特集/まちづくりと公共交通 空港ターミナルビルのアクセシビリティ

特集/まちづくりと公共交通

空港ターミナルビルのアクセシビリティ

―旅客ターミナルビルのハンディキャップト・ガイドラインと整備状況―

梶原正樹

1.はじめに

 わが国の空港ターミナルビルの「バリアフリー」計画についての、計画対応のあり方、ディテールの統一などを含めたガイドライン(整備指針)が作成されたのは、1983年(昭和58年)2月である。この年は、国連が「障害者に関する世界行動計画」を採択し、この計画の実施を図るため、1983年から1992年までの10年間を「国連・障害者の十年」と宣言した行動初年であった。この頃は、様々な機関・団体などで、「障害者」に関する具体的な整備ガイドラインや条例・要綱などが作成された。

 「空港ターミナル」についてのガイドラインの書名は「身体障害者の利用を配慮した空港旅客施設」副題ハンディキャップト対策(以降昭和58年空港ビルガイドラインと略す)で、(財)航空振興財団より発刊した。このガイドラインに併行して、「全国空港ビルの利用ガイドブック」も作成し、発刊した。

 この稿は、わが国の空港ターミナル施設の「バリアフリー」整備ガイドラインの概要をはじめ、最近整備され、既供用開始の羽田沖合展開計画、新千歳のアクセシビリティ(近づきやすさ、利用容易性)について、概要図や写真により環境整備状況を紹介する。

 さらに航空技術の先進国、障害者のための整備に先駆的な国、アメリカ西海岸でバリアフリー整備の進んでいるロサンゼルス国際空港、サンフランシスコ国際空港の環境整備状況を、概要と写真で紹介する。ADA法(Americans with Disabilities Act:1990)に基づく、アメリカの空港ターミナルビルの整備概念を紹介する。

 昭58年空港ビルガイドラインの作成以来11年を経過し、社会状況が変わり、課題として「人口構造の高齢化」、「国際化」や技術革新による種々の支援方法なども得られるようになった。従来の課題に加えてのガイドラインの改訂が望まれていたところである。現在、これの改訂作業を進めており、昭和58年空港ビルガイドラインの「利用できる」から「みんなが使いやすい」への整備水準の向上と、整備の質の充実を目標にした内容へ、改訂作業を進めている。

 '93年空港ターミナル整備ガイドラインの紹介をいつか行いたい。

2.昭和58年空港ビルガイドラインの概要

 前項で紹介した、昭和58年空港ビルガイドラインは、A4判サイズ、57頁、背文字をつけたハンディな冊子で、これの作成経過を少し説明する。

 1982年(昭和57年)の春に、ガイドライン作成を目的に、運輸省航空局飛行場部を中心に調査委員会、分科会、作業部会を構成した。参加者は運輸省航空局、航空会社(3社)、全国空港ビル協会、(財)航空公害防止協会、全国空港整備促進協議会、コンサルタント(筆者を含む)で、バリアフリーの学識経験者の講演・助言を得て、精力的に検討、議論を重ねた。約1年の後に4章構成、57頁の整備指針とディテールをまとめ、昭和58年空港ビルガイドラインが作成された。

 併行して、国内空港ビルの平面図、利用経路図、整備設備を収集・整理し、国内空港ビル障害者利用ガイドラインを作成し、(財)航空振興財団から、1983年(昭和58年)2月に発刊した。

 昭和58年ガイドラインを作成する直接の起因は、国際障害者年の行動計画策定の要請であった。これまでの空港ターミナルビルの多くは、障害をもつ人の利用には満足し得るものではなく、航空機を利用した空の旅の快適性・高速性を得る前後の通過経路で、不便を強いられる所と思われる。

 このガイドラインを作成する中で、併行して検討・開発された機器・装置が2点あった。これを先に紹介する。

 1点は1981年12月(昭和56年)以前までは、車いす利用等の移動能力障害者の航空機搭乗は、搭乗橋のある空港ターミナルビルでも航空機の入口から座席までの間は、航空会社係員が背負っての乗降であった。配備の手動車いすは車輪幅が広く、航空機内通路に乗り入れることは不可能だった。この対応は旅客サービス上からも好ましいことではなく、「航空機搭乗用車いす」が開発された。1981年12月(昭和56年)からは搭乗橋設置の国内各空港に50台、海外各空港に30台配置され、1984年3月(昭和59年)までには搭乗橋設置空港に配備されている。

