河野康徳*
重度障害者という言葉は慣用的に使われるが、「重度障害」の概念は必ずしも明確でない。
障害者の福祉にかかわる各種の法律においてもその対象とする障害者の範囲及び程度等級の規定自体が不統一であるため、各制度間に共通する重度概念を求めるのには無理がある。
主なる法律の規定をみると、国民年金法は1級~2級の2段階評価、厚生年金保険法は4段階、身体障害者福祉法は6段階、恩給法は12段階、労働者災害補償保険法は14段階といった具合に程度評価区分が異なっており、各法において最上位級を重度障害として定義しているものでもない。
例えば、特別児童扶養手当等の支給に関する法律は2段階評価の規定をもつが、これとは別個に「重度障害者」を「日常生活において常時の介護を必要とする者」と規定している。また、恩給法においても「重度障害」の規定をもっており、12段階のうち7段階までを重度障害としているが、その程度は身体障害者福祉法の規定の4級以上に概ね相当する内容のものである。
税制上の「特別障害者」や身体障害者雇用促進法の「重度障害者」が身体障害者福祉法に基づく1級又は2級に相当するものを準用しており他制度においてもこれにならう例が多いことから、一般的には身体障害者福祉法の1級、2級該当者を重度障害者とみなすのが通例のようである。
しかしながら、重度障害者の問題がしばしば介護ニーズの側面によって理解される点を考慮すると、身体障害者手帳1級、2級所持者が重度障害者であると即断することは生活実態に合わない面のあることも了知しておかなければならない。1級該当者であっても介護を不要とし、5級~6級であっても介護を必要とする者が居るのである。
昭和55年2月に厚生省が行った身体障害者実態調査によれば、全国の身体障害者(在宅)1,977,000人のうち15.8%(312,000人)が「日常生活の中でかなりの介護が必要なので介護体制の充実されるべき」ことを要望している。このような要望を訴えている者を障害程度別にみると、1級者293,000人のうち36.8%が、また、6級者でも244,000人のうち5.1%がそのニーズをもっている。
ちなみにこの調査では、日常生活動作について介護を必要とする状況及びその主な介護者の状況を調べたのであるが、「食事」「トイレ」「入浴」「衣服の着脱」「屋内移動」の5つの基本動作のうち「入浴」については388,000人(全体の19.6%)が介護を必要としており、「食事」については165,000人(8.3%)が介護を必要としている。これらの介護の実態は90%までが家族に依っており、残り10%は雇人や隣人、知人、家庭奉仕員、その他の人等に依っている。
なお、基本動作の5種類すべてに介護を必要とする者の数は67,000人であるが、このようなニーズをもつ重度障害者のための療護施設が約140か所(約8,500人定員)であることを比較してみると、これは看過できない数字である。
ところで「介護」なる用語であるが、これも定義は明確でない。この文章でこれを意識的に用いたのは、これが法律上の用語(注)であることによる。
近年、「介助」「介護」「看護」なる用語が関係者の間で使い分けられることがある。「介助」「介護」は普通の国語辞書には載っていないが、介助をpartial help、介護をnursing care、看護をnursing としている専門辞書のあるのをみると、翻訳語としての造語でもあるのだろうか。
しかし、その三者の使い分けは必ずしも明確ではなく、介護・介助を同一の概念として説明している専門事典もあり、また、介護と看護の異同をめぐって国会で論議されたこともあるほどである。
介助、介護、看護の概念整理は今後においても検討されるべきものを残しているように思われるが、「介護」が法律上の用語であることをも勘案し、筆者は当面次のように理解して、この用語を以後使うものとする。
介助は非専門的技能、看護は専門的技術によって行われるものであって、介護はその中間的領域を包括する概念として使われる制度的な意味あいをもつ用語である。つまり、介護とは、日常生活上の基本的動作を一人で行うことの困難な身体障害者等に対し、相当程度の知識、経験、技能をもってその身体的機能を補完するために日常生活上の世話を行うことであり、対象者にとってはこれが継続的になされることが必要であるが、その前提として、住環境、保健医療、経済的保障等生活上の基礎的条件の整備が必要となるものである。
