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平成12年度厚生科学研究 障害保健福祉総合研究事業リサーチレジデント報告書

村田 拓司(リサーチレジデント)

今年度活動の概要

  1. 「厚生科学研究費補助金(障害保健福祉総合研究事業)盲ろう者に対する障害者施策のあり方に関する研究」に前年度より引き続き参加し、同研究に関する平成11年度報告書において、我が国現行法制度における盲ろう者施策について分担・執筆
  2. 1の「研究」の平成12年度における研究主題として、各都道府県・政令指定都市における盲ろう者に対する施策の実施状況に関する調査
  3. 視覚障害者・盲ろう者の参政権に関する問題点の指摘とその解決に向けた提言について原稿執筆、「福祉労働」第88号に掲載

一 我が国の現行法制度における盲ろう者施策について

 平成11年度においては盲ろう者が我が国の現行法制度において、一般的にはどのように処遇されているか、法文上、関連条項はあるかなどについて概括的に調査した。その結果、「盲ろう者」としては法文上、特に明記されておらず、視覚障害又は聴覚障害を有する者としてのみ把握されているに過ぎず、これら二つの障害を併せ有するために固有の制約を抱えているということが法律上必ずしも十分に理解されていないことが、明らかになった。
今年度は、引き続き、特に障害者施策という観点から、具体的に、盲ろう者に対してどのような施策、法制度があるかについて調査した。
その結果は、『平成11年度厚生科学研究費補助金 (障害保健福祉総合研究事業)盲ろう者に対する障害者施索のあり方に関する研究 報告書』に「第一章 わが国における盲聾者に関する現行の法と制度」としてまとめた(注1)。
以下、同報告書の内容に沿い、略述する。

目次

第1節 盲ろう者の法律上の定義
1-1 障害者基本法の定義
1-2 身体障害者福祉法の定義
1-3 特別児童扶養手当等の支給に関する法律の定義
1-4 その他
第2節 盲ろう者に関連する福祉施策
2-1 身体障害者手帳の交付
2-2 在宅身体障害者のための施策
2-2-1 「障害者の明るいくらし」促進事業
2-2-2 障害者生活訓練・コミュニケーション支援等事業
2-3 重度障害者等のための施策
2-3-1 特別児童扶養手当等の支給に関する法律
2-3-2 身体障害者ホームヘルプサービス事業
2-3-3 補装具給付事業
2-3-4 重度身体障害者日常生活用具給付等事業
2-3-5 身体障害者短期入所事業(ショートステイ事業)
第3節 盲ろう者に関する社会福祉法人全国盲ろう者協会の事業
3-1 厚生省委託事業
3-2 社会福祉・医療事業団助成事業
第4節 地域の盲ろう者施策と盲ろう者組織の活動(東京都の例)
4-1 地方公共団体の施策(東京都の場合)
4-2 地域の盲ろう者福祉団体の活動(東京盲ろう者友の会の例)

第1節 盲ろう者の法律上の定義

 この節では、各種法律で盲ろう者がどのように定義されているかを述べている。

  1. 障害者基本法の定義
     同法では、「「障害者」とは、身体障害、知的障害又は精神障害…があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう」(二条)と定義され、身体障害である視覚と聴覚に障害を併せ有する盲ろう者も含まれる。
  2. 身体障害者福祉法の定義
     同法では、「身体障害者」とは、別表に掲げる身体上の障害がある十八歳以上の者であつて、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう」(四条)と定義されている。従って、視・聴覚の重複障害を有する18歳以上の盲ろう者で、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた者は、別表における視覚障害と聴覚障害とを併せ有する同法の「身体障害者」ということになる。
  3. 特別児童扶養手当等の支給に関する法律の定義
     この法律で、「「特別障害者」とは、二十歳以上であつて、政令で定める程度の著しい重度の障害の状態にあるため、日常生活において常時特別の介護を必要とする者」[二条三項]と規定され、特別障害者手当が支給されている。同法施行令では、同法二条三項に規定する政令で定める程度の著しく重度の障害の状態を定める(一条二項)。そして、この二号で、「…身体機能の障害等が重複する場合(別表第二各号の一に該当する身体機能の障害等があるときに限る。)における障害の状態であつて、これにより日常生活において必要とされる介護の程度が前号に定める障害の状態によるものと同程度以上であるもの」とあって、結果的に視・聴覚の重複障害も含まれている。
  4. その他
    (1)国民年金法その他の各種年金法や、労働者災害補償保険法その他の各種労災保険法などの社会保険制度関連法、(2)自動車損害賠償保障法、(3)生活保護法、(4)障害者の雇用促進等に関する法律、(5)所得税法、(6)原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律、(7)医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法、などの各種法令に、各法律に相応する障害とその程度の等級が規定されている。しかし概ね、視・聴覚障害が各個別に規定されているに過ぎず、盲ろうが固有に規定されている訳ではない。 このように、我が国の現行法においては、視覚障害と聴覚障害がそれぞれ別個に規定され、盲ろう者としての統一的な規定はない。これは盲ろうが、固有の障害と認識されず、福祉施策の対象者として捉えられてこなかったことを意味している。すなわち、盲ろうは、視覚障害と聴覚障害が単に重複しているに過ぎないと考えられ、独自の困難を持ち、特別の福祉サービスの提供を必要とする人々であると認識されてこなかったのである。

