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*「国際障害者年日本推進協議会編.完全参加と平等をめざして―国際障害者年のあゆみ―.第六部 資料編,Ⅶ 障害児教育の拡充発展のための施策の在り方―21世紀に向けての長期計画―.日本障害者リハビリテーション協会,1983.3,p.612-p.621.」より転載しました。

完全参加と平等をめざして
―国際障害者年のあゆみ―

国際障害者年日本推進協議会編

第六部 資料編

Ⅶ 障害児教育の拡充発展のための施策の在り方
―21世紀に向けての長期計画―

国際障害者年教育推進協議会

はじめに

 我が国における障害児教育は、創始以来、既に、100有余年の歴史を有している。この間、幾多関係者の献身的な努力と教育内容、方法の進歩並びに国及び地方公共団体による施策の推進等によって、今日の発展をみるに至った。
 しかしながら、近年、障害児の障害の種類・程度等の実態は著しく変化しつつあり、また、障害児に対する生涯教育の重要性が一段と認識されてきたこととも相まって、学校教育及び社会教育等に寄せる社会の期待と要請は、ますます高まってきている。
 このような実情に即し、今後我が国の障害の教育の改善を図り、更に拡充発展させて、すべての障害児(者)が生涯にわたって、より適切な教育と社会的処遇が受けられるようにすることは、今や緊急を要する重要な課題である。
 ここにおいて、国際障害者年教育推進協議会は、国際障害者年における重点的事業として、今後における障害児の教育の拡充発展のための施策の在り方についての構想をまとめて、これを関係方面に建議し、その実現を期するものである。
 なお、この構想は、本協議会を構成する全国組織44団体の総意に基づき、本協議会に設けられた特殊教育長期計画策定特別委員会において、各方面の意見を聴しながら慎重審議のうえ結論を得たものである。国及び地方公共団体等における今後の施策に、この構想が十分生かされ、21世紀に向けて可及的速やかに、これが実施に移されることを強く要請するものである。

 

Ⅰ 障害児の教育の拡充発展のための基本方針

 今後、我が国の障害児の教育の改善と拡充発展のための諸施策を推進するに当たっては、これまでの輝かしい伝統と実績の上に立って、国際障害者年のテーマとする「完全参加と平等」の趣旨を尊重し、障害の多様な種類・程度に応じ、学校教育全体を通じ、障害児の能力の可能性を最大限に伸ばすことをねらいとして、次の諸点を基本方針として、その実現に努めること。

1 急激に変化しつつある障害児の実態と社会情勢の変化に対応すること

 近年、障害児の実態は、医学的、社会的要因とも関連して急激に変化しつつある。障害の種類・程度及び能力適性等は一層多様化するとともに、重度・重複化の傾向も著しい。また、社会情勢の変化する中にあって個々の障害児の必要に応じて最も適した教育の機会が保障されるためには、学校制度及び教育形態等において総合的な検討を加え、一層きめ細かな配慮と対策が講じられなければならない。

2 生涯教育の充実を図り、学校教育の機能を地域社会に開放すること

   障害児に対する生涯教育の重要性にかんがみ、乳幼児期から生涯にわたって、常に適切な教育的サービスが受けられる場と機能が必要である。そのため、盲学校・聾学校・養護学校及び小・中学校の特殊学級においては、教育相談、就学前及び卒業後の指導等についても、今後十分に行うことのできる組織と機能を整備して、地域における障害児(者)のセンター的役割が果たされるようにすることが必要である。

3 教育諸条件の整備と教育機関相互の連携を密にして教育効果を高めること

 盲学校・聾学校・養護学校及び小・中学校の特殊学級においては、より専門性の高い教育機能が発揮できるよう所要の措置を講じ、相互の連携を密にして、障害児の諸能力の開発・伸長に努めるとともに、小・中学校等における障害児の教育に対しても、必要な指導と援助ができるようにする。また、小・中学校等において教育効果が期待できると思われる障害児については、一般の児童・生徒と共に学ぶことのできるようその受け入れ体制とそのための諸条件の整備に努める必要がある。