介護をこのように意義づけるならば、濃厚な介護を要する者はまさしく重度障害者であるが、トータルとしての介護体制を問題とするならば、重度障害者とはそのような体制の不備によってもたらされる社会的状況であるとも言えよう。
日常生活の基本的動作のほとんど全てに介護を必要とする障害者は、かつては単に保護されるべきものとして、むしろ隔離的に処遇される対象として取扱われてきたことを否定できない。
しかし、如何なる重度の身体的障害をもつ者も人格の尊厳性を有するものであり、その全人間的復権のための技術及び社会的、政策的対応の総合的体系がリハビリテーションであるとされる。
また、近年における福祉思想の進展の結果として知られるノーマライゼーションの考え方によれば、保護から自立へ、隔離から参加へという生き方を促進する施策が期待されている。
このような観点で制度としての介護ということを考えると、それは重度の身体的障害をもつ人が、家庭や地域で、あるいは生活施設において、介護を受けつつもそれなりの姿で自立した生活を営むことを保障され、また、可能な限り社会参加することを保障されるものとして行われなければならないであろう。
したがって介護制度は、人的サービスのみならず、福祉機器等の物的サービス、介護手当等の金銭給付的サービス、施設利用サービスにより多元的に構成され、それらを総合することによって「重度障害」を軽減すべく機能するものである。
そのような介護の諸制度について、最近の動向をもふまえつつ主として福祉行政の対応を素描してみることとする。
(1) ホームヘルパー
ホームヘルパーは在宅障害者に対する人的介護サービスの中核的存在であるが、制度としては、「老人家庭奉仕員」(昭和37年度開始)、「身体障害者家庭奉仕員」(昭和42年度開始)、「心身障害児家庭奉仕員」(昭和45年度開始)、「原爆被爆者家庭奉仕員」(昭和50年度開始)がそれぞれの家庭奉仕員派遣事業運営要綱に基づいて実施されている。これらのうち前二者は法律(老人福祉法及び身体障害者福祉法)に明文の規定をもっている。また、心身障害児家庭奉仕員の取扱う対象には18歳以上の精神薄弱者及び重症心身障害者を含むこととされている。
老人家庭奉仕員制度が先駆したこと及び現実の配置数も老人関係が圧倒的に多数であることから、制度運営は老人福祉法に基づく事業を中心に行われているが、ここでは主として身体障害者家庭奉仕員(以下、特に区別しない限りホームヘルパーと記す)の問題を中心に記述する。
運営要綱によれば、「重度の身体上の障害等のため日常生活を営むのに支障がある身体障害者の家庭にホームヘルパーを派遣し、適切な家事、介護等の日常生活の世話を行う……」というのが制度の目的である。実施主体は市町村であるが、市`町村は事業の一部を市町村社会福祉協議会等に委託することができるものとされている。
派遣対象は、介護の必要な身体障害者が居る家庭であって、家族がその介護を行いえない状況にある場合である(昭和56年度までは低所得世帯に限定していた)。サービス内容としては、家事・介護に関することのほか、各種援護制度の適用や生活上の問題その他についての相談・助言指導を行うこととされている。
昭和56年度において、ホームヘルパーの総数は全国に約13,000人いて、うち約10,000人が老人ヘルパー、約3,000人が障害者関係ヘルパーであった。勤務形態の全国的動向をみると、所属団体は市町村が61.2%、社会福祉協議会が38.8%、身分は常勤が89.8%、非常勤が10.2%である。ホームヘルパー1人当たり受持数は7.2世帯であり、身体障害者の居る家庭にとっては、1週間に2回、1回につき平均2時間程度の世話が通例であった。
このような実態は、欧米先進国の状況(表1)に比して相当の格差のあること、また、真に介護を必要としている者への対策としては不十分であるとの批判があり、中央社会福祉審議会からもそのような現状の改善方策が示されていた。
国名 | ヘルパー数(人) | 割合(%) | ||||
総数 | 常勤 | 非常勤 | 総数 | 常勤 | 非常勤 | |
イギリス | 129,724 | 5,669 | 124,055 | 100 | 4 | 96 |
スウェーデン | 77,550 | 4,737 | 72,813 | 100 | 6 | 94 |
アメリカ | 60,000 | 18,000 | 42,000 | 100 | 30 | 70 |
フランス | 51,062 | 12,912 | 38,110 | 100 | 25 | 75 |
