建築 出入口及び屋内サーキュレーション・スペースのバリア・フリー・デザイン

建築

出入口及び屋内サーキュレーション・スペースのバリア・フリー・デザイン

Designing entrances and internal circulation to meet barrier-free goals

Edward Steinfeld*

吉田紗栄子**

 出入口及びサーキュレーションスペースのアクセシビリティ1が、建物全体のアクセシビリティを決定すると言っても過言ではない。従ってバリアフリーデザイン2基準では、この二点を重視している。とはいえ現行の基準が不適当であるとか、コンセンサスを得るに至っていないといった指摘を受けていることも事実である。設計者はこのような現実をもふまえた上で全体的にバリアフリーデザインを実現化するべきである。

 基準では出入口の最低幅を80㎝と規定しているものが多いが、大低の車いす幅が65㎝以下であるため、70㎝幅のドアでもなんとか通りぬけることができる。

 問題なのはドアチェッカーのついたドアの開閉である。ある調査によれば、6.8㎏(15ポンド)の力に対抗してドアを開けることができたのは車いす被験者の23~30%、その他の障害者の39~44%しかなかった。ドアチェッカーのメーカーは、15ポンドの力が必要なのは玄関のドアくらいなもので、それ以外では3.8㎏(8.5ポンド)で十分だという。むしろウィンドースクリーンやドアの方向をあらかじめ検討することにより、ドアにかかる風圧をへらす工夫が必要である。防火扉は確実にかけがねが締まるように3.8㎏(8.5ポンド)以上の力が要求されているが、防火性能を維持しつつこの力を減らすこともできよう。

 ドア幅と並んで重視されるのがドアの前面のスペースである。車いす用の広さとしてANSIA1173では以下のように規定している。ドアの開閉両側にはドアから150㎝の平坦なスペースを設け、ドアの把手側のわきには30㎝幅のスペースが必要である。」

 建築基準には同様の条項がみられるものが多いが、前文の後半部に関しては2通りの解釈のしかたがある。つりもと側と把手側にそれぞれ30㎝ずつ必要だと解釈するものと、ドアの両側(内側と外側)に30㎝ずつと解釈したものである。

 最近の調査によればつりもと側のスペースはあまり必要ではないが、ドアを引く側の把手側に60㎝以上必要であるという。車いすをドアと平行にして開けることができる場合などは、150㎝以下でもかまわない。また病室のようにドア幅が120㎝もあり、ふだん開け放してあるような場合は、ドア全面のスペースを減らすことができる。

 車いす使用者ならびに杖歩行者のためのサーキュレーションスペース

 廊下幅は直線部分では90㎝でよいが、車いす同士がすれちがうには150㎝は必要である。車いすの通行が少ない場合は車いすと歩行者のすれちがい幅として120㎝が適当であろう。廊下幅が狭く車いすがすれちがえない場合は、6mごとに150㎝角のすれちがいスペースを設ける。ホールや廊下の交差を利用してもよい。

 車いすが180°方向転換するには直径150㎝のスペースが必要だが、回転スペースとしてとる時には150㎝×195㎝が望ましい。回転スペースは必ずしも円形あるいは四角形でなくともT字形であったり、あるいはカウンターや手洗器など壁からの出っぱりがあってもそれが47.5㎝以下、高さで67.5㎝以上であれば、方向転換の邪魔にはならない。

 階段を通らずに目的の場所へ行けるような通路を1か所以上設ける。新築の場合は設計段階で考えられるが、既存の建築物の場合は、斜路やリフトを設置しなければならない。

 既存建築物のアクセシビリティを改善するにはいくつかの方法があるが、その第1は、必要な部屋を利用しやすい場所に移すことである。この解決策は、事務室や教室のように同質な用途の場合可能である。

 第2は斜路の設置である。しかし、これには広いスペースが必要であり、障害者の中にも斜路に対して否定的な考えをもつ人々も多い。実際、車いすで1階以上をのぼるにはたいへんな労力を要する。