4 専門性の高い有能な教員による指導を充実すること

 障害児に対する教育の効果は、指導する教員の資質・能力に負うところが特に大きい。教員養成の在り方について検討を加えるとともに、臨床的・実践的指導力を持った教員を確保するため、現職教員に対する専門研修制度の確立等に努めること。また、すべての教員が、この教育に正しい理解と認識を持ち得るよう教員免許制度についても所要の措置を講ずる必要がある。

5 障害児(者)の社会参加の促進及び、障害児(者)に対する社会の理解・認識を深めること

 障害児(者)の基本的人権を尊重し、常に適切な社会的処遇がなされ、能力・適性等に応じてよりよい社会参加と職業保障が実現されなければならない。そのためには、特に後期中等教育の拡充整備と適切な進路指導が行われるとともに、職域の開拓と職業保障について、総合的な施策を推進する必要がある。
 また、今後における障害児の教育の改善と拡充発展を期するに当たっては、あらゆる機会をとらえて社会啓発に努め、すべての国民が障害児(者)を正しく理解し認識を深めるようにする必要がある。

Ⅱ 障害児の教育の拡充発展のための具体的施策の構想

 以上のような基本方針に基づき、今後障害児の教育の改善を図り、21世紀に向けて更に拡充発展を期するためには、およそ次のような具体的施策を推進することが必要である。

1 障害をもつ児童の教育について

(1) 盲学校・聾学校及び養護学校幼稚部の拡充整備

ア 幼稚部の設置促進を図ること
 障害をもつ幼児の教育を充実するため、まず、盲学校・聾学校及び養護学校の幼稚部の設置を一層促進する必要がある。最近、障害をもつ乳幼児の早期教育の重要性が認識されてきたにもかかわらず、現在、その設置状況は極めて未整備の状態にある。それは、通学の距離や時間、寄宿舎の入舎に伴う教育上の問題、あるいは医療との関連などがその主な理由と考えられる。
 しかし、こうした問題は、幼稚部の設置に際して、単に従来の設置形態のみにとらわれることなく、例えば、現にある盲学校・聾学校及び養護学校の校地以外の、通学に便利な場所に、当該学校の分校又は分教室として設置するとか、児童福祉施設の近くに設置するなどの工夫、配慮をすることによって解決可能な場合もある。また、前記の理由のほか、幼稚部の普及しない理由のひとつとしては障害幼児を一般の幼児と共に教育することが望ましいとする最近の考え方が影響していることもないとは言えないが、実際的問題として、そこにはおのずから限界があり、特に障害の重度の幼児の場合は、盲学校・聾学校及び養護学校における幼稚部の教育効果に期待する面が多い。このような考え方に基づき、今後、盲学校・聾学校及び養護学校の幼稚部の設置を一層促進する必要がある。このためには、国及び地方公共団体においては所要の措置を強化し、障害幼児の教育を拡充する必要がある。
 なお、障害幼児に対する早期教育の効果と重要性にかんがみ、幼稚部への入学年齢の引き下げ等についても検討すること。
イ 障害乳幼児のための早期教育センター的機能を果たすこと
 今後における盲学校・聾学校及び養護学校は、その学校の存在する地域に開かれた学校でなければならない。
 幼稚部にあっても、地域に開かれた幼稚部として、その地域に生活する障害乳幼児とその親並びに関係機関の職員等に対し、専門的立場から教育相談・指導等の協力・援助を行うことが要請される。またこのような協力・援助があってこそ、地域の、ひいては一般社会の人々の障害児やその教育についての正しい理解・認識も深まり、協力が得られるものと考える。地域に開かれた幼稚部にするためには地域の障害幼児の教育に関し相談・指導のできる、いわば「早期教育センター」的機能を与えることが必要であり、その場合、都道府県等の特殊教育センターや医療・福祉関係機関等との緊密な連携を図りながら、次のような施策を推進する必要がある。
① 障害乳幼児及びその親等に対する教育相談・指導の実施
 盲学校・聾学校及び養護学校幼稚部の対象は、3~5歳の障害幼児であり、就学者数も極めて少ないのが現状である。幼稚部在籍児以外の障害幼児は、幼稚園、児童福祉施設(保育所、通園施設等)で教育・治療・訓練等をうけているか、あるいは在宅のままの状態にある。そのため、幼稚部以外の教育の場においても、専門的知識・技能を有する職員の充実及び施設・設備面での改善を図って、障害幼児の教育的二―ズに十分対応する必要がある。そこで、盲学校・聾学校及び養護学校の幼稚部が専門的立場から、これらの機関に協力・援助して、障害幼児の教育的二―ズにできるだけこたえていくことが強く要請される。
 今度、幼稚部においては、地域に住む障害乳幼児及びその親等に対して、教育相談・指導を一層充実することが必要であり、そのための制度的裏づけが要請される。
② 教育相談・指導のための短期宿泊施設の設置
 盲学校・聾学校及び養護学校の幼稚部が、地域に住む障害乳幼児及びその親等に教育相談・指導を実施するに当たっては、例えば、母親に、家庭における障害乳幼児の日常生活指導の方法や自立の訓練法を指導したり、障害乳幼児に短期間の集中的な指導・訓練を行うための短期宿泊施設を設置することが必要である。
③ 幼稚園等への教員の派遣
 障害幼児が就学している幼稚園、あるいは入所している保育所等に、幼稚部の教員を定期的に派遣し、障害幼児を担当する教員や保母等に、専門的立場から指導・助言を行ったり、直接に障害幼児の指導・訓練を行ったりする、いわゆる巡回教師の制度化は、障害幼児の教育的二―ズを満たすために必要な課題である。したがって、この制度化を進め、そのための教員の定数措置を講ずるとともに、職務の併任措置等についても検討する必要がある。
ウ 幼稚部に重複障害学級を設置できるようにすること
 現在、盲学校・聾学校及び養護学校の小学部、中学部については「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」によって、また、高等部については、「公立高等学校の設置、適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」によって、それぞれ、いわゆる重複障害学級を設置することができることになっているが、幼稚部については、このような学級編成及び教職員定数の標準に関する定めがない。しかし、今後、幼稚部が整備されるにつれて、重複障害幼児の就学はますます増加することが予想されるので、幼稚部においても、重複障害学級が設置できるような適切な措置を講ずることが必要である。

