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「WSISフォーラム2009」報告

野村美佐子
日本障害者リハビリテーション協会
情報センター長

2003年と2005年に開催された国連情報社会サミット(WSIS)のフォローアップとして国連主導の機関(ITU(国際電気通信連合), UNESCO, UNCTAD(国連貿易開発会議)および UNDP(国連開発計画))が主催するWSIS フォーラム2009年がITUの本部、スイス・ジュネーブで2009年5月18日から22日にかけて開催された。ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)をはじめとする国際的に合意された開発目標を達成することを目指して、サミットで採択された文書にある「行動方針」に基づいた実施とその課題をどのように解決していくかについてマルチステークホルダーとよばれる国連、国、企業、市民社会など関係者が集い、討議するフォーラムであった。以下、障害とICTという観点から報告する。

ITUは、ITU世界電気通信情報社会の日を記念して、ITU賞をその年のテーマに沿って授与する。昨年は、テーマが「障害」であり、DAISYコンソーシアムが受賞したが、今年度はテーマが「サイバースペースにおいて子供たちを守る(Protecting children in cyberspace)」で関連する個人および団体が受賞をした。
10年前はインターネットを利用していたのは、世界で1億8千2百万人であり、そのほとんどの人が先進国に住んでいた。しかし2009年の初めでは、15億人が利用者であり、4億人以上がブロードバンドにアクセスをしている。また利用者は、6億人以上がアジアの利用者、1.3億人がラテンアメリカとカリビ海地域、5千万人がアフリカで世界の共通のリソースとしての役割をインターネットが担っている。一方ではそのためのオンラインによる危険な状況も増えており、特に子供たちにとってその可能性がある。

2003年に出された公文書「行動計画」のアクションライン5にある「ICTの利用における信頼と安全の構築」に基づき、2005年のWSISフェーズ2で作成された「チュニスコミットメント」においては、子どもに関連して以下のことが述べられている。
「我々は子どもの保護と成長発展の促進におけるICTの役割を認識する。我々はICTの文脈において、子どもを虐待から守り、権利を守るための行動を強化する。この中で、子どもにとって最善の利益が第一に考慮されることを強調する。」
上記の点から,「インターネット上における子どもたちを保護する活動(Child Online Protection Initiative-COP)」がITUの主導で国連など関係機関の連携の下に2008年の11月から始まっている。
子供たちが安全にインターネットにアクセスするためのワークショップも本会議において開催され、多くの参加者があった。COPの活動により関連する政策と慣習、教育と研修、インフラと技術、認識とコミュニケーション等の効果ある総合的な方策が生み出されるであろう。その方策には、障害のある子どもにも配慮することを願っている。

今回のフォーラムの中で「開発に向けたICT測定におけるパートナーシップ」と題するセッションが行われ参加した。ICTに関する統計は、国も社会的、経済的な開発の手段としてICTの利益や可能性を認識しているのでその需要が大きくなっている。ICTの利益を得るために、政府は、国の政策や戦略の構築と評価の観点からICTの指標を監視し、基準に従って評価していかなければならない。様々な国連機関との連携によるセッションとなった。しかし、当事者である開発途上国の視覚障害者から統計は表が多いのでアクセシビリティについてどうなっているのかとの質問があったがその辺の配慮はまだまだであるというところである。

知識を得るためのアクセスポイントとして、図書館の役割も重要である。そのため、国際図書館連盟(IFLA)もWSIS関連の活動に積極的に関わっている。筆者自身も国際図書館連盟の障害者に対する情報と図書館サービスを推進する障害サービス分科会の活動に10年ほど関わってきているのでIFLAが主導するセッションにとても興味があった。このセッションは、IFLAが、国際関係に関わるスイス司書連盟(SLIR)と国際図書館司書と情報に関する専門家連盟(AILIS)との共同で開催し、図書館が知識へアクセスをするドライバーとしての役目を担った事例の発表がメキシコ、フィンランド、ラトビア、ブラジルからの講演者によって行なわれた。ビデオでのプレゼンが多くあったため、DAISYコンソーシアムのメンバーからは、ビデオが見えない視覚障害者など印刷物の読めない障害者に対して、図書館としてどのようなサービスがされているかについて質問がされた。それに対してDAISYを利用したサービスもあるとの回答があったが、そういった方々に配慮したサービスを期待したい。

IFLAのセッションにおけるスピーカー

インドのユネスコ・オフィスが中心となって「インドにおける開発のためのICT」のセッションが開催されたが、特に以下に焦点が当てられている。

  • ウェブサイト・アクセシビリティ基準
  • インドにおける開発に向けたこれからの技術
  • インドにおけるEガバナンス
  • 開発途上国における開発評価のためのICTを測定する指標

