態度を考える場合、その権威者たちは、態度とはある評価的な反応への後天的に学習された素質傾向であることに同意するようである。態度スコアが、ある種の行動に向けてのひとつの性向を示しているにすぎないことは同意されている。表面的な反応は、場面によってもたらされる脈絡を含めて、他の諸要因にも依存している。しかし、他の諸要因が知られた場合、その態度を知ることは行動を予測する可能性を増加させる。例えば、救急の医療施設だけで四肢マヒ者と接触していて、地域社会での四肢マヒ者に会う機会がほとんどない看護婦は、四肢マヒ者を本質的には救われない者として見ているかもしれない。よくととのった地域社会の場での四肢マヒ者を視聴覚装置を使って見れば、一般的な四肢マヒ者に対する態度に変容を生ぜしめるような媒介反応をもたらすかもしれない。

 患者とその他の人との間の相互作用に対する期待が相違した場合、役割葛藤(role conflict)が生ずるだろう。さらに重要なことだが、もしその期待が、能力とは無関係に「援助されている者」もしくは「障害者の従事者」の役割を負わされているような期待であれば、相互作用は最適どころではなくなるだろう。視聴覚のメディアを通して呈示される正確な情報によって、期待は変化されるだろう。望ましい態度をもった人々──特に権威のある人々ならば──と接触することは、また望ましい態度の発達に寄与することができる。

 障害者に対する態度の変容にもっとも効果あるひとつの方法は、グループ間での相互接触と共有経験を通して行う方法である。Fearによれば、看護学生に4週間のリハビリテーション看護コースを与えたところ、脊髄損傷の患者に対するその学生の態度は有意(p<.01)に変容した。McDanielのいくつかの研究では、雇用主が過去に障害者と接触していることが障害者を雇用する決定因となることが示されている。リハビリテーションを成功させた障害者との接触を準備することは必ずしも可能ではないので、それに代わるような接触が視聴覚メディアによって準備され得る。

 イリノイ州立大学看護学部のリハビリテーション看護コースにおいて、学生たちはその接触する多くの障害に圧倒され、抑うつ状態になっていることが多いと観察された。多くの学生は、失望と無力の感情をもちながら10週間のリハビリテーション看護コースを過ごさなければならなかった。障害者を扱うためのより効果的なコースを作るためには、こうした学生たちの望ましくない感情を軽くする必要があると教師スタッフは感じた。スタッフがこの過程での助けとするために、準備するように決定したことは、患者とその家族のケアや訓練のプログラムを調整するセラピスト(nurse therapist)をリハビリテーションに成功した四肢マヒ者に面接させ、それを撮ったビデオテープをさらに開発することであった。患者が自動車を運転したり、自動車から降りたりするシーンや患者が発明したリフトで自宅に入るシーン、仕事場で働いているシーンなどが新たに加えられた。このテープは看護学生のグループに見せられ、討論に使われた。

 このテープとその後の討論の目標は、障害者の患者のリハビリテーションの可能性に対する看護学生の態度及びリハビリテーションにおける看護学生自身の役割に対する態度を、より望ましいものにすることであった。「四肢マヒ者のリハビリテーション」という題のこのビデオテープはイリノイ州立大学教育機器局で開発され、四つの主要な問題についての討論を行うようにデザインされている。四つの主要な問題とは、四肢マヒ者と接触して遂行する看護学生の仕事に対するその看護学生自身の態度、四肢マヒ者と接触して遂行する他の看護婦の仕事に対する看護学生の態度、一社会人としての四肢マヒ者に対する看護学生の態度、そして一労働者としての四肢マヒ者に対する看護学生の態度である。

 テープにおさめられた面接の時間は17分であるが、障害者となる前の四肢マヒ者のライフ・スタイル、彼の事故の時の状況、彼が恒久的に障害を持つことを認識した時の感情や態度、リハビリテーションのプロセス、彼の最近のライフ・スタイルの変化等に関する情報を、セラピストがその四肢マヒ者から聞き出すようにプログラム化されている。リハビリテーションを受け始めてからの四肢マヒ者の態度と行動、特に一社会人として、また一労働者としての彼の動きが強調されている。

