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図書館における視覚障害者等へのサービス充実のための調査研究報告書

研究の概要と提言

(財)日本障害者リハビリテーション協会 情報センター長
河村 宏

はじめに

 「図書館における視覚障害者等へのサービス充実」をテーマとする当調査研究委員会は、平成14年9月に発足し、10回の委員会を重ねて報告書をまとめた。報告書がこのような形でまとめられたのは、ひとえに公務ご多忙な中を委員会活動に参加された委員諸氏のおかげである。

 ここで、この報告書は図書館における情報通信基盤の整備の促進を前提条件としてまとめられていることに一言ふれておきたい。図書館が知識と文化を共有するという本来の機能を果たすためには、都市や建築物と同様に、不断の改良と共に、時には根本的なデザインの再検討が必要である。国連が本年12月に世界情報社会サミットを開催するのは、情報をめぐるギャップが途上国を含めて世界中で深刻な問題を引き起こしているためであり、問題解決のための国際的な行動計画を早急に確立し、取り組みを進めるためである。

 デジタル・ディバイドをデジタル・オポチュニティーに転換するという今日国際的に認められている目標を最初にグローバルに宣言したのは、G8の沖縄サミットである。日本政府は沖縄憲章と呼ばれる新戦略を国際的には常に主張してきたが、いよいよ内政においてもそれを実践することが急務となっている。

 デジタル・オポチュニティーを実現するための情報通信基盤の整備がこの報告書の大前提であるので、現在貧弱な情報インフラしかもっていない図書館においても、要員研修と施設整備等の必要な基盤整備は行われうるという立場で調査・研究は進められた。

 また、文部科学省「今後の特別支援教育の在り方について」(最終報告)で明らかにされた「特別の支援」は学校教育のみならず生涯学習においても考察されなければならない。視覚障害者等について委託された今回の調査研究においては、同報告の「中間報告」を参照しつつ「等」の内容に注意を払った。

 以上の前提に立って調査・研究を進めた結果、視覚障害者等へのサービス充実の要は、国際的な趨勢と同様に、マルチメディアDAISY図書の開発と活用であることがあきらかになった。

調査研究の概要

(1) 調査研究委員会の開催

 有識者から構成される調査研究委員会を10回開催して研究討議を行い「報告書」を作成した。

(2) マルチメディアDAISY図書製作講習会の実施。

 マルチメディア図書製作講習会を3回(大阪および東京2回)実施し、マルチメディア図書製作の手順、作業量、難易度等の評価を行った。3名の委員も自ら参加して製作技術を習得、評価に参加した。結論として、各図書館において閲覧用のパソコンの整備とともに、製作講習の機会を各図書館のボランティアグループに提供すること、重複製作を排除して計画的にDAISYコレクションを充実させることが重要という点で参加者の意見が一致した。ただし、出版社が自らDAISYで出版するのが理想である。

(3) マルチメディアDAISY図書サンプルの製作・評価

 著者の協力を得られた2タイトル(『ゲーム』、『ユビキタス・コンピューティング』)を製作し、ディスレクシア等学習障害当事者の利用にかかわる評価を実施し、特にディスレクシアの評価者から極めて強い支持を得た。

(4) 外国人有識者の招聘

 DAISYコンソーシアムからインガー・B・ベックマン女史(スウェーデン国立録音点字図書館)およびジョージ・カーシャー氏(アメリカ: Recording for the Blind and Dyslexic)の2名の講師の派遣協力を受けて視覚障害および学習障害へのDAISYによる図書館の対応について実情把握を行い、講演会も開催した。また、知的障害者および教科書への対応の動向についてアメリカから該当分野の専門家であるメイヤー・マックス氏を招聘し、共同討議を行った。

提言

 マルチメディアDAISY図書は、視覚障害者およびそのほかの特別な支援を必要とする人々の読書を支援できる可能性を秘めていることが確認された。スウェーデンとアメリカにおいては、教科書の標準フォーマットとすることも含めてDAISY図書の提供によって障害者と高齢者の読書支援の問題を解決しようといている。

 DAISY図書の製作と閲覧の試行を行った結果、現在の技術でも、DAISY図書が図書館のサービスとして提供されれば、視覚障害者等の読書環境は飛躍的に改善されることが確認された。

 著作権法等の法整備も視野に置き、利用者のニーズに沿ったDAISY図書による図書館サービスの先導的試行に早急に着手して、全国的な展開の準備を進めることを提言する。