社会 コミュニティ・カレッジの身体障害者学生のニード評価

社会

コミュニティ・カレッジの身体障害者学生のニード評価

Community-Based and College-Based Needs Assessment of Physically Disabled persons

Sandra E. Burnett* Elizabeth J. Yerxa**

橋本厚生***

本論文は、ミシガン州デトロイトにおける1979年米国作業療法協会会議に提出されたものである。

 1977年、南カリフォルニア大学(U.S.C)作業療法学部は、コミュニティ・カレッジ****(Community College)の身体障害者学生のための作業療法実施プログラムを設定する補助金をリハビリテーション・サービス局から受けた。カリフォルニア州に在るコミュニティ・カレッジは、大学の教育や職業に関するプログラムにおいて、また大学での通常の生活において、「統合」(main-streaming)を促進させるための援助サービスを障害者学生に提供するように法的に義務づけられている。カリフォルニア州に在る93のカレッジがこうしたサービスを提供しているが、作業療法プログラムを実行するOTを雇用しているカレッジはCupertinoに在るDeAnzaカレッジとAptozに在るCabrilloカレッジだけである。

 調査やプログラムを説明しているカレッジのプログラムが何もないので、将来のクライエントのニード調査によるデータに基づいた新しい作業療法プログラムを作ることが決定された。クライエントの自発性という作業療法哲学に合わせて、調査はサンタ・モニカ・カレッジ(SMC)の近くに住んでいる障害者及び近くに住むことになるかもしれない障害者の自覚したニードを確定することになった。調査は以下のような質問を持っている:当コミュニティに住む障害者の人口統計学的な特徴は何か。自分の生活に対する満足度はどんなものであるか。日常の生活上の動作(ADL)を行うのにどれだけの自信をもっているか。何に興味をもっているか。同じ地域に住む非障害者のニードと比べて、彼らのニードはどうであろうか。

背景

 障害者は種々で多数であることや、統計上の推定につきものの誤差のために、障害者の雇用、家事、ADL等に関するニードの正確な説明が手に入らず利用できない。障害者、特に重度障害者のコミュニティでのニードを経験的に評価している調査はほとんど見あたらない。50歳から69歳までのリハビリテーションを終えた者に焦点を当てている研究がひとつあるが、それによると、重度な障害者に対して“コミュニティはフォロー・アップによる実りある医学的、社会的ケアの提供に「失敗」している"。特に、コミュニティでの移動、社会的レクリエーション、職業等の分野に失敗している。

 多くのフォロー・アップ調査は脊髄損傷の者についてなされてきているが、おそらくその障害のタイプや重さの予測のしやすさやこれら変数の統制のしやすさのためにそうなるのであろう。他のタイプの障害者のニードについての調査は少ししかない。

 コミュニティの障害者のニードに焦点を置いた研究で公表されていないものが2~3ある。Urban Instituteによるコミュニティの重度障害者ニード調査によれば、身体的に最も依存した状態にある障害者が作業療法サービスに対して最大のニードを示している。しかし、どのようなトリートメントが望まれるのかは語られていない。1977年に、Katz O'Brianは南カリフォルニアのDeAnzaカレッジ地域に住む障害者(280人)のニードについて調査をしたが、最も重要なニードは“自立”と“障害を受容させるセラピー”であるとしている。十分に開発された自立生活技能プログラムを希望しますかという質問に対し、75%の障害者が“はい"と答えている。家政学者のJobeはサンタ・モニカ・カレッジの障害者学生27人について調査したが、そのうち90%の学生が家事処理のリハビリテーションを受けていないことが分かった。この学生たちは、自立生活に役立つ家事労働の簡素化と自助についての知識を必要としている、とJobeは結論している。

 障害者がコミュニティで生活しようとするうえでのニードについては、集中的な調査もなければ広範な調査もない。未発表の研究の中には、自立生活技能を大きく優先しているものもある。しかし、数少ない研究も小さいサンプルを使用しており、質問も一般的なものとなっている。コミュニティの障害者が作業療法サービスに対して持っているニードがどんなものであるかについて多くのことが調査される必要がある。