(2) 幼稚園への障害幼児の受け入れ体制の整備

ア 教員の加配又は給与費の助成措置を講ずること
 幼稚園における障害幼児の受け入れは、年々拡大しており、現在、かなりの幼稚園にお いて障害幼児を受け入れている。この傾向は今後とも一層高まるものと考えられる。したがって、幼稚園における障害幼児の受け入れ体制の整備について、早急に対策を講ずる必要がある。そのためには、障害幼児を受け入 れる幼稚園に、その幼児数に応じて、一定数の教員を加配する措置を講ずることが必要である。
 障害幼児については、個別的な指導や配慮が特に必要であるところから、このことが強く要請されるのである。なお、私立の幼稚園についても、上記の加配措置に見合う数の、教員の給料費等について、今後、一層の助成措置を講ずること。
イ 施設、設備の改善及び教材費等の助成措置を講ずること
 幼稚園に就学する障害幼児の多くは、比較的軽度の障害をもった者であると考えられるが、今度は、それよりも重い障害をもった幼児の就学も予想される。したがって、幼稚園においては、今後必要に応じて昇降口、便所、机、いす等の施設・設備面での改善を図ったり、適切な教材、教具の整備が必要になってくる。これらに要する経費についても、特別の助成措置を講ずることが必要である。

(3) 保育所等の乳幼児療育事業の促進

 障害を早期に発見し、適切な医療・訓練を行って障害の回復・改善に努めることは極めて重要なことであり、単に教育上の問題だけでなく、障害児の生涯の課題である。今度、障害乳幼児に関する医療・訓練・相談・指導のための諸施設の充実を促進する必要がある。

2 障害児のための学校教育の在り方と就学指導について
(主として義務教育を中心として)

