特集 第36回総合リハビリテーション研究大会 総合リハビリテーションの深化を求めて-当事者の主体性と専門家の専門性- 第36回総合リハビリテーション研究大会 開催趣旨 小山 善子

第36回総合リハビリテーション研究大会
開催趣旨

小山 善子
第36回総合リハビリテーション研究大会金沢大会実行委員長 金城大学医療健康学部教授

開催趣旨

 新生総合リハビリテーション研究大会(第33回~35回大会)では,「全人間的復権」としての総合リハビリテーションとその実践をテーマに,理念の確認と実践のあるべき姿を議論してきた。
 今日のリハビリテーションに関わる各専門領域では専門性が細分化する方向にあり,実践にあっては各専門領域の知識と技術が当事者の思いやニーズに優先して提供される現状がある。この状況は,当事者を専門知識からしか見ない,障害による制約を受けつつ意思をもって活動し,成長し続ける生活主体として見ないことをもたらすと危惧される。リハビリテーションが「全人間的復権」であるためには,ますます,“総合”の意味が問われる。これより「全人間的復権」をめざすリハビリテーションとなるためには,専門家の視点からだけでなく当事者の視点を重視してリハビリテーションを再考することが急務の課題と言える。
 「新生」を掲げた当初の“当事者中心”であることを中核に据えて,その意味をあらためて問い,深め,これに基づく実践の具現化を求めたい。当事者の自己決定を活かして,当事者には主体性を求め,これを支えるための専門知識と技術の活かし方を掘り下げることで,専門家には,これまで細分化されて蓄積された知識と技術の体系を,当事者の自己実現に向けてさらに有効なものへとなるように再構築することを求めたい。

はじめに

 2013年10月12日~13日,第36回総合リハビリテーション研究大会は,今回日本海側で初めて,金沢で開催されることとなった。ここ3年間は統一テーマ「総合リハビリテーションの新生をめざして」で議論を深めてきたことを踏まえ,今回のテーマは「総合リハビリテーションの深化を求めて~当事者の主体性と専門家の専門性~」である。
 以下にこの大会の概要を報告する。

Ⅰ. プレ大会

 歴史あるこの大会ではあるが,北陸では初めての開催で,総合リハビリテーションについて知ってもらいたいとの思いから,プレ大会を企画した。学校関係者,PT,OT,学生等約50名が参加し,あらためて総合リハビリテーションの歴史を知り,「当事者中心の総合リハビリテーション」の課題を研修した。

日時:2013年8月10日(土)13:00~17:00
会場:金沢大学角間キャンパス 人間社会第2講義棟 4階402講義室
テーマ:総合リハビリテーションが求めるもの・もたらすもの
講演Ⅰ 「総合リハビリテーションの歩み―その源流とこれから―」
 講師 上田 敏((公財)日本障害者リハビリテーション協会顧問,元東京大学教授)
講演Ⅱ 「総合リハビリテーションが求めるもの・もたらすもの」
 講師 大川弥生(国立長寿医療研究センター研究所生活機能賦活研究部部長)
シンポジウム 「事例から考える総合リハビリテーションの実践」
 座長 松矢勝宏(東京学芸大学名誉教授),木村伸也(愛知医科大学教授)
 シンポジスト 矢本 聡(仙台市泉区保健福祉センター障害者支援係長)
高岡 徹(横浜市総合リハビリテーションセンター医療部長)
吉川一義(金沢大学人間社会研究域学校教育系教授)

Ⅱ. 第36回総合リハビリテーション研究大会

 1日目には特別報告,講演2題,基調対談,ICF研修会が実施された。
 特別報告は障害をめぐる動向として,国際動向では,2006年に採択された障害者権利条約のキーポイント,国連ミレニアム開発目標(MDGs)をめぐる動き,WHOなど国連専門機関の取り組み(CBRなど),インチョン戦略等が紹介された。国内動向としては,障害者権利条約批准への我が国の現状・展望・課題などが言及された。
 講演Ⅰでは「権利の保障と擁護の仕組みを地域でつくる」と題して,「固有のニーズ」をもつ人が住み続けられる地域つくりが人権保障の視点から論じられた。
 講演Ⅱは「障害者政策の動向:自立支援法から総合支援法」と題し,総合支援法と相談支援事業,特に相談支援について①対象者の拡大,②地域移行支援・地域定着支援が改正されたこと,相談支援事業の現状などが詳細に紹介された。
 基調対談では「総合リハビリテーションの深化を求めて」として,50周年を迎えるリハビリテーションの変遷から総合リハビリテーションの必要性,リハビリテーションの意味・理念が確認された。従来の「サービス(供給側)中心の総合リハ」から今日の到達点の「当事者中心のリハ」の具現化を目指す上で,本人中心の意味と意義,「本人の主体性」と「専門家の役割」について,本大会で議論することが求められた。
 上田敏氏は,「総合リハビリテーションを進めていくには地域社会の中で,障害当事者を中心にいろいろな領域が縦の連携と横の連携で協力する組織をつくり,当事者の自己決定を専門家の専門性で支援し,当事者の全人間的復権を実現するような取り組みが課題である。当事者の問題解決能力,自己決定能力を高める支援が専門家には求められる。この点で専門家の責任は重い。しかしまたやりがいも大きい。」と述べた。
 ICF研修会では,「総合リハの新生のために,それに関わる全ての人が,いかにICFを『共通言語』として活用するか」という観点からICFを学んだ。
 2日目はシンポジウムを開催した。
 午前中のシンポジウム第1部では「『自己実現』を支える総合リハビリテーション―当事者の主体性を支える専門性の追求―」として,中学1年生時に頸椎損傷を受傷し,現在大学生活を送っている当事者の振りかえっての思いと,彼女に関わってきた専門家の支援が報告され,当事者の主体性とそれを支援する専門職の役割が議論された。
 シンポジウム第2部では,シンポジウム第1部の趣旨を基調として,リハに関わる各専門領域での現状と課題を明示し,「よりよい総合リハビリテーションの到達点を求めて―専門領域の現状と課題から専門性の再構築―」を議論した。①就労支援の立場からは当事者の就労ニーズの多様化がみられる現状,当事者と事業所の当事者情報のアンバランスやICFの活用の不熱心が挙げられ,当事者のニーズに応えるために問題解決にICFの有効性が指摘された。②医療の立場からは,障害者施策の支援対象となった高次脳機能障害に対するリハビリが取り上げられ,総合リハとしての医療職だけでなく,福祉,職業,教育といった多職種のかかわり,長期にわたる支援,専門機関と地域の社会資源との関係の構築の必要性が述べられた。③看護領域からは,介護職やセラピストの協働の中での看護職のかかわり,施設や在宅ケアでの看護職のかかわりなどの課題が述べられた。④介護現場からは,ICFの活用や多職種との協働の課題が報告され,⑤工学からは支援機器の開発をめぐる問題点が述べられた。最後に⑥教育領域からは障害のある子どもの教育の現状課題が述べられた。

おわりに

 今大会の参加者は180名と例年からみるとやや少なかったが,一貫したテーマで多方面から活発な発言や議論がなされた。また,当事者参加のシンポジウムは画期的な試みになったのでないかと思われる。今回は教育領域に限られてしまったが,当事者中心に医学,教育,福祉,職業,社会,行政,ピアサポート等包括的に地域生活でリハビリテーションサービスを提供できるよう総合リハビリテーションの在り方,専門家の役割がますます議論されることが望まれる。


主題・副題:リハビリテーション研究 第158号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第158号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第43巻第4号(通巻158号) 48頁

発行月日:2014年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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