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全国脊髄損傷者連合会の取り組みと提言

社団法人全国脊髄損傷者連合会
副理事長 大濱 眞

1.今回の震災全体を通じての見解

 今回の震災による人的・物的被害もさることながら、発災直後の混乱した状況は、被災した脊髄損傷者をして「助からなかった方が楽だったかも」(当会岩手県支部長)と言わしめるほど凄惨なものであった。したがって、今回の震災を今後の防災対策の教訓とすることは極めて重要である。

2.当団体の取り組み、対応

 被災者を対象とした救援活動としては、当団体では以下の取り組みを実施した。

  • ① 4月から1年間、全国の各支部会員に支援金を募り、自宅が全壊・半壊・一部損壊した95名の会員に対して配分した。
  • ② 褥瘡用マットや紙オムツの搬送および配布した。
  • ③ 山形県支部を中心に、広島県・東京都・新潟県などからガソリンや灯油をかき集め、被災地に搬送した。
  • ④ 日本リハビリテーション医学会および日本脊髄障害医学会の協力により、医師による医療巡回を実施した。
  • ⑤ 陸前高田市において被災者を対象とした無料入浴サービスを実施し、9か月の間に延べ350名が利用した。

 また、被災三県の支部から寄せられた要望を基に、平成23年11月に内閣府および厚生労働省に対して申し入れを行なっている。

3.震災発生直後から今日までで見えてきた課題

 自助のレベルでは、脊髄損傷者の場合、導尿や排便の用具(特に使い捨てのネラトンカテーテルや留置カテーテル)をはじめとした災害用備蓄を、救助が到達するまでの5日分ほど確保しておくべきである。また、障害者自身が独力で避難する手段(自動車など)を確保することも重要である。

 共助のレベルでは、日頃からの近所付き合いを通じて、自らの障害特性などを周囲に理解してもらうことにより、発災時に避難の手助けを受けられやすくすることも必要である。

 障害者団体のレベルでは、都道府県単位で甚大な被害を受けた場合に地方ブロック内の他県に対策本部を置いて重度障害者をバックアップする体制づくりが、課題として挙げられた。

4.今後に向けての提言

 国に対する提言としては、各自治体に「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を周知することが挙げられる。その際には、以下の点に留意する必要がある。

  • ① 自治体でのガイドライン策定に際して、障害当事者を参画させて、実効性のあるガイドラインとすること。
  • ② 防災関係部局と福祉関係部局との連携によって、避難勧告などの伝達体制を構築すること。
  • ③ 要援護者の避難支援者を特定するなど、避難行動計画を具体化すること。
  • ④ 同意方式によって要援護者情報を収集すること。
  • ⑤ 発災時に、関係機関共有方式によって要援護者情報を活用すること。特に自宅で避難している障害者は孤立状態に陥ってしまうので、情報や物資の提供は重要な課題である。したがって、障害者団体やNPOなどとあらかじめ災害時提携を結んで、対象者の安否の把握、医療機関や福祉避難所への移送、支援物資の配給などで連携を図るべきである。

 そのなかでも、個人情報に対するプライバシー意識の高まりに伴い、要援護者情報の共有・活用が進んでいないため、発災時の活用が困難となっていることについては、早急に対策を講じなければならない。ただし、条例で個人情報保護審議会への諮問が必要な場合は、発災時の対応として「個人情報保護審議会へ諮問・了承」の必要がある。

『災害時要援護者の避難支援ガイドライン』より

○ 関係機関共有方式

 地方公共団体の個人情報保護条例において保有個人情報の目的外利用・第三者提供が可能とされている規定を活用して、要援護者本人から同意を得ずに、平常時から福祉関係部局等が保有する要援護者情報等を防災関係部局、自主防災組織、民生委員などの関係機関等の間で共有する方式。

【参考】個人情報保護条例において目的外利用・第三者提供が可能とされている規定例

  • 「本人以外の者に保有個人情報を提供することが明らかに本人の利益になると認められるとき」
  • 「実施機関が所掌事務の遂行に必要な範囲内で記録情報を内部で利用し、かつ、当該記録情報を利用することについて相当な理由があるとき」
  • 「保有個人情報を提供することについて個人情報保護審議会の意見を聴いて特別の理由があると認められるとき」 等
  • 【参考条文】行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律

(利用及び提供の制限)

第8条 行政機関の長は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。

2 前項の規定にかかわらず、行政機関の長は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供することができる。ただし、保有個人情報を利用目的以外の目的のために自ら利用し、又は提供することによって、本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。

一~三 略

四 前三号に掲げる場合のほか、(中略)本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有個人情報を提供することについて特別の理由のあるとき。

また、発災直後の避難所生活については、以下の点を改善する必要がある。

  • ① 物資の配分に際して、公平性が重視され、特に支援を要する障害者や高齢者に十分な量の支援が行き届かない状況が見られた。よって、障害程度に応じた優先配分が不可欠である。
  • ② 避難所ではプライバシーが確保されていなかったことから、自己導尿や褥瘡の処置などもままならなかった。このため、導尿の回数を減らすことにより泌尿器系のトラブルなど、大きな危険に晒されてしまった。よって、衝立の設置などによるプライバシーの確保は重要である。

それと同時に、福祉避難所についても以下のような問題点が挙げられる。

  • ① 導尿や排便の用具が水没したケースでは、脊髄損傷者の日常生活に不可欠であるため、非常に困窮した。また、一般の避難所では車イスから降りるスペースがないため、車イスに座りっぱなし、あるいは自動車の座席に座りっぱなしの状態で、結果的に褥瘡をつくって入院を余儀なくされるケースもあった。このような事態を未然に防ぐためにも、福祉避難所の充実は急務である。
  • ② しかし、福祉避難所の開設時期が非常に遅く、その情報も障害者や高齢者に伝わらなかった。このため、福祉避難所の対象者の大まかな人数を把握し、それに見合う福祉避難所を確保したうえで、障害者や高齢者に対する周知する必要がある。
  • ③ 宮城県の沿岸部などでは、行政から「障害者が勝手に福祉避難所に行ってもらっては困る」と言われたケースもあった。したがって、福祉避難所の受け入れ体制にも弾力的な運用が求められる。
  • ④ 福祉避難所となる施設の管理者と平常時からの連携を図ること。特に、協定の締結による医療物資や介護用品などの確保、発災時を想定した訓練の実施などが重要である。

さらに、仮設住宅への移行に際しては、以下の点を改善する必要がある。

  • ① バリアフリー仮設住宅と言っても、一般の仮設住宅にスロープや手すりを取り付けただけの場合が多く、つかまり立ちができないために車イスを常用する脊髄損傷者などの利用を想定した間取りとはなっていなかった。よって、バリアフリー仮設住宅の標準仕様をあらかじめ国で策定し、自治体に周知する必要がある。

最後に、復旧・復興の段階では、以下のような問題が生じている。

  • ① 障害者の対応に慣れたヘルパーや看護師は、幼い子どもを抱えた女性がその中核を担っている。このため、原発事故が発生した福島県では、ヘルパーや看護師が県外に避難してしまったため、深刻な人手不足に陥っている。よって、介護や看護の担い手をいかにして確保するかが、喫緊の課題となっている。
  • ② 被災障害者の自宅が危険区域に指定された場合、家屋が損壊してもそこに建てることができなくなる。このような場合、代替地の準備が遅れると、家族がバラバラに生活をすることになる。実際、家族が療護施設と仮設住宅に分かれて生活しているケースもある。したがって、国・復興庁と都道府県が連携を図り、被災障害者を優先して早急に代替地を準備する必要がある。