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「災害時の障がい者支援に関する市区町村調査」と障がい者支援の取組を通じた地域づくり

神田 英治(京都府長岡京市健康福祉部障がい福祉課)

避難所の開設に関する考察

近年の地震や風水害は、その規模の大きさなどにより従来の想定を超える被害をもたらしており、各自治体では避難所を開設する機会が増加している。本調査においても、回答した団体の75.8%が指定避難所を開設しており、その中でも85.7%が過去2年以内の開設となっている。

一方、福祉避難所を開設した団体は全体の11.6%に留まっている。福祉避難所は、災害対策基本法施行令に指定基準が示されている1 が、指定される施設は学校体育館や公民館をはじめ、高齢者施設、障がい者施設など地域の実態によりさまざまであり、自治体が直接運営している場合もあれば、民間事業者や住民組織が主体となって運営される場合もあろう。

2016年の熊本地震の例を振り返ってみても、福祉避難所の住民への事前周知や利用が想定される要配慮避難者のトリアージなど、福祉避難所の開設・運営に関しての課題は、開設されたそれぞれの現場で状況が異なっている[高尾 北後,2017]。特に福祉避難所の開設経験のない自治体は、こうした事例をもとに地域の社会資源の実情を照らし合わせながら、地域防災計画の見直しや現実的な福祉避難所の利用可能人数の精査、施設管理者や支援者との協働による運営方法のマニュアル化、運営訓練を進めていく必要がある。

京都府では平成25年3月に「福祉避難コーナー設置ガイドライン」を提起している。一次避難所の片隅に福祉避難コーナーを設置するのではなく、指定避難所全体をユニバーサルデザイン化して対応する考え方を提起したもので、近年の共生社会実現、社会的障壁の除去の取り組みとも整合するものであり、市町村は福祉避難所開設・運営の仕組みを整理することと並行して、指定避難所の設備整備、避難所運営者の人材育成を含めた要配慮者向け対応力の強化を進めることが有用である。

避難行動要支援者名簿について

避難行動要支援者名簿は、平成25年の災害対策基本法の改正により、市町村が高齢者や障がい者など災害時に避難行動が困難な要配慮者全体を把握・作成することが義務付けられたものであり、調査では回答のあった516団体のうち499団体で作成が完了している。2

各自治体では、住民基本台帳や障がい者手帳の台帳に基づいて必要な情報を集約して、名簿の作成をすすめているが、現実的には要介護度や障がい等級などの基準に基づいて台帳上から抽出された「要配慮者」のうち、実際に避難行動が困難であるか否かにより名簿登載者を精査し、真に支援を必要とする要配慮者を確認しなければならない。同時に、平時において避難行動要支援者名簿を活用するためには、当事者の個人情報の取り扱いに関する同意が必要であり、この同意にいかに実効性を持たせるかで多くの自治体、地域住民が悩んでいることであろう。民生児童委員を通じた確認と依頼を行っている自治体が54.7%、自主防災組織や自治会を通じた確認と依頼を行っている自治体が28.9%、保健師などの担当職員が訪問している自治体が15.3%あり、地域全体が共通認識のもとで一丸となった取組が求められる。

本市では、この避難行動要支援者名簿を「全体名簿」と通称しており、個人情報保護の観点から平時は非公開、災害時は生命を守るため関係機関に情報提供可能としている。災害対策基本法では、事前同意があれば警察・消防等の関係機関に平時より情報提供が可能となることから、「全体名簿」のうち手上げ方式により平時から関係機関への情報提供や活用に同意を得た人は「同意名簿」と通称して別途とりまとめている。

「同意名簿」に相当する名簿については、災害対策基本法の改正以前の平成20年より市独自でも作成しており、当時の市制度では要配慮者が自ら選定した避難支援者を記載した申請書を、本人・行政・自主防災組織(または自治会)・民生児童委員がそれぞれ保有し、発災時は避難支援者が避難行動を支援することとしていたが、制度趣旨の共通認識が十分でなく、登録した当事者の中には漠然と「用紙を提出しておけば行政、消防、警察が助けに来てくれる」と誤解する人も含まれていた。また、避難支援者を自分で見つけることが困難な事例も多く、民生児童委員や自主防災組織の班員が現実的には対応困難な数の当事者の避難支援者となっていることもあった。当然、地域の負担感やプレッシャーも大きく、避難支援者を担う人も見つかりにくくなるという悪循環であり、災害発生時に実効性がある制度とは言い難い状況となっていた。