西ドイツ | 12,685 | 2,958 | 9,797 | 100 | 23 | 77 |
(参考)日本 | 13,320 | 11,988 | 1,332 | 100 | 90 | 10 |
(資料) 国際ホームヘルプ協会調べ
イギリス・アメリカ・西ドイツ──1977年
スウェーデン・フランス────1979年
(注) 日本のヘルパー総数は昭和56年度の予算人員である。常勤・非常勤の割合は昭和56年3月末厚生省報告例による。
このような状況をふまえ、充実強化のための制度改正が昭和57年10月から実施された。
その改善内容のポイントは次のとおりである。
①従来、派遣対象を低所得世帯に限定していたものを介護ニーズのある全世帯に拡大し、所得税課税世帯については利用者負担(前年度課税額が3万円未満の世帯は1時間当たり290円、3万円以上の世帯は580円)を導入したこと。
②介護の必要度に応じて派遣できるよう、必要な派遣回数、時間数を確保することとしたこと。
③多様なニーズに対処するため弾力的勤務体制をとることとし、従来行われてきた「介護人派遣制度」を統合したこと。
④以上のことを行うに当たり、昭和57年度からホームヘルパーの総数を約3,000人増員したこと。
このような内容改正は制度発足以来20年ぶりのことであり、緒についたばかりで今後の推移を見なければならないが、これら改善方策が増大しつつある介護ニーズに対応し運営されることが期待される。
(2) 障害者社会参加促進事業
この事業は、在宅身体障害者の社会的生活能力の向上を図り、その社会活動に必要な援助を行うことにより、社会活動への参加と自立の促進を目的とするものである。最初は身体障害者の「地域活動促進事業」として昭和41年度に発足したものであるが、その後年々関連事業の種類を追加しつつ統合し、昭和54年度から改称実施されている。
事業の運営は、20種類の用意された事業の中から実施主体たる都道府県(一部の事業については市を含む)が選択し、地域の実情に応じて実施する仕組みをとっている。20事業の中から人的サービスに係るものを抽出すると、次のものがある。
・盲人ガイドヘルパー派遣―盲人が公的機関や医療機関に赴く等の外出が必要で付添いの得られない場合、予め登録された者を派遣する。
・脳性マヒ者等ガイドヘルパー派遣―単独で外出することの困難な脳性マヒ者等全身性障害者が公的機関等に外出することを要し付添いの得られない場合、予め登録された者を派遣する。
・手話通訳者派遣―ろうあ者が公的機関等に外出することが必要で付添いが得られず意思疎通に支障のある場合、予め登録された者を派遣する。
以上のほか、障害者社会参加促進事業のメニューの中には、介護制度に関連するものとして、点訳奉仕員養成、朗読奉仕員養成、手話奉仕員養成、要約筆記者養成、盲導犬育成等の各事業が用意されている。
(1) 福祉機器
福祉機器は身体の機能障害を直接に補完する用具のみならず、家庭や社会における日常生活上のハンディキャップを軽減する器具など、障害者の使用に供するため特別の改良工夫をこらした機器を総称する概念であり、自助具、補装具、日常生活用具、作業補助具、移動機器、コミュニケーション機器、遊具、施設の省力機器などを幅広く含むものである。
これら福祉機器は人的サービスと併行して、あるいはその前提として用いられることにより日常生活における障害状況の改善に役立てられるものであるが、ここでは、支給制度として確立している補装具及び日常生活用具に触れておきたい。
補装具の支給に関する法律は10指に余る。主なものを掲げると、身体障害者福祉法、児童福祉法、厚生年金保険法、労働者災害補償保険法、健康保険各法などである。それぞれ支給体系は異なるが、補装具の規定の基本は身体障害者福祉法に基づく規定に準拠していると言っても過言ではない。
身体障害者福祉法においては、法施行(昭和25年)以来、最重要施策の一つとしてこれを位置づけ運用されているが、同法においては、補装具が人体に直接装着する用具であることから、原則として医師の処方に依るべきものとし、また、適合性を重視するため、福祉事務所で支給するに際し身体障害者更生相談所の判定を求める。
視覚障害には弱視眼鏡、盲人安全杖等、聴覚言語障害には補聴器、人工喉頭等、肢体不自由には義肢、装具、車イス、歩行補助杖、収尿器等が交付及び修理の対象となる。
最近の動向としては、電動車イスが昭和54年度から、骨格構造(モジュラー)義肢が昭和56年度から採用され、また、昭和58年度からは耳掛型補聴器の採用が予定されるなど新技術の成果を反映するよう常に交付基準の見直しが検討されている。