 この「航空機搭乗用車いす」の外観は普通の車いすと変わりなく、大車輪の他に内輪を備え、外側大車輪は簡単にとりはずせ、ひじかけを折りたたむことで、外寸が365mmになり、狭い機内通路の介助誘導の移動が可能になった。この当時の就航旅客機は、B‐747,DC‐10,T‐1011,B‐727,B‐737,DC‐8,DC‐9,YS‐11型機で、'94年現在すでに引退した機もある。もう1点は、搭乗橋のない空港スポットや、ストレッチャーを利用する旅客の乗降も先記のように航空会社係員が背負ってタラップを昇降していた。近年のように大型機の運航が多くなり、狭いタラップを在来機の約2倍の高さの昇降を旅客の安全・サービス面から見通して、「リフト付きバス」を開発し、1981年(昭和56年)8月羽田、成田空港に配備された。

 この「リフト付きバス」は、車いす使用者を同時に4人、ストレッチャー・担架使用時は、車いす2台、ストレッチャー及び担架は1台となる。

 このバスは客室部分を油圧で航空機の床レベルまで立ち上げ、車いす、ストレッチャーのままで搭乗することができる。このように移動能力障害をもつ旅客の乗降をスムーズにする装置・車輌の開発と導入があった。これらの装置等は搭乗前後の一部介助支援に用いるものである。

 ガイドライン作成の目的のひとつには、これまで各々の空港ターミナルビルの計画・設計は、各々建築設計事務所で障害者計画対応と研究で個々に実施されてきたために、整備計画の考え方、バリアフリー計画のあり方、ディテール等の不統一な個所が多かった。このために障害をもつ旅客には不便で、快適でない所だった。今後の空港ターミナルビル計画でのバリアフリー対応整備の実施、ディテールの統一を計ることからも、このガイドラインの作成が望まれていた。

 ガイドラインは4章構成で第1章は総論、第2章は施設整備および介助の現況について、第3章は空港施設計画、第4章は部位別ディテールの目次である。

 ガイドライン策定以来11年経過し、当初の「利用できる」整備水準に国内の空港ターミナルビルの整備を進められているが、日本は近い将来に超高齢化社会の時代を、欧米諸国の約3分の1の時間で経験することから、「利用できる」という整備基準を見直す時期にある。介助なしで「利用可能」という整備水準へ、積極的な姿勢と実行を迫られているのである。

3.羽田沖合展開・新羽田空港ガイドライン

 先のガイドライン(整備指針)から7年後の1990年(平成2年)に運輸省東京航空局飛行場部東京国際空港整備室より、略称「沖合展開旅客地区環境整備調査―高齢者・障害者配慮の調査と、空港施設計画ガイドライン」の委託がコンサルタント(筆者を含む)にあり、これの作成形式は学識経験者の指導・助言を得てのアドバイスワーキングによった。学識経験者は中祐一郎氏、佐藤平氏、関沢勝一氏(肩書略)で筆者も参加し、「昭和58年ガイドライン」を基盤に調査・実態調査をはじめ、報告書・ガイドラインの作成を行った。(このガイドラインは90年ガイドラインと略す。)

 90年ガイドラインの特色は、ガイドラインの根本となるキーワードを確定し、とかく忘れやすい用語を冒頭の1頁から7頁にわたり紹介した。それは「5つのキーワード」である。

『1983年から始まった10ヵ年に及ぶ【国際障害者年計画】を契機とし、わが国でも【ノーマライゼーション】という思想が普及した。この思想に基づき【ハンディキャップト】に対する、航空旅客施設等のあるべき姿として【バリアフリー】を目指す。これの目的の追求において【高齢者・障害者への配慮】の真のあり方を考える。』この文のうち【 】の言葉を順に意味と考え方、あり方について詳述し、ガイドラインを手にする人たちへの「バリアフリー」計画の意義と目的の普及をねらいとするものであった。