 本研究の目的は、四肢マヒ者に対する看護学生の態度変容におけるビデオテープ使用の効果を評価することである。

Ⅱ.方法

(1)対象

 イリノイ州立大学看護学部学生の上級生130人のうちからランダムに44人が選ばれた。これらの学生は、リハビリテーションを重視する医学-外科看護コースに在籍している。

 さらに、統制群として40人の学生が選ばれた。これらの学生は公衆衛生看護(Public Health Nursing)に在籍し、リハビリテーション看護コースを受けた経験がない学生である。

(2)評価方法

 態度測定の尺度は、OsgoodのS・D法(Semantic Differential)を使用して作成された。10組のタームがOsgoodのS・D法のリストから選ばれ、学生は各組のタームについて自分の態度を評定し、7段階のスケールのいずれかにその評定をしるすように要請された。これらのタームはよく知られている三つの因子(評価(evaluation)、能力(potency)、動作(activity))と高い相関にある。これら三つの因子について、四つの概念(concept)が分析される。

 評価のタームは、良い-悪い(good-bad)、きれい-汚い(clean-dirty)、価値がある-価値がない(valuable-worthless)、臆病-勇気がある(cowardly-brave)等である。能力のターム(別名、「フットボール因子」)は、強い-弱い(strong-weak)、固い-柔らかい(hard-soft)、深い-浅い(deep-shallow)等である。動作のタームは、積極的-消極的(active-passive)、遅い-速い(slow-fast)、鋭い-鈍い(sharp-dull)等である。評価の因子が中心的な働きをするが、これら三つの因子は意味の判定(meaningful judgement)における分散を説明するのにもっとも有効なものであることがOsgoodによって証明されている。

 各タームは先に選ばれた四つの概念に関連あると思われたタームである。四つの概念とは、「四肢マヒ者と接触して働く自己」、「四肢マヒ者と接触して働く他の看護婦」、「一社会人としての四肢マヒ者」、「一労働者としての四肢マヒ者」である。各アイテムについてよく考えずに連続して同じような評定を記していくことを避けるため、望ましいタームと望ましくないタームは、そのいずれかだけが紙の一方の側に片寄らないようにランダムに両側に対となるように並べられた。

 以下に示してあるのは各タームの並び方の一例である。

 

 四肢マヒ者と接触して働く自己

   良い………………悪い

   固い………………柔らかい

  積極的………………消極的

  汚ない………………きれい

   弱い………………強い

   遅い………………速い

   臆病………………勇気がある

   深い………………浅い

   鋭い………………鈍い

価値がある………………価値がない

 

 ポストテストはプリテストと同じであるが、各組の左右のタームは、連続して自動的に同じ回答をさせないように再び並び変えられた。

(3)手続き

 プリテストは早い時期に行われた。その際には以下のような教示が学生になされた。

「各セクションの上には、判断すべき語句もしくは概念が書かれている。その語句の下には、相互に対称的な意味をもつ言葉の対が書かれている。この対の言葉はスケールと呼ばれている。諸君は、各セクションの上の概念が各スケールのどの点に最も一致しているかを評定して下さい。この概念があなた方に意味しているところのものを基礎として、これらの評定を行って下さい。これは試験ではなく、正しい答えも間違った答えもありません」

 さらに理解を深めるために、一つのアイテムが例として使われた。

 プリテストの後、ビデオテープが学生に見せられた。ビデオ放映の後、討論が行われた。ポストテストは調査の終わりの時期に行われ、リハビリテーション・コースが終わる10週間後にも行われた。

 統制群の学生には、実験群の学生と同じプリテストが行われた。統制群の学生はビデオテープを見ていないし、リハビリテーションについての討論もしていない。彼らは、当学部で定められているクラス会合に出席した時に、実験群と同じポストテストを受け、同じく10週間後に再びテストを受けた。

