国際障害者年の成果と今後の課題 「国際障害者年東京都行動計画」と今後の課題

国際障害者年の成果と今後の課題

「国際障害者年東京都行動計画」と今後の課題

小沼康夫

 はじめに

 東京都においては、東京都心身障害者対策協議会からの提言に基づき、国際障害者年を、(1)東京都における障害者対策の総点検の年とする。(2)障害者対策における諸課題についての検討プロジェクトや施設建設プロジェクト発進の年とする。(3)障害者理解を進める啓発活動に最重点をおく。―こととして、新たな視点に立って障害者対策を進めるとともに、障害者理解促進のための事業を行ってきた。

 いうまでもなく障害者対策は、障害者の生涯にわたる生活全般にかかわる問題であるだけに、1年や2年では容易に解決し得ない課題である。国連の決議が明示しているように、国際障害者年は一過性のものではなく、障害をもつ人たちの「完全参加と平等」の社会実現に向けて、長期的な行動を開始する年である。

 こうした意義を踏まえて東京都では、前記の事業とあわせ障害者対策の課題の解決に向けて、長期的な展望に立った「国際障害者年東京都行動計画」の策定を進めてきたが、去る3月下旬これを発表した。

 そこでここでは、束京都行動計画の概要を紹介し、東京都における障害者対策の課題を述べることとしたい。

 1. 東京都行動計画の基本的考え方

東京都行動計画は、21世紀に向けての長期的展望のもとに、東京都における障害者対策の基本目標を示すとともに、これを実現するための今後およそ10年間を見通した施策の基本的方向を示すものである。障害者対策は極めて広範囲にわたり、しかも刻々と変化する社会経済情勢の中での長期的で膨大な課題である。それだけに、まず障害者福祉の理念を明確にした上で、これに基づいた障害者対策の基本目標を示す必要がある。そこで東京都行動計画では、これからの障害者像は「慈恵的対策の対象から脱却して、障害をもたない人と同等に地域社会の中で可能な限り自立した生活を送ることであり、またそのことを社会全体が人間性尊重の立場から保障していくことである。したがって、障害をもつ人ともたない人がともにつくり、ともに生きる社会において、障害者の“完全参加と平等"が保障されることが、障害者の将来像とならなければならない。」として、障害者福祉の理念を次のように集約している。

 すなわち「障害は個人の身体的又は精神的属性のひとつに過ぎない。障害がいかに重くても、人間としての尊厳が損われるものではなく、生まれながらにその家族及びそれをめぐる地域社会の中に包含され、その人格と生命は最大限に尊重されなければならない。また、障害をもつ人が障害をもたない人とともに生活していることが当然の姿である。したがって“障害をもつ人ともたない人がともに生きる”ということが障害者福祉のあり方である」と。

 また、東京都行動計画は、都における障害者対策の総合化、体系化を図るため、次の4項目の視点にたって策定されたものであり、障害をもつ人ともたない人が“ともに生きる”ことを可能とする社会環境の創出・整備への具体的道筋を示すものである。

 ①平和を重視する。②障害者の概念を単に心身に障害をもつという観点からでなく、実際の生活に即した観点から幅広くこれをとらえていく。③精神障害者及びてんかん、難病患者を含めた対策を国との連携を図りながら積極的に推進していく。④重度・重複の障害者についても、その自立性と主体性を尊重し可能な限り地域社会の中で自由な生活が送れるよう、社会的合意とそのための条件整備を進める。

 2. 東京都行動計画の施策目標

 この計画では、これらの基本的考え方を踏まえて、障害者のライフサイクルに沿って次のような7項目にわたる施策の柱を掲げ、今後10年間の行動目標を明らかにするとともに、217事業に及ぶ具体的な施策が盛りこまれている。

 (1) 医療の充実

 社会状況の変化に伴って、障害者の医療需要は質量ともに大きく変化してきており、都立病院及び民間医療機関、その他の関係機関との連携を通じ医療サービスを充実するとともに、障害者医療の中心的役割を果たすリハビリテーション医療の体制を整備する。

 (2) 教育の充実

 障害者がひとりの人間として成長発達し、その能力、特性を最大限に伸ばしていくためには、多様かつ適切な教育の場が将来にわたり用意される必要がある。

 また、個々の障害児に対する教育サービスは、それぞれの発達段階に応じて適時性、科学性を尊重し、総合的に行うとともに、障害児ができる限り障害をもたない児童・生徒と共通の場で学習できるよう、教育の条件づくりをめざす。

 (3) 就労の促進

 働くことを望む者はだれもが、その適性と能力に応じた適切な就労の場において、障害をもたない人たちと同等の権利が保障されていかなければならない。

 また、障害者自身のもつ職業的適性と能力を最大限に向上させ、一般雇用を促進するための職業リハビリテーション体制を整備する。

 (4) 福祉サービスの充実

 福祉サービスは、障害者一人ひとりの自立を援助する具体的な施策でなければならない。

 障害者がライフサイクルの各段階で、それぞれのニーズに応じて利用、選択ができるよう、在宅サービス及び施設利用サービスの両面にわたって総合的、体系的整備を図る。

 (5) 生活環境の整備

 障害者が地域社会の一員として、明るくゆとりのある家庭生活を営み、かつ社会活動に参加できるよう生活環境を整備していく。

 (6) 理解と交流の促進

 都民に障害者問題に対する理解と協力を呼びかける一方、障害をもつ人との連携と交流を促進し、相互理解を深めていく。また東京都は、わが国の首都として、また世界有数の国際都市として、国及び民間団体等との連携のもとに、リハビリテーションの進展を図るため国際交流を促進する。

 (7) 推進基盤の整備

 障害者対策を総合的、効率的に推進していくため、マンパワーの養成確保、障害者の自立を支えるコミュニティづくり、各専門領域における研究・開発の推進、施設整備基金の積み立てなどを行い、その推進基盤を積極的に整備していく。

 3. 計画の推進にあたって

 東京都においては、この計画を総合的に一貫性をもって推進するため、去る4月1日、知事を本部長とする「東京都障害者対策推進本部」を設置し、全庁的な取り組みを開始した。

 しかし、障害者対策はひとり東京都だけで解決できるものではなく、国及び区市町村の施策に負うところが大きい。したがって、東京都においては、今後より一層、国及び区市町村との緊密な連携を図るとともに、公私の関係機関や障害者を含む広範な都民の理解と協力を得て障害者の「完全参加と平等」の実現に向けて、積極的に取り組んでいく方針である。

東京都福祉局


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1982年3月(第39号)18頁~19頁

menu