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きょうされんの支援活動と作業所・事業所から見た復興や防災対策に向けた提言

きょうされん
事務局長 多田 薫

はじめに

 東日本大震災の被災地は、復興への歩みを進めているところも少なくないが、まだ出口の見えないトンネルを走っているところも多い。きょうされんは、復興あるいは新生の扉を開きたいとの思いから、被災障害者や作業所の思いにできるだけ寄り添い支援を継続していきたいと考えている。なぜならば、障害のある人たちの“働きたい”“仲間と会いたい”“安定した生活に一日も早く戻りたい”、そうした要求が厳然とあり脈々と息吹いているからである。支援の重要さは、むしろこれからではないだろうか。
今般の震災は大惨事であり多大な被害を生じさせた。15,879人の死亡者に加え行方不明者もいまだ2,700人にのぼる(ともに2013年1月16日現在、警察庁発表)。障害のある人の死亡率は一般の死亡率の2~4倍と伝えられている。福島の原発事故は収束見通しがいまだに立たず、多くの人々が地元に戻れない。
問題はその先である。行政や立法府はそして民間団体は住民の苦難や障害のある人々に寄り添って何をしてきたのか、そしてもっと重要なのはこれから何をしようとしているのかである。具体的な対応が行われなければ、復興や新生への見通しや足がかりが持てない、出口が見えない。「自己責任」「自助・自立」を強いて放置するならば、それこそ多くの人々が深い闇に陥ってしまいかねない。

1.震災を通じた作業所・事業所の現状と見解

 「きょうされんはひとつ」を合い言葉に、地震発生のその日に「震災被害対策本部(本部長は西村直理事長)」を立ち上げ、支援を考えあい活動に取り組み始めた。
 以前から障害分野は、暮らす場、働く場、住まい、人の支援等の施策や実態が立ち遅れており、それが震災によって顕在化し苦難がいっそう際立つことになった。地場産業が大きな被害を受け、なかなか再興できず、今も多くの人々が生業を元に戻せない状況にある。そうした影響も受けて、作業所や事業所の仕事も販路も元の水準に戻っていない。福島県南相馬市の作業所もようやく震災以前の工賃水準に戻ってきたというが、各地の応援あってのことである。他の被災地も大同小異である。
 引っ越したその日に津波で建物をさらわれた宮城県女川町の作業所「きらら女川」は、利用者二人が不明・死亡となった。再開への決意後も用地選定をめぐって二転・三転し、ようやく2013年3月の再開へ準備を進めている。当会としても全国的に募金を呼びかけている。
 福島では被災直後、障害者がさまざまな事情から避難所に長く留まれず、危険を承知で多くが自宅に戻り、日中の通所の場を求めてきた。作業所や事業所は再開したものの、特に若い職員は避難により勤務継続を断念する人が少なくなく、若手職員や専門職員が不足している。JDFは、当面2013年3月末まで南相馬市内の作業所・事業所やグループホーム等への支援を継続し、きょうされんも各地に呼びかけて職員派遣を続けている。
 一方で国の動きは鈍い。支援を必要とする多くの声や思いに立脚して、相談や実態の把握、復興や今後の防災への具体的対応に努める姿はあまり見えてこない。
 国には、国全体の復興支援策に障害分野を明確に位置づけること、障害のある人々の被害状況の把握と検証を早急に行うこと、復興や今後の防災計画やそのあり方の中に障害のある人々を含む「すべての住民」を対象とする観点を堅持し具体的に貫くこと等を速やかに求めたい。

2.きょうされんの支援活動の概要

 きょうされんにおけるこれまでの支援活動の主な柱は以下の通りである。

  • 被災直後の作業所・事業所の安全確認と利用者の安否確認(きょうされん会員以外を含む)
  • 被災事業所や利用者の救援物資のニーズ把握と確保・調達と送付
  • 障害者支援に向けた先遣隊の派遣、被害状況の把握
  • 被災地および被災事業所への人的支援、被災状況や被災障害者ニーズの調査への人的派遣(JDFの呼びかけに応えて)、のべ6,000人(2012年12月末現在)。
  • 募金活動(2012年12月末現在で約9,800万円)と、被災障害者・事業所助成(2012年12月末現在約4,100万円)や支援活動経費等で活用
  • 被災事業所商品のインターネット販売をはじめとする販売支援(2013年1月17日現在、売上総額21,255,114円)