次に日常生活用具給付制度であるが、これは重度障害者の在宅生活を容易にするために改善工夫された各種の生活用具を給付するものである。
給付制度としては法的根拠に基づくものではなく予算補助事業として行われているが、身体障害者福祉のみならず、児童福祉及び老人福祉の施策としても行われており、創設は昭和44年度である。
給付品目としては、視覚障害に盲人用時計、点字タイプライター、盲人用電卓、電磁調理器等、聴覚言語障害には屋内信号灯、振動式目覚時計、難聴者用電話(貸与)、ガス警報器等、肢体不自由には浴槽、特殊便器、特殊寝台、電動タイプライター、電動歯ブラシ、緊急連絡用電話(貸与)等がある。これら給付又は貸与の対象となる品目は、機器の開発及び普及の動向を見つつ拡充が図られてきたが、今後においても新技術の成果を施策に反映すべきことは補装具の場合と同様であって、環境制御装置やコミュニケーション機器等についても将来採用される余地はある。
福祉機器の分野は技術開発の影響を大きく受けるものであるだけに、開発研究が重要であるので関係省庁における研究助成制度も設けられているが、従来に増して研究助成や研究体制の充実強化が望まれる。
(2) 保健医療
機能障害に加え日々の身体的状況の良否が日常生活の遂行に及ぼすところも大きい。重度の身体的障害のある者は有病率も高く、高度の医学的管理を要する場合も少なくない。保健医療の制度的保障が介護問題と相関関係にあるのは福祉機器の場合と同様であって、これを物的介護サービスの重要な要素と位置づける所以である。
我が国の医療制度は国民皆保険体制が達成されているため、特別の理由がない限り誰もが公的医療保険制度の適用を受ける。医療保険制度は10指に余る法律によって構成されているが、健康保険法がその典型であるので、健康保険法の仕組みによって医療保険制度の基本的骨格をみると次のとおりである。
保険加入者による一定の掛金と公費負担金を財源として、被保険者本人または被扶養者の疾病等に際し必要な医療が現物給付(費用の7割乃至10割)される。給付の受けられる医療の内容は、診察、薬剤又は治療材料の支給、処置又は手術その他の治療、病院又は診療所への収容、看護、移送である。また、自己負担額が高額となる場合や保険事故の種類によっては金銭給付も行われる。
以上が医療保険制度のあらましであるが、重度の身体的障害を有する者も一般的には公的保険の適用を受け、受療期間の長短あるいは医療内容の濃淡にかかわらず、これによって相当程度の介護を得ることができるわけである。
以上のような医療保険制度をもってしても、特定の疾病や高齢者問題、あるいは低所得問題には特別の対応策が必要となるので、公衆衛生的観点から、または社会福祉的観点から行われる公費負担医療制度がある。これらは医療保険制度に優先し、またはそれを補足するものとして行われる制度であり、特に重度の身体的障害を有する者の介護に深くかかわるものであるが、個々の制度を断片的に解説するだけでも膨大な紙幅を要するので、以下に主なる制度名を列挙するに止めたい。
・精神衛生法による措置入院、通院医療等
・らい予防法による入所措置
・結核予防法による入所措置
・予防接種法による健康被害救済制度
・公害健康被害補償法による補償給付制度
・特定疾患治療研究事業による医療給付(難病対策)
・小児慢性特定疾患治療研究事業による医療給付
・身体障害者福祉法による更生医療の給付
・児童福祉法による育成医療の給付
・老人保健法による保健事業及び医療給付(従来の老人医療制度を発展的に解消し本年2月1日から施行)
・生活保護法による医療扶助
(3) 訪問サービス
この事業は、身体上の障害等により日常生活を営むのに支障のある在宅者に対し、居宅まで訪問して入浴、給食等のサービスを提供をするもので、市町村を実施主体(運営の一部は社会福祉協議会等へ委託できる)とする。
事業内容は、入浴サービス、給食サービス、洗濯サービスの中から地域の実情に応じ2事業を選択して行うもので、ホームヘルパーの事業と相互に連携し効果的に運営するものとされている。
なお、この事業は在宅サービス充実の一環として昭和56年度から行われているもので、老人対策と身体障害者対策が統合的に実施されている。
(1) 所得保障