方法

 質問紙 6ページから成る質問紙は、部分的には、すでに行われた諸調査を基にし、また自立生活技能の評価のために開発された臨床的方法も用いている。地域についての人口統計学的な知識、作業療法技術についての知識、サンタ・モニカ・カレッジでのクラスづくりにおける実際的な配慮などもまた、質問紙内容に寄与している。強制選択法と文章完成法の両方が含まれている。質問紙は保健や教育の専門家及びクライエントの代表に検討された後に、各関係機関を通して千人の身体障害者に対してフィールド・テストを行った。

 自己報告による方法は、リハビリテーションのニードを確定するのに信頼性のある方法である。なぜなら、専門家というものは自分のトリートメント能力に合わせてクライエントのニードを見るという“専門の影響”は、この方法では減少してくるからである。障害者は自分自身の生活の諸状況について最も熟練した情報源となる場合が多いのである。さらに、調査への参加に応じてくれた障害者は、コミュニティ・カレッジにおいて諸サービスを利用することに最も関心を有していると考えられるのである。

 データ収集 質問紙は、サンタ・モニカ・カレッジ付近の地域に居住する518人の障害者サンプルに郵送もしくは直接手渡された。サンプルの選定に当たって、高等学校卒業後に当カレッジに来るであろう障害者学生及び自己啓発や職業訓練のために学校に来る一般障害者の両者がサンプルに含まれるように、年齢と障害の種類は意図的に幅広い分布を示すように選定された。

 できるだけ幅広い分布を得るために、サンプルは6つの関係機関の援助のもとに収集された。6つの関係機関は、サンタ・モニカ・カレッジ障害者学生センター、州リハビリテーション局、UCLA障害者学生サービス、ロスアンジェルス郡-カリフォルニア児童サービス(Los Angeles County-California Children's Service)、米国脳性マヒ協会ロスアンジェルス郡支部、障害者のための消費者団体である自立生活のためのウエストサイド・コミュニティ協会等である。比較サンプルとして、サンタ・モニカ・カレッジの学生36人のボランティアからなる非障害者学生群を作り、初級社会学講座の間に質問紙が配布された。

 6つの関係機関は、クライエントとの接触に良い方法をとってくれた。すべてのクライエントは質問に回答するのに助けとなる援助が提供された。回答の返信を促進させるために、切手のはってある、宛名の書かれた返信用封筒が質問紙と同封されて送られた。数人の盲人と重複障害者は、作業療法学部の学生によって個別に自宅で面接調査を受けた。聾者の回答者にはテレタイプライター(TTY)が利用された。フォロー・アップの手紙も送られ、回答を忘れていた者は思い出して回答を送ってくれた。

結果

 190人の回答があった。サンタ・モニカ・カレッジ非障害者36人の回答はすべて計算機による分析が可能であった。各関係機関から接触を受けた障害者のうち、35%から68%の者が郵送で回答を送ってきた。この結果は、他の調査に見られる同種の比率37%から50%という数字と比べると優るとも劣らない。

 サンプルはサブグループに分割された。サンタ・モニカ・カレッジに在籍する障害者学生であるサンタ・モニカ・カレッジ障害者学生群(以下、SMC障害者学生群という)(N=61)、その他の障害者であるコミュニティ障害者群(N=129)、SMC障害者学生群とコミュニティ障害者群とを合わせた全体障害者群(N=190)、SMCに在籍する非障害者学生であるSMC非障害者学生群(N=36)等である。SMC障害者学生群とコミュニティ障害者群は、両者間に統計的有意差がある場合にのみ別々に扱われたが、その他の場合には合わせて分析された。

 人口統計学的特徴(表1) SMC障害者学生群の年齢は、対照群のSMC非障害者学生群に比べ有意に高い。両群の男女の比率はほぼ同じであり、両群とも女性が多い。SMC障害者学生群のうちの既婚者はSMC非障害者学生群に比べ多いが、残りの85%は独身者である。SMC障害者学生群により多くの既婚者がいることは、対照群よりもSMC障害者学生群に年齢の高い者が多いことによるのかもしれない。

