韓国における障害児教育改革

■特集■

 

韓国における障害児教育改革

筑波大学心身障害学研究科 朴 在国
韓国大邸大学校特殊教育科教授 朴 華文

 

1.はじめに

 特殊教育における統合教育という新しい思想・理念が台頭されてからは、障害児教育は分離教育といった固定観念を改革しながら、速やかに世界中に広まった。各国はそれぞれの状況に合わせ、新しい法・制度を改善・改革するなどでこれらの世界的動向に対応しつつある。
 韓国もこれらの理念や理論を積極的に受け入れ、1994年1月7日には「特殊教育振興法」(以下は振興法)を改正するとともに、後押しする法律として大統領令の「同法施行令」(同年10月4日)や「同法施行規則」(1995年4月25日教育部会)を改正するなどで画期的な改革を推進しつつある。
 落合氏(参考文献18)は、この法律を分析した上、「インテグレーションの実施、個別教育計画の設置とそれに対する保護者の意見の導入、保護者の意義申し立て権を認めること、差別に対する罰則規定があるなど」の意義をあげて、アジアでの大きな変革として評価した。
 しかし、この法律は、さまざまな特殊教育領域の改革を規定しているとはいえ、性格上、先行法的(top-down的)な性質のもの、すなわち「目標指向的な性質のものである」(参考文献19)ため、現実とのギャップは少なくなく、それらの法条項をより具体化・現実化するための新たな改革が求められるところである。なお、韓国における特殊教育は、主に「特殊学校や特殊学級で行われる分離教育を追求してきたものである(参考文献3)ため、このような新たな事態に対する戸惑いは少なくない。従って、このような現状を上記の制度的改革に従い、いかに早くしかも試行錯誤の少ない効率的なものとして、発展させるのかが今後の課題になろう。
 以上のような背景により、研究者らはさまざまな改革を呼びかけており、指摘されている改革課題も少なくない。しかし、それらの改革課題は、おおむね先進国の状況に比べ、韓国の未熟な分野に対する改善・改革を求めるという面では一般的に一致するものの、たださまざまな改革課題を問題提起的に列挙したものであったり、具体性の乏しいものであったりして、不十分なものと言わざるを得ない。すなわち、改革の方向性や優先度といったところに目を向けていなかったため、現実性が乏しいのである。そのため、少なくとも長期・短期課題や漸進的な改革課題などが具体的に明示される必要性が考えられる。
 そこで、本研究は「教育を正しく発展させるための考え方と制度の改革ないし創造の課題を明らかにすることは、それ自体として重要である(参考文献25-1)というところに着目しながら、韓国における特殊教育の改革の歴史や改革の現状と推進計画ついて概観し、そこにある矛盾を先進国の歴史や事例などに照らし合わせて分析し、それらの知見に基づいて韓国の特殊教育における改革の方向性について検討し、それらの方向に対する改革課題の優先度などについて論じることを目的とする。
 