第2節 盲ろう者に関連する福祉施策

 ここでは、障害者に対する施策の中で、盲ろう者に関連すると思われる施策を中心に述べている。

  1. 身体障害者手帳の交付
  2. 在宅身体障害者のための施策
    (1)「障害者の明るいくらし」促進事業
    1)目的
    ノーマライゼーション(障害のある人も家庭や地域で通常の生活ができるようにする社会づくり)の理念の実現に向けて、さまざまな障害のある人が社会の構成員として地域の中で共に生活が送れるよう、また、コミュニケーション、文化・スポーツ活動等自己表現、自己実現、社会参加を通じて生活の質的向上が図れるよう、必要な社会参加促進施策を総合的かつ効果的に実施し、障害者に対する国民の理解を深め、誰もが明るく暮らせる社会づくりを促進することを目的とする。
    2)実施主体
    都道府県及び指定都市(事業の一部を都道府県障害者社会参加推進センター、障害者福祉団体等に委託することができる。)
    3)事業内容(特に盲ろう者に関連すると思われる事業のみ抜粋)
    (1)本事業の中の「2 選択事業」の【共通分野】において、次の事業は、一部の盲ろう者には利用可能である。
    〔1 情報支援〕
    (1)点字広報等発行事業
    (2)点字による即時情報ネットワーク事業
    (3)紙上交流事業
    (4)社会資源活用情報等提供事業
    〔2 生活訓練〕
    (1)生活訓練事業
    ア 歩行訓練
    イ 身辺・家事管理
    ウ 福祉機器の活用方法
    エ 社会資源の活用方法
    オ コミュニケーションに関すること(手話、点字、ワープロ、パソコン等)
    カ 家庭生活に関すること(生活設計、家族関係、育児等)
    キ 社会生活及び職業生活に関すること
    ク その他社会生活上必要なこと
    この事業の中には、通訳・介助者による通訳・介助の確保等をすることにより、盲ろう者にも利用可能なものもあると思われる。
    (2)家族教室等開催事業
    〔3 スポーツ振興等地域交流支援〕
    以下の事業の中にも、通訳・介助者による通訳・介助の確保等をすることにより、盲ろう者に利用可能なものもある。
    (1)レクリエーション教室開催事業
    ア ハイキング、キャンプ、海水浴、オリエンテーリング等の屋外活動
    イ 音楽教室、絵画教室、陶芸教室、映写会等の室内活動
    (2)文化・芸術活動振興事業
    〔4 啓発広報〕
    この事業は、未だ一般に認知されていない盲ろう者のためには、必要度のより高いものである。
    ア 啓発ポスター、パンフレット、リーフレット等の発行
    イ 講習会、講演会、学習会等の開催
    次に、【障害別分野】事業として、以下のものがある。
    〔5 身体障害者支援〕
    以下に挙げた事業は一般に、単一の視覚障害者と聴覚障害者を前提にしているが、盲ろう者でも軽度の盲難聴者、弱視ろう者、弱視難聴者や、点字の読める盲ろう者であれば、利用できる事業もある。
    (1)奉仕員等養成・派遣事業
    (1)点訳奉仕員、朗読奉仕員養成事業
    点訳奉仕員の協力内容として、「点字図書の増冊及び普及に協力する。また、市町村等からの依頼により点字による相談文書の翻訳や回答文書の作成、広報活動等に協力する」とあることから、盲ろう者独自に入手できる文字情報としての点字の有用性から、特に重要である。
    (2)要約筆記奉仕員養成事業
    要約筆記奉仕員の協力内容として、「市町村等からの依頼により、中途失聴・難聴者等の意思伝達を仲介するとともに、大会等の場において、講演内容等を頭上投影機(OHP)などを使用して要約筆記するほか、広報活動等に協力する」とあることから、(中途からの)弱視ろう者・弱視難聴者等にも関連する事業である。
    (3)要約筆記奉仕員派遣事業
    派遣対象者は、適当な意思伝達の仲介者が得られない聴覚障害者等で、実施主体が必要と認めた者であり、聴覚障害者等には、弱視ろう者・弱視難聴者も含まれると思われる(以下同じ)。
    (4)手話奉仕員養成事業
    (5)手話通訳者養成事業
    (6)手話奉仕員派遣事業
    (7)手話通訳者派遣事業
    (2)手話通訳設置
    (3)外出介護員(ガイドヘルパー)ネットワーク事業
    この事業は、軽度の盲難聴者などには利用可能と思われる。
    (2)盲ろう者を対象とした事業は、この「障害者の明るいくらし」促進事業の中の「3 特別事業」にある。また、この特別事業の中の聴覚障害者関連事業は、弱視ろう者、弱視難聴者も対象となる。
    (1)盲ろう者通訳・ガイドヘルパー養成事業
    「盲ろう者通訳・ガイドヘルパー指導者研修会」(国立身体障害者リハビリテーションセンター学院主催)や「盲ろう者向け通訳者養成研修会」(社会福祉法人全国盲ろう者協会主催)の研修会を修了した者を活用して、盲ろう者の自立と社会参加を図るため、訪問介護員(ホームヘルパー)、身体障害者更生施設職員等を対象に盲ろう者通訳・ガイドヘルパーの養成・研修を行う事業
    (2)手話通訳者特別研修事業
    (3)手話通訳者派遣ネットワーク事業
    この事業は、弱視ろう(難聴)者など手話を解し得る盲ろう者に利用可能と思われる。
    (2)「障害者生活訓練・コミュニケーション支援等事業」
    平成12年度より、「障害者が地域で自立した生活を送る上で、生活訓練、コミュニケーション手段の確保及び移動を支援することは極めて重要であることから、「障害者の明るいくらし」促進事業において現に行われているメニュー事業のうち、生活訓練事業、…点字による即時情報ネットワーク事業、奉仕員等養成・派遣事業、手話通訳設置事業…を「障害者生活訓練・コミュニケーション支援等事業」として新たに位置付け、より一層の推進を図ることとした」(注2)。
    この事業の中で、盲ろう者に対する施策として、新たに通訳・介助員の派遣等を試行的に行う「盲ろう者向け通訳・介助員派遣試行事業」が実施される。
    1)実施主体
    都道府県及び指定都市(ただし、事業の一部を障害者福祉団体等に委託することができる)において試行的に実施。
    2)実施内容
    重度盲ろう者の自立と社会参加を図るため、コミュニケーション及び移動等の支援を行う盲ろう者向け通訳・介助員を派遣する事業を試行的に行う事業 派遣対象者は、実施主体が必要と認めた重度盲ろう者。