 1人で生活している者がSMC障害者学生群にやや多いが、両群とも60%以上の者は家族もしくは配偶者と生活している。人種の分布については、SMC障害者学生群は対照群に比べ白人を多く含み、アジア系アメリカ人を少なく含んでいる。SMC障害者学生群のうちほぼ半数(48%)は州もしくは連邦の所得補助(income assistance)を受け、かなりの比率が家族から何らかの援助を受けている。この群のうちわずか18%の者が収入源として雇用による賃金を示している。大学卒業者はSMC障害者学生群により多くいて、興味深い結果となっている。というのは、彼らは現在も短期のコミュニティ・カレッジに在籍しているのである。

表1 SMCの障害者及び非障害者の学生の人口統計的特徴

SMC障害者学生群
(N=61)
  SMC非障害者学生群
(N=36)
年齢 31
13.5
(パーセント)
平均年齢
SD
23
6.8
(パーセント)
性別 42 男性 39
58 女性 61
独身 85 独身 92
既婚 15 既婚 8
同居者 21 1人 14
61 家族・配偶者 73
18 グループ・ヘルパー 15
人種 3 アジア人 14
10 黒人 14
7 ラテン・アメリカ人 6
77 白人 58
3 8
収入源 48 州・連邦の経済援助(SSI、SDI) データなし
39 家族の援助
26
25 社会保障
18 賃金
2 年金
2 復員軍人給付
学歴 18 小学校、高校 16
65 何らかの高等教育、専門学校 81
17 大学卒 3

 障害の特徴(表2) SMC障害者学生群の51%がひとつの障害を持ち、28%が2つの障害を持っている(障害は診断名よりもむしろ機能的な損傷で報告されている。例えば、上肢下肢の欠損のように。また、多くの障害は、視覚の整形外科的障害、神経学的障害、コミュニケーションの障害などと合併している)。驚くべきことに、対照群の非障害者学生の16%もひとつの障害に有していると報告している。16%の中には、二分脊髄が1ケースあり、他は視覚や手機能の障害のケースである。SMC障害者学生群の多くは何らかの補助具を使用しているが、SMC非障害者学生群の方は視覚上の補助具の使用だけである。SMC障害者学生群の約半数(49%)は先天性もしくはそれに近い障害を有し、他の学生は年齢の半分以下の期間の障害を有している。

表2 障害の特徴

SMC障害者学生群
(N=61)
(パーセント)
  SMC非障害者学生群
(N=36)
(パーセント)
現在の障害の数 3.5 0 81
51 1 16
28 2 3
17.5 3ないしそれ以上 0
現在の補助具の使用 15 移動のための補助具 0
17 歩行のための補助具 0
14 視覚のための補助具 19
10 その他 0
障害の期間 32 生まれてから 0
17 ほぼ生まれてから 0
51 年齢の半分以下 11

 生活の満足度(表3) RobinsonとShaverによれば、一般母集団の生活満足度を評価するのに、多くの研究は以下のような2つの質問をしている;おおむね、あなたは毎日楽しく過ごしていますか―非常に楽しく過ごしている。まあまあ楽しく過ごしている、楽しく過ごしていない。おおむね、毎日の生活に満足していますか―全く満足している、まあまあ満足している、満足していない等である。本調査のこの種の質問に関しては、SMC障害者学生群とSMC非障害者学生群の間には有意な差のあることが判明した。コミュニティ障害者群とSMC障害者学生群の両者で有意に高い比率(P<.003)が出たのは“楽しくなく”においてである。X2検定では、“楽しくなく”の回答には有意差が認められた(P<.01)。二番目の生活満足度に関する質問の結果では、SMC障害者学生群とコミュニティ障害者群の“満足していない”における高い比率は、SMC非障害者学生群のそれに有意に相違している(P<.004)。X2検定では、“満足していない”の回答には有意差が認められた(P<.025)。

