特集/障害者雇用と職業 知的障害者の就職の可能性

特集/障害者雇用と職業

知的障害者の就職の可能性

桜田敏孝

はじめに

 長崎能力開発センターは、知的障害者の雇用促進定着を目標に訓練を行っており、毎年20名の修了生を送り出している。管轄の島原職業安定所の障害者の雇用率は3.84%(平成3年度)であり、実際は63名以下の企業が多く、その数を入れるとさらに高まる。そのような環境にある中で、毎年10月には修了した人の追跡調査を行う。本人、会社、親の意見を聞くため訪問したり、アンケートを取りまとめていく。平成4年10月現在80名の修了生がいるが、76名が有職者であり、職場定着している。平成5年3月、修了生100名を送り出した今、感じることを書き述べてみたい。

進路指導の在り方

 大きな失敗をした。

 平成元年、第一期生を送り出したが、あまりにも職員が、職場や生活する所を開拓に動きすぎるなど、周りから援助が多くなり過ぎたため、当訓練生はその困難さを充分に理解することなく、また、自分の希望と現実のギャップを埋めることのないまま修了した。そのため、「職場・生活の場は先生が決めた」という意識が強く、ありがたさを認識することも少なく、ささいな事で離職してしまい、現実の理解(自分の職業能力、援助の必要性についての正しい理解も含めて)が不充分であったために、安定した生活が送れない状況にしてしまった。このことは、訓練の不手際であり、最も大切な、本人が自分の目で見て、自らの耳で聞き、十分に納得することができないまま就職したことになり、指導する側の失敗である。

 就職した20名の内、7名が転職する。その中の5名は、転職した方が安定した職業生活に結びついた。現在の進路指導の方法は、まず、生活進路と職業の進路、そして両面の方向を支援する体制が整っているかの三点を重点に組みたてられる。また、本人の希望を重視する。次にその希望することが、実際に可能かどうか実践する。実践する中で自らが決定していく。文書で記すると簡単であるが、20名の人がいれば、20種の進路指導がいる。そのため、自ら職さがしあるいは住む家さがしの体験をする。自分の望んでいることは、実際に可能であるかどうか、実社会の中で触れ合わせることを第一に行う。職場実習、生活実習が行われ、経験していくのである。また、内定通知をあくまでも本人宛てに通知してもらい、その他、契約書や保証人も、自ら依頼することにしている。また、自宅から通勤しようとする人は、親子の契約書も交わすようにし、親も一人前に接するよう、また、生活費を支払うことにより、働くことの自信と誇りをもてるようにし、職場に定着し、さらに次の夢や希望も現実とするようにしている。

どんな人と生活をし、仕事をするのか

 すべての人間は生きていく中で、さまざまな人と出逢う。その出逢った人からさまざまなことを学ぶ。また、教えたりもする。このことは、障害者を持っている人も全く同じである。親との出会い、学校での教育や友達の影響、さらに職場の人との出会いも大きい。また、その地域の中でどんな人と出会うかは、人生をより豊かに過ごせるかにかかる。知的障害をもつが故に、表現が上手でなかったり、うまく言えなかったりするため、交流が保てなかったりすることがあり、誤解をまねくこともしばしばあるが、本音でつき合っていると、相手の行動もその人の個性と見えてくる。ルビーはルビーの色に、サファイヤはその色に、ダイヤモンドは、やはりダイヤモンドとして磨かれなければならない。その人の個性も、より生きて輝く色になるかどうかであろう。そのためには、本人の輝こうとする努力をいかに、導いてやれるかである。特に、知的障害をもつ人たちにとっては、周囲の人が最も大切になる。人生80年時代と言われる今日、働くことは約40年間ある。どんな人と一緒に働くかは、豊かな人生を送れるかどうかも左右してしまうことになる。

 平成2年に、瑞穂町心身障害者ふれあい協会が発足した。これは、知的障害者の本人たちが運営する協会である。平成5年4月には、町の社会福祉協議会にも登録され、補助もしていただけるようになった。現在100名の会員であり、すべて勤労者である。知的障害者を、周りで支援する会は多いが、本人たちの意見を出す場が少ない。この会は障害者本人の会であり、独居老人の訪問(例えば庭掃除など)、公共地の清掃などのボランティアを行い、年間の行事を自分たちで計画し、機関紙まで発行している。また、サークル活動も盛んであり、陸上部、和太鼓、木工、陶芸、ソフトボールなど、自分たちで楽しむものも持っている。このことは、生活に幅を持つことの良さがある。気楽に話せる仲間がいることであったり、協力して試合に出ることの喜びを感じたり、また、くやしさを感じたりすることになっている。何よりも、そこにはひとつの目標をもった人の集いがあるから、良さが生まれているものである。障害者同士が、お互いに高め合い、補い合う、ピアカウンセリングの考えにも結びついている。

