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「共生のまち」ガイド

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
発行年月 平成6年12月1日

「共生のまち」ガイド表紙の絵

目次

  • 資料

刊行にあたって

 

(財)日本障害者リハビリテーション協会は、法人化以来30周年を迎え、また、全国身体障害者総合福祉センター「戸山サンライズ」も創設10周年を迎える。
 この機会にささやかな記念出版をと考えた結果、リハビリテーションの窮極の目標ともいえる「万人共生のまちづくり」のガイドブックの刊行をということになった。
 今日、リハビリテーションの目標は、「全人間的復権」の実現、いいかえれば「国際障害者年」(1981年)のテーマであった「完全参加と平等」の実現にあるといえる。
 伝統的なリハビリテーション分野としての医学的、教育的、職業的、そして社会的リハビリテーションの各領域の目指すものも、「機能損傷」「能力障害」の予防、軽減、除去、補完、回復を通じて「社会的不利」を克服し、「全人間的復権」「完全参加と平等」を実現することにあるといえよう。
 そして、今日では、「障害」はより「社会的環境・条件」との関係においてとらえられるようになり、「全人間的復権」「完全参加と平等」実現のためには、「社会的環境・条件」の変革が肝要という理解がひろがっている。その場合、特に次の「四つの障壁」の克服・変革が重要だといわれている。
 第1は、法律や制度といった「社会的しくみの障壁」であり、
 第2は、住まい、建物、道路、交通機関等の「物理的な障壁」であり、
 第3は、コミュニケーション、新聞、テレビ、芸術、スポーツなどの「情報・文化の障壁」であり、
 第4は、市民の心のもち方、障害者観、そして障害者自身の生き方などを含む「市民意識の障壁」である。
 こうした「四つの障壁」の変革・克服は、地球レベル、国家レベルでの努力が肝要ではあるが、何よりもまず障害をもつ人々の住む地域社会における努力こそが求められている。
 最近、「住みよいまちづくり」の動きが市町村レベルにまでひろがり、「地域リハビリテーション」の重要性が指摘されるようになりつつあることは、まさにそうした要請にこたえるものといえよう。
 本書は、特に、障害をもつ人々の立場から、「四つの障壁」の実体を明らかにしつつ、これに対する「処方箋」といったもののガイドブックをと意図したものである。
 ただ、時間的な制約もあり、「意あって力足らず」の感を禁じ得ないが、幸い筆者に各分野のオーソリティを得られたので、今後版を重ねて、その充実を期したいと考えているので各方面のご協力を頂戴いたしたい。
 なお、本書の刊行にご尽力いただいた野村・河野両先生及び執筆者の皆さんと中央法規出版の方々に心からの感謝を捧げたい。

 1994年11月  財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

副会長 板山 賢治


序 ”まちづくり”の基本的考え方の進展

 

我が国において“福祉のまちづくり”が<障害をもつ人々>に対する特別な配慮から、<すべての人々>にとってのあたりまえのこととなるまでには、おおよそ四半世紀の時間がかかっている。障害をもつ人々によっての問題提起と運動は、ノーマライゼーションの考えを浸透させ、我々のまちづくりの重大な誤りを気づかせ、ようやくにして社会全体にとっての基本的課題を認識させたのである。すなわち、“福祉のまちづくり”という障害をもつ人や高齢者などの社会を構成するすべての人々が、建物・道路・公園・交通・通信などを安全で快適に利用でき、物理的にも心理的にも排除されることなくあらゆることに参加ができる環境をつくることである。社会環境がもたらす不利(ハンディキャップ)を取り除くことが、高齢者も含め、さまざまな障害をもつ人々の生活を通常のものとすることであり、そのことこそすべての市民にとっても真に公正で豊かな社会づくりの基本であることの認識でもある。日本社会がこの認識に到達できたことは、障害をもつ人々の大きな貢献ともいえよう。
 「福祉のまちづくり条例」と「まちづくり関連法律」が誕生した1993年そして94年は、公正な社会づくりに向けて本格的な努力を開始した年として今後永く記されるであろう。この25年のまちづくりの動きと基本的考え方の変化を以下に述べることにする。