表3 コミュニティ障害者群、SMC障害者学生群、SMC非障害者学生群の生活満足インデックス

概して、あなたは毎日楽しく過ごしていますか:
非常に楽しく
(パーセント)
まあまあ楽しく
(パーセント)
楽しくなく
(パーセント)
コミュニティ障害者群
  (N=127)
16.5 47 36
SMC障害者学生群
  (N=60)
18 52 30
SMC非障害者学生群
  (N=35)
34 63 3
“楽しくなく”に関してのx2検定     P<.003
P<.01
概して、毎日の生活に満足していますか:
全く満足している
(パーセント)
まあまあ満足している
(パーセント)
満足していない
(パーセント)
コミュニティ障害者群
(N=126)
9.5 48  
SMC障害者学生群
(N=59)
17 49  
SMC非障害者学生群
(N=35)
14 77  
“満足していない”に関してのx2検定     P<.004
P<.025

 将来の目標(表4) KempとVashによれば、重い障害を持った後に目標を形成し得る能力は、望ましく志向された、生産的な行動を予測することになる。また、両者によると、身体の回復に関連していない目標の場合で、目標形成の高い頻度は脊髄損傷の者の生産的行動を最もよく予測している。興味深いことに、4つかそれ以上の数の目標を示す学生は、SMC非障害者学生群よりもSMC障害者学生群において多くいる。また、SMC非障害者学生群に比べ、職業上の、人間相互間の、そして身体上の分野の目標を示す比率はSMC障害者学生群において高い。

 職業目標に関連して、SMC障害者学生群の65%は以前就いていた仕事とは違った仕事を望んでおり、23%は障害者を援助するような何らかの仕事を望み、以前と同じ仕事を望む者はわずか8%であった。SMC非障害者学生群に関する同様なデータは得られなかった。

 SMC障害者学生群の以前受けたリハビリテーション・サービスに対する満足度を見ると、63%の者が作業療法に満足し、74%の者が職業リハビリテーションに満足しているが、56%の者は心理学的なサービスに対して“満足か不満か分からないあいまいな”態度(uncertain)を示している。高い比率で職業リハビリテーションに満足しているのは、SMCのすぐれた職業カウンセリングプログラムによるものと思われる。対照的に、コミュニティ障害者の56%が職業リハビリテーションに満足を示しているが、心理学的サービスに対しては54%の者が満足を示している。最も適切な時期に何らかのリハビリテーションを受けなかったと報告したSMC障害者学生は26人いたが、その間違った時期の内容は、“早過ぎた”(31%)“遅過ぎた”(31%)“全く受けなかった"(38%)というものであり、ほぼ同率で回答は分布している。SMC障害者学生群の67%は、自分たちは現在、リハビリテーション・サービスの恩恵を受けることができると考えている。しかし、その望んでいるサービスはあまりにも種々で、分類することができなかった。

 SMC障害者学生群が当カレッジのクラスに出席する上で予想される障壁として最も多く挙げたものは、通学、宿題、金銭であった。なんの問題もなくクラスに出席できると考えている者はわずか21%である。

 要するに、SMC非障害者学生群に比べると、より多くのSMC障害者学生群は年を取っており、1人で生活し、白人であり、低収入者であり、大学卒であり、楽しい生活を送っておらず、生活に満足しておらず、特に職業、人間相互間の分野により多くの努力目標を持っていることになる。SMC障害者学生群の大多数は、現在リハビリテーション・サービスの恩恵を受けることができると考えている。

表4 SMC障害者学生とSMC非障害者学生の将来の目標
  SMC障害者学生群
(パーセント)
  SMC非障害者学生群
(パーセント)
目標の数 9 1 32
33 2 29
24 3 23
33 4かそれ以上 16
目標のタイプ 73 職業的 48
41 副業・趣味的 36
41 人間相互間の 15
17 身体的 0
7 物質的 1
職業目標のタイプ 65 以前と違う職業 データなし
23 障害者と働く
8 以前と同じ職業
4 特に目標なし