2.特殊教育改革(発展)の歴史

 「韓国における特殊教育は、伝統的には人道主義的、家庭的・個人的問題としてかかわりながら、文化的には恥や劣等感といった二重性の背景を持ちながら発展してきた(参考文献10-1)と言われている。前者は、以前からの障害者に関する教育制度や社会的規範を設けることに貢献したが、後者は、近代障害者教育の成立やその自主的な発展を遅らせた原因の一つであった。
 特殊教育の成立に関する意見はさまざまあるが、一般的に韓国における近代特殊教育は、1894年4月、当時北米メソジスト教会の医療宣教師であったロゼッタ・ホール女史(Ms.Rosseta Sherwood Hall)が、1人の盲女学生に点字(針文字?)教育を行ったことが始まりとされている。このロゼッタ・ホール女史は、1909年に平壌に、最初の聾学校を設立するなど韓国の特殊教育の改革に大きく貢献した。
 1910年からは日本による植民地時代の特殊教育期(1910~45年)が始まり、韓国最初の特殊教育の関連法規である「済生院官制」が、1912年朝鮮総督府により制定・公布されるようになった。この官制により特殊教育の公教育化という制度的改革が進み、1913年の済生院盲唖部を初めとして、特殊学校諸学校が設置され始まった。
 1945年に日本の植民地支配から独立した後の韓国では、いわゆる「民主教育」への改革が進み、1949年には韓国独自の「教育法」が制定された。この教育法には、特殊学校の設置義務や特殊学級の拡充等が明示されており、特殊教育における公的・制度的改革としての法的根拠が設けられたといえる。
 しかし「韓国における特殊教育の改革は、主に民間人による私立の特殊教育機関によって主導されてきている(参考文献10-2)特徴もあって、この教育法の特殊教育における公教育制度の整備は非常に遅れていた。従って、肢体不自由児養護学校と精神薄弱児養護学校が設置されるようになったのは法・制度の規定よりかなり遅れ、前者が初めて設立されたのは1964年、延世大学校(セブランス病院内)による肢体不自由特殊学校の小児再活院国民学校であり、後者は1966年韓国社会事業大学内に設立された私立の大邱保明学校であった。
 一方、特殊学級は、1937年に東大門公立学校内に病弱児養護学級が設置されたのを初め、1969年には弱視のための特殊学級が、1971年には精神薄弱児特殊学級がそれぞれ初めて設置された。家庭訪問制教師学級は肢体不自由児のみを対象にして1963年に初めて設置された。このような特殊学級における制度的改革に伴い、特殊教育に対する社会的理解が改善され、行政当局はそのような動きに合わせ、特殊教育に対する積極的な支援政策を強化するようになった。
 これらの動向を背景として、1977年12月には、特殊教育の発展のための法制度的改革を目標とした念願の「特殊教育振興法」が制定・公布され、さらには1988年ソウルで開催されたパラリンピックによって障害者や特殊教育に対する社会的理解が促進されたことなどを背景にして、政府や特殊教育関係者たちは特殊教育を積極的に奨励し、その充実した実践のためにさまざまな改革を推進することができたのである。
 この振興法は、1990年12月に行われた2次改正により一部修正・補完され、翌年の1991~94年までの「第1次特殊教育振興計画」を推進し、多くの成果をあげたのである。さらに、この振興法は、統合教育の実践などの画期的な改革方案を取り入れて、全面改正(1994年1月7日)されるようになり、現在進行中の「第2次特殊教育振興計画」(1995~98年)の原動力となっている。
 

3.改革の現状

 (1)「1994年特殊教育振興法」による改革の主な内容と意義

 この法律とそれを後押しする関連法規は、特殊教育の機会拡大や質的向上に関する改善・改革を狙いとして、特殊教育制度の体制や機能に関する規定(改正前の16条文から5章28条文へと全面改正)を大幅に改正した。その主な制度的改革の内容について、以下に示す。
1 同法(第3条1、2項関係)は、国家及び地方自治体の任務として、特殊教育総合計画の樹立、特殊教育対象者の就学指導、特殊教育教員の養成及び研修、特殊教育機関の設置・経営等の特殊教育の発展のために必要な業務を遂行するとともに、これに必要な経費を予算の範囲内で優先的に支援するようにした。
2 同法(第4条1項、同法施行令第2,3,4条関係)は、特殊教育に関する重要事項を審議・建議するための「中央特殊教育審査委員会」を教育部のもと、各市・道に「地方特殊教育審査委員会」を設置するようにした。ただし「中央特殊教育審査委員会」の機能は、大統領令によって定められている機関が管理・奨励するようにした。
3 同法(第5条、同法施行令第5条関係)は、特殊教育対象者に対する初等教育及び中学校教育課程を義務教育とし、幼稚園及び高等学校教育課程については無償教育として、義務教育と無償教育に対する財政は、国家及び地方自治体が負担または補助するようにした。
4 同法(第6条関係)は、私立特殊教育機関における必要経費を国家及び地方自治体が支援する事を規定するなどで、現状の66%(72校、生徒数;61.8%)を示している私立特殊学校の性格を国・公立特殊学校とほぼ同じ水準にした。
5 同法は、早期教育(第8条)、差別禁止(第13条)、通学便宜(第14条)、教育課程及び教科用の図書(第25条)、父母の参与(第26条)に関する新たな規定を設け、特殊教育の質的向上を強化した。
6 同法(第16条、同法施行令第14条関係)は、特殊教育対象者の潜在能力を最大限に開発するために、各級学校の責任者が特殊教育対象者の能力及び特性を考慮した個別化教育(IEP)を強化するようにした。
7 同法(第14条2項)は、教育を受けないまま学齢期の過ぎた特殊教育対象者が、受容されている障害人(者)福祉施設、児童福祉施設、医療機関、あるいは家庭などへ特殊教育教貝を巡回または派遣させて特殊教育を受けられるようにした。
8 同法(第15条)は、特殊教育対象者本人やその保護者あるいは特殊教育機関の責任者により統合教育を要求された場合、当該一般学校の責任者は、特別な事由がない限りそれに応じ、その特殊教育に必要な教材・教具、及び特殊教育対象者の便宜施設・設傭を整えることを規定した。
9 同法(第10条、同法施行令第9条)は、算数・発話・読み・書きなど特定な分野においての学習上障害がある者、いわゆる学習障害児を特殊教育対象児として規定した。
10 特に、同法(第15条)は、統合教育の概念やその実践のための体制を新たに規定し、同法施行令(第10条)と施行規則(第3条)を通して、特殊教育対象者の就学(入学、再入学、転学、編入学を含む)措置の際に、統合教育を実施する一般学校への措置を最優先にするとの規定を設けるなど、統合教育拡大に関する改革を提示した。なお、これと関連して就学措置における保護者の再審請求(第20条、施行規則第13条関係)に関する規定も設けられており、今後、統合教育と関連した改革の展望が注目される。
 以上のように、同法は韓国の特殊教育のさまざまな次元における質的改革を規定したという面では発展的な法として評価されるものではあるが(参考文献12)、全障害児に対する完全教育受容や各個人の独特なニーズに適応した教育を保障するという実践的な面に対しては改善・改革の余地を残す。なお、この法律によって示された改革は、現実離れした理想的な性格が強いため、そのギャップをいかに早くなくすべきかが、今後の重要な課題となろう。そのため、教育部はさまざまな改革の推進計画を提示しており、また研究者たちによってもさまざまな改革方案が提示されている。これらについては次で述べるとする。
 