 第3は、建築物各階用の出入口を設けることを検討する。しかし各階の用途がお互いに関連していて人の往き来が多い場合はむずかしい。この方法は建築物が大規模でかつ階ごとの用途がわかれているような場合にのみ可能である。

 以上3つの解決策のどれにも当てはまらない場合、残されたみちはリフト又はエレベーターの設置である。

 リフト(低価格ではあるが安全性に問題がある)

 リフトは価格が比較的安く(通常3,000ドル以下)狭いスペースに設置できるため、一般化しつつある。型によっては高さ6mまで設置可能なものもあるが、通常は1階以下の高さの昇降に用いられる。

 リフト設置に対しては次の事項を十分考慮して設計する必要がある。1)車いす、松葉づえ、足などふみはずすことがないか、2)がたがた揺れてバランスを崩すことはないか、3)リフトから落ちるようなことはないか、4)屋外に取り付ける場合、電気的な支障はないか、5)乗り降りの際つまずいたり、すべってたりすることはないか、6)松葉づえの先端がリフトと床との間にはさまってしまうことはないか、7)構造上、機械上の問題はないか、等である。

 エレベーターの設置は高価であるため、最終的な解決策といえる。とはいえエレベーターの設置は障害者だけでなくすべての利用者にとっても便利であるし、上層階の賃貸料金を上げることができる。各種サービスもしやすくなるというような利点を考え併せると一考に価する。

 基準ではエレベーターの内法寸法を150㎝角と規定しているが、厳密にいうともっと小さくてもよい。公共建築物に設置されているエレベーターのうち最小のものは幅170㎝、奥行145㎝であるが、この大きさだと内部で方向転換もできる。車いす使用者は目的階に着いた時、すぐに出られるよう後ろ向きで乗ることが多いので、内法135㎝角あれば十分といえる。

 操作パネルや各種の表示は視覚障害者や聴覚障害者に対する配慮も必要である。基準の中には点字による表示を規定しているものもあるが、点字の読める視覚障害者が10%に過ぎないという点を考え併せると普通文字と併用する必要がある。

 緊急時における障害者の避難について(基準ではあまり触れていない)

 現在、障害者のアクセシビリティは保証されているが、緊急時における避難の問題はやっと検討されはじめた状態である。これまでの火災時の避難に関する法規では、病院等特殊なものを除いて障害者の避難についてはふれていないのが実情である。目下消防当局において障害者が利用している建築物を分類しているが、これに対応して基準の整備が望まれる。いくつかのグループでデザイン基準を検討しているにもかかわらず、現時点では一般化できるような方法は確立されていない。

 現在提案されている方法としては次のようなものがある。1)各階ごとの区画、2)スプリンクラーの設置、3)エレベーターコアの防火区画化と避難用エレベーター設置、4)各階に、はしご車のはしごが接することができるような避難場所を設置、5)避難計画の確立、などである。しかし、このような方法がすべて完備されたとしても十分とはいえず、さらに検討を加える必要がある。

 床仕上げ

 基準では、滑りにくい床材を使用するよう明記しているものが多いが、滑りにくい材質の内容については明確な規定がない。アメリカ基準協会(National Bureau of Standard)では、床の摩擦係数で滑りにくさの標準を決めることができるよう研究を進めている。しかし摩擦係数だけでは実際の滑りやすさを厳密に判定できるとはいい難い。

 カーペットを敷くとしても、又別の問題が生じる。種類によっては車いすでは動きにくいし、横すべりすることもある。カーペットの種類は豊富で基準を定めるのは大変なことである。とはいえ、毛足の長いものや柔らかいクッションのもの、床にしっかりと取り付けられていないものなどは不適当であるといえる。

 今日、障害者のアクセシビリティは設計者や関係当局の関心事となっている。出入口やサーキュレーションスペースを障害者にも利用できるものにすることは建築物全体をアクセシビリティを拡大することになる重要なポイントである。しかし、現行の基準自体完全ではないので基準に合っているからといって、それで十分であるとはいえないのが実情である。