(1) 盲学校・聾学校及び養護学校の組織・機能の拡充整備と設置形態

ア 地域における障害児教育のセンター的機能を果たすこと
 今度における盲学校・聾学校及び養護学校は、当該学校の存在する地域に開かれた学校でなければならないということについて、既に述べたとおりである。盲学校・聾学校及び養護学校の人的、物的条件を整備し、これを十分に活用して、地域の障害児の教育的二―ズにこたえることは、地域における障害児の教育の充実振興を期するうえから極めて重要なことである。
 したがって、今後、盲学校・聾学校及び養護学校は、特殊教育センター等と提携して、地域のいわば障害児の教育に関する教育相談・指導等の中心的機能を与える施策を進める必要があるが、具体的には、およそ次のような施策が必要と考えられる。
① 小学校及び中学校への教員派遣
 現在、小学校及び中学校の通常の学級には軽度の障害児が相当数就学しており、また、就学指導が適切に行われることによって、今後、通常の学級への就学者数も相当あることが予想される。しかし、通常の学級においては、とかく一般の児童生徒の指導に重点が置かれ、このままでは障害児の教育的二―ズに十分にこたえることが困難と思われる。
 したがって、通常の学級の担任及び障害児に対して、何らかの援助措置が必要と考えられるが、その方策としては、前述したように、巡回教師を制度化することが必要である。すなわち、障害児の在籍する通常の学級に、盲学校・聾学校及び養護学校の教員を定期的に派遣し、障害児を担当する教員に対して、専門的立場から指導・援助を行ったり直接に障害児の指導・訓練に当たる巡回教師が派遣できるような措置を講ずる必要がある。
② 障害児及びその親等に対する教育相談・指導の実施
 今後における盲学校・聾学校及び養護学校は、地域に開かれた学校として、当該学校に在籍する児童生徒に限らず、地域に住むすべての障害児とその親等に対する教育相談・指導のサービスを行うことが必要である。また、成人の障害者に対しても、必要に応じて教育上の相談に応ずることは、地域に開かれた盲学校・聾学校及び養護学校の今後における機能の一つと考える必要がある。今日、生涯教育の重要性がとみに指摘されていることからみても、盲学校・聾学校及び養護学校に、このような機能を与えることが是非とも必要である。
イ 重度・重複障害児のための養護学校を設置するなどして、その教育の充実を図ること
 現在の盲学校・聾学校及び養護学校には、障害の比較的軽度の者から、いわゆる重度・重複障害の者まで、極めて多様な障害をもった児童生徒が就学している。障害児の教育は児童生徒一人ひとりの実態に即して、その人間としての発達を促し、能力を最大限に伸ばすことをねらいとしているが、盲学校・聾学校及び養護学校が現体制で、このねらいを達成するには、あまりにも障害の種類・程度が多様化しすぎているといえよう。
 重複障害児の中には、三重、四重の障害をもっている者も少なくなく、各特殊学校で、それぞれこれら多様な障害に対応できる教員を確保するには困難な状況にある。また、重度・重複障害児の多くは、身体虚弱であるといわれており、看護婦などの配置の必要性が指摘されている。
 したがって、重度・重複障害児の教育的二 ーズに十分こたえるためには、これらの児童生徒を対象とする養護学校を設置するなどして、多様な障害に対応できる各専門教員や看護婦等を配置することが是非とも必要である。
ウ 盲学校・聾学校及び養護学校の適正配置と地域分散化を図ること
 養護学校教育の義務制実施に伴って、その必要とする学校の設置は、現在、一応完了しており、ここにおいてその地域分散化を図るということは、困難な課題であるかもしれない。しかし、今後、新たに設置される学校もあると思われるので、その際には、通学の便などを十分考慮し、適正配置の見地から、設置計画を進めることが大切である。また、既に設置されている盲学校・聾学校及び養護学校の中には、大規模化した学校も相当数あり、機をみて、これを適正の規模に改めるとともに、学校の地域分散化を図ることが必要である。
エ 交流教育の普及と充実
 盲学校・聾学校及び養護学校の学習指導要領においては、心身に障害のある児童生徒が、小学校、中学校又は、高等学校の児童生徒や地域社会の人々と、学校の教育活動全体を通じて活動を共にする、いわゆる「交流教育」を積極的に行うべきことが規定されている。
 交流教育は、障害児の経験を広め、社会性を養い、好ましい人間関係を育てることによって、積極的に社会に参加していく能力や態度を育成するとともに、一般の児童生徒や社会の人々の障害児に対する理解・認識を深め、人間性の育成にも寄与するところが大きいので、今後、一層この促進を図る必要がある。そのためには、これに要する経費等について、その実施校に対し十分な助成措置を講ずることが必要である。