 日本のまちの物理的環境が人々に障害を与えていることに気づいた(気づかされた)のは、昭和39(1964)年の国際身体障害者スポーツ大会(東京パラリンピック)の時であった。経済発展により、名実ともに先進国の仲間入りを果たす証として東京オリンピックが開催された。これに備えて新幹線や高速道路そして全国の町並が一変する建設ブームが起きた時である。大成功のオリンピックの直後に開催されたパラリンピックのため、377人の車いすに乗った選手(外国人は324人)に対して日本では初めて、スロープや改造されたトイレやシャワーのついた建物が用意された。陸上・水泳・バスケットなどに目を見張る激しい競技を展開した選手たちはしかし、抱き抱えられるなどの助けなしには選手村の外に一歩も出ることは不可能であった。既に一人の市民として生活していた欧米の障害をもつ選手には、空港も駅もホテルもデパートも何一つ利用できない東京のまち(そして日本のすべて)は、経済発展とは無縁の障害をもつ人々を排除する全く遅れた未熟な社会と映ったのである。
 昭和44年宮城県仙台市において、車いす使用の村上勇一さんはボランティアの菅野鞠子さんと一緒に市内の公共施設を点検して、スロープやトイレの設置を仙台市に要請し全国で初めて改善が実現した。まちづくり運動の始まりである。
 この年(1969年)、国際リハビリテーション協会(RI)では、障害者の利用できるまちづくりを進めるための“国際シンボルマーク ”とその国際的基準を定め普及を推進した。このマークは、全世界の空港をはじめ多くの公共建築物に表示され、日本でもまちづくり運動のシンボル的なものとし普及していく。
 昭和45年公布された「心身障害者対策基本法」は、障害者対策の基本的事項を定めその方向を明らかにした。施策全般のなかに住宅の確保や公共施設の整備などが含まれ、環境改善にも意識が及ぶこととなった。
 車いす利用者の運動は「生活圏拡大運動」と呼ばれ全国で展開されたが、昭和48年建設省は国道の歩車道段差切り下げ通知を出すに至った。また盲人のための点字ブロックの敷設が開始された。運動は車いす使用者のための建物や道路の改善といった限定されたものから、肢体不自由や視覚障害・聴覚障害という身体障害者全体に広げられ、さらには、高齢者や一時的に障害状態になる怪我をした人や妊婦や乳母車等にも言及されはじめている。これらの運動の基本として、60年代より北欧で広がりだしたノーマライゼーションの考え方が紹介された。
 先駆的な地方自治体においては、障害をもつ人々の要請に応えてまちづくりに関する方針や要綱・条例を検討している。町田市:「建築物等に関する福祉環境整備要綱(昭和49年)」、京都市:「福祉のまちづくりのための建築物環境整備要綱(昭和51年)」、神戸市:「市民の福祉を守る条例(昭和52年)」等である。
 昭和48年厚生省は、「身体障害者モデル都市事業」として地方自治体にまちづくり事業を奨励し補助を始めた。
 国連の「障害者の権利宣言(1975年)」、そして<完全参加と平等>を唱った「国際障害者年」および「障害者の十年(1983~1992年)」の日本での展開は、障害問題に関しての理解を深めたが、<障害をもつ人が参加してこそ社会であり、その構成員を閉めだす社会は脆く弱いものであること>そして<社会環境がもたらす不利(ハンディキャップ)>の存在についての認識が広がった。また、アメリカで1990年に制定された「障害をもつアメリカ人法(ADA)」は障害に関する差別を包括的に禁止し我が国にも大きな影響を及ぼしている。
 我が国の急速な高齢化への対応は、障害問題をより一般的・基本的なものとしてとらえることを促進し、ノーマライゼーションの考え方も障害問題から高齢者などを含む社会福祉全体の基本理念として広がってきた。
 こうしたなかで、まちづくりの取組内容も公共施設や建築物、住宅、交通、放送・通信等の物理的環境に留まらず、行政的・福祉的そして一般的なサービス全体や、市民の理解の推進といった制度的・心理的環境の改善にも及んできた。多くの地方自治体では、総合的な考え方をまちづくりにまとめた「福祉環境整備指針」や「要綱」が策定されはじめ、ついに「福祉のまちづくり条例」が制定されるに至っている(平成5年、兵庫県・大阪府)。
 国のレベルでも建築物・交通機関・通信等における整備指針やガイドラインが出されてきたが、法律として整備されたのが、「障害者基本法(平成5年)」および「高齢者、障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(平成6年)」「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律(平成5年)」である。特に障害者基本法では、法の目的で<施策の計画的推進>と<障害者の自立と社会・経済・文化その他あらゆる分野の活動への参加を促進すること>が強調された。政府には「障害者基本計画」策定の義務が、都道府県と市町村には「障害者計画」を策定する努力義務が定められた。このことは、すべての障害をもつ人々がそれぞれの地域の住民の一人として遇されることを進めることでもあり、市町村において環境全体を改善する“まちづくり”を含む総合的な計画の策定が取り組まれていくことになる。
 法ではまた、国や地方公共団体の公共施設のみならず、「公共的施設」「交通施設」「電氣通信」「放送」などにおいて、各々の事業者にも障害をもつ人々の利用を可能とする改善の努力義務を規定した。公共の責務に加えて広く民間事業者の努力義務が唱われたことにより、建物やサービスなどハード・ソフト両面の改善を行い、社会環境を変えていく総合的な努力が促されよう。
 政府の「障害者対策に関する新長期計画」(平成5年)は、そのサブタイトルを“全員参加の社会づくりをめざして”としている。即ち、障害をもつ人々の問題が、社会全体の基本的なものであることが改めて強調された。国連も障害問題の解決に向けての戦略のテーマとして「すべての人の社会(A Society for All)」をめざしている。

 現在たどり着いた「福祉のまちづくり」は、これまでの障害をもつ人々の貢献でありこれを支えた関係者の努力の結果である。そしてこの動きは超・高齢化社会を迎えるに当たって加速されている。
 ただし、社会全体としての動きとしては、ノーマライゼーションが目標とするレベルに向けて開始されたばかりともいえる。今後いかに継続され、さまざまな障害をもつ人々のニーズにきちんと応えるものとして進んでいくか、またこの努力がさらに“すべての人々の社会”づくりへの進展に繋っていくのかが間われているといえよう。

(財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 丸山 一郎)


主題・副題:「共生のまち」ガイド

著者名:

掲載雑誌名:

発行者・出版社:(財)日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:1頁~117頁

発行月日:平成6年12月1日

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