音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

全日本ろうあ連盟の取り組みと提言

財団法人全日本ろうあ連盟

1.今回の大震災を通じての全日本ろうあ連盟(以下、連盟)が感じたこと

 3月11日金曜日14時46分、東北地方太平洋沖で世界最大級の大地震が発生。その後の大津波、原発事故が続き、今まで経験したことのない大きな災難が日本を襲い、日本は世界でも有数な災害大国であることを思い知らされた。災害大国であるわが国の実情に対応した自然災害対策(防災対策も含む)、原子力政策を再考することが、今を生きる私たちの責務である。

 情報アクセスが保障されていなかったために多くの人が命を失った。コミュニケーションが保障されていないために、多くの人が孤独で苦痛な避難生活を余儀なくされた。心のケアサポートが整備されていないために多くの人が引きこもり、生きる力を失った。情報にアクセスできないこと、コミュニケーションが保障されないこと等が人命や生活を奪うことになるのだということを、わが国の多くの人は長い間、理解できないでいた。今回の大震災で多くの人が情報アクセスやコミュニケーション保障の大切さに気付いたが、多くの人命や生活が犠牲になった。だからこそ、情報アクセスやコミュニケーション保障の法整備を急がなければならない。今後、起こりうる大きな災難の犠牲者をゼロにするために。

2.全日本ろうあ連盟が最初に取り組んだこと

 全日本ろうあ連盟、全国手話通訳問題研究会、日本手話通訳士協会の三者を構成団体とする「東日本大震災聴覚障害者救援中央本部(以下、中央本部)」を立ち上げ、事務総括や各担当からの報告を踏まえ、当面の組織的、具体的活動について協議した。

 さらに聴覚障害関係の全国団体にも呼びかけ、中央本部の協力団体として連携しての支援を要請し、最終的に以下の15団体が参加した。CS障害者放送統一機構、全国手話研修センター、全国高齢聴覚障害者福祉施設協議会、全国聴覚障害教職員協議会、全国聴覚障害者情報提供施設協議会、全国盲ろう者協会、全国盲ろう難聴児施設協議会、全国要約筆記問題研究会、全国ろうあヘルパー連絡協議会、全国聾学校長会、全国ろう重複障害者施設連絡協議会、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会、聴覚障害者の医療に関心をもつ医療関係者のネットワーク、日本財団、日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会。

 また、被災地での救援が主となることから、特に被害の甚大だった岩手、宮城、福島に、震災直後から会員の安否確認をしていた連盟の加盟団体を中心に現地救援本部を立ち上げ、現地・中央一体となって被災聴覚障害者等の支援にあたった。

3.中央本部を通して連盟が活動してきたこと

 4月に入ってから、全国各都道府県に地域救援本部を設置し、義援金集めや被災県外避難者への支援等、全国的に聴覚障害関係組織が一丸となって側面支援を始めた。支援活動資金を造成するために、連盟と全通研で運用している「災害救援基金」全額の250万円余を中央本部会計に拠出し、その後、被災者への救援金配分のために義援金の募金を全国に呼びかけた。また、日本財団より、現地救援本部の支援活動に必要な資金、被災県の近隣県から手話通訳者の派遣、専従スタッフの設置、支援活動に使用する車のガソリン代補助等多大な助成をいただいた。

 聴覚障害者にとって命というべき「情報」の発信や受信、提供等の情報保障に積極的に取り組んだ。中央本部のホームページを連盟ホームページ内に開設して、被災地の情報や聴覚障害者への支援に必要な情報を掲載した。ホームページには国際サイトも立ち上げ、世界に向けて聴覚障害者の被災状況についての情報を発信した。また、マスメディアへの対応として、特にNHKへ地震等報道について聴覚障害者への情報保障について緊急要望を行った。さらに原発情報を把握できるように東京電力の記者会見への手話通訳の配置を要望し、併せて経済産業省や気象庁の発表に手話通訳・字幕付与を要望した。

 厚生労働省と被災地への全国の手話通訳者、要約筆記者、ろうあ者相談員の公的派遣や、内閣府広報室と首相官邸での記者会見への手話通訳配置について協議し、さらに日本民間放送連盟会長に、テレビのニュースへの手話・字幕の付与および官邸記者会見の際の手話通訳の立ち位置を発言者に近づけることを要望した。これら要望の多くは実現することができた。