都市部では、コミュニティ意識の低下や組織での役割負担等の要因により自治会・町内会に加入しない独居者や高齢者世帯が孤立し、避難支援者の選定が困難などの課題もより浮き彫りになってきた。こうした人たちは、仮に同意が取れたとしても普段の地域との関係性が希薄なため、名簿を保有する自治会からも「どのような生活をしているか把握できず、いざという時に支援困難」など、単に名簿登載者数を増やすことが正しいと言えない事例もある。とはいえ、これまでの災害における地域内連携の動きをみれば、実際の有事の際には、人道上地域を挙げて支援されることが想像に難くない。となると、地域住民相互の関係づくりが次の課題となる。

要配慮者支援の取組は地域づくり

避難行動要支援者名簿の平時の活用方法について、調査では個別計画づくりに42.1%、見守り体制づくりに44.6%の団体が使用していた。一方で、活用方法について検討中とする団体も26.9%あった。避難行動の支援を必要とする要配慮者から平時の活用についてどういう形で同意を得るかは、自治体の規模や沿革、被災経験の有無による住民意識などの要因が大きく影響する。

本市では災害対策基本法の改正により避難行動要支援者名簿作成が義務化されたことで、従来制度で同意を得ていた平時の情報提供範囲が法に基づく関係機関への情報提供範囲の同意と一致しなくなったことから、要配慮者全体に再度同意の取り直しを実施した。この過程の中で、<1>民生児童委員は職責としては避難支援者とはならず、要配慮者自身が避難支援者を探すための支援を徹底する <2>モデル自治会を設定する中で、避難支援者の選定や個別計画作成の取組を地域づくりのきっかけととらえ、自治会や民生児童委員からのアプローチを行う <3>従来実施していた年一回の市主催の防災訓練から、小学校区単位の防災訓練の実施を目指し、地域のコミュニティ組織や自治会、自主防災組織が主体となり、地域住民や民生児童委員、社会福祉協議会が参加する中で、手話通訳者の配置、要配慮者が参加する避難訓練、福祉避難コーナー設営訓練など、住民参加型の訓練へと移行を進める の3点を地域と協議し、合意形成を図ってきた。

要配慮者自身が避難支援者を必要としているか、(または昼間は知人、夜間は家族が助けてくれるから不要)など実態に即した再点検がなされた結果、従来の同意を取り下げる事例も生じた。同意の回答がない場合や積極的な不同意も含め、結果的には「同意名簿」の登載人数は減少したものの、個別計画に記載された避難支援者の確実性が高まるとともに、地元自治会や町内会には個別計画作成を通じた避難支援のイメージが徐々に浸透しており、モデル自治会の取組を好事例として今後他地域の自治会に波及することが期待されている。地域、当事者双方が日頃の挨拶や見守りなど日常の接点を増やすことから関係づくりをすすめ、自治会活動への参画を促す取組につなげていくことが大切だと実感する。

障がい者団体のもつ要配慮者支援の担い手としての可能性

本調査の一つのポイントは、「全体名簿」および「同意名簿」の活用、要配慮者に対する情報伝達の担い手として、障がい者団体や福祉事業所がその範囲に含められるかを確認した点である。事前の協定や合意を交わすことを前提としてでさえ、前向きな可能性に言及した団体は11.2%に過ぎず、多くの団体は困難またはその時の状況で判断するとしている。3 また、その理由について「信頼できる団体を判断・選定するのが困難」が26.4%となっている。4

災害発生時には、避難支援や救助、被害復旧をはじめとして、都道府県・市町村の災害対策本部は事前に準備された指揮命令系統、役割分担に沿って対応を進めていく。災害の規模が自治体の対応能力を超える場合であっても、民間団体との役割分担が定まっていれば円滑な連携が確保される。