(2) 小学校及び中学校等における障害児の教育の拡充整備

ア 特殊学級の充実
 小学校及び中学校においては、一般の児童・生徒や教職員の障害児に対する理解を深め、学校全体としての受け入れ体制を整備していくことが必要である。
 なお、特殊学級の充実については軽度の障害児の教育の特性を考慮し、施設整備の改善等、さらに条件整備を行う必要がある。また、特殊学級担当教員の資質の向上については専門的な知識・技能を身につけさせるための研修の機会を多くするなど、そのための施策を講ずる必要がある。
イ 通級制特殊学級を制度化すること
 現在、言語障害や情緒障害及び弱視・難聴等の特殊学級は、いわゆる通級制であったり、またはこれを兼ねているところが多い。すなわち、通常の学級に在籍しているこれらの障害児が、特別の指導や訓練を受けるために、定期的に当該学校内又は他校の特殊学級に通級するという方式である。しかし、この方式は、障害の特性からみて極めて効果的でありながら、制度としては認められていないため、その設置や管理、運営等に支障をきたしている。そこで、この通級制特殊学級について、早急にその制度化を検討し、障害の特性に応じた適切な教育が行われるようにすることが必要である。
ウ 特殊学級に在籍している、重度の障害児のため特例的な措置を図ること
 盲学校・聾学校及び養護学校の対象となる児童生徒が、現在、小学校又は中学校の特殊学級に就学しているという事例が少なくない。
 このような、重度の障害児を入級させている特殊学級は、養護学校の分校又は分教室として位置づけることが望ましいが、それが困難な場合には、重度の障害児を対象とする特殊学級の設置について、一定の条件のもとに許可し、学級編成や教職員定数上の特別の措置を講ずるようにすることが必要である。

(3) 適切な就学指導の実施

 障害児の教育措置を考える場合、まず重要なことは、一人ひとりの児童生徒の諸能力を医学的・心理学的及び教育的観点から総合的に評価し、最も適した教育の場を慎重に決定することである。
 このためには障害児を就学前に十分に観察するとともに、教育条件や教育効果等との関連を考慮するなどして、教育的観点を十分考慮に入れ、一人ひとりの児童生徒の障害の状態や能力・適性等に応じた適切な教育措置ができるようにする必要がある。そのためには、各都道府県、市町村における就学指導委員会の組織・機能の一層の充実を図り、就学指導が適切に行われるようにすること。なお、この場合、盲学校・聾学校及び養護学校及び特殊学級等における教育相談等との関連についても十分考慮し、就学指導が円滑に行われるよう配慮することが必要である。

3 障害生徒の進路及び職業保障について
(主として後期中等教育とその関連において)

