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3.11東日本大震災を日本のターニングポイントに
~誰も排除しない・されないインクルーシブな社会に~

DPI日本会議事務局員
今村 登

はじめに

 3.11大震災発生の3日後の2011年3月14日に、DPI日本会議の三澤議長らの呼びかけで、DPI、JIL、ゆめ風基金、きょうどうれん、インクルネットによる「東北関東大震災障害者救援本部」が立ち上げられた。それ以降JDFとしての枠組みとも連携し、宮城(仙台)を皮切りに、福島(郡山)、岩手(盛岡)に相次いで被災地センターを開設し、主に在宅障害者の支援を中心に活動を続けてきている。この救援本部の活動を通じて見聞きした情報から言えることは、3.11東日本大震災で生じた問題は、震災被害によって初めて生じた問題というよりも、元々存在していた問題が顕在化したということであろう。つまり、きちんと対策を打ってあれば、被害や犠牲はもっと少なく抑えられ、また避難生活における困難さも軽減され、さらには震災後の復興にも早期から寄与できた可能性が高いと考えられる。 

 ここでは現場から得た情報から、この3.11で顕在化した障害者関連の諸問題について、その原因を整理するとともに、その対策として、この国の方向性を示す「全体的提言」と7つの個別提言を行い、その実現にむけて働きかけていきたいと思う。「3.11があったからこそこの国は生まれ変われた」と言えるよう、3.11をこの国のターニングポイントにするべく活動して行こう。そうすることが犠牲者への報いであり、3.11を経験し今を生きる者たちに課せられた義務であり責任であろう。

全体的提言

~目指すべき方向とは~

「誰も排除しない・されないインクルーシブな社会」

 この考え方を復興のみならず、3.11の教訓として国策に据え、そのためにも障害者差別禁止法の制定をはじめとする国連障害者権利条約の批准に資する国内法の整備を進めるとともに、下記の個別提言の実施を強く求める。

個別提言

その1 避難所(小中学校)、広域避難所、公民館等の公的施設のバリアフリー化を徹底!

 公立の小中学校は、災害時に地元住民の避難所とされている所が多い。その避難所に避難してくる住民の中には当然ながら障害のある人も含まれる。また障害者手帳を所持されていなくとも、体の不自由な高齢者や病気を患っておられる方も当然含まれる。そうしたあらゆる人が避難できる構造であることが避難所の機能として求められる。

  • 災害対策の視点からもインクルーシブ教育の推進を!

 震災前、インクルーシブ教育に後ろ向きな文部科学省は、校舎のバリアフリー化に対し、対象者が居なかったり、入学してもわずかな人しか居ないかもしれないものに莫大な予算をつぎ込むことは難しいとの見解を示し、校舎のバリアフリー化は遅れていた。しかしその結果3.11で起きたことは、体育館や校舎の出入り口が階段のために、車いすユーザーはトイレに行けなかったり、知的や精神の障害者で、激変した環境になじめず声を上げてしまったり多動になってしまうような障害特性を理解されずに周囲とのトラブルになったケース等々、多くの障害者、高齢者がバリアフルな校舎と無理解による偏見や差別に困窮し、避難所へ行くことを断念したり、行ってもむしろ身に危険を感じて半壊の自宅に戻ったり、介護事業所やデイサービスなどに身を寄せるなどいったことを余儀なくされた。こうした事態から、福祉避難所の増設を求める声もあるが、まずは住民の第一次避難所としての役割を担える小中学校にするべきである。そのためには普段から地元の子どもたちが障害の有無によって分け隔てられることなく、さまざまな人が通える構造と環境にしておくことが、ひいては災害対策にもなるとの考えから、インクルーシブ教育の推進と、校舎をはじめとする公的施設の早急なバリアフリー化を求める。

その2 仮設住宅のバリアフリー仕様を標準化

 阪神淡路大震災で、バリアフリー仕様の仮設住宅がなかったことが明らかになり、その後の新潟県中越沖地震で多少の改善が見られたが不十分さは相変わらずであった。結局この二つの大震災の教訓が活かされておらず、今回も実際に要望が上がってからスロープを取り付けたり、敷地内を舗装したりするなど後手後手の対応となった。また、最初からスロープのついた住宅があっても、ニーズの有無にかかわらず抽選の結果次第で振り分けられたために、ニーズの不一致があちらこちらで起きた。さらには、バリアフリー仕様と言っても玄関前のスロープがついている程度のため、玄関・トイレ・浴室などのドア幅が狭いため、結局自力歩行が不可能な車いすユーザーは、仮設住宅には住めなかった。高齢化が進んでいることや、抽選によるミスマッチを防ぐことなどの観点も含め、バリフリーな仮設住宅を増やすのではなく、仮設住宅のバリアフリー仕様を標準化することを求めます。