 コミュニティ作業療法サービスへのニード 作業療法サービスに対するニードを確定するために、本調査にはADLについての30のチェック・リストが含まれている。このため質問は、あなたが他人の助けなしで行うのに自信がある動作はどれですか。あなたが今後もっと自信をつけて行えるようになりたいと思う動作はどれですか。あなたは、この質問に答えられない、である。分析のために、各項目は6個の“動作クラスター”に分類された。すなわち、基本的ADL、認知(cognitive)及び問題解決の技能、社会的及びレクリエーションの技能、学校で教育を受ける上での及び職業上の技能、家事処理の技能、コミュニティでの移動の技能である(表5)。これらの質問の回答頻度をサンプルの各群間で比較するために、動作を行う自信についてのインデックスが構造化された。“他人の助けなしで行える自信がある”という回答は2点のスコアーが与えられ、“今後さらに自信をつけたい”という回答は1点が与えられた。高い平均値は高い自信を示す。近い平均値は作業療法分野へのニードを示すと考えられた。各群の平均値は分散分析によって比較された。このニード評価には、3つの群が統計的に比較された。

 基本的ADL“クラスター”は、整容、更衣、入浴、食事、電話使用等の動作における自信の評価を含む。スコアーを比較すると、3群間の自信レベルには有意差はない(P<.0537)が、SMC非障害者群が最も高い自信を示している。

 認知及び問題解決の技能は、金銭のやりくり、身体エネルギーの保持、居住地の選定、問題解決及び意思決定、自己のニードの自覚を含む。コミュニティ障害者群とSMC障害者学生群の自信は、SMC非障害者学生群のそれよりも有意に低い(P<.008)。

 社会的及びレクリエーションの技能には、レストランでの食事、初めての人との応待、友人を作る、デート、旅行、余暇の過ごし方がある。コミュニティ障害者群とSMC障害者学生群の自信は、SMC非障害者学生群のそれよりも有意に低い(P<.005)。

 学校で教育を受ける上での及び職業上の技能には、就職の面接、一定の書式に書き込むこと、職探し、学校で教育を受ける上での計画化、雇用主や教師と話すことを含む。コミュニティ障害者群とSMC障害者学生群の自信は、SMC非障害者学生群のそれよりも有意に低い(P<.01)。

 家事処理の技能には、簡単な食事の準備、ショッピング、家事手伝い人を雇って家事を教えること、家のそうじ、衣服の洗濯やアイロンかけ、衣服の縫製やつくろいがある。3つの群それぞれの間に有意差があり(P<.001)、コミュニティ障害者の自信が最も低く、次いでSMC障害者学生群のそれが低い。

 コミュニティでの移動の技能には、自動車の運転と免許の取得、公的交通機関の利用がある。3つの群それぞれの間に有意差があり(P<.001)、コミュニティ障害者群の自信が最も低い。

 結局、自信インデックスに関して、コミュニティ障害者群とSMC障害者学生群の自信がSMC非障害者学生群のそれよりも有意に低くなかった分野は基本的ADLだけであった。家事処理の技能とコミュニティでの移動の技能については、コミュニティ障害者群はSMC障害者学生群及びSMC非障害者学生群に比べ低い自信を示している。認知の及び問題解決の技能、社会的及びレクリエーションの技能、学校で教育を受ける上での及び職業上の技能の3クラスターについては、コミュニティ障害者群とSMC障害者学生群の自信はSMC非障害者学生群のそれよりも有意に低い。

表5 自立生活技能における自信のインデックス

  分散分析
平均値 SD
基本的ADL技能 コミュニティ障害者群 1.88 0.23
SMC障害者学生群 1.93 0.19
SMC非障害者学生群 1.98 0.05