(1) 盲学校・聾学校及び養護学校高等部の拡充整備

ア 高等部の設置促進を図ること
 盲学校・聾学校及び養護学校の高等部(専攻科を含む)は、障害生徒に対する後期中等教育の場として、中心的役割を果たしており、その意義は極めて大きい。しかしながら、その設置状況をみると、盲学校・聾学校については、かなりの普及をみているが、養護学校にあってはいずれの障害種別とも、その対象者数からみて、必ずしも十分とは言えない。したがって、今後は、特に養護学校高等部の設置促進について、なお一層の努力をする必要がある。また、この場合には、特に建物の建築に要する経費及びその他施設・設備等に要する経費の助成については義務教育に準ずるなど特別の措置を講ずる必要がある。
 更に、高等部に進学する生徒の障害の状態と進路等からみて、修業年限4年制の課程の設置についても検討する必要がある。
イ 生徒の能力・適性及び進路等に応じた多様な学科の整備と職業教育を充実すること
 盲学校・聾学校及び養護学校の高等部においては、生徒の多様な障害の実態と能力・適性及び進路等を十分考慮して、各種の学科を整備する必要がある。特に職業を主とする学科の設置に当たっては、生徒の障害に応じた職種を選定するとともに、地域の産業との関係及び就職状況等をも考慮し、また、社会情勢の変化に伴う新職種の導入等に努めることが必要である。
 なお、学科の性質及び対象者数等からみて、各都道府県のいくつかが協力して、広域的に設置するなどの措置を検討する必要がある。
 更に、高等部に在籍する生徒の、障害の重度・重複化の傾向が強まっていることから、これらの対象者については、特に、職業前教育、職業前訓練を重視した学科を設置するなど、その条件整備を図る必要がある。

(2) 一般の高等学校における障害生徒の受け入れ体制の整備

 生徒の障害の種類・程度や能力・適性等によっては、一般の高等学校において教育を受 けることが可能であり、また、そのことによって学習効果が更に高められる場合もある。そのため、高等学校における障害生徒の受け入れ体制について、積極的に改善措置を講ずる必要がある。なお、この場合、便所の改修、階段の手すりの付設、段差の解消等、施設面について特に配慮する必要がある。

(3) 進路指導体制の強化と関係諸機関への協力要請

 障害者が、社会によりよく参加し、または、職業自立を可能にするためには、学校における適切な進路指導の体制を充実整備することが必要である。特に就業等の指導に当たっては、在学中から職業安定所、職業訓練所及び更生相談所等と十分連絡をとり、生徒の進路・適性等に即応するように努めることが必要である。そのためには、各校に進路指導の担当の専任の教員を配置する定数上の措置を講ずる必要がある。また、職業訓練機関が生徒また、職業訓練機関が生徒を積極的に受け入れるようにするための改善措置を強化し、将来、福祉的就労が可能となるよう、当該機関における施設の改善充実が図られるようにすること。例えば、軽・中度の障害者を、積極的に受け入れることのできる、職業訓練機関の拡充整備、あるいは、一般の職業訓練機関の中に、特別のコースを設けることなども検討する必要がある。更に、重度・重複障害生徒については、保護雇用や福祉的就労の場の充実整備と助成措置を図るとともに、公的機関や民間企業の門戸を、できるだけ開放するような法的措置が強化されるよう強く要請する。

(4) 中学校の特殊学級卒業者の進路の保障

 中学校特殊学級卒業者について適切な学校教育及び職業教育が行われるよう、各種学校の職業訓練機関を含め充実する必要がある。

(5) 高等教育への機会の拡充整備

 近年、一般の大学等、高等教育機関への進学を希望する障害者の数は、次第に増加の傾向にある。しかし、その受け入れ体制においては、極めて不備な点が多く、その改善について、なお一層の対策を講じ、教育の機会均等の趣旨にのっとり、各大学等は積極的に障害者を受け入れるようにする必要がある。当面、早急に改善すべき主な点は次のとおりである。
① 受験方法について
 大学受験の機会を確保するため、入学試験(大学入学者選抜共通第一次学力試験を含む)の実施に当たっては、障害の種類・程度等に応じて、一層きめ細かな特別の配慮を行う必要がある。特に、試験時間の延長の措置を講ずるほか、資格障害者に対しては、点字による試験問題のより適正化を図り、また、弱視用の試験問題(拡大複写版)や弱視用拡大読書装置等の準備、肢体不自由者に対しては、試験場における施設面での特別の配慮や、必要に応じて介助者を配置すること、また、聴覚障害者に対する面接・口述試験等に際しては、必要に応じて手話通訳の配置についても配置すること。
② 施設・設備等について
 大学等においては、学生の障害の種類・程度等に応じて、施設・設備等の面で特別の配慮をする必要がある。盲人の歩行や肢体不自由者の車いすの利用等に支障のない施設環境の改善に努め、また、点字及び録音図書の充実、手話通訳、介助職員の配置等、教育諸条件の整備によって、障害者の大学生活を容易にする必要がある。
 また、障害者の高等教育の機会を一層拡大するとともに、適性に合致した専門的職業技術教育を行い、社会自立を促進するため、障害者を対象とした高等教育機関の設置促進を図ること。
 なお、障害者の大学教育には、一般の学生以上に、特別に多額の経費を要するところから、個人の経済的負担を軽減し、大学への就学を援助するため、特別の奨学資金制度を確立する必要がある。