 (2)改革の状況と推進計画

 韓国の教育部は、改正振興法の実践のために、「1995年教育改革」を通して提示された特殊教育分野の改革内容に対する具体的な推進計画を、「特殊教育の発展方案」(1996年12月)としてまとめて発表している。ここでは、その主な内容とそれに関係する最近の動向などについて検討する。
1 障害児教育実施の拡大
 1995年5月31日に提出された「第2次教育改に関する大統領報告書(参考文献13-1)によれば、2001年までには特殊教育対象者に対する100%教育実施が実現するようになる。そのための基本方向は、統計庁の将来指向推移に基づいて、教育部が作成した2001年の障害児の教育的措置に関する推定値(表1)で見られるように、一般学級での統合教育(60%)にある。

表1 学齢期障害生徒数(5~17才)と教育的措置の推定
区分 学齢人口 出現率 教育対象者数 教育的措置
重度障害 9,178,811 0.46% 42,000 特殊学校
軽度障害 1.98% 181,700 特殊学級    (40%: 72,700)
一般学級統合 (60%:109,000)
合計 9,178,811 2.44% 223,700
※資料:統計庁(1991年4月) ○将来人口推計(1990~2021年)

 

表2 特殊学校(級)新・増設計画(1996~2001年)
事業名 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
特殊学校 増設
累計(校)
2(実績)
108
4
112
4
116
4
120
3
123
3
126
3
129
23
129
特殊学級 増設
累計(学級)
40
3,440
330
3,770
330
4,140
370
4,510
370
4,880
370
5,250
370
5,620
2,220
5,620
就学率(%)の推移 55.4 65.3 55.2 82.6 90.1 97.5 100
※資料:教育部 教育月報(1995年)

 

表3 統合教育諮問・指導教師配置計画
対象校数 1995 1997 1998 1999 2000 2001以降
既配置校 非配置校 追加配置 追加配置 追加配置 追加配置 追加配置
19,261 2,640 16,621 1,662 1,662 1,662 1,662 9,973
※資料:教育部 教育月報(1995年)

 

表4 統合教育プログラム開発・補給計画
区分(年) 1996 1997 1998 1999 2000
開発供給数 13 13 13 13 13
※資料:教育部 教育月報(1995年)


