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東日本大震災 全難聴の支援活動と提言について

社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会

1.被災直後の対応概要

 今回の大震災では被害の大きかった岩手・宮城・福島の3県以外にも、青森県や関東等の近隣地域の難聴の仲間にも大きな影響を与えた。家屋の被害がなかった地域でも、続く余震、原発事故、計画停電等による交通機関等の混乱、放射性物質による飲食物汚染の不安、一人暮らしの難聴者には恐怖だった夜間の計画停電など。

 そんな中で、実際に被災された方々の苦渋は察するに余りある。

 全難聴では地震発生後直ちに災害対策本部を立ち上げ、震災関係情報収集・発信に努めた。現在もブログで紹介を続けている。

 NHKに震災関係報道への字幕放送実施の要望を出したり、東京電力に計画停電の問い合わせ先のファックス番号を公開するよう求める等、聴覚障害者のための情報保障を要望してきた。

 被災地行動の安全がある程度確認できた4月1日夜から3日まで、第一次支援活動として特に被害の大きかった岩手、宮城、福島の3地域の協会を訪問し、現地対策本部との協議、補聴器電池や筆談ボードなどの支援物資や見舞金をお渡ししたのを皮切りに、数次に渡る支援活動を行った。

 被災協会では、特に(特)みやぎ・せんだい中途失聴難聴者協会の取り組みが目ざましかった。被災直後から対策本部が立ち上がり、通信網の断絶した中の会員の安否確認、その後の被災状況などのアンケート調査、支援活動の取り組みなど。特にソフトバンクから貸与を受けたスマートフォンを活用して、被災地メンバーや全難聴など支援者同士の連絡網を作ったこと等、IT利活用の取り組みも注目された。

 仙台で電話リレーサービス等に取り組むプラスヴォイス社の協力をいただき、同社内に全難聴の現地対策事務所を設けた。

 (特)岩手県中途失聴・難聴者協会では会員の安否確認に手間取った。停電などインフラに大きな影響を受けている方が多く、当初FAX連絡もままならなかった。会員の中には生活の問題やストレスを抱え精神面のケアなど、外部の支援が必要な方がいたため、全難聴本部や専門家の支援も入れて会員同士で集まり、数次に渡る交流会「いこいの広場」を実施した。

 福島県中途失聴・難聴者協会は地震等による家屋の被害等が多かったのに加え、原発事故で多数の役員、会員、要約筆記者がバラバラに避難して所在がつかめず、連絡に大変な困難があり、協会としての組織的活動ができない状況が続いた。

 停電や避難生活などにより、個人が必要な情報の取得にも一層困難な状況だった。特に原発事故による影響が長期化していることが懸念される。

2.全難聴の対応

 全難聴ではこのような被災現地の状況を把握したうえで、情報保障に関する必要な支援をしていった。現地の協会活動を尊重し、特に生活支援などが必要なところは、現地自治体、NPO法人全国要約筆記問題研究会や他の災害対策本部とつながりながら、支援を進めた。

 聴覚障害を持つ本人には補聴器の電池や耳マーク(特に首からつるすパスケース入りのカード)、筆談ボードなどを提供している。

行政に対しては聴覚障害者への視覚的情報の提供、特に総務省やNHK等への字幕放送の実施を強く訴えている。行政だけでなく、補聴器や人工内耳などの業界、関係団体とも連携し、支援情報を地域につなげている。

 地域協会に対しては、被災地支援のための支援金活動、会員への心理的ケアや支援ニュースの発行等をしている。

 昨年10月の全難聴青森大会では、被災三県の聴覚障害者を非会員も含め貸切バス、新幹線等で招待した。同じ難聴者同士の交流によるケアを目的に実施。被災地から100人近く、あわせて385人の参加があり、盛会に終わった。複数の分科会があったが、いずれも内容に震災の影響が濃く反映されていた。

 国内ではソナール社、自立コム社、要約筆記サークル等、海外からもスウェーデン難聴者協会、全米難聴者協会、メドエル社インゲボルグ・ホフマイヤー会長の多額の寄付や、コクレア社、レイオバック社の温かいご支援があった。

3.支援活動の長期化

 その後の支援活動は、心のケア、生活、仕事、その他の相談支援活動に重点が置かれている。東日本大震災聴覚障害者救援中央本部と連携して取り組みを進めている。

 義援金について、全難聴単独で約1,769万円の義援金が集まった。配分についてはこれまで経験がなかった広範囲の被災、対象者ということもあり、配分委員会での意見の集約が遅れた面もあった。一刻も早く皆さんにお届けしなければという想いに反し、配分方法と説明に苦慮、心苦しくも一部は年度をまたがっての配分実施になってしまった。

 配分は精神的被害を考慮している。明らかな物的被害がなくても、避難生活をしたり、身近な人や仲間がばらばらになったりし、苦痛を受けている人もいるので、一律支給することとした。なお、義援金募集は3月で終わっているが、現在もお寄せくださる方がいる。

 全難聴では従来から視覚的情報の整備などについて、政府や放送局等に対して働きかけていたが、災害関係の問題でも、特に全国共通の課題に取り組んでいる。

 仮設住宅に入る期間が国の当初計画では2年だったのが、3年に伸びるなどしており、全難聴の支援活動も長期化を見据えている。

 今後は現地に何が必要なのか、聴覚障害者対象のピアサポート、相談支援の継続、さらに要約筆記の普及が遅れているところがあれば取り組む等、皆さんにうかがったうえで進めていきたい。

 6月末には国際難聴者会議がノルウェー・ベルゲンで開催され、全難聴として国際的な支援や協力に対する御礼を申し上げた。また聴覚障害者の情報障害の状況を国際会議の場でお知らせすることが重要な御礼になると考え、みやぎ難協副理事長の松崎丈氏等による分科会報告、ポスターセッションによる報告等してきた。

 12月1~3日にさいたま市で行われる「第18回全国中途失聴者・難聴者福祉大会inさいたま」でも、災害関係分科会を設け、今後の震災関係の対応を協議することとしている。

4.今後のための提言

 今回の大震災は、災害の問題や防災対応について自分の問題としてとらえることができたという点では、大きな気づきを与えてくれる機会だった。今回の震災には大きく分けて3つの特長があった。

1) 津波によるかつてない大規模広範囲の被災、続く余震

2) 原発事故による停電、放射性物質による人体や飲食物への影響

3) これら複合要因による被災の長期化

 災害はいつも同じ顔をして来るとは限らない。今回の震災の対応が今後も通用するとは限らないが、聴覚障害者への対応で共通する点はくくることができるだろう。

 もっとも大きな気づきは、起きてからできる対応には限りがあるということ。事前の備えが重要だった、ということではないだろうか。

 全難聴加盟各団体で、自分たちの団体内部にも目配りしながらの支援活動が求められ、後手後手の対応に終始していたのが実情だった。

 特に聴覚障害者は情報障害者と言われる。情報インフラの寸断は影響が大きかった。テレビの字幕、FAX、ネットや、夜間の視覚的情報に必要な照明も、停電下では使用できなかった。携帯電話も充電の問題があり、長時間使用できなかった。

 命に関わる津波警報が分からなかった聴覚障害者も多数いた。国レベル、地域レベルの問題は、国や地域の聴覚障害者関係団体が要望していくことで、理解を広め解決可能な面もある。

 このような場面では、通常の情報インフラによる連絡手段だけでなく、第二第三の方法確保が重要。それには機器に頼らない、人的対応が重視される。日頃から支援したりされたりできる関係作りが重要ということでもある。

(2012年9月執筆)

全難聴の支援活動