3.今日までに見えてきた課題と提言

 災害直後の避難支援のシステムが有効に機能しなかった問題、救援・支援活動に際して個人情報保護法が障壁となった問題等は、他章や他団体が記されていると思われるため、ここでは作業所・事業所の被災や救援・支援活動を通した課題に焦点を当てて記したい。

(1)被災障害者事業所への職員派遣について

 厚労省は2011年3月18日付で「『東北地方太平洋沖地震』の発生に伴う介護職員等の派遣要望について」の通知を発出し、高齢分野を含め被災事業所への職員派遣を行うようにした。阪神淡路大震災や新潟中越地方の二度の地震等の教訓を生かした重要な対応であった。
しかし、多くの事業所では制度活用を諦らめざるを得なかった。最大の問題は、派遣先の被災事業所や派遣元事業所に支出負担が大きくのしかかることであった。初期のころは、災害救助費の適用が定かではなかったことも大きい。また、事業所支援に参加しても制約があり、実際の被災地や被災事業所に則した臨機応変な対応ができなかった。コーディネートを特定団体に限ったことや手続きが面倒なこと等々もあった。貴重な公費を使うことであり厳正さや一定のルールがあるのは当然であるが、困っている人の実情に則して対応できなければ意味を成さない。厚労省が被災事業所への職員派遣策を講じたことは評価しつつも、次に起こりうる事態に備えて被災地の実情に則した改善をはかるよう求めたい。

(2)小規模作業所や地域活動支援センター含む障害者支援や事業所への支援について

(発災時の備え)

 作業所や事業所の開所中に大地震等の災害が起きた場合、障害のある人たちが在宅中の場合、障害のある人の安否確認や避難を速やかに行うように、市区町村の災害対策マニュアルや要援護者避難支援マニュアル等に、国の責任で指針を示して盛り込むよう義務付けることが必要である。
また、国や自治体の責任で耐震要件を満たしている事業所を避難所や食糧供給の拠点として位置づけ、地元自治体と協議して日頃から備えを整えておくことが大切である。

(発災後一か月程)

 損壊で一時閉鎖した作業所や事業所の報酬を時限的にでも日額から月額にして対応すること、地域活動支援センターや小規模作業所等も同等の対応策をとること、小規模作業所や地域活動支援センターを含む作業所・事業所の再開・復旧に向けた緊急財政支援を講じること、利用者の食料調達、医療機関への搬送等を効果的に実行するためのガソリン給油等をスムーズに行えるような対策を自治体と連携して講じること、一時的な利用者の受入先確保を日常的に整備しておくこと、年金給付等の窓口給付の簡略化や災害に伴う休職による給料・工賃保障(作業所・事業所の利用者を含む)等も重要である。

(再建・復興への支援)

 事業所全壊の場合、建物を失うに留まらず、障害のある人の生活にとって、それは大きなダメージとなった。その再建や再開は、事業所の努力だけでは到底成し遂げられず、具体的な相談含む人的配置や再建助成等が国や自治体に対して求められる。
また、雇用継続や再就職、事業所における就労や就労内容の相談・斡旋にも応じられるような行政施策や対応が必要であろう。企業や福祉事業所、あるいは個人事業主にとっても、障害者に関わる就業内容・設備等についての相談窓口も必要である。民間団体においても、積極的に協力していくことが必要である。

(3)被災県での厚労省の出先機関について

 被災県における国の出先窓口はすべて福祉分野一括であり、現地の実態に沿わない対応であった。重要な判断は本庁であるにしても、被災地にて障害分野の窓口を設けて対応に努めなかったことは改善されるべきであろう。

4.作業所・事業所自身の課題

 今回の震災においても、多くの作業所・事業所が発災直後から利用者をはじめ地元の障害者も受け入れる等、昼夜分かたぬ支援を行った。地域住民の避難場所として建物を提供したり、在庫の販売製品の提供、食事や入浴の提供等を行った所もあった。
 地域に根ざし地域とともに歩む作業所を目指してきた私たちは、作業所・事業所が災害時に大切な役割を果たせたことは、災いの中でも貴重な経験であった。
 震災後、福祉施設が災害時の避難や救援拠点として位置づけられた自治体も現れている。障害のある人が利用する建物の安易な規制緩和は戒めるとともに、作業所や事業所が災害時において地域住民の避難や救援拠点としての役割が果たせるよう、地元自治体と相談しつつ積極的に地域の障害のある人や家族の安心・安全に役割が果たせるよう働きかけていきたい。