小野治良*
当施設、太陽の家京都事業本部では身体障害者福祉工場と重度身体障害者授産施設の2つの施設を運営している。
仕事の受注、設備機械の導入、生産技術はオムロン株式会社と社会福祉法人太陽の家との共同出資会社であるオムロン京都太陽株式会社の協力と支援を受けて、電気機器の部品及び製品を生産している。
主な製品として、形MYパワリレー、透過形光電センサー、反射形光電センサー、電源コントローラ、フォトマイクロセンサー等の組立加工をライン作業の形態で行っている。
今回は、重度身体障害者の職業能力の判定について、当社が行っている入社から配置までのプロセスと現在行っている各種職能判定試験の紹介、平成元年~平成四年の間入社した障害者の入社後の職能実態と職能判定試験の結果との関連についての調査、分析した内容について報告する。
(図1参照)
図1
(1) メカニックトレイン検査内容と特徴
本検査は、ボデー本体A、B、動力用ゼンマイボックス、各種ギヤ、シャフト、車輪、クランクシャフト、機械要素の部分とベル、エントツ、屋根、スカートの外装部品から構成されたプラスチック製の機関車を分解、組立する時間を計る。
検査手順は、まず分解を行い、次に組立の順序を図示した図面を渡し受験者は、図の順番に従い組立を行う。組立が完了したら走行テストを行い、トラブルなく走行したら検査終了する。
福祉工場の基準は、分解3分、組立30分以内を目安時間としている。
特に、分解時間は各個人の残存機能の差がでやすい。製造業の職能は、作業指示書等のマニュアルを見てパターン認識し組立ミスのないよう、工程順に作業を進める能力が必要であり、この検査は実作業に置き換えた時の作業性が比較的シュミレーションしやすい。
障害の中で、交通事故などにより頭部外傷など脳の一部に損傷があり、系統立った思考のパターンに弱い場合も結果に顕著にあらわれる。
脳性マヒの障害は障害程度の幅が広くアテトーゼ型や弛緩型の特徴が顕著に出る。
その他、メンテル的な要素も把握できる。受験者の性格面で、短気、几帳面、神経質、呑気、粗野、粘り強さ、慎重、大胆などいろいろと内面的な部分が現れるので、面接時に応対で掌握できなかった側面を知ることができる。
①平成元年~平成4年までに入社した32名のメカニックトレインの検査結果と職務内容について(右表A~C-2参照)
等級 | 人数 | 男 | 女 | W/C | 杖 | 歩行 | 両手 | 片手 |
1-1 | 7 | 6 | 1 | 7 | 0 | 0 | 7 | 0 |
1-2 | 11 | 8 | 3 | 8 | 1 | 2 | 11 | 0 |
1-3 | 4 | 3 | 1 | 1 | 1 | 2 | 3 | 1 |
2-2 | 2 | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 2 |
2-3 | 4 | 3 | 1 | 0 | 0 | 4 | 3 | 1 |
2-4 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 |
2-5 | 2 | 1 | 1 | 0 | 0 | 2 | 2 | 0 |
2-6 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 |
計 | 32 | 25 | 7 | 16 | 2 | 14 | 28 | 4 |
職能区分 | 必要技能 |
組立加工1 | 単工程でスピード、巧緻性必要、順応性比較的遅い |
組立加工2 | 複工程でスピード、巧緻性、応用力必要、順応性速い |
リリーフ・リペア | ラインのメンバー欠勤対応、不良品の手直し、故障モード発見の為回路理解 |
機械・設備の操作 | 操作マニュアルの理解、操作の正確さ、応用力・品質に対する注意力、QCの知識 |
検査業務 | 中間検査・完成検査・出荷検査の検査項目の熟知・検出能力レベルの高さ |
梱包・出荷 | 製品知識・計数力・段取りの要領・台帳の整理 |
技術 | 各種工作機械の操作技能・巧緻性・計測技能・応用力 |
分解検査結果 職能 |
6分以上 | 6分未満 5分以上 |
5分未満 4分以上 |
4分未満 3分以上 |
3分未満 2分以上 |
2分未満 1分以上 |
組立加工1 | 1 | 3 | 6 | 3 | ||
組立加工2 | 1 | 4 | 7 | |||
リリーフ・リペア | (4) | |||||
機械・設備の操作 | 1 | |||||