4 教員養成の改善と現職教育の充実について

(1) 大学における特殊教育教員養成課程のカリキュラムの改善充実

 障害児教育の効果を高めるには、この教育に携わる教員の養成の在り方について、早急に改善措置を講ずる必要がある。特に臨床的実践科目の新設充実を図り、教育現場における実際指導に資する基礎的、応用的知識・技能の修得に努めること。また、障害の多様化、重度・重複化の実態に対応し、教育職員免許法及び同関連法規の改正とも相まって、必修科目の種類・内容と履修方法等について、所要の改善を図る必要がある。

(2) 「養護・訓練」担当教員の養成機関の必要性と設置促進

 「養護・訓練」は、盲学校・聾学校及び養護学校における教育課程の中核をなす一領域で、障害児の能力開発と社会自立を図るうえからみて、極めて重要な役割を担っている。特に、近年は、児童生徒の障害の重度・重複化の傾向が著しいため、「養護・訓練」を主体とした教育課程による対象者が増加しており、この面で特に、有能な専門教員を確保することの緊要性が高まっている。このような実情にかんがみ、「養護・訓練」担当教員の養成機関を速やかに設置することが是非とも必要である。
 なお、この種の教員養成は、その性格上、主として教職経験等を有する現職者を対象にし、「養護・訓練」についての実践的指導技能が十分身につくようにするため、通常の教員養成形態とは異なり、実践の場と直結した特別の養成形態により、特に実習に重点を置いて行うようにすることが必要である。

(3) 一般の教員免許状の取得の要件としての障害児の教育に関する科目の履行

 幼稚園、小学校、中学校又は高等学校の教員免許状取得の要件として、障害児の教育に関する科目の履行を義務づけることについては、これまでも各関係機関によって強く要請されてきた。これは、一般の教員が、障害児の教育を正しく理解し、認識を深めるうえからも必要なことであるが、通常の学級においても、その種類・程度等は別として、障害児の在籍しているところが多く、また、特に今後は交流教育の普及とも関連して、障害児の教育に関する一般的知識を有していることは、すべての教員にとって必要なことである。
 更に、盲学校・聾学校及び養護学校の教員になるためには、これら一般学校の教員免許状を有していることが原則となっているが、実際には、基礎免許状のみで任用せざるを得 ない現状にある。
 このような諸点からみて、大学における一般学校の教員養成カリキュラムに、障害児の教育に関する科目を組み入れ、障害児の教育に関する一般的知識を修得させるようにすることが必要である。

(4) 精神薄弱教育に関わる教員についての特別措置

   現在、盲学校・聾学校及び養護学校の教員については、前述のように、一般学校の教員免許状を有していなければならず、しかも、それは盲学校・聾学校及び養護学校の各部に相当する学校の教員の免許状とされている。したがって、例えば精神薄弱養護学校の高等部にあっては、高等学校の各教科の教員免許状を有する者でなければならないことになっている。そのために、かえって、この教育についての適任者を得ることが極めて困難な実情にある。また、一方、障害の特性や精神薄弱養護学校における教育課程の基準及び指導の実態等からみても、これは、必ずしも妥当なものとは言えない。このことは、他の盲学校・聾学校及び養護学校において、精神薄弱を併せ有する重複障害児を教育する場合及び中学校等の精神薄弱特殊学級においても同様である。
 このような実情にかんがみ、教員免許状制度において何らかの特別措置を講じ、真にこの教育についての適任者が得られやすいようにすることが必要である。

