視点「誰もが使いやすい共用品の普及へ」

視点

 

誰もが使いやすい共用品の普及へ

星 川 安 之


 障害のあるなし、年齢に関わらず使いやすい製品(共用品)の普及というテーマは、1972年に工業デザイナーたちが作った「RIDグループ」が“グレーゾーン”という名称で提唱したのが、日本の中では一番最初と思われる。その後1974年に国連で「バリアフリーデザイン」の考え方が提唱され、住宅・公共施設・交通機関にその土台が徐々に築かれてきた。そして、もっとも大きな影響力を企業等に与えたのが1981年の国際障害者年であった。
 当時すでにゲームの定番商品であった「オセロ」を、視覚障害者の意見を元に日本点字図書館が製造メーカーのツクダオリジナルに依頼し、視覚障害者用の「オセロ」が発売されたのが1976年。それは、黒白の駒が手触りで識別でき、さらに駒の位置が簡単にずれないように、盤上に凸の枠を付けた優れものである。盲人用として作られたが、もちろん晴眼者と共に遊べ、その後日本玩具協会が提唱を引き継ぐ形となった「共遊玩具」の第1号といえる商品である。
 玩具協会は、1990年に「小さな凸」実行委員会を協会内に設け、「共遊玩具」が誕生しやすいシステム作りに励んでいる。視覚障害のある子供も一緒に遊べるおもちゃには「盲導犬」のマークを、聴覚障害のある子供が一緒に遊べるものには「うさぎ」のマークをパッケージに表示する事を推奨し、現在は約30の玩具メーカーがこの活動に賛同し、毎年約200~300の玩具にマークが表示されるようになっている。
 他の業界に目を向けると、6年前に花王が視覚障害者が識別しやすいようにと、シャンプー容器側にギザギザを付けはじめ、現在では約18の会社が同じギザギザをシャンプー側に付けている。テレフォンカードの刻みは、12年前に視覚障害者でも表裏・方向が分かるように付けられたものである。
 製品ばかりでなく、東京ディズニーランドでは、障害があるゲストにも100%近い満足をということで、毎年さまざまな改善がされている。
 これらの流れをくみ、1991年に各企業・各業界を横断し共用品を普及させるために発足したのがE&Cプロジェクトである。個人の資格で集まったメンバーは、まず課題発見のために障害者・高齢者の日常生活における不便さ調査を行っている。発見された不便さを解消するための「配慮点」の検討を行い、それらを多くの企業・業界に知ってもらうために展示会の開催、書籍・ビデオの企画、インターネット開設を行っている。その結果、プリペイドカードの触覚識別のJIS化等の成果をあげている。
 最近では、ビール各社が缶ビールの上部に点字で「ビール」と表示し始めたり、家電製品協会等がスイッチの凸記号を標準化しようという動きも出てきている。
 さらには、バリアフリーに関する一般雑誌が3冊も創刊されるなど、十年前に比べるとかなり多くの人や企業が共用品に関心をもっていることは確かである。しかし、実際に共用品に取り組んでいる企業・業界はまだ一部であり、今後広く共用品の考え方が波及し、実際の成果として様々な共用品が消費者の元に届くことが望まれる。

(E&C project事務局長)

 


 

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1997年11月(第93号)1頁
menu