検査業務 | 1 | 1 | 1 | |||
梱包・出荷 | 2 | |||||
技術 | 1 | |||||
合計 | 1 | 2 | 0 | 7 | 11 | 11 |
※ ( )は重複
組立検査結果 職能 |
30分未満 25分以上 |
25分未満 20分以上 |
20分未満 15分以上 |
15分未満 10分以上 |
10分未満 5分以上 |
5分未満 |
組立加工1 | 1 | 2 | 2 | 2 | 5 | 1 |
組立加工2 | 1 | 4 | 6 | 1 | ||
リリーフ・リペア | (3) | (1) | ||||
機械・設備の操作 | 1 | |||||
検査業務 | 1 | 2 | ||||
梱包・出荷 | 2 | |||||
技術 | 1 | |||||
合計 | 1 | 2 | 6 | 8 | 13 | 2 |
※ ( )は重複
②メカニックトレインの検査結果と職能との関りについて
組立加工1、2のライン作業従事者についての分解検査能力で、4分未満で検査終了した者が25名中24名で、アッセンブリーラインでの必要技能のスピード、巧緻性については分解検査でほぼ適性をみることができる。
組立検査能力15分未満で検査終了した者が25名中19名で、組立加工1の従事者8名、組立加工2の従事者が11名の分布になる。
組立加工2の場合、ラインの工程の持ち工程が複工程(2~6工程)となり、職能的な幅が要求される。特に組立加工2のメンバー中、リリーフ、リペアができる者の組立検査は10分未満で終了した者が3名、5分未満で終了した者が1名で、4名の組立検査平均時間は6分30秒であった。4名の分解検査は全員2分未満で終了している。
検査結果と職能の対比でみると、組立加工1の職能域で組立検査25分以内、組立加工2の職能域
で15分以内が目安となる。
(2) 労働省編一般職業適性検査結果と職能との関りについて
職業適性検査結果と実作業との関りについての考察
組立加工1、組立加工2の実作業している25名の検査結果を適性能項目別と作業内容別の表でみると、加工、組立の職能適性項目P(形態)K(共応)M(手腕)の3項目の内、Mの得点は基準点75以上が25名中18名と高く平均点でもクリアしているが、PとKの項目で組立加工1と組立加工2の職業従事者の差が平均点で約30点と著しく差がでている。
特に電子部品、製品の製造業の職適能で複工程多能化、リリーフ、リペア等の必要職適能での比重でP、Kの得点が職能向上に大きく作用する。
組立加工2のメンバー12名の平均点はP、K、Mの平均点は、90-91-87と基準点を上回っている。
この結果組立加工1の職適能としてP>50、K>50、M>60、組立加工2の職適能はP>70、K>70、M>60が必要職適能の基準としてみることができる。
D.検査結果一覧表
(3) まとめ
今回は福祉工場従業員に採用された32名についての追跡調査的に入社試験結果に基づき現行職務内容と照合する方法で重度障害者の職能分析を行ったが、太陽の家は昭和40年代から障害者の職能判定方法や職能開発について模索を続けてきており、今回紹介したメカニックトレイン検査は、別府、愛知、京都の各事業本部で実施され、延べ約2000人近くの受験者のデータが残されている。
したがって職能判定の基準が、全太陽の家で統一されており大きな差異がないようにしている。
例えば、職業適性検査項目の知能(G)に対して田中B知能検査と併用し、就学差があっても基本的能力の判定が適正になるよう配慮している。
統括すると、各個人の職能向上の占める割合で基礎能力評価のウエートが5割、入社後の教育訓練やOJTの実施で向上する部分が3割、作業環境 (設備、機械の改善、治工具の対応、ラインレイアウト、ワークファクターによる作業動作の組合わせ等)の整備により向上する部分が2割位占めると推定する。
このことは現状の生産ラインの構成メンバーの習熟度・実工数の伸びを標準工数と比較したパフォーマンス計算で表すことができる。新機種立上時が40%~50%、2週間の習熟とラインバランスの整備で60%~75%、作業環境の整備で10%~15%向上が見込める。さらに2ヵ月経過後の作業の習熟・順応で5~10%の向上がみられる。
※パフォーマンス(実生産能力)=標準工数(ST)/実工数(AT)×100=X%
*京都太陽の家福祉工場施設長
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年6月(第76号)22頁~24頁