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平成17年度 マルチメディアDAISY図書製作普及事業 総括報告書

モニタリング調査結果 マルチメディア図書デイジー体験会報告
新作「はなさかじい」と「ねずみのよめいり」を携えて

濱田 滋子(奈良デイジーの会)

此の度、NPOファームと奈良YMCAのご協力のもと、「奈良ファーム・感覚統合療育教室」と、「らぽーる 学習サポートクラス」のこども等と、その保護者や関係者の方々にマルチメディアデイジー図書(以下デイジー図書と略す)を体験してもらう機会を得た。ニーズのありそうなこどもや関係者のデイジー図書への感想を聞くのが目的である。丁度、日本障害者リハビリテーション協会により新しく「はなさかじい」と「ねずみのよめいり」が製作され、その感想を聞くよい機会にもなったので、併せてここに報告をする。

体験してもらったこどもたちは3歳~17歳と幅があり(詳しい内訳は資料1を参照)、なんらかの支援を必要とするこどもたち(その兄・妹2名を含む)であるが、LD,ADHD,自閉症スペクトラム等、その支援のニーズは様々である。一名を除いてデイジー図書を今まで見たことのないこどもたちばかりである。

体験の感想や要望等をアンケートに取り、集計した。(資料1.2) 
体験会は、国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所の流動研究員である太田順子さんと研究補助職員の濱田麻邑さんの調査に奈良デイジーの会の濱田滋子が同行させてもらった。アンケート収集についても二人に協力をいただいた。

こどもの感想と様子

全般的に多くのこどもが興味をもち、集中して見てくれた。なかには、この子は集中できないんですという親の横で集中してデイジー図書を見ていた子もいた。興味をもった子のうち5人はパソコンが好きと言って操作を楽しんでいた。また、反転するのがおもしろくわかりやすいという子が4人いた。自分が知っている話には特に興味を持ってデイジーを見ていた。

「ねずみのよめいり」や「はなさかじい」については、集中して見た子からは、絵本とデイジー図書を同時に見られるので楽しいという感想があっが、低年齢の子や、もともと本やお話が好きでない子には興味をひきつけることができなかった。絵の評判もよかった。「はなさかじい」については、"せやみぞう""じさま、ばさま""せなかあぶり"等、こどもになじみのない言葉が多く、言葉使いが難しいという感想があった。その他、読み方がもっと速い方がいいとか、もっと抑揚のある読み方がいい等、個人的な好みも多く出された。

大人の感想

感覚統合療育教室の保護者やスタッフ計14名がアンケートに回答をよせてくれた。ほとんどの人が興味をもってくれ、使ってみたいという人が8名おり、ニーズの多さを感じた。すぐにでも使ってみたいという方2名は大変熱心に説明を聞いていかれた。視覚と聴覚の両方から情報がはいる点がよいという人が5名、反転する点がよいという人が5名、パソコンがツールとして有効というひとが3名いた。こどもがパソコンが好きだが、ゲームばかりしているので、その時間の少しでもデイジーで本を読んでくれたらいいのにというお母さんの声が切実に聞こえた。

NPOファームではすでにデイジー図書を使っているこどもさんがおり、主催者からは、デイジーを使うと疲れないとか楽だというこどもの感想や、音読の練習や詩の暗誦にデイジーが役立ったという話を聞くことができた。

「ねずみのよめいり」と「はなさかじい」については、奈良デイジーの会のメンバーである10人に感想を聞いた。こどもの感想にもあったように、絵本とデイジー図書を同時に見ることができるという点で好評であった。また絵も好評であった。「はなさかじい」の言葉使いについては子どもと違って、おばあさんの昔話を聞いている感じがしていいという感想があった。改良点としては2点の指摘があった。一つは、読み方について、spanとspanの間が空きすぎるという点である。spansの間が、自然な読みの流れを損なってしまわないようにしてほしいという指摘である。二点目は、フォントサイズを大きくしたら絵に文字が重なり、文字が見えにくくなった点である。

マルチメディア図書デイジーへの要望

 年齢やそれぞれのニーズにより、同じ作品についても、もっとゆっくり読んでほしいとかもっと速いほうがいいとか、あるいは音声がない方がいいとか、字がもっと大きい方がいい、漢字がある方がいい、ふりがながある方がいい、この声が好きとかきらいとか、絵をもっと大きくしてほしいとか、要望は一人一人様々である。要は、内容・音声・文字・画像・反転等、こどものそれぞれのレベルや好みに合ったデイジー図書が必要とされているということである。

 新しい要望としては、動画を取り入れてほしいとか、音楽を取り入れてほしいという要望があった。また、11歳の子の、字数は少なくても内容が年齢相応のデイジー図書がほしいという要望には、製作側の盲点をつかれた想いがする。

 小学校高学年以上のこどもからは、教科書をデイジー化してほしいという要望があった。また、再生機を持ち歩けるサイズにしてほしい、教室でも目立たず使いたいので電子辞書のようなもので再生できるとうれしい、自分のペースでページをめくりたい、という希望があり、デイジー図書を学習の支援ツールとして使いたいという望みが現れている。

まとめ

 予想以上にこどもも大人も興味を持ってデイジー図書を見ていたことから、今後デイジーを支援ツールとするユーザーが増えてくるであろう手応えを感じた。

 こどもたちからは様々な好みや要望がだされ、一人一人のニーズの違いが感じられた。このことより、それぞれのニーズに対応したオーダーメイドのデイジー図書が必要とされることが伺える。そもそもデイジーは、どこでも、誰でも使えるものとして開発されたものである。このことと、オーダーメイドとは相反するように思える。しかし、デイジー図書のデーターは世界中で共有できる。世界で共有でき、かつ必要に応じ自在に使う者に合わせることができる。これがデイジー図書の素晴らしさではないだろうか。

ところで、今後ニーズが増えるであろうことが予測されるにもかかわらず、デイジー図書の数はまだまだ少ないし、著作権という壁に阻まれ、アクセスする方法もできていない。なかには子どものニーズがありながら、製作が追いつかないためデイジーを使えないでいるという事態もおこっている。奈良デイジーの会でも、普及活動はするものの、ではどこでデイジー図書を閲覧し、手に入れることができますかという質問の答えに窮する。

多くの時間と手間をかけて製作している者として、(1)本の出版社にはテキストデータを提供していただきたい。(2)製作者同士、基礎データを共有し、情報の交換をおこなえるような場がほしい。(3)ユーザーや支援者が簡単に個々に適したスパンや音声や文字表記に変更できるようなツールの技術開発、(例えばEasePublisherの日本語対応等)をしてほしい。この3点についての解決を望んでいる。そして、必要とする人全てがデイジー図書に出会えることを願っている。