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災害リスク軽減:障害を含める論拠

日本障害フォーラム 幹事会議長 藤井克徳

私は日本障害フォーラム(JDF)の藤井克徳と申します。日本はつい3ヶ月前の1月20日に、障害者権利条約を批准しました。これはEUを含めて141番目の批准で、遅い感じがするかもしれません。しかし私たちは、批准という好機を大切にして、いくつかの法改正を行ないながら批准の準備を進めてきました。日本の障害分野は、新しいステージに入ると思います。同時に、今日のテーマである災害に関しても、いくつか条約から受ける良い影響があるかと思います。

既に先ほどからお話がありましたように、今般の東日本大震災では障害のある人の死亡率が、全住民の死亡率の2倍であるということが明らかになっております。画面をご覧ください。これは、NHKを中心とする主要なメディアの調査であり、また宮城県当局の調査に基づくものです。政府においては、「2倍の死亡率」についての検証はなされていません。なおこの数字には、行方不明者は含まれていませんので、2倍を超えることは間違いないと思います。次にこれを主な被災県である3つの県別で見てみるとどうでしょう。3つの県のうち津波が及んだ31市町村の統計を見ますと、岩手県の場合には、障害者の死亡率と全住民の死亡率の関係は1.3倍で、宮城県は2.4倍、福島県は0.8倍です。この数字の違いについては、まだ十分な検証はされていませんので、なぜ違うのかという点については、今後検証していく必要があろうかと思います。

ここで興味深い数字をご紹介したいと思います。それは、私たちJDFと、大きな被害を被った岩手県の陸前高田市との共同調査の結果であります。1016人の障害者手帳を持っている方たちを対象にした全数調査から得られたデータですが、まず避難情報の入手経路に関しては、最も避難情報を得たツールは防災行政無線で、これが約2割であります。そして、福祉サービス事業者および近隣住民また家族や親戚、これがほぼ同数字で14.0%から15.2%でした。驚くべきは、消防や警察が2.9%、また行政からは0.5%だったことです。すなわち、あれほどの大規模震災になりますと、消防・警察また行政は、住民全体の支援のために奔走するわけであって、私たち障害分野は、むしろ身近な人たちから情報を得るという、そんな状況も、この数字から分かるかと思います。またここには挙げていませんけれども、避難経路に関しても殆ど同じデータが示されています。つまり、避難にあたって最も当てになるのは家族、地域住民、そして福祉サービス事業者、ここに集中しております。こうした数字は何を意味しているのか、今回の会議でも深めて欲しいと思います。

さてここで、2倍の死亡率の意味について考えてみたいと思います。今回の大震災は、お分かりの通り、大規模な天災でありました。そしてこの死亡率2倍が意味するところは、単に天災だけではなく、そこには障害ゆえの不利益というものが、もう1枚重なったということです。すなわち、天災と人災の複合要因から、2倍という数字が出てきた、こう言っていいと思います。天災は、現代の科学、人間の力では解決しえません。しかし、2倍という障害ゆえの不利益については、人為的に、また政策的に、あるいは専門的な視点によって、解決可能な数字であろう、こう言えます。同時に、この数字の持っている意味は、自然災害だけではなく、日常時の社会のそこかしこにその要因が潜んでいるということです。つまり事がいったん起こると、2倍の不利益が生じうるという、重い意味が含まれているのです。

次に、JDFの支援活動について紹介させていただきます。画面にありますように、現地の障害者団体や自治体と組みながら、3県のそれぞれに支援センターを開設し、3年間に渡って、支援活動を続けてきました。現地に送った支援者は、延べ1万人以上にのぼっています。なお、関連活動といたしましては、政府に対する要望や、政府の防災・減災政策に関する検討への参画、日本財団と共同してのドキュメンタリー映画「生命のことづけ 死亡率2倍 障害のある人たちの3.11」の制作、さらに報告書の作成や、海外の国連等関連会議における発表などがあります。

今後の支援活動につきましては、秋山さんからも詳しくお話があると思いますけれども、1つは障害者権利条約を規範にすること、もう1つは、インチョン戦略のゴールに基づき、障害インクルーシブな防災リスク軽減と防災対応を保障すること、これに則って考えていくべきだろうと思います。また国内的には、災害対策基本法、障害者基本法、新しい障害者基本計画に則って、考えていく必要があると思います。

最後になりますが、今東北3県では、普及から復興へ、また絶望から希望へ、こういうことが言われています。障害分野はこれに加えて、「2倍から1倍へ」、このことを強調したいと思います。以上で報告を終わります。ありがとうございました。

当日のスライドはこちら(英語)