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Ⅰ.障害別のニーズと配慮事項

3.肢体不自由

肢体不自由者について

肢体に障害のある人は、手足や体幹などの障害のほか、社会生活上のさまざまな制限や制約を経験していますが、特徴としては、内部疾患や難病といわれる障害に比べてその障害が、一見して他者(介助者やボランティア、防災関係者)から確認しやすいことにあります。しかしながら、この見た目の理解や認識が、そのまま障害当事者の特性であると考えられてしまうことから誤った判断がなされがちでその介助に思わぬ手違いを生じかねません。普段、生活の中でどのような独自の努力や工夫がなされているか見落とされがちで、義手義足などの補装具、杖や歩行器、車いすなどの補助器具等は、災害時など当事者を取り巻く環境や状況が変われば、その利便性が逆に凶器になりかねないことすらあります。

障害が見えるということから、見掛けの判断だけで自力で対処または避難できるのではないかという過剰な期待によって緊急で必要な支援が行き届かないことが懸念されます。

災害時に困ること

障害によっては、災害発生時の過度の緊張から、普段なんでもない動作や歩行、移動が困難になる場合もあります。四肢の硬直、震えでまったく身動きできないことすらあります。

また避難に当たっては、大事な携行品や、非常用品を身につけたり、持ち運ぶことが不可能な場合もあります。

道路に障害物が倒れたり、路面が破損したなどの場合、普段は徒歩や車いすで移動できる経路も、移動が完全にできないことも考えられます。

(1)日ごろの備え

本人の備え

1)あらかじめ、日ごろ常に顔が見えるところにいる人たち(向こう三軒両隣、隣保組、自治会、最寄りの民生委員)には、万一の災害時の支援についてていねいに、依頼をしておきましょう。

2)その際、障害の特性について、隠すことなくそして、過不足のないよう説明し、日常生活のうえで何ができて、何ができないか、誤りなく分かりやすく伝えておきましょう。

3)差し支えなければ、非常持ち出し品が、枕元などにあることを隣人に知っておいてもらいましょう。ただし、現金、通帳、保険証、印鑑など貴重品は身につけるなどその扱いには注意しましょう。

4)非常持ち出し品は、最低限で欠かせないもののみとします。例えば、アドレスブック(連絡先一覧)、常備薬、小型懐中電灯、携帯ラジオ、動きやすい靴(運動靴等)、救助を求める警笛などです。食料品や飲み水など、運び出しが困難な場合は、避難所での支援に委ねることも考えましょう。

障害のある人と周囲の人のイラスト

周囲の備え

個人情報保護に留意しながら、障害者や高齢者の所在を明確に確認しておくことが大切です。

 

要介助者の支援体制やネットワークは、なにより支援を受ける当事者自身にとっての緊要の問題であり、当事者の主体的な避難行動なしには機能しません。支援する側は、当事者の意欲的な行動を常に呼びかけるとともに、当事者自身は、支援体制がどのようになっているか、自らの責任で確認し、これへの体制が十分でない場合は、己れの一身だけでなく、災害弱者としての高齢者を含めた喫緊の課題である点を強調して、自治体や自治会、隣保組などと共に、1日も早い体制づくりを整えてもらうことが大切です。

(2)災害が起きたとき

本人の対応

1)まず家族に声をかけ、安否を確認したところで、次に隣家に向かって自らの所在を伝えましょう。

2)火の元や電気のブレーカーを確認しましょう。その手で扉を開けて避難路をしっかりと確保しましょう。

3)自ら避難できる人は、外の状況や隣家の動向を見て、携行品等を確認したうえで、避難情報を待ちましょう。

4)地震で揺れの激しいときは、まず、何をおいても、固いテーブルや机などの下で身を守りましょう。

周囲の対応

車いす利用者や下肢障害者、体幹機能障害者は、どのような種類の災害の場合も「動けない」ということについて、常日頃から、周囲は把握しておく必要があります。

そして望むらくは、誰がどのような形で支援を行うか、人と役割を特定しておくことが肝要です。

またこのことから、障害当事者が、平素から周囲に積極的にアピールし、自らすすんで取り組む心構えをもつことを促すことです。自らの生命は、まず自らが守る、その手だてを自らが整えていくことを肝に銘ずべきです。

(3)避難しているとき(避難行動・避難生活)

肢体不自由者が避難所などで過ごす場合、基本的には、避難所などにおける救援チームの指示に従って行動します。ただし、次のような点を確認し、障害がある旨を告げて要請を行いましょう。その際、同じ場所にいる障害者や高齢者などの要望、要支援事項を聞き合わせて共同の要請とするとよいでしょう。

 

また、避難所などを運営する側も、次の配慮事項を念頭に置きましょう。

 

1)バリアフリー化

出入り口は、コンパネやあり合わせの資材などでスロープを作ることができます。一般利用のトイレでも車いすが通れる間口を確保し、また屋内でも、車いす等が通れる通路を確保する必要があります。

 

バリアフリーのある環境のイラスト

2)必要な情報や支援の要請

自力行動に制約のある障害者、高齢者は、とかく情報不足となって心身の極度の緊張と疲労のうえに不安と苛立ちでストレスとなります。また食料、飲料水などの支給も遅れがちになります。

こうした事態は過去の災害の際に、障害者から深刻に訴えられていることから、避難所関係者には、自らの立場を進んで説明するとともに、周囲の人たちにも理解を求めておくことが大切です。

 

3)同じ障害でも、行動や動作の仕方は一人一人異なります。例えば握力や体力が十分でない場合は、物につかまることや、支えることができません。そのうえに下肢障害があれば、手を引かれても体が付いていきません。何ができて何ができないか、本人から伝えておく(本人から聞いておく)ことが大切です。

 

非常の際、介助や支援を頼むことは決して恥ずかしいことではありません。困難に直面したときは、時を移さず周囲にシグナルを送り、支援を求めることが大切です。

 

支援のある環境のイラスト