 しかし、表2に示すように、統合教育の拡充と平行して、特殊学校と特殊学級の年次的新・増設計画に関する具体的な推進案が特殊教育改革案としており、分離教育の縮小あるいは廃止による統合教育のパラダイムという先進国で見られる改革とは異なるものである。
 一方、統合教育の拡大や効果に関しては、巡回・訪問教育の制度化、学習トウム室(通級学級あるいはリソースルームの機能に相当するもの)の設置運営、統合教育諮問・指導教師の配置(表3)、そして一般学校に多様な特殊教育プログラムの開発・補給(表4)等に関する年次的推進計画が公表されている。
2 早期教育機会の拡大
 障害児の早期教育の強化のために、公立の特殊幼稚園の設立と特殊学校内の幼稚部設置を拡大・奨励している。なお、障害幼児の統合教育を促進するために、現在5名以上の障害幼児が就学している一般幼稚園に特殊学級を認可し、人件費、運営費を支援するなどで、一般の公・私立幼稚園に特殊学級を設置するよう奨励している。なお、韓国特有な改革方法として、現在「無認可で運営されている私設の早期教育機関に対して、設立条件を満たしている場合は特殊幼稚園として認可するための法的手続きが進んでいる(参考文献13-2)
3 高等教育と職業教育の拡大実施
 改正法には、「高等学校課程を設置している特殊教育機関は専門技術教育のために、授業年限1年以上の専攻科を設置する」ことができると規定しており、一部ではすでに実施されいる。これを受けて、障害人職業能力開発担当部署の設置及び、障害領域や程度に適合する職業教育課程の開発が推進されている。
 なお、教育部は1998年までに全国20高等学校に専攻科を設置・運営するというビジョンを提示しており、「障害人雇用促進財団」は教室・教具・教材などにかかる費用について特別な支援を行うとしている。さらには、「障害者大学入学特例」の認可が検討中にあり、障害学生のための便宜施設・設備の設置程度を大学の評価基準点として認定するとの改革案が提示されている。
4 障害児・者のための特別な学制の制度化
 障害児・者に対する現行の無償教育最大期間の18年(幼稚部から専攻科まで)を20年に延ばすこと、年中随時入学制、月期随時休み制等を骨子とする特別学制を制度化するとの改革案が提示されている。
5 教員養成体制及び資質の改善
 特殊教師養成機関の教育課程を改編・強化及び標準化すること、統合教育の効果的実践のための一般教師を対象とする再教育、現職研修の強化、大学院中心の教員養成体制への転換、一般教育教師の養成大学に特殊教育科を拡大設置(現在11大学の内1校設置運営)することが改革・推進中にある。
6 遠隔教育支援体制の構築
 1997年現在、国立特殊教育院を司令塔とする高速情報通信網が、一部特殊学校との連携を持って開設され、実験段階にある。これは、いわゆる「遠隔教育システム」というものであり、このシステムによって全国にいるすべての特殊教育対象者が、国立特殊教育院のメンバーから構成される特殊教育専門家チームにより、直接的な教育的支援を受けることが可能になるであろう。これによって、障害児の診断・評価、教育的措置、IEP作成といった改革課題を促進させると予想される。
 

4.改革の展望(方向と課題

 ここでは、以上のまとめにかえて、今後検討を要する改革の方向と、それに関する改革課題について問題提起的に述べ、それらの優先度等について検討する。
 

 (1)インテグレーションからインクルージョンあるいは特別なニーズ教育へ

 韓国は特殊教育の量的拡充のために、特殊学級や特殊学級を新・増設と共に、統合教育の拡充といった改革を推進している。これに対して、韓国側が主催した「特殊教育及びリハビリテーション専門家招請国際シンポジウム」出席し講演したThomas M.S.教授(アメリカ・カンサス(Kansas)大学特殊教育科)は「特殊教育の進歩は漸次的な変化より急進的変化によって可能である」(参考文献11-1)と主張するとともに、特殊教育に対するさまざまなパラダイムを同時に追求することにより、主な一つのパラダイムを選択し革命的に行う必要があると指摘した。この提案におおむね同意し、改革としての特殊学校や特殊学級の新・増設には反対すると共に、インクルージョンあるいは特別なニーズ教育へのパラダイムチェンジを提案し、韓国における特殊教育の発展のために、改善・改革される必要があると考えられるいくつかの改革課題を以下に提案として示す。
1 一般校と特別な学校のシステムを統合するという長期的な改革を視野に入れて、現在、推進中の特殊学校の設置は一般学校内に小規模に設置される必要がある(二元化から一元化システムヘ)。
2 早急に改善する必要のある重要改革課題として、統合教育の促進のために、一般学級の条件を整備しなければならない。例えば、適正生徒数、教育プログラムの統合、施設・設備の整備、IEP作成やチーム指導、関係者(教師、父母、一般児童)の障害児に対する意識・態度の改善などが改善・改革される必要がある。
3 分離教育や差別的な教育的措置を防ぐために、障害種別によるラベリングを解消する改革が早急に必要である。
4 特殊学級と一般学級の分離を強要しないことを短期的改革の課題として、特殊学級の機能を日本の通級学級、あるいはアメリカのリソースルームの機能へと転換する中・長期的な改革が必要である。
5 国家財政などを考慮して、中・長期的な改革として特別なニーズに対する教育の制度化を漸次的に推進する必要がある。例えば、補助教師、各種の専門職(理学療法士、作業治療士、言語治療士、スクールサイコロシストなど)の養成と配置することや、地域に根付く小規模のリハビリセンターの設置する必要がある。
 