 実験群と統制群に対するプリテスト及びポストテストの結果のスコアは、統計的に検定され(F検定、片側検定)、ビデオテープの視聴と討論参加の結果、実験群の学生の態度に有意な変容があったかどうか検討された。同じく、10週間の効果、すなわち10週間後に行われたポストテストのスコアが、実験群と統制群について検定された(表1)。

Ⅲ.結果

 分析の結果、リハビリテーションを成功させた患者のビデオテープを見、討論した後の実験群のポストテストのスコアは、統制群のポストテストのスコアよりも高い(p<.011)ことがわかった(表1)。この高いスコアは、「一社会人としての」及び「一労働者としての」四肢マヒ者に対する概念的(conceptual)分野において得られている。スコア(ポストテストのスコアからプリテストのスコアを引いたもの)が、元配置分散分析による分散分析で検定されて、これらの結果が現れた。表1の平均値は粗点の平均値である。

表1-四肢マヒ者に対する態度のプリテスト、ポストテストの平均値及び確率レベル

概念

  素点 素点   素点
プリテスト ポストテスト 10週間ポストテスト
平均値 平均値 有意水準 平均値 有意水準
一社会人として 実験群 49.4 58.4 .001 55.1 .001
統制群 50.5 51.3      
一労働者として 実験群 51.2 59.6 .001 56.7 .003
統制群 51.1 51.5      
他の看護婦 実験群 55.5 58.8 .287 56.0 .766
統制群 53.0 53.4      
自己 実験群 51.5 54.4 .018 53.1 .286
統制群 53.0 52.7      

 データはマイアミ大学統計研究所のManovaプログラムを使用したコンピューターによって分析されたが、これはF値と自由度について三つの正確な有意の数字を示している。

 実験群と統制群との間には、「四肢マヒ者と接触して働く自己」の概念に関するアイテムについて有意差(p<.018)が認められる。「四肢マヒ者と接触して働く他の看護婦」に対する態度は有意には変容していなかった。長期の変容効果を検討するために、調査の10週間後にポストテストが行われた。プリテストと比較すると、実験群は、「一社会人として」(p<.001)及び「一労働者として」(p<.003)の四肢マヒ者に望ましい態度を維持していることがわかる。「四肢マヒ者と接触して働く自己」に対する態度の全体の変化は10週間後に有意ではなくなっている。

 評価、能力、動作の各因子について、実験群と統制群の相違の分析は表2に示されているが、「一社会人として」及び「一労働者として」の四肢マヒ者の概念に関した因子すべてに有意差が認められる。「一労働者として」の四肢マヒ者に関しての動作因子を除けば、すべてが.01以下の確率にある。動作は.015以下の確率である。

 「四肢マヒ者と接触して働く他の看護婦」の概念に関して、有意差を示す因子は何もない。「四肢マヒ者と接触して働く自己」に関しては、能力因子が有意差(.014)になり、その合計も有意差になっている(.018)。実験群と統制群の間の全体的な差は有意である(p<.002)。

表2-統制群と実験群による、変数としての因子別スコアの統計的有意性

概念

変数 因子

有意水準
一社会人として 1 評価 21.366 .001
2 能力 8.764 .004
3 動作 20.990 .001
4 合計 32.379 .001
一労働者として 5 評価 20.467 .001
6 能力 18.322 .001
7 動作 6.187 .015
8 合計 26.313 .001
他の看護婦 9 評価 0.007 .935
10 能力 3.309 .073
11 動作 0.613 .436
12 合計 1.149 .287
自己 13 評価 0.622 .433
14 能力 6.349 .014
15 動作 2.192 .143
16 合計 5.823 .018
全体

P=2.785  p<.002

 各変数についてのプリテストと10週間後のポストテストとの比較による長期の態度変容が表3に示されているが、「一社会人として」の概念の能力と、「一労働者として」の概念の動作を除けば、やはりすべての領域に有意な差(p<.01)が認められる。「自己」に対する態度では、能力がやはり有意水準にある(p<.03)。