 内容の詳細は別の機会に譲り、目次と基本的な考え方を以下に記す。

目次

1.ガイドラインのキーワード

2.高齢者・障害者の行動特性

3.アメリカにおけるハンディキャップト対策

4.旅客動線に着目したチェックポイント

5.沖合展開計画における基本的な考え方

5の全文は、
『航空旅客の利用が集中する旅客ターミナルエリアの計画にあたっては、前述した国連・先進国の動向を踏まえた上で、我国の社会変化の方向として考えられる重要な項目として“高齢化”問題への対応を基本方針の1つとし、計画にとりくんでいく必要がある。社会の高齢化に伴い航空旅客にも高齢者の増加が見込まれる。これまでのターミナル施設計画はいわゆる障害者への対応は講じられていても、ともすれば高齢者への細やかな配慮に欠けていたように思える。このようなことから、沖合展開計画における基本的考え方として、我々はハンディキャップトを広義にとらえ、高齢者も含めた交通弱者に対し“区別でなく同化”を目指した。誰にとっても使いやすい空港施設計画に望んだ事例が高齢者・障害者への配慮の具体例として、他空港のみならず一般の公共施設においても参考になることを望む次第である。』

 以上が羽田沖合展開ガイドラインの概要である。

4.最新の国内空港ターミナルビルのバリアフリー整備状況(新千歳・新羽田)

 最近供用開始の新築空港ターミナルビルは、新千歳と新羽田の2施設で、いずれも先記のガイドラインを基本に「障害をもつ人」の利用に配慮している。

 空港ターミナルビルのアクセシビリティの整備基本事項は、4項目である。

(1) 旅客ターミナルビルに容易に近付け、入口に到達できる。

(2) 旅客ターミナルビルに容易に安全に出入りできる。

(3) ビル内の必要な場所に容易に、自由に、安全に移動できる。

(4) 容易に利用できる便所がわかりやすい位置にある。

 以上の4項目が、整備水準の「必要最低限・ネセスティ(necessity)」である。これの視点で新千歳・新羽田の整備状況を紹介する。

4―1.新千歳空港ターミナルビル

 新ビルは1階に到着系を2階に出発系を集中配置した「1層半方式」のビルで、出発客と到着客の流れ(動線)を完全分離した構成である。

 国内では初めてJRがビル直下に直接乗り入れをしている。参考にビル断面図を添付した。

新千歳空港ターミナルビル断面図

新千歳空港ターミナルビル断面図

 写真(略)は到着客の動線順で、地上交通は車と鉄道への連接までである。写真構成は到着としたが、出発ルートは誌面の都合で省略した。

 整備基本事項4点は整備され、利用上の難点は少なくない。高齢者の利用からは、目の黄変化や行動(重心移動の生活行為)については充分な配慮水準に達していない。表示についても予備知識不足から、見やすいものではない。車いす利用者も搭乗用車いすに乗り換え介助なしでの利用は難しいと感じた。

利用上の難点
搭乗橋 搭乗橋の中の段差はゆるい。ここから2階コンコースへ
搭乗固定橋 ここのスロープはちょっと急勾配、1/10くらいか。自力では無理。
階段 階段の踏み板が、1枚の板状に見える。踏面とノンスリップの色の明暗差が必要。左端部に少しつけている。
エレベーターロビー 1階到着ロビーに面したエレベーターロビー。車いすの利用者はこれで2階より1階へ降りてくる。
1階到着ロビー 到着ロビー扉前から、荷物受け取り待合を望む。右手を曲がった所にエレベーターロビーがある。
到着系車・歩道 スロープが設けてあり、標示サインがわかりにくい。スロープの設置個所も少ない。
エレベーター 車いす利用者は、JRカウンターの奥に見えるエレベーターでもう一つ下の階のプラットホームへ誘導案内する。
トイレ トイレはドアレスで入れる方式。車いす用トイレは男女別に設けてあり、入口近くにある。
車いす用トイレ 車いす用トイレの外側にサインをつけているが、明暗差のない表示で小さく見にくい。
男子トイレ 小便器に小児用の配慮がされていない。
一般トイレブース ブースの扉幅が一般仕様(幅550㎜位)で、高齢者等の行動特性からは使用に難点が。手すりがない。
公衆電話 電話帳を広げるとか、荷物を置く等の行為ができない。館内マップ表示もパステルカラーのため、高齢者の目には見えにくい。(きれいではあるが)

4―2.新羽田空港ターミナルビル(西ターミナル)