    なお、本事業は、社会福祉法人全国盲ろう者協会が社会福祉・医療事業団の長寿社会福祉基金により行う「盲ろう者在宅福祉推進事業」の対象者と重複しない形で実施される。
  3. 重度障害者等のための施策
    (1)特別児童扶養手当等の支給に関する法律
    在宅の重度障害者に対し、その重度の障害ゆえに生ずる特別の負担の一助として手当てを支給することにより重度障害者の福祉の向上を図ることを目的に、盲ろう者にも特別障害者手当が支給されている。
    1)実施主体
    都道府県・市及び福祉事務所を設置する町村
    2)内容
    (1)特別障害者手当
    対象は、20歳以上で、政令で定める程度の障害の状態にあるため、日常生活において常時特別の介護を必要とするような在宅の重度の障害者で都道府県知事・市長及び福祉事務所を管理する町村長の認定を受けた者とされ、視・聴覚の重複障害者も含まれる。
    (2)福祉手当(経過措置分)
    改正法施行の際、20歳以上の従来の福祉手当受給資格者であって、特別障害者手当等又は障害基礎年金の支給を受けることができない者については、引き続き支給要件に該当する間に限って従来通り福祉手当を支給する。
    (2)身体障害者ホームヘルプサービス事業
    日常生活を営む上で支障のある身体障害者に対し、適切な家事、介護等日常生活の世話及び外出時の付き添いを行うことにより身体障害者の生活の安定に寄与する等その援護をはかることを目的とする。
    1)実施主体
    市町村(市町村社会福祉協議会等に業務委託することができる)。
    2)派遣対象
    (1)家事・介護等
    重度の身体上の障害等のため、日常生活を営むのに支障がある身体障害者であって、入浴等の介護、家事等の便宜を必要とする者
    (2)外出時の付き添い
    重度の視覚障害者等で、市町村、福祉事務所等公的機関、医療機関に赴く等社会生活上外出が必要不可欠なとき及び社会参加促進の観点から実施主体が特に認める外出をするときにおいて、適当な付き添いを必要とする場合。
    (3)処遇内容
    ア 家事・介護
    入浴、排泄、食事等の介護、被服の洗濯・補修、住居等の掃除・整理整頓、生活必需品の買い物、通院介助、その他必要な用務
    イ 相談・助言指導
    各種援護制度の適用、生活・身上等に関する相談・助言指導等
    ウ 外出時の付き添い
    家事・介護に関する業務の一環として行われる外出時の付き添いを除く。
    (3)補装具給付事業
    補装具は、身体障害者の職業その他日常生活の能率の向上を図ることを目的として給付される。
    1)実施主体
    市町村(特別区を含む)(福祉事務所長に委任可能)
    2)実施内容
    補装具の交付、修理等
    市町村長は、眼鏡(色めがね、矯正眼鏡、コンタクトレンズを除く。)、補聴器に関する身体障害者からの補装具交付・修理申請があるときには、この交付の要否及び処方について給付判定の手続をする。
    なお、盲人安全つえ、色めがね、点字器の交付及び修理に際しては、判定を要せず、また、義眼、矯正眼鏡、コンタクトレンズの交付及び修理に際しては、補装具交付・修理申請書等で判定できる場合には、判定を要しない。
    4)費用の徴収
    市町村長は、当該身体障害者又はその扶養義務者から、その負担能力に応じた費用を徴収する場合がある。
    (4)重度身体障害者日常生活用具給付等事業
    在宅の重度身体障害者に対し、日常生活の便宜を図るため、身体障害者の浴槽、便器等の日常生活用具の給付または貸与を行う。
    視覚障害者用ワードプロセッサを点字図書館及び身体障害者福祉センターに設置し、共同利用を行う。
    18歳未満の者については児童福祉法21条の10で規定。
    1)実施主体
    市町村(特別区を含む)。
    2)費用徴収
    (1)給付:補装具の例により費用の徴収がある。直接業者に払い込む。
    (2)貸与:無償
    (3)共同利用:利用に要する実費は負担
    3)日常生活用具の種目及び性能
    (1)視覚障害者用
    盲人用テープレコーダー、盲人用時計、盲人用タイムスイッチ、盲人用カナタイプライター、点字タイプライター、盲人用電卓、電磁調理器、盲人用体温計(音声式)、盲人用秤、点字図書、盲人用体重計、視覚障害者用拡大読書器、歩行時間延長信号機用小型送信機
    以上の外、視覚障害及び聴覚障害の重度重複障害者(原則として視覚障害2級以上かつ聴覚障害2級)の身体障害者であって、必要と認められる者(要するに重度盲ろう者)に対し、コンピュータ用の点字ディスプレイが加えられた。
    (2)聴覚障害者用
    聴覚障害者用の屋内信号装置、通信装置、文字放送デコーダー、福祉電話(貸与)、ファックス(貸与)
    (3)共通(身体障害者福祉法による等級2級以上のもの)
    火災警報機、自動消火器、緊急通報装置(一人暮らしの重度身体障害者)
    (5)身体障害者短期入所事業(ショートステイ事業)
    重度身体障害者を介護している家族等が、疾病等の理由等により居宅における介護が出来ない場合に、重度身体障害者を一時的に身体障害者更生援護施設へ保護する。
    1)実施主体
    市町村(事業の一部を社会福祉法人等に委託することができる)
    2)対象者
    在宅の重度身体障害者(訓練的理由による場合は、家族等介護者を含む)
    3)実施施設
    あらかじめ市町村長が指定した身体障害者更生施設、身体障害者療護施設及び身体障害者授産施設
    4)保護の要件
    家族等の社会的理由、私的理由により一時的に保護する必要があると市町村長が認めた場合、及び重度身体障害者に対し機能訓練等を、介護を行う者に対しては介護技術等を習得させることにより、在宅介護の質の向上に資すると市町村長が認めた場合。
    (1)社会的理由
    疾病、出産、冠婚葬祭、事故、災害、失踪、出張、転勤、看護、
    学校等の公的行事への参加。
    (2)私的理由
    (3)訓練的理由
    対象となる障害者を入所させ日常生活動作訓練及び介護の受け方等を指導すると同時に、介護を行う者に対しても宿泊を含む介護実習を行う。