自治会・町内会は基本的にその地縁に基づき地域に1つのみが存在し、その地域範囲に居住する住民は、複数団体からの自由選択の余地がないことから、自治会に加入していなくてもその「地縁」に所属している。地域の多くの住民にとっては、加入・非加入別はあれ、自治会は地域住民の過半数を構成員として組織している例も多く、そうでない場合も地域自治のために組織され、平時より地域自治活動を行政と連携しているという認識が浸透していることから、地域代表性が明確であり、個人情報の開示や平時からの活用についての住民理解が得やすい。

障がい当事者を構成員とする障がい者団体は、都道府県、市町村のいずれを単位とする場合も、同一の障がい部位について複数団体が組織化される余地があり、当事者の意思により「選択的に加入しない」ケースが生じる。ここが自治会・町内会と大きく異なる。自治体とパートナーシップのもと連携するにあたっては、事前協定に基づく場合も、個人情報の提供先となる障がい者団体に加入していない当事者にも理解を求め、説明ができるかという点で踏み込みづらいのが現状であろう。

一般的に、障がい者は災害弱者、支援を受ける対象との一面的な先入観が先行しているように感じられるが、本調査を進めるなかで、東日本大震災および熊本地震での日本障害フォーラム、日本相談支援専門員協会、視聴覚障害者関係団体(情報提供施設を含む)、被災地障害者センター等の支援ニーズと対応活動の事例に触れ、障がい者団体の支援者としての行動可能性について再認識することができた。

指定避難所における福祉コーナーの設置や福祉避難所の開設運営、生活のしづらさについての共感を含め、障がい特性についての理解や援助方法などの情報を得るにはやはり同じ障がいがある当事者または団体、福祉事業所に優位性がある。こうした意味で、自治体にあっては障がい者団体について要配慮者の集団というとらえ方から有事の支援者集団であるという認識の転換が求められる。

各障がい者団体では、普段の活動を通じた当事者間の情報伝達ネットワークを有しており、会員に限定した有事の安否確認に限定しても自治会と同等の役割発揮が期待される。また、障がい特性に配慮した情報伝達や援助方法についても、多くの経験が蓄積されている。避難所に当事者と家族が一緒に避難すれば、家族は当事者の障がいの状況を一番よく知る支援ボランティアたり得るのである。災害時は被災地域の障がい者団体も大きな混乱の中で、組織的な対応が困難となることが想定される。こうした場合、都道府県単位組織と市町村単位組織の相互協力関係が強固な団体は、相対的に早期の支援体制構築が期待できる。

この間、多くの社会保障制度の発達や民間サービスの成熟により障がい者団体への当事者の加入動機が低下する傾向も見受けられるが、前述の地域住民のコミュニティ意識、自治会活動への参画と同様に、当事者が障がい者団体に加入する意義の一端を、「有事の備え」という観点で見ることで団体の機能や役割意識の浸透が進めば、障がい者団体と行政との有事パートナーシップがより強固になると考える。そのためにも、本調査をもとにこうした活動の実践例を検証し、発信していくことが求められる。

参考文献

1) 高尾 優樹, 北後 明彦 (2017)「熊本地震(2016年)における避難施設での要配慮者への対応に関する研究」 神戸大学都市安全研究センター研究報告,第21号

 

2) 京都府 (2013)「福祉避難コーナー設置ガイドライン」

http://www.pref.kyoto.jp/fukushi-hinan/index.html


  1. 災害対策基本法施行令第20条の6第5号
     主として高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下この号において「要配慮者」という。)を滞在させることが想定されるものにあつては、要配慮者の円滑な利用の確保、要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制の整備その他の要配慮者の良好な生活環境の確保に資する事項について内閣府令で定める基準に適合するものであること。
  2. 回答団体数より問1-1「まだ名簿を作成していない」を回答した団体数を除いた数。
  3. 問1-4で「可能である」、「障害種別によっては開示可能」、「平時に協定している団体に開示可能」の合計数の比率
  4. 問1-4-2での回答数。