上記に関して、政府、ユネスコ、障害者団体などの発表があり、DAISYコンソーシアムの開発途上国の担当で、インドのニューデリーに住むディペンドラ・マノーシャ氏もスピーカーとして参加した。プレゼンは、DAISYコンソーシアム会長である河村氏とともに行なわれた。河村氏は「DAISYコンソーシアム」の概要、そしてマノーシャ氏はインドにおけるDAISYの普及の状況、また現在抱える世界的な様々な問題(HIV/AIDS、災害等)についてDAISYによる取り組み等を紹介した。このセッションではWSISの公文書に含まれたアクセシビリティの実践がインドで始まっていると感じた。

インドのセッションのスピーカー

5月22日の最終日は、チュニスアジェンダの109条に従い、第4回WSISアクションライン・ファシリテータ・ミーティングが開催された。この会議の目的は、特にアクションラインに沿ったプロジェクトの進捗を評価し、そのプロセスを強化することにある。それぞれのプロジェクトの現況について担当する国連機関(注1)から報告があった。どこまで実践がされているのかが良くわかり、とても興味深く報告を聞くことができた。
ユネスコに関わるプロジェクトについては、前述に述べたようにICTによるアクセシビリティに考慮した実践を始めているので、ユネスコのホームページのアクセシビリティ等について質問がディペンドラ・マノーシャ氏からだされた。このことがきっかけとなり、今後、ユネスコのアクセシブルなウェブづくりにDAISYコンソーシアムがアドバイスを行なっていくことになった。

最終日の会議の様子

WHOの拠点は、ジュネーブにあるのでDAISYコンソーシアムのスタッフと訪問させていただいた。WHOは、出版物に対しても障害者等に配慮した出版を行なっていきたいと考えているとのことで、今後の出版のガイドライン作成において、DAISY規格も視野に入れDAISYコンソーシアムとの連携が期待されている。
またWIPOにおいても、読むことに障害のある人々に直面する著作権関連検討会議(Conference Examines Copyright-related Challenges Facing Reading-Impaired Community)を7月13日に予定をしており、前述のマノーシャ氏がスピーカーとして招待されている。その会議は、WIPOのメンバー国、読みの障害者団体、出版会社、そして技術に関連するコンソーシアムから参加者により、著作権に関わるコンテンツに関しての話し合いの場となる。

DAISYコンソーシアムは、WSISおいてICTの発展に障害者を考慮してもらうために、障害コーカスと共に、そのための概念である「ユニバーサルデザインと支援技術」の推進を行なってきた。その努力がWSISの公文書のなかで実り、その概念の実践が、サミットのフォローアップとしてWSISの行動方針に沿ったWHO, WIPO, ユネスコ等のプロジェクトのなかで組み込まれていくきざしが見えてきた。またそれぞれの国際機関で、DAISYコンソーシアムの協力を求めてきており、今後の活動が期待される。

注(1)
行動方針 ()には調整機関/促進機関の候補 が入っている。

C1. 開発のためのICT利活用における公的政府当局及び全ての関係者の役割( ECOSOC/国連地域委員会/ITU )
C2. 情報通信インフラ( ITU)
C3. 情報・知識へのアクセス (ITU/UNESCO)
C4. 人材開発( UNDP/UNESCO/ITU/UNCTAD)
C5. ICTの利用における信頼性とセキュリティの確立 (ITU )
C6. 環境整備 (ITU/UNDP/国連地域委員会/ UNCTAD)
C7. ICTアプリケーション
  ・ 電子政府 (UNDP/ITU )
  ・ eビジネス (WTO/UNCTAD/ITU/UPU)
  ・ eラーニング (UNESCO/ITU/UNIDO)
  ・ eヘルス (WHO/ITU)
  ・ e雇用 (ILO/ITU)
  ・ e環境 (WHO/WMO/UNEP/UN-Habitat/ITU/ICAO)
  ・ e農業 (FAO/ITU )
  ・ eサイエンス (UNESCO/ITU )
C8. 文化的多様性と独自性(アイデンティティ)、言語の多様性、ローカルコンテンツ (UNESCO )
C9. メディア( UNESCO )
C10. 情報社会の倫理的側面 (UNESCO/ECOSOC)
C11. 国際的及び地域的協力 国連地域委員会/(UNDP/ITU/UNESCO/ECOSOC)
(情報社会に関するチュニスアジェンダから抜粋)