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ALS等の重度障害者は3日以上対応できる非常用外部電源の整備が必要

一般社団法人日本ALS協会
事務局長 金沢 公明

1.今回の震災全体を通して

 大震災はALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者と家族に、多大な被害と困難をもたらした。ALSは運動神経が選択的に侵されて身体を動かすことや話すことも出来なくなり、3~5年で呼吸器装着なしでは生きていけなくなる進行性の難病である。患者数は全国に約9,000名、約3割が呼吸器を付け、約8割が在宅療養している。今回、6名の患者が津波の犠牲になっている。岩手県では当協会の支部長(釜石市、車椅子)や呼吸器装着の患者さん(釜石市)、宮城県では4名が確認されている。また、震災直後の長時間停電に対して呼吸器を使う患者の多くは、電源確保等のために避難入院を余儀なくされた。宮城、福島県の一部の入院患者は病院機能不全のため自衛隊ヘリで山形、東京、神奈川、新潟に転送された。震災後1年半を経た現在も、なお避難先病院で療養している方もおり、福島県では原発事故による放射線被害で介護者が飛散、減少するなど深刻な状況が生じている。

2.日本ALS協会の取り組み

 当協会は会員数約5,300名で患者・家族を中心に遺族、医師等による全国組織である。このたびの大震災では直ちに被災地の患者会員の安否確認にあたるとともに、医療・介護等の救援物資の供給、厚生労働省への緊急支援策の要望、医療関係機関との連携支援を行った。また、本部に「東日本大震災支援委員会」を設置し、ALS義援金の募金活動を国内外で行い、岩手県、宮城県、福島県を中心とした患者さんに、見舞い金をお渡しした。その取り組みの概要と課題を紹介する。

(1)安否確認と個人情報保護

 震災直後の2日間は本部のある東京も混乱しており、被災地支部に電話がつながったのが13日の夕方であった。支部を通しての患者会員の安否確認は中心となる役員自身が被災していたり、会員も避難して連絡がとれない等、安否と被害状況の把握に一か月以上の期間を要した。それでも会員名簿による安否確認は比較的順調に進み、その後の救援物資の供給やお見舞いに役立だった。しかし、会員以外の患者さん支援のために行政に名簿の提供を依頼したが、個人情報保護を理由に断られたケースもあった。

(2)救援物資の被災者、病院への提供

 3月14日頃から支援活動が整い始め、福島県の会員がネット経由で衛生材料などの救援物資を要請したことに福井県支部が即応、福井・滋賀県の障害者自立支援団体などの協力を得て、まだ交通機関が復旧していない17日に、福井から日本海を経て郡山市に第一便が届けられた。その他、宮城県の沿岸部の被災病院に病院医師との連携で、国内からに加えて台湾ALS協会から1.5トンの経管栄養剤を届けることができた。救援物資は被災地の拠点まではどうにか輸送できたが、現地のガソリン不足のため中継拠点から自宅への配送が困難を極めた。

(3)厚生労働省へ緊急支援要請

 3月17日に厚生労働省の大塚耕平副大臣(当時)に①医療・介護等の救援物資輸送を行う団体へのる通行許可証の発行 ②避難先への介護保険、自立支援法の介護者付添い許可 ③被災地の医療・介護者へのガソリンの優先配給 ④医療機関に対する計画停電の除外…などの緊急要望を行った。②については翌18日には厚労省保険局より関係先に事務連絡が発出された。

(4)停電対策バックアップ電源等の支援

 その後の余震による停電や福島原発停止に伴う計画停電の緊急対応として、関係機関の協力により外部バッテリーと内部バッテリー付吸引器の貸し出しを行った。厚労省健康局は4月27日に非常用発電装置(発電機他)を難病拠点病院等から患者に貸し出す通知を発出した。また、当協会等の要望により今年4月の診療報酬改定において、人工呼吸器の付属品として外部バッテリーの貸与が明確にされた。