社会保障制度の体系における所得保障を大別すれば、社会保険及び公的扶助ということになる。それを細目に分類すると、社会保険には年金保険(厚生年金保険、船員保険、公務員共済、公共企業等職員共済、国民年金等)、雇用保険(失業給付)、労働者災害補償保険(業務災害補償)があり、公的扶助には社会手当(無拠出制の福祉年金、福祉手当等)及び生活保護がある。
介護サービスは本来“買う”ものであるという考え方がある。また、家族が介護者となる場合はその得べき稼得収入を補[填]すべきであるという考え方もある。諸外国にはそのような考え方を社会保険として実現している例もあるようであるが、わが国の場合はどうであろうか。
上記した所得保障の各制度の中から、重度の身体的障害をもつ者に対する保障水準を例示してみると、その主なる制度の現状は次のとおりである(複数の等級評価のある場合は最上位級のみ記載)。
①年金保険
・厚生年金保険法の障害年金1級―月額70,437円
・国民年金法の障害年金1級―月額58,625円
②業務災害保険
・労働者災害補償保険の障害補償年金(障害年金)1級―平均賃金から算定した給付基礎日額の313日分が年額(月額平均賃金200,000円であった者の年金月額は174,760円となる)。
③無拠出の年金・手当
・障害福祉年金1級―月額37,700円
・特別児童扶養手当1級―月額37,700円
・福祉手当―月額10,550円
・原爆被爆者介護手当―月額33,600円
④生活保護
身体障害者福祉法の規定に基づく1級相当の者であって、他人の介護を受けている場合は、通常の生活扶助費に障害者加算が付加される。
・加算月額65,650円
内訳 | 障害者加算1級 | 21,500円 |
重度障害者加算 | 10,550円 | |
他人介護料 | 33,600円 |
このようなわが国における障害者所得保障の状況を諸外国の事例と比較してみると(表2)、例示した各国では年金・手当の保障水準が高位であるのに対し、わが国の場合は生活保護に比重のあるのが特徴である。
国名 | 拠出年金 | 無拠出年金・手当 | 公的扶助 |
イギリス | 104,108円 ●障害者年金 28.35ポンド/週 ●障害手当 6.20ポンド/週 ●介護手当 23.65ポンド/週 |
74,056円 ●障害年金 17.75ポンド/週 ●介護手当 23.65ポンド/週 |
60,193円 ●長期基準 29.60ポンド/週 ●暖房費加算 4.05ポンド/週 |
スウェーデン | 160,390円 ●早期年金 32,930クローネ/年 ●障害手当 11,214クローネ/年 |
160,390円 ●早期年金 32,930クローネ/年 ●障害手当 11,214クローネ/年 |
― |
アメリ力 | 76,350円 ●障害年金 319ドル/月 |
― |
62,700円 ●補足的所得保障 284.30ドル/月 |
フランス | 86,275円 ●障害年金 25,500フラン/年 |
86,275円 ●障害年金 25,500フラン/年 |
─ |
西ドイツ | 77,160円 ●生業不能年金 790.7マルク/月 |
― |
39,580円 ●生活扶助 338マルク/月 ●障害加算 67.6マルク/月 |
(参考)日本 | 58,625円 ●障害年金(国年1級) 58,625円 |
48,250円 ●障害福社年金(1級) 37,700円 ●福祉手当 10,550円 |
89,458円 ●生活扶助 57,408円 ●障害者加算 21,500円 ●重度者加算 10,550円 |
(資料)厚生省「障害者生活保障問題専門家会議」事務局調ベ
(注)「公的扶助」欄には介護手当に相当するものを除いたものを掲げた。
(2) 公共料金等の減免
各種の公共料金や税制には障害者及びその属する世帯の経済的負担を軽減するために減免措置を講じているものがあるが、特に障害者の介護ニーズに着目していると思われるものを掲げると次のようなものがある。
①国鉄旅客運賃割引―普通乗車券及び急行券について、障害者本人及び介護者とも5割引
②航空運賃割引―国内定期路線の全区間について障害者本人及び介護者とも25%引
③有料道路の通行料金―5割引
④特別障害者控除―重度障害者を扶養する者に係る所得税の対象所得から31万円を控除。その障害者を同居し扶養している場合は、さらに5万円を特別控除。住民税は23万円の所得控除。
⑤物品税の免税―歩行困難な障害者が運転し、またはその障害者のために生計同一者が運転する自動車については免税。
⑥自動車税、軽自動車税及び自動車取得税―物品と同一要件のもとに免税。
(3) 融資