第3節 盲ろう者に関する社会福祉法人全国盲ろう者協会の事業(注3)

  1. 厚生省委託事業
    盲ろう者やその通訳・介助者等からの日常生活相談等各種相談に応じ、助言や情報の提供等を行う事業
    (2)盲ろう者向け通訳者養成研修事業
    盲ろう者の自立と社会参加に欠くことのできない通訳・介助者(盲ろう者向け通訳者)の養成研修を行う事業
    (3)障害者情報ネットワーク端末機等整備事業(平成11年度補正予算による)
  2. 社会福祉・医療事業団助成事業
    (1)訪問相談・通訳派遣事業(平成12年度より、盲ろう者在宅福祉推進事業)
    利用登録のあった(単独での外出や会話が困難な)重度盲ろう者(身体障害者手帳1級2級)に対し、「訪問相談利用券」を交付すると共に、訪問相談員を派遣し、移動等の介助及び各種コミュニケーションの支援等を行うことにより、重度盲ろう者の自立と社会参加を促進する事業
    1)目的
    重度盲ろう者に対し、訪問相談員(同協会登録の通訳・介助者)を派遣し、生活・更生の相談に応じる外、コミュニケーション方法支援、外出時通訳・介助に当たり、盲ろう者の社会参加の促進を図る。
    2)提供内容
    ア 生活・就業・就学等の相談
    イ 手書き文字・手話・点字・指点字・指文字等での対話、読み書き手段の習得訓練支援
    ウ コミュニケーション支援(新聞、お知らせ、手紙等の代読、電話介助、代書等)
    エ 通院・通所・買い物・官公庁への届け出等の外出時における通訳・介助
    (2)盲ろう者対話能力開発事業(平成12年度より、盲ろう者向け通訳ボランティア全国研修事業)
    全国各地域の盲ろう者及び通訳・介助者(訪問相談員)等が一堂に会し合同講習会(全国盲ろう者大会(毎年1回開催))を開催し、情報交換や通訳方法の訓練を行うことにより、盲ろう者及び訪問相談員相互の交流を深めると共に、盲ろう者の対話能力の向上を図る事業
    平成12年度新たに、盲ろう者向け通訳・介助者の資質の向上を図るため通訳・介助に必要な知識・技術等についての研修及び通訳介助・相談活動に関する諸問題についての研究・討議や情報交換を行うこと等を目的とした研修会を開催する予定。
    (3)盲ろう者専門紙発行事業
    盲ろう者の専門紙『コミュニカ』を発行して盲ろう者同士の情報交換のための資料提供をすると共に、賛助会員・障害者関係諸機関等に配布し、盲ろう者の置かれている現状等について理解を図る事業
    (4)盲ろう者福祉啓蒙事業
    各都道府県(市)障害福祉担当課、身体障害者福祉関係団体、身体障害者更生援護施設、ボランティア・センター、各地域の盲ろう者友の会(以下、「友の会」)等に同協会職員等を派遣して、家庭等に閉じ篭りがちな盲ろう者に関する情報の収集等を行うと共に、友の会の設立や活動の支援を行う事業
    (5)友の会活動支援事業
    各地域友の会及び準備会の重度盲ろう役員に対して、公用利用券を交付して役員活動を支援することにより、友の会活動の一層の活性化を図る事業
    (6)友の会指導者等研修事業
    平成12年度新たに、地域における盲ろう者の福祉活動の拠点である友の会の指導者等について、各種相談指導及び連絡・調整等、友の会業務に必要な知識、技術等についての研修や情報交換を行い友の会活動の充実を図ることを目的とした研修会を開催する予定。
    (7)盲ろう者に対する介護保険制度の普及・啓発事業
    平成12年4月の介護保険制度の開始を前にして、制度の普及・啓発を図るため全国の盲ろう者及びその家族等に向けて『介護保険と盲ろう者(Q&A)』を作成配布。