 (2)法制度主導の改革から特殊教育関係者主導の改革へ

 韓国における法制度の整備は、特殊教育の発展に重要な役割をしたのは確かである。しかし、法制度が整備されたとしても、その実現までには多くの時間や試行錯誤が伴われた。この点については、日本の東京都のように「関係法令の改正、制度改革がなされない段階でも、優れたものにしていくことが可能である(参考文献25-2)ことに注目する必要があろう。すなわち、法制度以前に教師や障害児の保護者あるいは障害者本人たちの直接関係者の意識が向上され、それによる実践的な努力が新たな改革を引き起こし、制度化と共に現実性が高いものにするという、システムヘの変換が必要である。これらに関する改革課題について、問題提議的に以下に挙げる。
1 人権や教育権に関する要求運動を、活性化させることが急務である。例えば、改正振興法の各法条項に対する、具体的な推進計画の提示を要求する特殊教育関係者の要求運動が持続的・長期的に行われる必要がある。
2 制度化の前にモデルが提示される必要があり、そのモデルに保護者等が直接参加する予備的・実験的実施を行う必要がある。これらの手続きにより、特殊教育消費者の要求が反映される実質的な改革が可能である。
3 アメリカでの教育的措置に関する法訴訟文化が、活性化される必要があり、早急にこれらの活動を支援する公的・私的団体が結成される必要がある。
 

 (3)特殊教育主導の改革から他の部署との連携による改革へ

 インテグレーションとは、しばしば統合教育として訳されるが、根本的には教育的、社会的、職業的インテグレーションの三つの領域を含むものとして、それぞれを切り離さず、全体として考えるのが世界的・時代的動向であろう。従って、統合教育(educational integration)に対する改革、またインテグレーション全体として改革されるのか望ましい。すなわち、特殊教育と一般教育の連携・協力による改革、広くは教育と保健や社会福祉との連携・協力による改革が必要である。これに関して、以下に他の先進国における例を参考に韓国に要求される改革課題のいくつかを提示する。
1 統合教育などの制度的改革が実施される際に、必要とされる治療や訓練などに対する支援サービスが、学校や自宅から近くにある福祉センターなどの福祉機関と連携をとって対応される必要がある。このためには、現在、日本で設置・運営されている学区や地域ごとに設置されている小規模の福祉センターの機能を参考する必要がある。
2 発達保障論に基づいて、保育・教育・療育の連携や協力的な体制が、長期的な改革課題として必要である。イギリスにおける5歳児の「幼児学校」の義務制、日本における乳幼児の教育やケアのための「保育園」の設置・運営等を参考する必要がある。
3 教育次元の個別教育計画と同じような性格をもつアメリカで既に、実施されている福祉次元の個別家族サービス計画(IFSP)を参考に障害児の家族を支援するためのプログラムを作成・実施する必要がある。
 

 (4)その他の改革

1 「一般人の障害児・者に対する認識・態度の改善」と「重度障害児教育の強化(参考文献11-2)に関する制度的改革が持続的に行われる必要がある
2 統合教育の質的改革のために、長期的には統合教育を担当する教師を養成・配置(参考文献2)する必要があり、短期的な改革として、現在に所要される統合教育担当教師の配置のために、一般教師や特殊教師の資格をもった教師を対象に資格取得のための制度を整備する必要がある。例えば、大学院教育課程あるいは国家試験による資格取得の制度的改革が必要であろう。
 

5.おわりに

 この論文を作成するに当たり、筑波大学心身障害学系、中司利一、柳本雄次、鄭仁豪、同大学心身障害学研究科、李在旭、韓国大邸大学の姜寿均、諸先生方のご協力、ご助言を戴きました。ここに深く感謝いたします。
 

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(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1997年11月(第93号)13頁~19頁
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