障害者またはその属する世帯に対する公的資金による融資制度がいくつかあるが、その中から介護体制に関係の深い住宅整備に係るものを掲げると次のようなものがある。
①障害者住宅整備資金貸付事業―障害者または障害者と同居する世帯に対し、障害者の専用居室等を増改築、改造のために必要な経費の貸付。1件約200万円、10年償還(特別地方債融資)。
②世帯更生資金貸付制度による住宅資金―身体障害者のいる世帯に対し、増改築等に必要な経費の貸付。1件85万円、年利3%、6年償還。
③住宅金融公庫の割増融資制度―障害者と同居する世帯に対し、規定面積及び融資額について一般基準を緩和した一定の割増を認める。
介護を必要とする重度障害者が、何らかの理由によって在宅生活を営むことが困難となった場合は、それを受け止める場所が用意されていなくてはならない。そのような拠り所としての生活の場が用意されてこそ、障害者も家族も将来への不安なく日々の生活を送ることができると言えよう。
このような観点から、社会福祉行政にとって施設を整備することは重要な課題の一つと考えられ施策が推進されてきた。
社会福祉施設の目的・内容は多面的で広範囲に亘る福祉ニーズに対応するものであって、介護施設のみを重視するものではない。しかしながら、昭和40年代までは特に常時の介護を必要とする老人や障害者のための施設はその需要の大きさに比べ不足しており、整備が急がれていた。
このようなことから、厚生省では昭和46年度から社会福祉施設緊急整備5か年計画を策定するなど、施設整備につとめた。以来10年余、今日においても必要な施設の拡充は続けられているが、その結果、昭和56年10月現在で、社会福祉施設の総数は43,364か所、利用定員は2,571,683人となっている。また、施設数の推移を昭和45年時点と比較してみると、総数では81%の増加であるが、老人福祉施設は3倍、身体障害者更生援護施設は2倍、児童福祉施設は1.6倍、精神薄弱者援護施設は4倍に増えており、中でも介護サービスを重点とする諸施設はこれら一般的傾向に数倍する増加率を示しているものもある(表3)。
施設数 | 定員 | 増加率 | ||||
昭和45年(A) | 昭和56年(B) | 昭和45年(a) | 昭和56年(b) | B/A | b/a | |
総数 | 23,917 | 43,364 | 1,434,158 | 2,571,683 | 1.81 | 1.79 |
保護施設 | 400 | 348 | 24,860 | 22,140 | △0.13 | △0.11 |
うち救護施設 | 131 | 161 | 10,839 | 14,331 | 1.23 | 1.32 |
老人福祉施設 | 1,194 | 3,653 | 75,397 | 173,561 | 3.06 | 2.30 |
うち特養ホーム | 152 | 1,165 | 11,280 | 89,510 | 7.66 | 7.94 |
身体障害者更生援護施設 | 263 | 571 | 10,976 | 27,044 | 2.17 | 2.46 |
うち療護施設 | ─ | 124 | ─ | 7,808 | ─ | ─ |
婦人保護施設 | 61 | 58 | 2,224 | 2,126 | △0.05 | △0.04 |
児童福祉施設 | 20,484 | 32,731 | 1,285,165 | 2,271,384 | 1.60 | 1.77 |
うち重症児施設 | 25 | 49 | 2,922 | 5,619 | 1.96 | 1.92 |
精神薄弱者援護施設 | 204 | 806 | 13,579 | 51,636 | 3.95 | 3.80 |
母子福祉施設 | 52 | 76 | 963 | 1,746 | 1.46 | 1.81 |
その他の社会福祉施設 | 1,259 | 5,121 | 20,994 | 22,046 | 4.07 | 1.05 |
(資料)厚生省「社会福社施設調査」
(注)1.保護施設の定員には医療保護施設分を含まない。
2.児童福社施設の定員には助産施設、母子寮を含まない。
3.その他の社会福社施設の定員には無料低額診療施設を含まない。
4.身体障害者療護施設は昭和47年度に制度化された。
表3の中に特記した救護施設、特別養護老人ホーム、身体障害者療護施設及び重症心身障害児施設はまさに常時介護を必要とする人達のための生活施設であるが、整備状況の推移をみると、過去10年余の間にこれらの施設のニーズが如何に高かったが窺われる。