 民主党、自民党、公明党等の震災関係障害者団体ヒアリング会議等に出席し、支援に関する要望を行った。

 被災県では手話通訳者も被災しており通訳活動が十分にできないことから、全国の自治体から手話通訳者、ろうあ者相談員、要約筆記者を登録してもらい、中央本部がコーディネーターとなって宮城県、福島県に派遣した。現地で手話通訳者は被災や罹災証明、保険や障害者手帳、免許、家屋の手続きなどの生活面、就労や暮らしの相談と幅広く仕事に携わった。この公的派遣の実施は、災害時にろう者にとっていかに手話通訳者が必要かを行政に伝える効果があった。一方で、長期間の派遣の難しさ、被災地が公的派遣費用の一部を負担しなければならないこと等、災害救助法等制度の見直しが必要であると感じた。ろうあ者相談員を派遣できたのは福岡県のみであった。ろうあ者相談員の多くは一人職場であり身分が保障されていない状況にあった。また地域のろう者からの相談も切実な内容が多いので地域の相談業務を空けることができない状況にある。ろうあ者相談員の制度化を図ることが大きな課題となった。

 さらに、今後全国各地で発生する自然災害に備えて、「聴覚障害者災害時初動・安否確認マニュアル」と「手話通訳者等派遣調整マニュアル」の作成作業(厚生労働省委託事業)を進めた。これらマニュアルは連盟ホームページにアップしており誰でも自由にダウンロードできるようになっている。

4.浮かび上がってきた課題や問題

 阪神・淡路大震災のときは、行政が連盟および地元ろう団体などの強い要望で積極的に名簿開示をしてきたが、今回の大震災では個人情報保護法により被災地の各県や市町村が、安否確認に必要な障害者情報の提供に応じなかった。そのため、岩手、宮城、福島の3県の現地救援本部はやむなく会員を中心にそのつてをたどって安否確認の努力をしてきた。

 支援活動を通して把握できた被災者のデータはほとんど現地救援本部の独自調査による結果であったが、聴覚障害者すべての被災状況を網羅しておらず被害の全容すら未だにつかめていない。大震災から2年が経過している今も、まだなお多くの聴覚障害者や家族等関係者が取り残されている。津波などによる倒産のため失業を余儀なくされていたり、自宅待機のまま収入が途切れたり、自営再開のメドがつかなかったり、メンタルケアを必要とする被災者や手話通訳者へ支援が不十分な状況である等深刻な問題も起きている。

 連盟が特に力を入れたのは、被災地における被災者の実態調査であった。県行政の協力なくしては実態の把握が困難だったので、何度も足を運び実態調査の必要性を説得した。岩手県、福島県は行政と協力し合って現地救援本部が実態調査を行った。宮城県は、宮城県聴覚障害者支援センターに調査を委託した。実態調査を踏まえて、生活支援、就労支援、メンタル支援につなげていくかが今後の課題になる。

5.今後に向けての提言

 ボランティアによる救援活動は行政の負担を軽減する役割と人間関係のきずなを再確認する効果があるが、大災害が発生した場合の長期間の救援活動では効果を見出すことが困難である。その地に社会資源が整備されているかどうかで、救援活動の質と量の差が著しく出てくる。例えば、岩手県の場合は、聴覚障害者情報提供施設がある。宮城県と福島県にはそれがない。この聴覚障害者情報提供施設があるのとないとでは、支援活動の拠点作りで大きな差がでてくる。また、手話通訳者が設置されているところでは被災聴覚障害者へのサポートがある程度はできるが、設置が進んでいないところでは被災されている聴覚障害者の確認が困難である。聴覚障害者情報提供施設の有無、手話通訳者設置事業の有無、ろうあ者相談員制度の有無によって、聴覚障害者の命と生活を守る活動に大きな差が出てくる。

 個人情報保護法と要援護者制度の抜本的改正と、聴覚障害者にかかる制度(例えば、情報アクセス・コミュニケーション法、手話言語法等)の整備と拡充を図ることと、社会資源の整備を求めていくことが必要である。