(5) 現職教員の充実強化と、教員の資質能力の向上

 前述したように、現在、盲学校・聾学校及び養護学校の教員の中には、当該学校の教員免許状は有せずに、いわゆる一般学校の基礎免許状のみの者が相当数配置されている。また、特殊学級を担任する教員にあっても、当該学級に係わる障害児の教育に関する専門的知識・技能も不十分に配置されている場合が多い。このような実情にかんがみ、今後一層現職教育の充実強化に努め、教員の資質能力の向上を図る必要がある。特に「養護・訓練」や実験・実習に関する内容については、特別の研修制度を検討する必要がある。また、この場合、代替教員の配置についても考慮すること。

5 障害児(者)の社会参加と理解・認識の促進について

 障害児の教育をより充実振興させ、すべての障害児(者)が社会の一員として、生涯にわたって真に生きがいのある生活がおくられるようにするためには、できるだけ多くの人々に障害児(者)や障害児の教育について正しく理解させ、認識を深めさせることが必要である。そのためには、あらゆる機会を通じ、この目的を実現させるため、例えば次のようなことを積極的に行い、社会啓発に努めることが必要である。
① 社会教育の場の活用
 ボランティアを育成し、その活動を援助するとともに、公民館等地域の社会教育施設や学校を活用して、障害者を含めた青年学級又は各種の文化講座や社会学級講座を開設すること。また、障害者のための教育・訓練等に関する事業を充実させるなど、社会教育の場をとおしての諸活動を推進する。
② 障害児(者)を正しく理解・認識するための教育内容の充実
 一般の児童生徒に、障害児(者)を正しく理解・認識させるため、小学校、中学校及び高等学校の教科書に、障害児(者)とその教育・福祉等についての教材を加え、適切な指導が行われるようにする。
③ 障害児(者)の地域行事への参加等幅広い交流教育の促進
 地域社会の理解と協力のもとに、幅広い交流教育を推進するため、盲学校・聾学校及び養護学校と一般の幼稚園や小学校・中学校・高等学校との交流教育をより一層充実させるほか、盲学校・聾学校及び養護学校をできるだけ地域に開放して、当該地域の行事や子供会の場として提供し、障害児(者)を含めた諸活動の機会を多くする。
④ 広報活動等の充実  国際障害者年を契機として、今度とも新聞・テレビ・ラジオ等、マス・メディアによる広報活動を一層充実して、これを継続的に実施すること。また、地域の住民や官公庁、民間企業等に対し、障害児(者)についての理解と認識を深めるため、適切な広報資料をできるだけ多く配布するほか、機会あるごとに積極的且つ効果的な社会啓発活動を展開する。

あとがき

 以上、今後における障害児の教育の改善と拡充発展のための施策の在り方について、その構想をまとめたが、いずれも当面速やかに長期計画を立てて実行に移し、具体化されるべき緊要性の高いものであり、しかも、そのためには、関係法令の整備や制度的な見直しが是非とも必要と思われるものもある。したがって、ここに改めて記述はしなかった教育内容・方法等の改善については、当然のことながら、そのためには必要な諸条件を整備するとともに、教育現場や大学・研究所等における研究が、これまで以上に、一層拡充するよう、所要の措置を講ずる必要がある。
 また、国際障害者年に当たって、各国が歩調を合わせて障害者に関する諸問題に取り組んできた意義と実績の上に立って、今後とも更に国際間の提携・協力を密にしながら我が国の今までの教育の歴史をふまえて障害児の教育の改善と拡充発展のための施策が強力に推進されることを期待する。


国際障害者年日本推進協議会編.完全参加と平等をめざして―国際障害者年のあゆみ―.第六部 資料編,Ⅶ 障害児教育の拡充発展のための施策の在り方―21世紀に向けての長期計画―.日本障害者リハビリテーション協会,1983.3,p.612-p.621.