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日本てんかん協会からの提言

社団法人日本てんかん協会(波の会)
事務局長 田所 裕二

1.今回の震災全体を通じての見解

 てんかんは突然断薬するとてんかん重積状態に至る可能性があり、多くの場合それは全身けいれんの重積状態で、処置をするまで止まらず、たとえ処置で発作が抑制されたとしても、中枢神経系後遺症を高率に残し、死亡率も低くない。

 このたびの「東日本大震災」では、十分な薬も持たず避難所で生活をしている患者さんが少なくなかった。ニュースでも、「欲しいのは血圧と糖尿病とけいれんの薬」と訴えている、孤立した病院の看護師長の声が紹介された。日常生活を奪われて緊急避難的な事態にある患者さんにとって、薬が欲しいというのは生命に繋がる切実な声である。被災地の複数の専門医からの情報によると、病院、薬局で抗てんかん薬が底をついた時期もあった。これは避難所で生活する人たちだけでなく、自宅で生活している人にも危機が迫っていたことを意味する。

 抗てんかん薬の不足は生命に危機を及ぼすものであり、その補給は緊急時における最大の課題である。今回は幸いにも当協会と日本てんかん学会の要請により、製薬各社から大量の抗てんかん薬が提供されたが、燃料や緊急医薬品指定などの課題が生じ、効率的に被災地に輸送・配置をすることに困難が生じた。

 このことを教訓に、一人でも多くのてんかんのある人たちの生命を守り、安心して生活できるよう抗てんかん薬を緊急医薬品に指定し、被災地への配送および被災地でのてんかん診療の充実と、被災各県に救命救急以外の患者のための、拠点病院の設置が急務である。

2.日本てんかん協会の取り組み

(1)災害支援対策本部の立ち上げと患者・家族の安否確認

 日本てんかん協会では、3月14日に「災害支援対策本部」(本部長:会長)を設置し、すぐに被災各県支部の会員安否確認に着手した。しかし、広範囲な停電や通信障害もあり、電話(固定、携帯)、FAX、Eメールなどが十分に機能せず、「往復ハガキ」を活用して安否・被害状況確認・必要物品ニーズ把握を実施した。これにより、ガソリンの不足状態や薬への不安などを早期に把握できるとともに、被災地のてんかん医療機関の稼働状況を確認し、被災地に発信した。

(2)正しい医療情報の提供

 地元メディアを通じて、「てんかんは、継続した治療が必要です。服薬を、中止しないでください。てんかんは、急に服薬をやめると“てんかん重積状態”といって、普段の発作がどんな発作であれ、全身けいれんがおこり止まらなくなってしまうことがあります。このことで後遺症が残ったり、生命に危機が及ぶもので非常に危険です。服薬によって発作を抑制されていても、例外ではありません。服薬中の方は、決して抗てんかん薬を切らすことがないように、早めの受診をお勧めします。」を、流し続けた。

(3)医療関係情報の配信と相談専用ダイヤルの開設

 仙台市内に現地対策支援センターを設置し、行政・マスコミ・関係団体などを通じて、てんかんのある人とその家族に対して、被災地における医療機関を受診される際の優先順位や最新の医療提供情報の発信を行った。

 また、てんかんのある人とその家族の不安を少しでもやわらげるとともに、今後の生活における問題解決の一助となるように、携帯電話による電話相談専用ダイヤルも開設した。

(4)災害対策ガイドと緊急カードの作成

 今回の震災では、厚生労働省からもさまざまな緊急対応の情報が出された。これらの内容を今後の対策に活かすためにも、その内容をまとめた「災害対応ガイド」と携行できる「緊急カード」を作成し、全国に配布した。今回の震災を教訓に、改めて患者・家族がてんかんと正面から向き合い、前向きな取り組みに繋がることを期待している。

3.震災発生直後から今日までに見えてきた課題

 さまざまな情報発信が拡がっても、専門医療チームが避難所を訪問しても、なかなかてんかんのある人の実態がつかめなかった。てんかんであることを近所に知られたくない人、発作がおきることを心配して避難所にすら行けない人がいたのである。こういった人々に対して、非常時にどのような方法を用いて情報を伝え支援を行えるか、これからの大きな課題である。

 また、ある神経難病の当事者団体では、日頃から市町村単位での同じ患者仲間の交流が活発であったそうで、今回の震災時でもすぐに横の連携が活きて、交替で薬、水やガソリンの調達を効率的にでき、皆で協働できた、という話しを聞いた。てんかん領域でも、日頃から地域内でのてんかんや関係する周辺領域の仲間との情報交換を積極的に進めて、行政や組織だけに頼らない、自分たちで命を守り生活を維持できる準備をしていくことも、今後とても大切になってくることを学んだ。

4.今後に向けての提言

(1)てんかんのある人が安定して治療を継続できる体制の確立

 慢性疾患であるてんかんは、治療が中断されると症状が急激に悪化し、時として重積状態となる場合がある。そのため、非常時においても、安定して抗てんかん薬が確保できる体制が重要である。今回実施された、保険医療や自立支援医療の特例、処方せんが無くても処方可能となる特例は、さらに関係者・関係機関への周知が必要である。今後は国庫補助医療については、自己負担の免除措置が取られることを望む。また、抗てんかん薬を運ぶことを、緊急車両指定とするなど被災地に優先的に輸送できるしくみが必要である。さらに、被災地で医療を必要とする人たちへも、優先的な燃料の補給措置や集団受診体制の保証などによる通院の保障と、遠隔地での医療に対する滞在費用負担など、適切な医療を守るための緊急措置が必要である。

(2)被災地でのてんかんのある人に対する生活支援への配慮

 特に、避難所生活においては、特別な配慮が必要である。一般の避難者とは別に、必要なケアに対応可能な避難所を優先的に利用可能にすべきである。例えば、てんかん発作のある人に対しては、良眠とプライバシー確保が可能なスペースを、行動障害のある人に対しては、周りにあまり気兼ねをしなくて済む環境の提供や自宅療養を支援する体制、などである。また、各避難所では、必要な医療が提供可能な医療機関情報や生活支援全般について相談できる社会資源などのアナウンスを、十分に提供できる体制が必要である。

(3)当事者組織による被災地支援活動に対するサポート

 てんかんを始め、障害や病気のある人たちの支援には、当事者組織の情報や支援は欠かせない。しかし、各組織が被災地内で個別に活動することは効率も悪く情報も錯綜してしまう。そこで、当事者組織の活動拠点の確保・提供や横断的な情報提供を行える体制作りが重要である。

 

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