なお、社会福祉施設ではないが要介護者の措置委託を受入れるものとして国立療養所があり、進行性筋萎縮症児者向け27か所(2,500床)、重症心身障害児者向け80か所(8,080床)が用意されている。
以上、介護問題に係る行政の対応について国の制度として行われているものの概略を記したが、地域においては地方公共団体が独自の立場で実施し国の制度を補完しているものも少なくない。
また、ホームヘルパーや重症心身障害児施設がそうであったように、地方公共団体や民間団体が先駆して行った事業がその普遍性を認められて法制化された例も数多い。
そのような意味で、地方公共団体が単独事業として行っているもの、例えば、過半数の都道府県で実施されている重度障害者介護手当や沖縄県を除く全ての都道府県で実施されている重度障害者医療費補助制度、それに一部の都県で行われているケア付住宅や小グループの生活ホームといった試みは、国の介護制度の欠落部分を補うものとして機能しているものと思われるので、国としてもこれら先駆的事業の動向を見つつ必要な対応をしていくことになるであろう。
昨今、人口構造の急速な高齢化や重度障害者問題の顕在化といった現象をもたらした社会経済の変化、人間尊重の理念に立つ福祉思想の進展等の状況を背景に社会福祉施策は一つの転機にあるという印象が強い。施設対策を象徴とした福祉サービスから在宅サービスの拡充へ、地域福祉の展開へと福祉ニーズの変化への対応が期待されている。
昭和56年12月の中央社会福祉審議会の意見具申「当面の在宅老人福祉対策について」はそのような状況における一つの問題提起であり、重度障害者にも共通する介護体制の問題について注目すべき内容を含んでいる。これがホームヘルパーの制度的改善に寄与しつつあることは前記したとおりである。
障害者問題については、国際障害者年を契機として各方面で障害者対策に関する問題提起が行われた。国の行政レベルにおいては、昭和57年1月に中央心身障害者対策協議会から「国内長期行動計画の在り方」について意見具申があり、これを受けて政府の国際障害者年推進本部から「障害者対策に関する長期計画」が同年3月に示された。これらと並行して厚生省の身体障害者福祉審議会は同年3月、「今後における身体障害者福祉を進めるための総合的方策」について厚生大臣に答申した。また、中央児童福祉審議会は同年8月、「心身障害児(者)福祉の今後のあり方について」と題する要望を意見具申した。
一方、各地方公共団体や民間団体等からも施策の改善に対する要望意見が数多く寄せられている。
最近における一連の障害者対策に関する各方面からの意見及び施策の現状をふまえ重度障害者の介護に関する今後の行政的対応を検討するに際しては、当面次の諸点が特に課題とされなくてはならないであろう。
第1は施策の対象とすべき障害者の規定の問題である。経済的社会的保障の受益の平等を確保するためには、各法制における対象者の規定に不公平な取扱いや施策からの脱漏があってはならないが、要介護者にして近年とみに指摘されるのは、遷延性意識障害者、重症心身障害者、精神障害者、それにいわゆる難病による障害者の問題である。
第2は介護サービス内容の改善の問題である。ホームヘルパー制度の拡充や福祉機器支給の体系的整備については既に触れたが、ろうあ者の手話制度及び盲人の朗読サービスにおける文教政策との関連、医療と福祉サービスの接点など対応策に検討を要する問題も少なくない。
第3は所得保障の問題である。わが国の障害者所得保障には生活保護を基盤とせざるをえない現実がある。このような現状の是非及び改善策をめぐって目下、厚生省に「障害者生活保障問題専門家会議」がもたれており、その検討の方向が注目されている。
第4は生活の場の在り方の問題である。この問題は介護を受けつつも自立した生活を営む障害者の生き方に係るものであり、本稿でとりあげた介護体制の全てに関連するものであると同時に、障害者自身の自立意識の醸成及び社会関係の確保が前提となる問題でもある。
最後に要介護者を受け止めるべき市民の側の意識の問題であるが、これは政策担当者にも常に問われる問題であると言えよう。
(注)「介護」を用語としている法律には、例えば身体障害者福祉法、老人福祉法、特別児童扶養手当等の支給に関する法律、厚生年金保険法、労働者災害補償保険法、恩給法等がある。
*厚生省社会局更生課
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1982年11月(第41号)2頁~10頁