特集 第38回総合リハビリテーション研究大会 総合リハビリテーションの深化を求めて ―明日から一歩を踏みだそう― 第38回総合リハビリテーション研究大会開催趣旨 木村 伸也

木村 伸也
第38回総合リハビリテーション研究大会実行委員長 愛知医科大学リハビリテーション科教授

はじめに

 第38回総合リハビリテーション研究大会は,「総合リハビリテーションの深化を求めて―明日から一歩を踏みだそう―」をテーマとして企画・開催された。総合リハビリテーション研究大会は,全人間的復権というリハビリテーションの原点に立ち返り,多分野間の交流とその時々の課題を共有する機会となってきた。第38回大会は,総合リハビリテーションを私たちに身近なものとして理解し実践に踏みだしていくために何が必要かを考えることをめざした。

最近5年間の研究大会をふりかえる

 最近5年間の研究大会をふりかえると,「総合リハビリテーションの新生をめざして」という統一テーマのもと,第33回(実行委員長:大川弥生),第34回(実行委員長:藤井克徳),第35回(実行委員長:伊藤利之)が開催された。
 第33回研究大会の開催趣旨では,「リハビリテーションをめぐる状況の変化」として「生活機能の低下のある人々(高齢者や慢性疾患患者など)や,関与する専門職が増え」「また当事者(患者・障害者・利用者,そしてその家,族)の積極的な参加が必要になり,真の連携のシステム・プログラム」が必要となったことから,「総合リハビリテーションのあり方やすすめ方について再考し,原点に戻って皆で力を合わせてつくっていくのが大きな課題」とされた。
 これを受けて,「総合リハビリテーションの深化を求めて」というテーマのもと,第36回(実行委員会事務局長:吉川一義)は「当事者の主体性と専門家の専門性」,第37回(実行委員長:阿部一彦)は「当事者の『社会参加』向上と総合リハビリテーション」をサブテーマとして開催された。
 第36回研究大会の開催趣旨は,「『新生』を掲げた当初の“当事者中心”であることを中核に据えて」,「当事者の自己決定を活かして,当事者には主体性を求め」「専門家には,これまで細分化されて蓄積された知,識と技術の体系を,当事者の自己実現に向けてさらに有効なものへとなるように再構築する」ことを提言した。
 第38回は,これらの課題を受け止めて,企画を行なった。

第38回総合リハビリテーション研究大会

 今回の大会は,第17回大会(実行委員長:村地俊二)以来,21年ぶりに名古屋で開催された。17回大会で演者を務めた,山田昭義氏(AJU自立の家専務理事),上村數洋氏(バーチャルメディア工房ぎふ理事長)に実行委員会に加わっていただき,多くの当事者の参加を得ることができた。
 特別公演に,炭谷茂氏(日本障害者リハビリテーション協会会長),三浦公嗣氏(厚生労働省老健局長),野田聖子氏(衆議院議員)をお招きし,リハビリテーションが関わる,働く権利,地域包括ケア,障害児者の生活と制度面の課題などについて理解を深めることができた。
 パネルディスカッション「生活機能向上にむけたサービスと相互の連携:総合リハビリテーションとしてのあり方を考える」では,病院前救急(野口宏氏(愛知医科大学名誉教授)),リハ医療(菊地尚久氏(横浜市立大学市民総合医療センターリハビリテーション科部長)),介護(田中雅子氏(日本介護福祉士会名誉会長)),就労支援(栗原久氏((一財)フィールド・サポートem.代表理事,前 箕面市障害者事業団常務理事))の立場から,各分野に共通する総合的視点とは何か,総合のための連携を実現するために求められるものを議論した。
 シンポジウム「当事者が主役となって働くための支援のあり方―総合リハビリテーションの視点から」では,座長に原和子氏(岐阜保健短期大学教授),酒井英夫氏(なごや障害者就業・生活支援センター長),シンポジストに,当事者の立場から,稲葉政徳氏(岐阜保健短期大学講師),山田昭義氏((社福)AJU自立の家専務理事),伊藤圭太氏(NPO法人ドリーム代表)と利用当事者(脳卒中後遺症),専門職として,松野俊次氏(豊田市こども発達センター副センター長),港美雪氏(愛知医療学院短期大学教授)が立った。現地実行委員会が催したプレ研究会で発言したシンポジストの一人が中日新聞の取材を受け,日々の工夫が同紙で紹介された。記事に関心をもった当事者の家族や市民が大会に多数参加した。
 セミナー「パラリンピックにむけたユニバーサルなまちづくり」で八藤後猛氏(日本大学理工学部教授)に,1964年の東京オリンピック・パラリンピックが日本に与えた影響と以後の技術進歩,当事者運動の発展,ユニバーサルデザイン思想,5年後に向けた福祉のまちづくりの課題などをお話いただいた。講演「障害者をめぐる動向」では藤井克徳氏(JDF幹事会議長)が,ナチス政権下のドイツでの障害者差別を,自らが取材したテレビ映像で紹介し驚きと感銘を与えた。
 同時開催されたICF研修会には約200名が参加した。上田敏氏,大川弥生氏の講義の後も時間を延長して質疑が行われ,ICFの正しい理解と臨床的活用,普及について,多くの課題が残っていることがわかった。
 講演などに並行して,シンポジストが所属する団体,大学研究室,企業等が展示と商品販売を行い,当事者と専門職,専門分野間の交流の場となった。以下の参加団体に御礼を申し上げたい。

  • (社福)AJU自立の家小牧ワイナリー(ワイン展示販売)
  • NPO法人ドリーム(脳卒中障害者による手工芸品,フェアトレード商品等の展示販売)
  • 中部大学工学部大日方研究室(アルデバラン社製人型ロボット「A-robots NAO」の展示)
  • (株)丸日本(自閉症児等に役立つチェーンブランケット等の展示)
  • インクルーシブシアター(ミュージカル「それぞれの星の下で」(文部科学省委託事業)の紹介)
  • (社福)日本聴導犬協会・(社福)中部盲導犬協会(聴導犬,介助犬,盲導犬の紹介)
  • NPO法人作業療法支援ネット

当事者と専門職の協働そして市民・学生参加の意義

 シンポジウム,野田聖子氏の特別講演,ICF研修会などをはじめとして,当日は多数の市民と学生の参加を得ることができた。個別的なサービスでは専門職と当事者の協働を中核としつつ,関係者と市民の参加が分野間の協働を促し,「誰でも,どこでも,いつでも」参加できる総合リハビリテーションを実現する力となる。学生にとっては総合リハビリテーションの視点から専門分野間に共通する課題を知る機会として研究大会の意義は大きい。

おわりに

 第38回大会の成果を礎として,総合リハビリテーションのさらなる深化にむけ,第39回そして40回の研究大会の成功と愛知県をはじめとする東海地区における総合リハビリテーションの実現・普及・定着を追及していきたい。

参考資料

総合リハビリテーション研究大会開催の歩み(日本障害者リハビリテーション協会)
http://www.normanet.ne.jp/~rehab/riha_rireki.html


主題・副題:リハビリテーション研究 第166号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第166号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第45巻第4号(通巻166号) 48頁

発行月日:2016年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

menu