建築 障害者にも利用できる便所の設計

建築

障害者にも利用できる便所の設計

Edward Steinfeld*

吉田紗栄子**

 便所をバリア・フリーにするには、種々の問題があるが、少なくとも1か所は障害者の利用できる便所が必要である。

 便所には、最低1か所障害者の利用できる洗面器と便器が必要である。新築の場合は、基準にはないが、車いす使用者の中には、車いすから便器に乗り移らずに小用をたしたいと思っているものも多いため、男子便所には少なくとも1か所障害者にも使える小便器が必要である。

 アメリカ基準仕様書では当初便房幅90㎝、奥行140㎝となっていて、車いす使用者には狭すぎて使えなかったが、障害者からの要求で改善された。150㎝角を規定している基準が多いが、これは車いすから便器と平行に、あるいは斜めに便器へ乗り移ることを前提としている。最近の調査では平行移動できる人の中には、斜めに乗り移ることもできる人が多いということが明らかにされた。斜めの乗り移りには最低120㎝の幅が必要とされているが、幅が90㎝又は120㎝の場合、最低150㎝の奥行があれば、便房に入ってからドアを閉めることができる。150㎝幅あれば奥行は140㎝まで縮めることができる。この寸法の利点はドアを側面につけることができること、既存の便房2個を合わせて障害者用便房1個をつくることができることなどである。

 車いす以外の歩行困難な人々にとっては、便房は逆に狭い方が手すりに手が届きやすくて便利である。

 壁かけ式の便器はタンク式のものに比べて長さが短くてすむ。又、車いすのフットレストのためのスペースがとれて便器に近づきやすい。床置き式の便器はフットレストの分だけ便房の奥行を長くとる必要がある。壁かけ式の場合、便器の高さを調節できるのも利点の1つとして挙げられる。便器の高さは、47.5㎝~67.5㎝の高さに規定している基準が多いが、これでは、足が宙に浮き、バランスをとるのがむずかしい。42.5㎝~47.5㎝位が適当である。

 手すりに関しては、いろいろな形や寸法があり、基準によって差がみられる。垂直にとりつけられた手すりや斜めのものは立ち上がる時に有効であるが、車いすと便器の乗り移りには不適当である。これに対し水平に取り付けた手すりは安全性の面からも使い勝手の上からも有効度が高い。取り付け高は82.5㎝、奥から30㎝のところから100㎝以上の長さのものを取り付ける。手すりの外径は、3㎝~3.7㎝が適当であるが、プラスチック製の場合はこれより細くてもよい。

 便房内の使い勝手、緊急時の救出を考えるとドアは外開きにするべきである。

 手洗器は一般的な型でも膝やつま先が入るスペースさえあれば十分使いこなせる。手洗器の高さは上端で77.5㎝が普通であるが、80㎝が適当である。水栓はレバー式か押ボタン式とする。

 傾斜した鏡は、健常者にとっては使いづらいため、むしろ鏡の下端を床から100㎝にして真すぐ取り付ける方がよい。つまり手洗器、鏡に関しては、特別なものは不要であるということになる。

 トイレットペーパーホルダーは便房の後壁から90㎝以内に手すりの下側に取りつける。機能的に簡単な方が使いやすい。

 タオルや石けん入れは車いすで使うことを考えれば135㎝高でよいが、車いす正面からしか使えない場合は120㎝以下の高さにする。カウンターや手洗器の上に取り付ける場合は110㎝以下とする。健常者の場合は135㎝が使いやすい。120㎝を目安にすれば、健常者も車いす使用者にも使える。

 便所は障害者の自立という意味からも非常に重要な場所である。設計者は障害者の要求をよく理解し、必要条件を満たさなければならない。基準通りに改造すると予算がオーバーしてしまうことが多いと思われるが、要は、手すり、広い便房、手洗器下のスペースの処理さえおさえておけば、特別扱いをすることはない。広さの問題はふつうの便房の間仕切をとって2つを1つにすることで解決されることが多い。残念ながら現行の基準では特殊な便器、手洗器、鏡などの設置を規定し、しかも不必要に低い位置に取り付けるよう指示している。

 現行法規は包括さに欠け時代遅れの感がある。又設計者や関係当局の係官のアクセシビリティに関する知識が不足している場合もあり、せっかくの基準が生かされていないという問題もある。確認申請が下りてもそのまま済ませず設計者は使い勝手に問題がないかどうか、どうすれば使いやすくなるか常に十分な注意を向けていなければならない。(Architectural Record,1979,Oct.)