P<.0537

認知の及び問題解決の技能 コミュニティ障害者群 1.66 0.34
SMC障害者学生群 1.68 0.33
RMC非障害者学生群 1.85 0.20

P<.008

社会的及びレクリエーションの技能 コミュニティ障害者群 1.67 0.34
SMC障害者学生群 1.66 0.35
SMC非障害者学生群 1.91 0.16

P<.0005

学校で教育を受ける上での及び職業上の技能 コミュニティ障害者群 1.64 0.39
SMC障害者学生群 1.61 0.38
SMC非障害者学生群 1.85 0.26

P<.01

家事処理の技能 コミュニティ障害者群 1.63 0.32
SMC障害者学生群 1.77 0.27
SMC非障害者学生群 1.95 0.13

P<.0001

コミュニティでの移動の技能 コミュニティ障害者群 1.53 0.46
SMC障害者学生群 1.71 0.41
SMC非障害者学生群 1.95 0.15

P<.001

(注:点線は、有意差を示した群の組み合わせを示している)

 ADL調査のもつ意味 一般のコミュニティにいる障害者とSMC障害者学生群の両者から成るコミュニティで生活している障害者の多くは、基本的ADLには相対的に十分な自信に達していた。おそらく、以前に受けたリハビリテーションのおかげで、この“生存に必要な技能”(survival skills)を持っていたかあるいは必要に迫られて自分で訓練していたのであろう。家事処理の技能とコミュニティでの移動の技能に関して、コミュニティの障害者群の自信はSMC障害者学生群とSMC非障害者学生群のそれよりも低いようである。障害者は、コミュニティ・カレッジに入学する前に家事処理やコミュニティでの移動の技能の修得にある程度達している必要があろう。コミュニティでの移動は最優先されるべき技能である。というのは、SMC障害者学生群には通学のための輸送手段が与えられていないのである。当カレッジに在籍する障害者ですらSMC非障害者学生群に比べると、コミュニティでの移動と家事処理には自信がないのである。SMC非障害者学生群に比べると、コミュニティ障害者群とSMC障害者学生群の自信は、学校で教育を受ける上での及び職業上の技能、社会的及びレクリエーションの技能、認知の及び問題解決の技能等に関して低いのである。作業療法の介入(intervention)へのニードは、特にこれらの分野において切迫した問題と言えよう。

 興味 質問紙の興味アイテムは、JenniferとWeinsteinとの相談の上で選ばれ、興味チェック・リストのカテゴリーが応用された。SMC障害者学生群の興味に関する比率の順位は、手工芸(crafts)と美術(fine arts)が最も高く、社会的及びレクリエーションの興味、文化的及び宗教的興味、スポーツ、家事がこれに続く(表6)。SMC非障害者学生群に比べると(表7)、スポーツに関しては、SMC障害者学生群の興味は有意に低い(P<.003)が、他の項目には有意差はない。スポーツを“したくない”というカテゴリーはこの有意差を説明しているが、またコミュニティ障害者学生群が最も高い比率(31%)であることも示している(P<.005)。

表6 SMC障害者学生群の興味

以下のリストはある人たちの現在行っているものあるいは今後行おうとしているものである。以下のリストのうち、あなたが現在行っているものあるいは今後行おうとしているものにチェックして下さい。
したい
(パーセント)
したくない
(パーセント)
興味なし
(パーセント)
手工芸、美術 79 7 14
社会的、レクリエーションの興味(ゲームなど) 72 11 17
文化的、政治的、知的、宗教的興味 64 18 18
スポーツ 61 12 27
家庭で行う美術 50 36 14

 

表7 コミュニティ障害者群、SMC障害者学生群、SMC非障害者学生群のスポーツ活動における興味

したい
(パーセント)
したくない
(パーセント)
興味なし
(パーセント)
コミュニティ障害者群 51 31 18
SMC障害者学生群 61 12 27
SMC非障害者学生群 88 6 6
“スポーツをしたくない”に関するx2検定

P<.0003
P<.005

作業療法に対する意味

 本調査の障害者は基本的ADL技能については修得しているようなので、家事処理の技能、コミュニティでの移動の技能、学校で教育を受ける上での及び職業上の技能、認知の及び問題解決の技能、社会的及びレクリエーションの技能において自信を増大させてやることが作業療法の主なニードのように思われる。

