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東日本大震災における日本筋ジストロフィー協会の支援活動に関する取り組みと提言

社団法人日本筋ジストロフィー協会
副理事長 矢澤 健司

1.今回の震災全体を通じての見解

 2011年3月11日14時46分に東日本・三陸沖東北東130kmの深さ約24kmの海底でM9.0の大地震が発生した。この結果、東北3県のほとんどの地域で停電しテレビや電話が通じなくなり、当該地では電気が回復するまで何が起こったか詳細の把握ができなかった。このため、当該地区の当協会支部会員の安否確認もすぐには行うことができなかった。

 この地震により発生した津波に関する避難情報は防災無線や携帯のワンセグで伝えられ、避難が開始されたが、津波の大きさの正確な情報が後になって伝えられたために十分行き届かず、そのために多くの犠牲者が出た。

 津波のため緊急冷却装置が壊れ、メルトダウンを起こした東京電力福島第一原子力発電所の事故は緊急避難の情報伝達やその後の復興に大きな影響を残している。電力不足に対応するため東京電力管内では3月14日に計画停電を実施したが、この影響は東日本の災害地区以外でも大きな影響を与えた。特に、人工呼吸器を使用している患者や病院で厳しい対応を迫られた。

2.当協会の取り組み、対応

 3月11日発生直後から、協会会員が登録している「夢の扉メーリングリスト」に会員から安否を問うメールが11日に9通届き、福島県からは、家に帰れず避難先から現在の状況報告があった。13日までに30通の情報が届いた。その後も毎日10通ほどの震災に関する書き込みが続いた。

 3月13日に協会の全支部長を対象に情報共有のためのメーリングリストを立ち上げ震災に関する情報収集にあたり、ブログ夢の扉にアップして情報の共有化を図った。

 17日、東日本巨大地震緊急対策本部を設置し、対策本部長を貝谷久宣理事長に、現地対策本部長を佐藤隆雄東北地方本部長にお願いし、22日に東日本巨大地震緊急援助募金を開始した。4月16日にANAの仙台空路が再開されたので、貝谷理事長が支援物資をもって被害状況を確認した。

 5月16日までに下記の金額が集まり、5月22日(日)の総会の会場で現地対策本部長の佐藤隆雄副理事長にお渡しした。

 募金金額 264万2,609円

 5月21日(土)春季全国会員研修会で「東日本大震災緊急報告」が行われた*1

  • 福島県支部の自立生活をしていた筋ジストロフィー患者は、ちょうどその時はヘルパーがいない時間帯で、親戚やヘルパーが救助しようとしたが間に合わず、「もう、あきらめましょう」という言葉を残して同居していた祖母と津波の犠牲になった。
  • 岩手県支部の被害状況は、津波の到着が早く家屋が流され火災も発生し患者家族3名が犠牲になった。津波で家屋が流失した会員1名が福祉作業所に通所していたことから職員の介助を受けて高台に避難した。
  • 宮城県支部の24時間呼吸器を使用している会員は、当時名取市沿岸から1kmにある地域生活活動センター「らるご」にいた。5分ほどの激しい震度6強の揺れが収まった後、職員が携帯電話のワンセグでニュースを見て仙台港で津波が7mと予想されていたので、揺れが収まって15分位してから避難が始まり、施設から2kmほどのところに避難したが、ワンセグのニュースにより10mの津波が仙台港に上がったのを知りさらに3km内陸の市民体育館に避難したが、高さ3mも浸水し、危機一髪で助かった。帰宅後、停電だったので呼吸器の内部バッテリーと2台のコンバータおよび外部バッテリーを交互に使って4日間対応した。コンバータは自家用車のシガレットライターに接続して使った。途中、コンバータから異音が発生するようになり使えなくなり、手動のアンビューバックを使いながら、電気が通じている叔母のアパートまで移動して2日間過ごした。
  • 西多賀病院(仙台市太白区)は筋ジス160床、重症児(者)80床、一般240床の病院

