はじめに:
地震等の災害を契機として生じる廃用症候群(以下、「生活不活発病」という)とそれによる生活 機能低下への対応の重要性が強調されている(内閣府:中山間地等の集落散在地域における地域防災 対策に関する検討会提言等)。
その背景としては次の2点がある。
- 災害時における疾患・外傷の予防・治療・管理の重要性は広く認識され、適切な対応への努力 が払われている。これに対して「生活機能」への認識と対応は、不十分であった。
- 高齢者が増加している現在、災害時における介護予防(生活機能低下予防)の具体化が急務。
生活不活発病は生活機能低下の重要な原因であり、その予防・改善が介護保険制度改革における介 護予防重視の流れのなかでますます重要視されるようになっている。
本項では災害時における生活機能全般、特に生活不活発病の早期発見・早期対応の手助けとして、 基本的な考え方を表1、具体的対策を表2にまとめた。その中のポイントをそれ以降に詳しく述べて いくのでご活用頂きたい。
表1 災害時の生活機能※ 低下予防の基本的考え方
- ポイントは「生活不活発病」 -
1 災害時には生活不活発病が多発 ⇒ 生活機能全体が低下
災害直後だけでなく、中・長期にわたり進行(「生活機能低下の悪循環」)
2 原因は「生活の不活発化」- 生活が不活発なら必発
- 病気・外傷と関係なしに「環境因子」の変化だけでも生じる
- 「心身機能」よりも「活動」(生活行為)や「参加」の低下が先に顕在化
- 「不活発」とは運動量の減少だけでなく、以下の全て
- (1)生活行為(「活動」)の「質」的低下:生活行為が困難になるなど
- (2)生活行為(「活動」)の「量」的低下:外出の回数・距離の減少など
- (3)家庭内・地域社会での役割(「参加」)低下:物的・人的環境の変化が影響
3 ハイリスク者:一見元気な高齢者でも注意
- (1)病人・障害者・要介護者
- (2)生活行為(「活動」)の低下がある人
- (3)一応自立していても「環境限定型自立」の人:
例:「近くしか歩いていない」「壁や家具の伝い歩き」など - (4)生活が不活発な人:地震後家事など家庭内での役割が低下、外出が少ない、など
4 対策の基本は「生活の活発化」- 「活発な生き生きとした生活」で自然に生活を活発化
- (1)生活行為(「活動」)の向上:「質」と「量」
- 活動自立訓練、よくする介護
(不適切・過剰な介護サービスや車いすの使用などは生活不活発病を加速)
- 活動自立訓練、よくする介護
- (2)家庭・地域での役割(「参加」)の向上
表2 災害時の生活機能※低下予防の具体的対策
1 基本対策:早期発見・解決の「水際作戦」が基本
(1)「生活不活発病チェック表」による早期発見
- 緊急度・対応の内容の判断
- 避難所入所時、自宅生活者への訪問時、医療機関受診時、等にチェック
(2)生活不活発病※※への個別的・具体的対応
- 「生活が不活発化」した原因の明確化
- 生活行為(「活動」)向上指導:
- 実用歩行指導の重視(様々な歩行補助具の活用)
- 実生活の場での指導
(3)家庭・地域での役割、生きがい(「参加」)を向上
- 避難所・仮設住宅の中でも積極的に役割をもつ
- 「参加」向上についての複数の選択肢を提示し、本人が選択
(4)疾患治療時に、生活不活発病の早期発見と生活の活発化の指導
- 「活動度」(どれだけ動くべきか)を指導
(5)生活機能相談窓口を設置:訪問指導・訓練を積極的に行う
(6)早期からの一般啓発:被災者・ボランティアへ
2 時期別の重点事項:
(1)被災直後:・ハイリスク者の早期発見 ⇒ 個別的な指導・フォロー
- 避難所の環境の整備:通路の確保、トイレへの距離の配慮など
- ボランティア教育の中で生活不活発病を指導
(2)中・長期:・個別性と自己選択を尊重した活発な生活づくり
- 積極的に新しい役割・生きがいを見つける
- 新しいコミュニティづくり
3 平常時からの準備
(1)生活不活発病を、広く国民一般に啓発
(2)生活機能低下予防マニュアルの常備
(3)指導者(保健師、ボランティア)研修
- ※生活機能:
- ①体・精神の働き、体の部分である「心身機能」、②ADL(日常生活行為)・外出・ 家事・職業に関する生活行為全般である「活動」、③家庭や社会での役割を果たすこと である「参加」、のすべてを含む包括概念。
生活機能には健康状態(病気・怪我・ストレスなど)、環境因子(物的環境・人的環 境・制度的環境)、個人因子(年齢・性別・価値観など)などが様々に影響する。 WHO・ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health; 国際生活機能分類)による概念。 - ※※生活不活発病:
- 廃用症候群(学術用語)が「生活の不活発」を原因として生じることを、当事者 自身に分かりやすくするための名称。