第4節 地域の盲ろう者施策と盲ろう者組織の活動(東京都の例)

  1. 地方公共団体の施策(東京都の場合)
    各地の地方公共団体でも、盲ろう者友の会のような地域の盲ろう者福祉団体の協力の下に、盲ろう者に対する施策を講じている。
    ここでは、東京都の例を挙げておく(注4)。
    1)目的
    「盲ろう者のコミュニケーション及び移動の自由を確保し、その社会参加を促進するため、盲ろう者に対して通訳者を派遣し、もって盲ろう者の福祉の増進を図ることを目的とする」
    2)派遣対象者
    都内在住の盲ろう者(視覚障害と、聴覚又は言語障害を重複してもつ重度の身体障害者(児)で、身体障害者手帳を所持する者)で、予め通訳派遣事業を行う団体(東京盲ろう者友の会)に登録した者
    3)内容
    通訳者による通訳及び盲ろう者の外出時の付添い
    通訳派遣事業実施団体により、当該事業の円滑な実施を図るため、
    ア 盲ろう者に対するコミュニケーション方法の講習
    イ 通訳者のコミュニケーション技術の向上のための講習
    ウ 盲ろう者に関する広報及び普及・啓発活動
    エ その他通訳派遣事業の円滑な実施のために必要と認められる事業
    4)事業の実施方法
    都は、通訳派遣事業実施団体で、事業を適切に行う能力を有すると認めた団体に対し、予算の範囲内で、事業経費の一部を補助。
  2. 地域の盲ろう者福祉団体の活動(東京盲ろう者友の会の例)
    主に都道府県単位で盲ろう当事者とその支援者の団体(盲ろう者友の会と総称)の活動が活発になり、盲ろう者福祉に大きく寄与してきている。
    ここでは、東京盲ろう者友の会の事業を紹介する(注5)。
    (1)通訳・介助者派遣事業(東京都補助事業)
    1)-1 通訳・介助者派遣事業(登録通訳・介助者)
    通訳・介助者派遣の利用登録を行った盲ろう者に対し、登録通訳・介助者を派遣して、通訳・介助を行う。
    2 通訳・介助者派遣事業(専従職員)
    何らかの理由により登録通訳・介助者を派遣出来ない場合、専従職員を派遣して、通訳・介助を行う。
    3 通訳・介助者のコーディネート
    通訳・介助者派遣の利用登録を行った盲ろう者に対し、通訳・介助者のコーディネートを行う。
    2)通訳・介助者養成講習会事業
    登録通訳・介助者数を増やすための講習会を開く。
    3)盲ろう者向けコミュニケーション方法習得講習会事業
    都内在住盲ろう者が、より効果的に通訳・介助者派遣事業を利用出来るように各種コミュニケーション方法の個人指導を行う。
    4)広報・啓発事業
    盲ろう者に関する広報・啓発のため、関係諸機関への呼びかけ等を行う。又、派遣事業に関するニュースレターを作成し、関係者に配布する。
    5)ブリスタ貸出し事業
    都内在住盲ろう者が、より効果的に通訳・介助者派遣事業を利用出来るように、盲ろう者のコミュニケーション方法の一つである「ブリスタ(速記用点字タイプライター)」を、必要とする盲ろう者、及び団体に貸し出す。
    (2)盲ろう者向け更生援護事業(財団法人東京都地域福祉財団「地域福祉振興事業」助成事業)
    1)盲ろう者の実態把握と盲ろう者情報提供事業
    ・東京都、及び都内区市町村、各社会福祉協議会等関係諸機関の協力を得ながらの盲ろう者把握と情報提供を行う。
    2)盲ろう者向け各種相談事業
    ・盲ろう者宅に職員、会員、盲ろう者役員等を適宜派遣し、カウンセリング、ピアカウンセリングを行う。
    ・盲ろう者に関する相談を受け付け、アドバイスや適切な関係機関の紹介をする。
    3)盲ろう者の日常的情報処理能力の形成を目指す事業
    ・盲ろう者向け対話能力開発講習会
    主に新たに把握した盲ろう者に対して、個別のニーズに合わせながらコミュニケーション能力向上のための訓練や盲ろう者に関する情報提供等を行う。
    4)盲ろう者に集団的学習の場を提供する事業
    ・盲ろう者向け手話教室
    5)盲ろう者の社会参加促進事業1
    ・盲ろう者向けミニ交流会
    6)盲ろう者の社会参加促進事業2
    ・盲ろう者交流会及び、1泊研修会
    7)盲ろう者の社会参加促進事業3
    ・サポート、サービスのコーディネート。ケアマネージメント。
    ・交流会行事への参画
    交流会の司会やその他行事の立案に参画する。
    ・対外行事への参画
    友の会で毎年参加している「耳の日記念文化祭」(東京都聴覚障害者連盟主催)について、計画立案から実施まで担当する。
    ・事業部員経験
    友の会事業部員として、活動に参加、発言するなどの経験を積む。
    8)盲ろう者の家族に対する支援事業
    ・盲ろう者の家族の集い
    盲ろう者の家族が集まり、話し合いや情報交換等を行う。