その3 災害時の個人情報の有効な取り扱いおよび十分な備えを

 この震災では、障害者の安否確認が遅れに遅れた。その大きな原因のひとつが、行政も被災しておりとても行政の人員のみで安否確認するには対応しきれない状況であったにもかかわらず、支援を申し出た民間のポランティア団体に対し個人情報保護による守秘義務を理由に、要援護者リストや障害福祉サービス利用者リストなどが提示されなかったことだ。避難所には先述のような理由で障害者の姿は少なく、結局安否確認のためには一軒一軒しらみつぶしに訪問するしかなかった。また、仮設住宅もバリアフルであったために入居をあきらめた人も多いらしく、そうした方々は民間のアパートなどを借り上げた、いわゆる「借り上げ仮設住宅」に入居した方も少なくないらしい。そのため、より一層所在が分かりづらく、結果、障害者の安否確認は困難を極めた。

  • 災害のような緊急時は、行政の委託業務として民間の支援団体に情報公開を!
  • 要援護者リストの作成は、障害者手帳保持者などに限定している自治体も多いが、日常的に医薬品の調達を要する人たちなども、リスト掲載希望を募る手上げ方式などで作成しておくこと!
    例えば、東京都町田市では、
    • 生活する上で、薬や医療装置が必要な人
    • 普段の生活においては支障が無くても、災害時などの異常環境におかれた場合に特別な手助けを必要とする人
    という要件も記載された。
  • 医薬品の備蓄と調達の円滑化を制度化すること!
    例えば、自己注射などで生命を維持管理している1型糖尿病患者にとって、インスリンが入手できなくなることは生命の危機に瀕することである。似たようなケースで、疾病や障害特有の日常的に必要不可欠な医薬品というものが存在する。また、インスリンなどの医薬品は劇薬指定となっているため、医師の処方箋等が無ければ入手できないが、そのことが災害時においては通用しない事態が起こり得る。そのため、どの人がどのような医薬品を必要としているかも要援護者リストに記載するとともに、川崎市のように自治体から医師会や薬剤師会へ協力を求め、治療内容を共有することを前提に、被災時はどこの病院、薬局でもインスリンが入手できるネットワークの構築を制度化すること。
    人工呼吸器使用者における発電機なども同様である。

その4 原発事故子ども・被災者支援法の対象拡大を!

 福島第一原発事故による放射能汚染被災者の援護する法案は、もともとは「原発事故被害者支援法(仮称)」という形で被災者全員を対象に考えられていた。とりわけ影響の起きい妊婦、子どもの救済支援が急がれたことから、「子ども・被災者支援法」としてまずは子どもと妊婦を主な対象にした法案となり、2012年6月21日に成立した。この法律は避難・移住・保養の権利と留まる権利を認め、そのための支援策を講じるという大変重要な法律である。

  • 日常的に介助を要する障害者等および介助者を対象に含むこと!

 できるだけ早急に、年間の積算線量が1ミリシーベルトを超える地域の全住民を対象広めるべきだが、とりわけ介助を必要とする障害者等およびその介助者・家族等は、避難にしろ移住にしろ保養にしろ、あるいは定住にしろ、本人の意思のみだけでは成り立たないという厳しい現実がある。また、疾病や障害によっては抵抗力、自己免疫力が高くない人も多く、かつ健康管理や詳しい情報の入手も困難な環境に置かれている人も少なくないと考えられる。そのため、この法律の対象を日常的に介助を必要とする障害者等およびその介助者、家族等にも拡大することを求める。

  • 対象項目に次の項目の追加を!
    • 住宅改修費用
    • 介助者との移住費用
    • 住先決定までに要する交通費、宿泊費、介助費などの諸費用
    • ホールボディカウンター(WBC)の受診費用

その5 居宅介護サービスの簡素化

 身体介護、家事援助、重度訪問介護、行動援護、通院介助、移動支援等、現行の細分化しているサービス体系と資格要件は、今回の災害時において、これらを遵守した事業の継続は困難の極みであり、居宅介護事業の現場での大きな足かせとなった。それは、介助職員の過重労働を強いらざるを得ない状況となり、ひいては介助を必要とする障害者の命の危険が生じるということである。

  • 現行制度において、サービス体系と資格要件の簡素化を!