便所改造例

便所改造例

150㎝(60")巾の便房

150㎝(60")巾の便房

90㎝(36")又は120㎝(48")巾の便房

90㎝(36")又は120㎝(48")巾の便房

 デザイン基準

最低数:

1.適当数、但し最低1か所は障害者の利用できるものとする。

2.男女共用でもよい。ただし新築の場合はこの限りではない。

3.大規模な建築物では、各階又は各棟に最低1か所設置する。

サーキュレーション・スペース:

1.直径150㎝の回転スペース、又はT字型の回転スペースを設ける。

2.回転スペースは手洗器の下の部分を含んでもよい。

3.ドア幅(サーキュレーション・スペースのデザイン基準参照)

4.便所入口から便房までの通路を適正寸法にする。

手洗器、便房:

1.利用できる便所内に各1か所利用できる手洗器と便房を設ける。

2.便房の大きさ:a)幅150㎝×奥行最低140㎝、b)120㎝×165㎝、c)90㎝×165㎝、床置き式の便器の場合は奥行寸法に7.5㎝を加える。150㎝幅の便房が望ましい。

3.便器のシートまでの高さ:42.5~47.5㎝ 

4.便器の位置:片側の壁から中心で45㎝ 

5.手すり:中心高82.5㎝、120㎝幅と60㎝幅の便房には両側に手すりをつける。150㎝幅の場合は便器に近い横壁、150㎝幅と120㎝幅の場合は、後壁にも手すりをつける。手すりは後壁から最低30㎝のところから100㎝以上の長さのものを取りつける。

6.水洗用ハンドル:手動とし

7.改造する場合は160㎝幅の便房とする。

8.ドア:最低内法幅80㎝、外開き、他のドアとの間に十分スペースをとる。150㎝幅の便房では端によせて取り付けてもよい。

9.トイレットペーパーの位置:便器に近い方の壁に中心高47.5㎝、後壁から90㎝以下の位置に取り付ける。

手洗器、鏡:

1.高さ:深さ20㎝の手洗器の場合、床から手洗器の下端までの高さ72.5㎝、手洗器の上端の高さを80㎝にとってもよい。

2.つま先のスペース:奥行15㎝以下、高さ22.5㎝以上。

3.全体の幅:42.5㎝以上

4.蛇口:レバーハンドル式、押すタイプ、電動式などとし、自動的に水が止まるような装置になっている場合は10秒間は水がでるようにする。

5.配管を被履する。とがったものや皮膚を傷つけるような仕上げ材は使用しない。

6.鏡の高さ:床から鏡の下端までの高さ100㎝以下。

小便器:

1.利用できる男子用便所には利用できる小便器を1箇以上設ける。

2.型式:ストールか受け口が長い壁かけ式とする。壁かけ式の場合、床から受け口のふちまでの高さは42.5㎝以下とする。

3.小便器前のスペース:幅75㎝、奥行120㎝。

4.水洗用ハンドル:手動又は電動式とし、高さは110㎝以下とする。

ペーパータオル等の容器:

1.すべて利用できるものとする。

2.スペース:75㎝×120㎝ 

3.高さ:前面アプローチの場合、操作部分の一番高いところで120㎝以下;側方アプローチが可能な場合は135㎝以下;カウンターや手洗器の上についている場合は110㎝以下。

4. 取り出し方法:片手でできるものとする。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1980年7月(第34号)34頁~36頁

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