二 都道府県・政令市における盲ろう者に対する施策の実施状況に関する調査について

 昨年度に引き続き、「平成12年度厚生科学研究費補助金 (障害保健福祉総合研究事業)盲ろう者に対する障害者施索のあり方に関する研究」の一環として、都道府県と12政令市において盲ろう者に対してどのような施策が実施されているかについて、その状況を調査した。今年度より、国の「盲ろう者向け通訳・介助員派遣試行事業」が、秋田、福島、東京、石川、兵庫、神戸の6都県市で実施されることになったからである。
各都道府県市の障害者福祉担当課に電話して調査したところ、現に行われている盲ろう者施策は概ね、通訳・介助者の養成及び派遣又はその何れかである。実施方法としては、新たに事業を立ち上げる場合と、従来からのガイドヘルパー事業などで対応する場合とがある。
実施状況は、次のとおりである。

都道府県市 養成 派遣
秋田
福島
栃木 -
埼玉 -
東京
神奈川 -
石川
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三 視覚障害者等の参政権(特に選挙権)を巡る問題点とその解決に向けた提言について

 視覚障害者や盲ろう者の参政権、特に選挙権の行使を巡る問題点とその解決に向けた提言について検討し、雑誌に掲載した(注6)。内容は概ね、次の通りである。 日本国憲法により全ての国民に参政権が保障されながら(十五条など)、様々な心身の障害ゆえに、参政権、特に選挙権の行使が阻害されている実情があり、その十全な保障のための取り組みが急がれなければならない。
本稿は、視覚障害者が抱える、選挙権の行使における問題点の抽出と、できればその解決への提言を試みようとするものである。私は、自身が全盲であり、また、盲ろう者施策のあり方についての研究に関わっていることから、その立場で本稿において論じた。
1 参政権概観
人間は基本的人権を生まれながらに有することを妨げられない(憲法十一条)。人権は、人間が人間として当然に享受すべき利益即ち権利である。そしてそれは、人種、性、身分はもとより、障害の有無などの区別にかかわりなく、人間であるという、ただそれだけで当然に全て享有できる権利である。憲法は、個人の尊厳を国政上、最大限に尊重すべきものとし(十三条)、各個人が法の下に平等であることを踏まえて(十四条)、三章で、自由権・社会権・参政権などの各種人権を確認し、保障している。
また憲法は、国民主権原理を基礎とするが(前文、一条、十五条一項など)、それは国民自らが国政のあり方の最終決定権を有するということである。つまり、表現の自由や職業選択の自由のように個人の自由な意思決定と活動とを保障する自由権も、生存権や教育を受ける権利のように人間らしい生活を営めるよう国家に積極的配慮を求める社会権も、その確保・実現には参政権が、重要な役割を果たす。すなわち、人間らしい生活を営むには、善い政治が行われなければならないが、そのあり方の最終的な決定は、国民自らの手に委ねられているということである。「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」(十二条)とあるが、国民主権、即ち民主主義も、参政権を不断に行使してこそ具現化するのである。
参政権は、具体的には、選挙権・被選挙権に代表されるが、広義には、憲法改正の際の国民投票、最高裁判所裁判官の国民審査の権利を含み、更には、公職(公務員)に就く権利(公務就任権)も含む。 選挙権に関して、歴史的には、自由・公正な選挙の実現のためにいくつかの諸原則が採用されてきた。瞥見すれば、(1)普通選挙〔納税額や財産、性別などを選挙権の要件としない選挙(憲法十五条三項、四四条)〕、(2)平等選挙(一人一票でその価値を平等とする選挙)、(3)自由選挙(投票するか否かは自由で、棄権しても制裁を受けない選挙)、(4)秘密選挙〔誰に投票したかを秘密にする選挙(十五条四項)〕、(5)直接選挙〔選挙人が公務員を直接選ぶ選挙(九三条二項など)〕である。
これらは選挙制度の諸原則であるが、選挙権保障の上でも重要である。例えば、障害者と選挙権という見地から言えば、障害故に実質的に投票の機会が奪われ、選挙権の行使が妨げられていれば、普通選挙の原則に抵触する。点字投票が少数であるが故にその秘密が害されれば、それは秘密選挙の原則に触れることになるのである。 以上のことを前提として、現行選挙制度を検討した。
先ず第一に、選挙が始まれば(そもそも選挙があるということの情報を含めて)、情報障害者とも言われる視覚障害者には、選挙情報入手の困難が問題となる。特に盲ろう者の場合、情報入手が非常に困難なので、重大な問題となる(注7)。第二に、投票所への行き帰りと投票所内での行動、それができない場合の代替措置について、特に盲ろう者は、その行動に困難を伴う場合が多いので、問題となる(注8)。第三に、点字投票は特徴的で少数なので、その秘密が確保されているかの不安が付きまとう。
2 選挙情報の入手
(1)選挙実施情報
一般的には、選挙があることについて、視覚障害者がこのような情報を得ることは、マスコミ報道や日常会話などを通して可能であり、さほど困難を感じない。また、東京都などでは、選挙になると送られてくる投票所入場券上に入場券である旨の点字シールが貼付されている例もある。
しかし、目も耳も不自由な盲ろう者で、特に全盲ろうの状態にある人は、情報摂取が非常に困難であり、一人暮らしの場合の他、突然中途で盲ろうになった直後のように手話や点字などのコミュニケーション手段の獲得が不充分で、家族との会話すらままならないような人の場合には、選挙のあることすら伝わらないことが考えられる。
(2)選挙公報等による選挙情報の入手
選挙においては、どの候補者や政党に投票するかの正確な判断を下すために、候補者の政見や政党の公約などの情報(ここでは選挙情報という)の入手が必須である。一般には、街頭宣伝、マスコミ報道やテレビ・ラジオの政見放送、選挙公報、選挙ポスター掲示、演説会への参加などにより、選挙情報を入手することができる。
視覚障害者において特に問題なのは、活字選挙公報と同内容の点訳・音声化(以下、点訳等)による公報が公的に保障されていないことである。地域によっては選管の判断で、民間の視覚障害者関連施設・団体作成の「お知らせ」などを買い上げて公報の代わりに配布しているところもある。しかし、選挙期間の短縮や、仮名文字体系の点字にするための固有名詞読み下しの困難な作業などにより、点訳等は、候補者名や略歴に留まり、肝心な政見や公約が省略されているのが実情である。
これは、公職選挙法一六九条二項などにより、候補者等の提出した文面を「原文のまま」公報に掲載することとされ、方法として写真製版によるとされているためである(注9)。法文の「原文のまま」を素直に読めば、図や写真は別として、掲載文を内容忠実に掲載せよということで、点訳等の公報の未保障は、行政側の不当な限定法解釈に負うところが大きいように思う。 そこで、候補者等に点訳等に配慮した掲載文の提出を法的に求めると共に、点訳等を前提にした公報作成指針を策定する必要がある。すなわち、短期間での点訳等を実現するため、ルビ付けの義務付けや(注10)、図・写真などへの対処指針の設定などである。また、選挙民への選挙情報の十全な提供の見地からも、選挙の短期間化の見直しも必要ではなかろうか。また、盲ろう者への公報読み上げのため通訳者を派遣するなどの施策の充実が必要である。