問題点

 障害に合った教育や訓練の機会が少ないのではないか。中学校までは就学の義務化がされているため、すべての人は学ぶ場がある。しかし、それ以後の受験という形は、知的ハンディをもっている人たちには最も不得手なことであり、進学はできにくい。今は、短大、大学まで行く人が多数を占める時代である。年齢で表わすと、15歳で次の学ぶ場が提供されず、働きにでも行けと言うのはおかしくはないか。一方大学まで行けば、22歳まで専門的な教育を受けることができ、そこに7歳の差がある。もちろん高等部では3年間学び舎があるが、地方の県で、通学が極端に遠かったり、住む所がないために進学をあきらめたりしなければならないのが現状である。社会の役割を果たすための準備をしていく、大切な年齢の時期であり、もっと障害に合った教育ができないのかということが疑問である。

結び

 進路の決定をするのは本人であり、指導する側は、本人が決定しやすい状況をいかに設定できるかである。あくまでも、自らの意志を尊重しなければならない。周りの人はアドバイスに徹するべきであろう。知的障害者は、何も解らず、周りの人が決めてやらなければという思いが、また障害者を作っていくことにもなりかねない。福祉的な発想から観ても、強い者が弱い者に何かをしてやることとか、あるいは恵まれた人が恵まれない人へほどこしをしてやることだけが福祉ではない。本人の人として生きる権利がある訳であるから、本人が希望し、望むことを、どうやってかなえてやるかが、障害をもつ人たちに接する人の役割ではないかと思う。障害があるが故に、解りにくいことや、どうしても出来ないこともある。そのことを納得させ教えていかなければならない。特に、自らかちとる、やり遂げることの大切さ。人としての生き方を、教育や訓練を受ける場、働く職場で、発達状況に合わせて学ばせることが必要である。このように書くと、健常者も障害者も全く違いはないのである。普通の場所で、普通の生活をする。これは最大の目的であり、自分で職業を持ち、社会的な役割を果たすことにより、次の目標に進む道が拓かれることになる。

参考

修了生本人へのアンケート調査(抜粋)

(80人中62人回答)

1. 1か月の賃金はいくらですか(平成4年7~9月・月平均総支給額)

8万円台(2人)、9万円台(10人)、10万円台(30人)、11万円台(11人)、12万円台(4人)、13万円台(2人)、14万円台(2人)、15万円台(1人)

【平成4年7~9月・月平均総支給額 108,315円】

【長崎県最低賃金(日給)(平成4年9月)3,923円】

2. 将来の夢は何ですか

結婚したい(20人)、自分のお金で家を建てる(6人)、バイク・自動車の免許取得(4人)、金持ちになりたい(4人)、自宅から就職する(3人)、グループホームに住みたい(2人)、アトランタに行きたい(2人)、デートしたい(2人)

3. 今、一番悩んでいることは何ですか。

仕事上の悩み(今の仕事がしたくない、同僚がいない、次の段階の仕事に進めない)(3人)、友人等の人間関係がうまくいかない(3人)、バイク・自動車の免許が取れない(2人)、自分の体調が気になる(体がだるい、皮膚病、ストレスによる胃炎)(2人)、アパートやグループホームに早く入れる様になりたい(2人)、自分の人生がうまくいくか、自分の夢・希望が叶うか(2人)

事業所へのアンケート調査(抜粋

(35社中12社回答)

1.障害者を雇用するにあたり、特に注意し気を使うところはどういう点ですか。

けがに注意している(安全性)(3社)、適材適所、個人の能力になるべくあった様に配置・指導する。(2社)、一般社員とのコミュニケーション(2社)、健康状態の把握(2社)、人間関係(2社)

2.障害者を雇用して、他の従業員の方と最も違うと思われる点はどんなことですか。

[良い点]

素直(5社)、まじめである(4社)、よく働く(3社)、無断欠勤がない(2社)、ムダ口がなく、与えられた仕事を黙々とやる(2社)

[悪い点]

作業能率と指示のやりにくさ(2社)、作業手順などの指示を何度もしなければならないこと(2社)、コミュニケーション、他の従業員との会話に欠ける(2社)

3.障害者の職場定着に最も必要(大切)と思われるのはどんなことですか。

[本 人]

人間関係、健常者の中に溶け込む(3社)、仕事や人間関係を始め、何事にも積極的に取り組む(2社)

[職 場]

暖かく迎える心、暖かい社内の雰囲気、周囲の暖かい環境作り(3社)、健常者と同等に接する(2社)、責任の持てる仕事を与えること(2社)

4.実際に障害者を雇用されて、今後更に雇用されるお考えはありますか。

有る(7社)、職場に合った人がいれば雇用したい(3社)、無い(2社)

5.障害者の悩み、相談等はどのようなかたちでなされていますか。又、本人が相談にきますか。

特に相談に来ない(4社)、なるべく話しかけるようにしているが、余り相談はありません(2社)

(注:1人または1社のみの回答は省略)

長崎能力開発センター所長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年6月(第76号)25頁~27頁

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