 比率の最も高い興味が手工芸及び美術と社会的及びレクリエーション活動であるので、O.Pはこれらを利用して、例えばいくつかの手工芸を選び、行わせることにより問題解決や意思決定などのような自信の低い動作に自信を増大させてやることができよう。

 障害者がコミュニティ・カレッジに入学するチャンスを利用する前に、家事処理やコミュニティでの移動の技能における自信は必要とされる。コミュニティ・カレッジには、調理室(food preparation labolatories)を有しているところが多いので、コミュニティ・カレッジはO.Pにとって家事処理の技能を教えるよい場と思われる。

 また、こうしたコミュニティ・カレッジのための作業療法プログラムは、調査で判明した職業目標の高い頻度に合わせて、就業前の基礎的技能(Pre-Vocational skills)及び職業技能の開発にむけて方向づけられるべきである。時間・金銭のやりくりのような生活設計の方法や問題解決の実際的動作は、職業目標の達成の準備として多くの障害者に必要とされるのである。O.Pはまた、次に頻度の高かった副業ないし趣味的仕事(avocation)の目標と社会―人間相互間の目標の達成にも焦点を当てることができよう。これらの目標は、当カレッジの自己啓発クラスやクラブと同様に自助のための組織によって提供される利用可能な種々な機会を障害者に知らせることにより達成されるかもしれない。

 本調査で十分に証明された障害者の生活に対する低い満足度は、よく開発された介入を必要としている。生活に対するこのように低い満足度の原因調査は全くなされていない。しかし、伝統的なリハビリテーション・サービスだけの提供で生活の満足は保証されないことは明らかである。中年者の生活満足に関する他の調査の結果では、健康に対する自己意識が生活の満足度に強く影響している。しかし、今までのところなぜそうであるのかについての完全なもしくは統制された検証はひとつもない。本調査の結果では、収入、未就労、動作における自信の低さといった多様に相互関連した変数が低い生活満足度に寄与しているようである。

結果

 コミュニティ・カレッジにおける作業療法プログラムの問題点を確定し、当該母集団の人口統計学的な特徴を考察するために調査を行った。当コミュニティに住む障害者の生活や彼らと当カレッジの非障害者学生との相違に関して、広範な諸結果が得られた。本調査に基づいて作られた作業療法プログラムが現在SMCにおいて実施されている。そのプログラムが強調している点は、集団教育や個人的相談を通して家事処理の技能、認知及び問題解決の技能、社会的及びレクリエーションの技能、学校で教育を受ける上での及び職業上の技能等を修得させることである。将来の希望を達成させるための目標設定や徐々な目標達成を通しての障害者の主な興味の追求は、実施されるトリートメントの方法の中に含まれている。

 また、本調査の結果は、ADL技能に与える作業療法の効果の追跡調査に利用されている、と同時に障害者がコミュニティで自立生活する上で直面する他の諸問題を調べる新たな調査にも利用されている。本調査は他のコミュニティ・カレッジにおける作業療法プログラム開発のモデルとして役立ち、障害者の生活の機会をより大きくするように寄与することを期待する。

付記

 この調査に協力と援助を与えてくれたStan Azen、Diane Moynes、Sarah Stocking、Janice Zelanka及び本調査に参加してくれた各関係機関のスタッフのみなさんに感謝の意を表します。

(The American Journal of Occupational Therapy,March 1980から)

参考文献 略

*南カリフォルニア大学作業療法学部助教授
**南カリフォルニア大学作業療法学部准教授
***筑波大学心身障害学系技官
****コミュニティ・カレッジ(community college)とは、大学が置かれている地域社会の職業と強く関連した職業教育を中心とする短期大学であるが、地域に開かれた大学として一般に知られている。その地域の成人、復員軍人、障害者なども多く入学している。1970年に全米で1,091校あったという報告もある。専攻分野は広範にわたり、非常に多くの職業の教育が行われている。(訳者)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1980年7月(第34号)20頁~28頁

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