他に、個人や政党の演説会への参加を容易にするために、単独歩行が難しい視覚障害者に対する介助支援員(ガイド・ヘルパー)、盲ろう者に対する通訳・介助員の派遣などの施策の充実も図られる必要がある(注11)。
3 投票のための移動その他投票環境の整備とその代替措置
(1)投票のための移動、その他の投票環境の整備
(1)投票所への移動
「選挙人は、選挙の当日、自ら投票所に行き、…投票をしなければならない」(公職選挙法四四条一項)というのが、原則である。そこで、単独歩行の困難な中途失明者や盲ろう者の投票所への移動の保障が、問題となる。
a 投票所への移動に区市町村の介助支援員は利用できるか?
介助支援員(ガイド・ヘルパー)について、旧厚生省は、常時通勤通学以外の制限は設けていないようである(注12A)。しかし、実施主体である地方自治体では、「病院や公共施設」に限ったり、平日の九~五時に限ったりしているところが多いため、事実上投票所への送迎は実施されていない(注12B)。用務目的による限定をしていない以上、投票所への移動のための利用は可能なので(注12C)、そのための自治体の取り組みが必要である。
b かつて投票所に出入し得る者は、選挙人、投票事務従事者・所内監視職員などに限られていたため、盲ろう者の通訳者の同行が可能かが、一応問題となる。しかし近年、法改正により「選挙人とともに投票所に入ることについてやむを得ない事情がある者として投票管理者が認めたもの」(公職選挙法五八条但し書き)の出入が可能となったので、通訳者がこれに該当すると判断されれば、同行できることになった(旧自治省行政局選挙管理課)。
(2)投票環境の整備
a 弱視者に対しては、投票所内における候補者等の掲示や、複数の選挙が同時になされる場合の投票箱の区別、選挙ではないが最高裁判所裁判官の審査用紙の裁判官名の読み難い場合の配慮なども、考えなければならない。現在選管によっては、便宜供与の一環として、拡大鏡の用意などがなされているようである。しかし、今後高齢者の増加などにも鑑み、画像拡大器を各投票所に一台は設置すべきだと考える。その場合、衝立など投票の秘密保持のための配慮が、より徹底される必要がある。
また、現在点字投票者が点字候補者一覧を参照できるように、大活字でも同じような物を用意すべきである。
b 選挙の投票ではないが、国民審査では現在、一般には「審査人は、投票所において、罷免を可とする裁判官については、投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に自ら×の記号を記載し、罷免を可としない裁判官については、投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に何等の記載をしないで、これを投票箱に入れなければならない」(最高裁判所裁判官国民審査法十五条一項)。他方、「点字による審査の投票を行う場合においては、審査人は、投票所において、投票用紙に、罷免を可とする裁判官があるときはその裁判官の氏名を自ら記載し、罷免を可とする裁判官がないときは何等の記載をしないで、これを投票箱に入れなければならない」(十六条一項)。このように、点字投票者には、罷免を可とする裁判官がある場合、場合によっては一五人全員の氏名をわざわざ書かせられるという一方的負担が課されている。これは、点字を書く音がすれば罷免者があり、全員罷免を可としない訳ではないことが、周囲の人に判るというように、「白票の自由」が害される不利益にもつながりかねない。この点も、審査のための記載の省力化と秘密の確保のため、何らかの是正を考えるべき時がきているように思われる。
その解決のための一案としては、審査用紙に点字で被審査裁判官名とその傍らに消すべき記号を付し、罷免を可とする場合は、その記号を指で消す方法である。ただこの方法では、触読の不得意な人や糖尿病などで指先麻痺の人の場合には適さず、そのための配慮が必要となる。この場合はやはり、点字が書けない中途失明者などと同様、「身体の故障又は文盲により、自ら当該選挙の公職の候補者の氏名(等=筆者)を記載することができない選挙人」として、代理投票をしてもらう他ないと考える。
(2)投票所での投票ができない場合の代替措置
「選挙人で身体に重度の障害があるもの(重度肢体不自由者など=筆者)の投票については、…その現在する場所において投票用紙に投票の記載をし、これを郵送する方法により行わせることができる」(公職選挙法四九条二項)。これは、投票所での投票原則(四四条一項)の例外である。しかしこの場合、点字投票や代理投票が認められていない(公職選挙法施行令五九条の三第一項括弧書、五九条の五)。そうすると、肢体不自由の点字使用者や独居で点書すらできない盲ろう者は事実上、選挙権の中核をなす投票の機会を奪われることになり、不当である(注13)。
点字投票を認めないのは、郵送用の封筒等への署名を点書できないからという理由のようだが(注14A)、「不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所において行う」不在者投票(四九条一項)ではこのような制限はなく、それとの不均衡を否めない。しかも、点字署名の有効性は、すでに地方自治法上の直接請求でも認められており、失当である。また、代理投票を認めないのは、不正投票の防止ということだが(注14B)、公務員的身分の郵便集配人を代理投票者にすることで、この点は解決できないだろうか。現に視覚障害者家庭への郵便物収集が行われており、それを利用できると考える。
4 点字投票の秘密の保障
(1)視障者の選挙権行使の中核とも言うべきものが、点字投票である(公職選挙法四七条)。しかし点字投票は、著しく特徴的で、また少数であるため、投票の秘密の侵害の危惧が付きまとう。私の周囲の視覚障害者の多くが、その懸念を抱いている。例えば、前述したように、点書音の有無で白票か否かが投票所係員や他の選挙人に判るのでは? といった具合である。
これについては、選挙事務担当職員(公務員)には守秘義務がある〔公職選挙法二二七条(投票の秘密侵害罪)〕。しかし、他の選挙人との関係では問題が残る。
(2)点字投票の開票と秘密保持
点字投票者の中には、開票で用紙を読むのは誰か、少数だけに不安だという声がある。点字の読める自治体職員の場合の他、「解読者」として盲学校教員、視覚障害者施設・団体職員などに委嘱する場合もあるという。投票の秘密の保障の見地からは、守秘義務の課される自治体職員であるべきだが、人事異動や急な選挙への対応などから、やむなく私人に委嘱する場合も多いという。
問題は、私人には守秘義務が及ぶかである。これに対し、「解読者」は委嘱により臨時的に選挙事務職員(公務員の地位取得)となるが故に、秘密侵害罪の主体となり得るというのが、行政側の回答である(旧自治省行政局選挙課)。しかしやはり、日頃から自治体職員には最低限、点字表と照らし合わせながらでも点字が読める研修などが欠かせないのではなかろうか。また、やむを得ず私人に「解読」を委嘱する場合にも、守秘義務の説明の徹底や誓約書の取り交わしなど、点字投票者の懸念の払拭のための措置が必要だと考える。

