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第3回インターネット・ガバナンス・フォーラム報告

2008年12月22日
野村美佐子
日本障害者リハビリテーション協会情報センター

第3回IGF(インターネット・ガバナンス・フォーラム)がインドのハイドラバードで12月3日から6日にかけて開催された。今回のテーマは“すべての人にとってのインターネット”である。ムンバイにおける痛ましいテロ事件の直後であったため会議直前でのキャンセルが多くあったが、94ヶ国から1,280人の参加があった。そのうち133人がメディアからの参加であった。 このIGF会議は、何かを決定する権限はないが、世界各国のマルチステークホルダー(政府、企業、市民社会等)が対等に、インターネットを巡る諸課題について自由な議論を行うことができる。メインセッショは以下のテーマで5つのセッションが行われた。

メインセッションの様子

  1. 次の10億人への到達(Reaching the Next Billion)
  2. サイバーセキュリティとトラストの推進 (Promoting Cyber-Security and Trust)
  3. インターネット重要資源の管理 (Managing Critical Internet Resources)
  4. 新たな課題―今後のインターネット(Emerging Issues- the Internet of Tomorrow)
  5. 実績を評価し先に進む (Taking Stock and the Way Forward)

 また、メインセッションと平行して体験やアイデア、およびベストプラクティスを共有するために87のワークショップ、好事例フォーラム、ひとつのテーマについて参加者が自主的に連携を行うダイナミック・コアリション会合、およびオープンフォーラムが、ムンバイの事件によりキャンセルもあったが、開催された。 今回の会議では、情報保障として要約筆記がメインセッションにて行われ、国連が認定する6つの言語での通訳、そしてインドでの開催ということからヒンズ語で通訳が提供されたことが特徴として挙げられる。またライブのウェブキャストがおこなわれ、物理的に参加できない人も会議の様子を見ることができた。メインセッションではないが、アクセシビリティと障害者に関するダイナミック・コアリション(Dynamic Coalition on Accessibility and Disability )においては、スピーカーのコミュニケーションの保障としてカナダから遠隔要約筆記が行われた。日本においても、(財)日本障害者リハビリテーション協会が遠隔要約筆記の可能性について実験を行ったこともありとても興味深かった。 DAISYコンソーシアムからは、DAISYを通して会長である河村宏さん、開発途上国の普及担当のインドのディペンドラ・マノーシャさん、そして日本のDAISYコンソーシアムのメンバーである非営利団体支援技術支援機構の濱田麻邑さん、そして筆者が会議に参加した。

右から濱田氏、マノーシャ氏、河村氏、筆者の写真

 河村さんは、3日のメインセッション、「すべての人にとってのインターネットー次の10億人への到達」の中で障害者の立場を代表してパネリストとして参加した。このセッションは「多言語インターネットの実現」がテーマとなり、ユネスコの情報社会部門の部長であるMyriam Nisbetがモデレータを務め,座長はインドのRediff.comの会長であるAjit Balakrishnanであった。rediff.comはインドの有力なポータルで英語に加えて新たに8つの言語であるHindi(ヒンドゥー)、Marathi(マラッタ)、Tamil(タミル)Telugu(テルグ)、Malayalam(マラヤラム)、Kannada(カンナダ)、Bengali(ベンガル)、Gujarati(グジャラート)に対応をすることを発表しているそうだ。彼は特にインドのインターネットの多言語化を強調し、現在インドは4千万人のインターネットの利用者がいるが、今後世界は利用者が10億人と拡大し、そのうち2億5千万人はインドの利用者であると推定している。パネルディスカッションにおいては、ローカライゼーションの重要性、そのためのソフトウェアなどのツールの開発、ドメイン名の国際化などについてITU、UNESCOなど6人のパネリストによって言及がされた。 河村さんはスピーチの中で、障害者のウェブへのアクセスを推進するためにDAISYコンソーシアムによって開発された技術、DAISYについて述べた。「事前に十分な情報を得た自由な合意」という国連障害者の権利条約の中でも言及されている民主的な参加の基本原理がインターネットの管理の基本となるべきであり、特に現在インターネットコミュニティから排除されている障害者や少数派言語使用者、書記文字を持たない先住民族、そして非識字者の参加がDAISYにより保障されると主張した。

河村氏の写真

 DAISYコンソーシアムの開発途上国普及担当であるディペンドラ・マノーシャさんは、3日の午後からのアクセシビリティと障害者に関するダイナミック・コアリションのセッションに参加した。このセッションは、インターネットを個々の能力に関わらずすべての人にとってアクセシブルにする必要性をアピールすることが目的で、視覚障害、肢体不自由、聴覚障害など持つ当事者のスピーカーがそれぞれの立場から情報のアクセシビリティについてプレゼンを行った。

セッションのスピーカーの写真

 視覚障害者であるマノーシャさんは、DAISYによる防災に関する情報のアクセシビリティについてのプレゼンを行った。情報は、災害における準備(Disaster preparedness)、災害警報(Disaster Warning )および救援活動(Relief operation)において重要な役割を果すと述べ、それらの情報にアクセスを可能にするDAISYという情報技術を紹介した。

マノーシャ氏のスピーカーの写真

 今回の会議で取り上げられた新たな議題として、インターネットと気候変動に関するダイナミック・コアリッション(Dynamic Coalition on Internet and Climate Change)による「ICTと気候変動」と題するセッションがあった。このセッションの目的は、気候変動におけるインターネットのインパクトを示し、二酸化炭素の排出を減少させる可能性を指摘して、これからのコアリッションの活動と目的の協議と気候変動とインターネットの関係における主要な問題について議論することであった。コアリッションのメンバーであるITUや日本の総務省の方からのプレゼンがあり、出席者に今後の活動の参加の呼びかけがあった。詳細は以下のウェブサイトで見ることができる。

http://www.intgovforum.org/cms/dc_workshops_08/igf_dcicc_MEETING.pdf

セッションの様子

 閉会式においては、最後に第3回IGF会議の議長に代わって述べたJainder Singh さんは、「IGF会議において協力関係の強化が何を意味するのか、またこのことがどのような結果が生み出すのかについて共有できるビジョンはない。先進国の経済やセキュリティのためだけでなく、新たなそして開発途上国の経済が効果的に開発目的に対応する必要な健全で安定したインターネットのインフラを維持していくために今後継続して重要なインターネット資源の管理について話し合っていくニーズがある」と述べた。

 来年のIGF会議は2009年11月14日から18日の予定でエジプトのSham EL Shekikhで開催される。また2010年は5年目という節目を迎えるがリトアニアのVilniusで開催される。2010年には、民間主導で始まったマルチステークホルダーによる連携と協力関係、そしてオープンなダイアログ(話し合い)の5年間の成果が期待される。