 西多賀病院の吉岡 勝先生のメールから


 地震発生時、全入院患者および職員に負傷者はなく、地震そのものによる呼吸器のトラブルもなく、建物の大きな損傷もなく本当に幸いでした。直後より停電となりましたが、すぐ自家発電に切り替わり、燃料の重油が本日14日(月)までしかないということで心配しましたが、幸い、昨夕停電からも復旧し本日より院外へのメール送信も可能となりました。在宅の外来患者様も全員の安否確認はできませんが、今のところ負傷者等の報告はありません。呼吸器使用中の在宅患者様の避難入院も数名受け入れております。

 このような震災にもかかわらず呼吸器のトラブルを完全に回避できましたのも、斉藤先生、多田羅先生をはじめ神野班分科会からのご指導により、呼吸器リスク管理を通じ職員の安全意識を普段から高めていたためと感謝いたします*3


3.震災発生直後から今日までで見えてきた課題

5月21日(土)研修会「東日本大震災緊急報告」佐藤隆雄東北地方本部長より

 『今回の地震は無常ということを強く考えさせられました地震であり、津波であり、原発事故でした。

 これまでの、そして今回の地震災害での被害や尊い命が犠牲になったことを繰り返さないためにも協会として患者家族の命を守るためにも日ごろから防災・減災の知恵を出していかなければなりません。

 これは、東北福祉大学ボランティアセンターから発行された「災害時要援護者支援マニュアル」より引用したものです*2

  • ① 住居の安全
  • ② 避難行動・被災後の生活の確保
  • ③ 家庭の防災会議
  • ④ 近隣住人同士が助け合える関係づくり

を備えた方がよいということです。

 本人の備えとして

  • ① 動の困難の為の対応
  • ② 福祉サービス、保健・医療等の供給機能の低下または停止がある場合の対応

 これらについても備えが必要で、非常事態ともいえる環境変化をいかに乗り切るかが大きな課題である。自ら声を出していうことで、災害時要援護者(当事者)が自ら声を出して行くことが重要。

  • ① 被災生活の長期化が想定される場合
  • * 介助するヘルパー派遣、避難所や仮設住宅のバリアフリー化等の提案が必要
  • ② 所在情報発信が自らの身を守る防災力
  • * 避難所以外の在宅障害者の被災情報が把握できない。
  • * 日ごろの生活の中で所在情報を発信しておき、地域住民の協力を得ながら、自らの防災力で乗り切ることが必要である。

 私たちの協会の患者、家族の人たちは常に命の大切さ、無常ということと向き合ってきました。福島県いわき市の佐藤さんが、震災で亡くなられる直前に「もう、あきらめましょう」とおっしゃったのは、命ということと常に向き合ってきた覚悟だったと感じています。』

4.今後に向けての提言

 3.11東日本大震災から1年半が経ち、多くの困難に遭遇し、経験を無駄にしないため今後に向けて次の事を提言して行きたい。

  • ① 災害時に一番頼りになる地域のネットワークを作るために生活の中で情報発信をして地域住民の協力を得ながら防災力を備える。
  • ② 地域福祉サービスの充実が非常時の防災力につながるため普段の地域福祉サービスの充実を図る
  • ③ 日常の生活の中で、防災・減災への関心を深め、家庭、地域コミュニティー、事業所、団体の中で防災訓練等へ積極的に参加する。(全国規模の団体の名簿管理により、地方本部単位で災害が起きた場合、本部、他支部の支援が出来るようにする)
  • ④ 災害時の情報確保の為に日常の情報取得に慣れておく(携帯ラジオ、携帯ワンセグ、メール&メーリングリスト、ツイッター、フェイスブック)
  • ⑤ 防災無線の改善(小電力FM局を併設し、携帯ラジオ等で明瞭な情報を得る)
  • ⑥ 呼吸器等への電源の確保(バッテリー、コンバータ、発電機、病院の非常発電機設備の拡充)

 

参考資料

  • *1 平成23年度春季全国会員研修会「東日本大震災緊急報告」、ZSZ 療育(2011)、H23.3.18、社団法人 日本筋ジストロフィー協会、社会福祉法人 全国心身障害児福祉財団
  • *2 災害時要援護者支援マニュアル、東北福祉大学ボランティアセンター、H18.6
  • *3 神経筋難病災害支援ガイドライン:厚生労働省・神経疾患研究委託費「筋ジストロフィーの療養と自立支援のシステム構築に関する研究」、H19.3