(注1)拙稿「第一章 我が国における盲ろう者に関する現行の法と制度」『平成11年度厚生科学研究費補助金 (障害保健福祉総合研究事業)盲ろう者に対する障害者施索のあり方に関する研究 報告書』(主任研究者 寺島彰 )1-22頁。
(注2)全国厚生関係部局長会議資料障害保健福祉部
http://www.mhw.go.jp/topics/h12-kyoku_2/syogai-h/tp0119-1.html
(注3)社会福祉法人全国盲ろう者協会・『協会だより』10号(平成12年6月18日)「平成11年度事業報告の概要」、同・「訪問相談事業のご案内(訪問相談員用)」等より。
(注4)東京都盲ろう者通訳派遣事業運営要綱(平成8年4月1日施行)
(注5)東京盲ろう者友の会・通訳・介助者派遣事業実施要綱、同・通訳・介助者派遣事業事業計画書・更生援護事業事業計画書より。
(注6)拙稿「視覚障害者等と参政権 選挙権を中心に」『福祉労働』第88号33-41頁、現代書館。
(注7)福島智『盲ろう者とノーマライゼーション 癒しと共生の社会を求めて』53頁以下、明石書店。
盲ろう者は、視・聴覚の重複障害の故に、コミュニケーション、情報摂取、移動の困難を抱えている。
(注8)前注参照。
(注9)旧自治省行政局選挙課の話。しかし、公職選挙法一六九条二項には「都道府県の選挙管理委員会は、…掲載文又はその写しを、原文のまま選挙公報に掲載しなければならない。」とのみ規定され、写真製版の方法は、政令以下に規定されているのである。
(注10)市民がつくる政策調査会「政治参加のバリアフリー」検討プロジェクト『第一次提言「障害者・高齢者等の参政権」現状の課題と提案 政治参加のバリアフリー化に向けて』11頁、市民がつくる政策調査会。
(注11)後注参照。
(注12)A及びCは、旧厚生省障害保健福祉部障害福祉課身体障害福祉係の話。Bは、堀利和参議院議員事務所(民主党)の話。
(注13)在宅投票制度訴訟に関する札幌地裁小樽支部判決、昭和四十九年十二月九日、「訟務月報」二一-一-七、札幌高裁判決、昭和五十三年五月二十四日、「高等裁判所民事判例集」三一-二-二三一等参照。
(注14)Aは旧自治省行政局選挙課の話。Bは前掲(注10)『提言』33頁。

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