 新ビルは1階に到着系と到着用歩道・道路、2階に出発系と出発用歩道・道路の「2層式」のビルで、到着客出入口と出発客出入口、到着客と出発客の流れ(動線)を階層で完全分離した構成である。従来の羽田空港ターミナルビルと異なり、2階出発ロビーは、各航空会社のカウンターが南と北に分離し、建物が長いために動く歩道を2階に設置している。モノレール連絡階(地下1階)と出発ロビー階(2階)・到着ロビー階(1階)を結ぶ直通エスカレーター、エレベーター等の垂直移動設備の利便性充実が見られる。

 写真(略)は出発から到着の動線順である。参考にビル断面を添付した。整備基本事項4点の利用上の難点はない。ただし建物規模の大きさに利用者はとまどう所がある。また新千歳で指摘したように表示・案内に問題があり、とくに高齢者等の眼の情報障害に細やかな配慮が望まれる。車いす利用者の介助なし利用は一部を除いて、利用可能と判断できる。

新羽田空港ターミナルビル断面図

新羽田空港ターミナルビル断面図

利用上の難点
モノレールとの連絡階 誘導床材を設置。微妙にずれている。
出発ロビー、到着ロビーへのエスカレーター 間近に障害者仕様のエレベーターがある。
案内標示板 2階出発ロビーの吹抜にある案内標示。背が高く、上部の表示の判別が困難である。白内障傾向の目には見えにくい。
到着ルートのスロープ 手前はバッゲージクレーム。到着客で荷物受け取りのない人は、スロープを歩くことが多い。
公衆電話 カウンター方式のため荷物が置ける。液晶パネルが白内障傾向の人にとっては見にくい。
自動販売機 商品取り出し口が低く、表示パネルも小さい。障害者仕様にしないのはなぜだろう。

5.アメリカの空港ターミナルビルについて

 航空技術の先進国、そして「障害」をもつ人への配慮、整備に関して先駆的な国として、アメリカの旅客ターミナルビルの環境整備を紹介する。

 1961年(昭和36年)10月30日付でアメリカ連邦政府運輸省は「空港ターミナルと障害者について」という題で、障害者の利用便宜のために、空港ターミナルビルとその周辺部の改築、新築の際に考慮すべき事柄を提起している。1968年(昭和43年)11月27日付で航空局(FAA)は、勧告として改めて提起し内容を強調し、改善を促進させた。また1977年(昭和52年)3月25日付で勧告を出し、「障害者の航空輸送」の題目で、航空輸送関係者に対し、障害者の航空機利用における介助方法のガイドラインを提示している。

 1979年(昭和54年)3月31日付で、連邦法規則49・27部編で、連邦補助金対象事業におけるハンディキャップトについての非差別基準を設け、空港ターミナルを含む周辺部の改築・新築時のハンディキャップト対象の資金援助を行なうこと。また整備の実行には担当行政機関に届出を必要とし、実行期限を設定していた。同規則の副部編Dで特定運用管理種目における必要達成事項を示し、空港、鉄道、高速道路、バスターミナルでのハンディキャップト対策について具体的に実施すべき事項を達成する義務づけをしていた。

 1990年(平成2年)に作成した、ADA法の基本前身の一部は、以上の経過が存在したのである。

 ADA法のタイトルⅡ、サブタイトルBのパブリック・トランスポーテーションのパート4は、運輸全般について詳細に整備規則を規定した、最終規定である。1991年(平成3年)9月6日付で提示された。その中に10.4空港の整備計画規定が8項目あるので(8項目は未決定)、簡単に紹介する。

〔新築のケース〕

(1) 基本的に斜路・エレベーター等の垂直移動設備は、チケット待合・保安検査所・旅客待合の近くに設置し、移動障害の人と一般旅客の移動行程を同じか近似させること。

(2)
・建物入口、入口への行程などの動線は、障害者と一般旅客を一致させること。

・移動動線が異なる場合は案内表示をつける。

・移動に使用する通路幅は極力広く確保する。

(3) チケット手続きの場所は、障害者がチケットの受け取りやバッゲージチェックのために広く利用できること。

(4) 公衆電話は各エリア内に少なくとも1台は設置し、4台に1台は聴覚障害対応の電話を設置すること。各エリアは以下のとおり

(a)ターミナルビルのセキュリティ外(搭乗手続前)

(b)ターミナルビルのセキュリティ内(搭乗エリア)