 今まで述べてきたような重要な分類に関して、基本的な知識やコンセンサスを得る前に、誤解をまねくような基準を定めるべきではないと考える。(Architectural Record,1979,July)

●廊下の最低幅

●廊下の最低幅

●ドア開閉のための最低スペース

●ドア開閉のための最低スペース

●エレベーターホールの参考例

 デザイン基準

玄関出入口:

1.障害者が利用できる出入口を1か所以上設ける。

2.ドアの内法幅、80㎝以上

3.出入口前面の車いす用スペース

 A.押す側前方アプローチ、120㎝/側方アプローチ、105㎝

 B.引く側-前方アプローチ、150㎝/把手側、120㎝/ついもと側、135㎝

4.把手側に車いす用スペース(引く側のみ)

 A.前方アプローチ、60㎝

 B.把手側からの側方アプローチ、不要

 C.つりもと側からのアプローチ、廊下幅135㎝の場合、105㎝/150㎝の場合、90㎝

 D.自動ドアの場合、把手側のスペースは不要。

5.ドアの開閉力

 A.屋外ドア-3.8㎏(8.5ポンド)

 B.屋内ドア-2㎏(5ポンド)

 C.防火扉-法規定の最低値

6.ドア金物レバーハンドル、押すタイプ、又はU字型ハンドル。

回転スペース:

1.各スペースに対し1か所以上アクセシブル通路を設ける。

2.各スペースに非常口1か所以上設ける。

3.急カーブのU字型の曲がり角を除いて(図参照)幅90㎝以上。

4.6mごとに150㎝角のすれちがいスペースを設ける。

5.行きどまり部分には直径150㎝以上の回転スペースを設ける。

階段:

1.エレベーターがない場合、各階段ともつえ歩行者にも利用できるように設計する。

2.ふみ面27.5㎝以上、仕上げ17.5㎝以下、段鼻3.75㎝以下、段鼻は急カーブにしない

こと。

3.手すりは斜路に準ずる。

4.階段最上段に標示ブロックを設置する。

エレベーター:

1.客用エレベーターはすべて利用可能なものとする。

2.エレベーターの内法は135㎝角以上とする。

3.光電管などによる自動安全装置の高さは22.5㎝と72.5㎝とする。

4.エレベーター到着の視・聴覚による表示開始からドアが閉まりはじめるまでの最大

時間は、エレベーターホールの操作ボタンの手前150㎝からエレベーターのドアの中心

までの距離を45㎝/秒で割った値とする。

5.エレベーターの操作板は高さ135㎝以下とし文字を浮き出させる。基準階の表示は

左端とし星印をつける。

6.エレベーターの到着表示は音と光で示すこと。

7.階数の表示はエレベーター両端の柱に高さ150㎝、天地5㎝の文字をつける。

8.音による表示は各階通過時に発するようにする。

床仕上げ:

1.比較的滑りにくい材料とする。

2.カーペットはパイル状のものとする。

3.固いクッション又はクッションなしとする。

4.カーペットの端はしっかりと止める。

5.段差は1.75㎝以下におさえる。

斜路:

1.距離と勾配

勾配 距離
1:8 ≦60㎝
1:10 ≦240㎝
1:12 >240㎝
1:16~1:20 適正

2.上下端にそれぞれ150㎝の平坦な部分を設ける。

3.両側に手すりをつけ、手すりが切れる場合は30㎝延長する。

4.ふち石やレールにより端を保護する。

*建築家。ニューヨーク州立大学建築環境学部助教授。ASA基準委員会幹事。本稿は教授が雑誌Architectural Recordに6回にわたり掲載したものの第3、第4回目を抄訳したものである。
**日本大学理工学部大学院生

1障害者にも利用できること
2建築的な障害のないデザイン
3建築物および設備を身体障害者にも近づきやすく、使用できうるものにするためのアメリカ基準仕様書


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1980年7月(第34号)30頁~33頁

menu