表3-10週間のポストテストによる、変数としての因子スコアの統計的有意性
概念 変数 因子 有意水準
一社会人として 1 評価 9.555 .003
2 能力 0.658 .420
3 動作 25.123 .001
4 合計 12.808 .001
一労働者として 5 評価 9.621 .003
6 能力 12.466 .001
7 動作 1.243 .268
8 合計 9.622 .003
他の看護婦 9 評価 0.248 .620
10 能力 3.696 .058
11 動作 0.526 .470
12 合計 0.089 .766
自己 13 評価 0.177 .675
14 能力 4.867 .030
15 動作 0.490 .486
16 合計 1.154 .286
全体

F=3.454  p<.001

 プリテストと10週間後の間の全体の差は有意である(p<.001)。PearsonとHartleyの歪度と尖度(Pearsonのβ-1とβ-2)の尺度では、その分布は正規分布を示していた。標準偏差は最小2.4と最大3.3(.09の広がり)の間にあり、分散の同質性を示している。

 Osgoodの多くの研究と同じく、評価因子は分散の最も大きな部分を説明していることがわかった。

Ⅳ.考察

 リハビリテーションを成功させた1人の四肢マヒ者の患者を撮った17分間のビデオテープを看護学生に見せ、それについて討論させた結果、看護学生の四肢マヒ者に対する態度は望ましい方向へ変容した。この変容した態度は時間の経過にもかかわらず持続し、リハビリテーション施設での10週間のコースの終わりまで有意に持続した。しかし、時間の経過とともに、この変容は減少しているが、四肢マヒ者に対する望ましい態度を作り出すには、この10週間の研修コースよりもリハビリテーションを成功させた患者を撮ったビデオテープの方が、効果的であることが示された。これは学生が、まだリハビリテーションを十分に受けていないような、嘆きのプロセス(mourning process)の初期にあるような患者と接触して働いたことによるのかもしれない。障害者に対する態度を望ましい方向に変容させるには、リハビリテーションのコースの終わりごろにリハビリテーションを成功させた患者との望ましい接触経験を持たせる必要のあることが上記のことから指摘される。同じく、リハビリテーション施設の専門家たちも、すでに社会に適応している障害者についての成功話により勇気づけられる必要のあることが指摘される。

 ビデオテープを見せた直後に、四肢マヒ者のケアをしている自分の姿に対する態度は望ましい方向に有意に変容しているが、その分散のほとんどは能力によって説明されうる。それは以下のようなことで生じたのかもしれない。つまり、学生が、ビデオテープに写っている看護婦である面接者は自分と同じような専門家であると見、さらにその看護婦である面接者がテープの中で行っている役割を自分も行えると感じたのではないか、ということである。四肢マヒ者のケアをしている自分に対する態度の望ましい方向への変容は、10週間経つと消滅している。このことは、そのコースの終わりに、学生自身の能力に関して学生の感情にもっと注意が払われるべきであることを示している。

Ⅴ.勧告

 17分のビデオテープ及び討論により態度が望ましい方向に変容したこと、及びその効果が時間の経過にもかかわらず持続したことが見い出されたのは、今後さらに研究の発展の可能性を示唆している。本研究のように、成功話を呈示してやる方法は、本研究の障害者と同じ障害を持つ他のグループ、あるいは他の種類の障害のグループにも効果があるかもしれない。こうした呈示方法が脳卒中、盲、てんかん、容姿の欠陥などが有している問題についても開発されることをすすめたい。

 このような成功話の動機づけ(success-story motivation)は、患者とその家族における相互の役割期待の変容と適応の促進に役立つことができよう。リハビリテーションに対する専門家たちの期待を、リハビリテーションの結果はもっと成功するという期待へ変容させることにより、患者のリハビリテーションの進歩が間接的に影響され得る。また、障害者に対する一般人の態度もこの方法で変容できるであろう。

 教育経験の態度の側面や、専門分野の選択のような未来の行動を決定する際の態度の役割が今後さらに研究される必要がある。

(Rehabilitation Literature Sep.1975から)

参考文献 略

*シカゴのイリノイ州立大学看護学部の医学-外科看護(medical-surgical nursing)助教授

**南カロライナ医科大学歯学部教育訓練部長

***筑波大学技官


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1979年11月(第32号)30頁~35頁

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