(c)ターミナルビルの到着・バッグ受取エリア

(5)
・手荷物預りと手荷物検査は動線の適正な位置に設置し、通路幅は車いすの利用に支障ないこと。なお乗りかえ等に対応する場所を間近かに用意する。

・保安検査所に最小1カ所は介助なしで車いす通過ゲートを設置し、押し開くゲートにする。そこには床から30cmまで平滑な車いすずりを連続して設ける。

(6) ターミナルビルの情報システムは、一般旅客への放送情報と同じ内容を伝える情報システムを聴覚障害の人に対して行うこと。

  多くの方法があるので限定はしない。例えばビデオ、コンピューターを使う視覚的システム等また補聴システム。

(7)
・全ての人に向けての時計は、文字と針が明確に見えるもので、数字・アラビア数字は背面の色と明暗の対比のコントラストがはっきりしたもの。取付位置は頭より上にする。

・時計は一定の間隔で設置し、施設内の利用に無理なく使える範囲で設ける。

5―2.ロスアンゼルス空港(LAX)、サンフランシスコ空港

 いずれもカリフォルニア州であり、取材・調査先(City of Los Angeles Department of Airports)では、ADA法以前より州法に基づきLAX空港では整備を進めてきている。

 Disabled Persons(高齢者・障害者等)に現在実施している各種整備・サービスは概ね6項目ある。

①聴覚障害者用にTDD(電話の会話をキーボードで行い画面表示される)を設置している。

②LAX空港には各ターミナルへの移動用(無料)シャトルバスを定時運航し、低床バスでリフトを装備している。ワンボックス車もある。

③長距離用バス(LAX空港発)のハンディキャップ仕様の装備期限は、1996年までに運行する規定をADA法で決めてある。

④16人以上のバスは全てリフト仕様で、16人以下のバスで運行する中小バス会社は1台以上の保有運行義務がある。

⑤物品販売店の中についても規定がある。入口幅、通路幅、陳列商品のピックアップのサポート等

⑥食堂等にも同様な規定があり、とくに従業員教育(ビデオ利用)も対象である。

このように積極的な印象を受けるが、「当然」という視点である。多くの整備を行った場合の国、州の経済支援については税金免除等があるという応答だった。

 ロスアンゼルス空港、紹介ポイントはADA法の内容。

ロサンゼルス空港
出発階 1階からのエスカレーターは2台。奥にエレベーター2台とアプローチ用スロープが見える。
コンコース ゆるやかなスロープ。表示は背面が白で文字が黒。
飛行機の停止位置表示 飛行機の種類により床高が異なるため飛行機の前輪停止位置をそれぞれ変え、搭乗橋の勾配をゆるやかにする。

サンフランシスコ空港
出発階の出入口 表示が見やすい。背面が暗色・文字は白色(これも規定がある)。
公衆電話 ブース形式で座っての利用。TDDが設置されている。

むすびにかえて

 国内空港ターミナルビルの整備状況を報告した。当初のガイドライン作成時は、様々な事があり整備水準は、「利用できる」という最低水準のものであった。単に「使える」という環境は、現在の社会状況の変化からは多くの問題があるという認識に移行してきている。欧米諸国が高齢化時代に、50年以上かかって到達した中で社会環境整備を継続的に進めてきたのに対して、日本は2分の1から3分の1の短い時間で整備を行う時に来ている。日本から見てアメリカのADA法は画期的といえるのではないだろうか。

 同様の動向が少し胎動し始めたようである。今、運輸省航空局で昭和58年ガイドラインを改訂する作業を進めているところである。空港ビルは他の交通ターミナルより、環境整備は模範的と言える整備水準であろう。これからは「ノーマライゼーション」思想に基づいた整備の継続を願い、「クオリティ・オブ・ライフ」(生活の質)についての課題に努力を重ねることを望みたい。昭和58年航空ガイドライン作成から11年経過したが、当初のガイドラインにも書いた高齢化社会が眼前にきてようやく事の重大さが分かったという社会環境である。これまで3回の米国ヘルスケア施設等の取材を通して、社会基盤の整備を1960年代後半から1980年代にかけて準備した米国の基本姿勢に驚き、見習うことの多さに改めて認識したところである。今後も研究を重ねるつもりである。

(株)梓設計 設計本部


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年6月(第80号)17頁~27頁

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