(5)義援金・募金活動

 被災地のALS患者を支援するために義援金募金の振込口座を開設し、国内外に呼び掛け、街頭募金活動を行った。総額12,619,864円が集まった(平成25年3月31日現在)。約900万円は被災患者のお見舞い、救援物資輸送の謝礼、支部の被災者支援対策などに充て、残りは長期的視点に立った復興支援に役立たせる予定である。

3.震災発生直後から今日までに見えてきた課題

(1)大地震直後から3日(72時間)以上対応できる非常用外部電源の整備が必要

 被災直後の3日間は、自分で自分を守る覚悟と備えが必要[自助]。その後、地域、ボランテアなどの[互助・共助]が可能となり、行政などの[公助]は状況が落ち着いてからとなる。自助期で最も重要であったのが人工呼吸器等の非常用外部電源の確保であった。宮城県で最大の連続停電は4日間(約98時間)に亘った。呼吸器装着者は内部バッテリーが切れたあとは、外部バッテリーか手動の呼吸器(アンビューバック)で対応するか、それが出来ない場合は発電装置のある病院へ移るしかない。内部バッテリーは機種で動く時間が異なり、多くは数時間と短い。長時間の停電をしのぐには、最低2つ以上の外部バッテリーと充電用発電機の整備が必要である。一つを呼吸器に使いながら、もう一台を発電機や車、および病院等での充電に使い交互に使う。また、車のシガーソケット電源からインバーターを介して呼吸器につなぐ方法もある。これらの外部バッテリーと発電機の組み合わせで長時間の対応が可能となる。

 今回の大震災で3~4日間、このようなやり方で乗り切った患者さんたちもいた。また、充電する車のガソリンが不足し、近隣から分けてもらい助かった患者もいた。車や発電機用の燃料として「ガソリン缶による備蓄」も必要である。注意として呼吸器の非常用外部電源用として呼吸器メーカー品以外を使う場合は呼吸器に適さない電源もあり、呼吸器取り扱い会社に相談が必要である。呼吸器付属品の外部バッテリーは前述のとおり、今年の4月から医療保険の中で1台が貸与されることになった。2台目以上は自費での整備となる。また、呼吸器以外のたん吸引器や電動ベッド、電動エアーマット、照明等に使用する非常用電源の整備も合わせて必要である。今回の大地震や計画停電の中で、長時間対応の非常用外部電源を確保していた患者は電源のために入院することなく、乗り切ることができた。この経験を教訓とし、いざという時に安全で使いやすく、定期的メンテナンスも容易な非常用外部電源の整備と普及が必要である。また、電源が使えない時のアンビューバックや足踏み式吸引器などの使用と合わせて、取り扱い訓練が必要である。

(宮城県支部の患者家族の体験談より)

 地震発生と同時にライフラインがストップ。携帯電話もつながらず、救急車を呼ぶことさえも不可能な状態。すべてのものに電気が必要ななかで、とにかく呼吸器だけは動かし続けなければ・・。時間とともに復旧が難しい、見通しすら立たないことを感じながら不安と緊張、不眠の日々が続きました。本人はもっと大変だったろうと思います。2日、3日と時間の経過とともにガソリンの心配、そして緊急避難など到底無理だろうという思いで過ごしました。なんとしても乗り切らなければ・・という思いと覚悟は決めておかねば・・。本当に大変な5日間でした。電気が復旧した時は皆で泣きました。(妻)

 飲料水は2日後、電気は4日後(15日の夜)の復旧。この状況で緊急入院をしないで耐えた。アンビュー、手動吸引器、車からの電源用インバーター、発電機、ラジオ、電池は最低限必要。発電機を動かすためのガソリンの手当も欠かせない(患者)

(2)被災地の医療・介護体制の早期復興、再構築が求められている

 被災地支部からは「甚大な被害を被った沿岸部では、患者を支える医師や看護師、ヘルパーの減少が進み、在宅療養はいまなお厳しさに直面している」との報告が寄せられている。特に原発事故が起きた福島県では深刻さが増している。今後、被災された避難入院患者が在宅に戻るには住居の確保が必要で、患者、家族の経済的負担も大きい。国、自治体の復興支援による一日も早い地域医療・介護支援体制の再構築が求められている。