 例えば、身体介護では掃除や片づけなどはしてはいけない。家事援助では見守り的な支援はできない。また区分ごとに資格要件により、せっかく支援できる人材が居ても、こうした制限が足かせになっている。事業者も被災者であることから、少ない人材での派遣管理・請求事務も非常な負担となっている。こうしたサービス事項と資格要件の制限は避難生活者のニーズ、なんとかしようという事業者の想いとかけ離れていることから、特別な対策が必要となった。しかし、考えてみれば、こうした簡素化は、災害時のみならず、通常においても有効であり、有事の際の混乱、混迷の軽減につながる有効な災害対策ともいえる。

  • 手帳要件の廃止を!

 同様に、障害者福祉サービスの受け手となるための要件として、身体障害者手帳などの手帳を取得することが要件となっていることが多いが、それを所持していないがために、災害時においても障害や疾病ゆえの必要な支援が受け難い、あるいは受けられないという事態が生じた。こうしたことの反省を活かすには、新たな手帳を新設したり、手帳要件を強化するという事ではなく、むしろ手帳要件を廃止し、ソーシャルワーク機能、ネットワーク機能を強化・充実していくことを求める。

その6 復興・街づくりにおける当事者参加を!

 障害者のためを念頭に置いた復興計画や街づくりではなく、各種の障害の特性を参考にした復興・街づくりを実行するべく、当事者参加を強く求めます。

  • 災害に強い街は、障害の特性に配慮し活かした街

 煙や炎で視界を遮られたとき、人は視覚障害者に。故障や騒音でサイレンやアナウンスが聞こえないとき、人は聴覚障害者に。狭い歩道や通路に物が倒れて行く手を遮られたとき、人は肢体不自由者に。分かりにくい表示で避難経路が分からないとき、字が読めないとき、変わり果てた状況にパニックを起こし、冷静な判断ができないとき、誰もが皆、障害者と言えるのではないでしょうか。そこで、普段から各種の障害の特性を理解し、各種の障害が避難する際に問題にならないよう、障害の特性を活かした街づくりをしておくことが、結果として災害に強い街となると考えられることから、復興・街づくりの計画策定や見直し、実行の場に、是非とも障害当事者の参加を求める。

  • エネルギー対策も障害者の視点を!

 人工呼吸器、電動車いす、電動ベッド、電動リフター、エレベーター等々、医療機器、福祉機器あるいは冷暖房における電力需要は高く、停電は死活問題となることから、災害時に備える意味も含め、自家発電、蓄電、供給システムの開発と普及も重要な街づくりの一環となる。だが、燃料をガソリンに頼り切った発電では、供給が途絶える危険性が高いことから、太陽光、風力、小水力、地熱といった地域の特性に合った自然エネルギーによる自家発電や地域内での供給システムの構築もまた、災害に強い街と言える。しかしともするとこうしたシステムは施設優先、あるいは限定で進められかねないことから、在宅の障害者のニーズを反映し、情報にアクセスできるような配慮を求める。

  • 自治体の人口規模に応じた避難用バスの配備を!

 原発事故で、双葉病院などでは寝たきりの病人が大量に避難を余儀なくされたが、避難に用意されたバスは通常の座席のものであり、起きた姿勢で長時間の移動を強いることになった結果、病状が悪化したり死亡してしまった人も出たと聞く。緊急時の避難の際は、車いすやストレッチャーに座ったまま(寝たまま)の状態でも多くの人が乗り込める仕様の大型のバスなどを自治体で所持しておくことが望ましい。座席取り外し可能な構造は違法になるとの誤解も普及の妨げになっていることから、座席取り外し可能な構造が違法でないことの普及啓発を図るとともに、実際にこうした構造のバスを緊急時における車いすおよびストレッチャー使用者優先の避難用バスとして、各自治体で確保する策を講じることを求める。