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Ⅰ.障害別のニーズと配慮事項

6.精神障害

精神障害者について

ここでは、主として統合失調症を想定して述べます。なお、ここで述べられていることが、すべての総合失調症と診断されている方にあてはまるということではありません。

●目の前の出来事に考えがまとまらないことがあり、行動がストップしたり、周囲の人から見ると理に適った行動がとれない時があります。(本人にとっては理に適った言動、態度であることと、周囲とのズレ)

●危険なことがわかっているのに、その場を離れられなかったり、考えていることに言動が伴なわないことがあります。

●状況、環境の変化に弱いです。変化や突発的な事態に柔軟に対応することが苦手です。また、苦手な事態に遭遇すると調子を崩しやすくなります。

●病気にさまざまなタイプがあることや、その病気の症状が理解されていません。(症状であることの理解の欠如)

●服薬の継続が欠かせず、薬の作用・副作用のため動作が緩慢になるなどの場合があり、夜間など服薬して就眠していると、災害が起きたことにも気づかない場合もあります

●概して、他者との交流が苦手で、必要な情報交換や相互協力が難しいことがあります。

災害時に困ること

●発生した状況がどれほど危険で、避難したり身の安全を確保しなければならないかの判断が難しく、適切な行動がとれません。または、分かっていても、行動できないことがあります。

●普段から隣近所との付き合いが薄い傾向があり、挨拶や声かけがないので、災害時にも近隣からの情報が得られない場合があります。

●自分から口頭で援助を求めることが難しいです。かかりつけの病院や行政の担当者、障害に関する知識がある支援者に連絡が取れなかったり、または遠慮してしまいます。逆に、支援する側からは、当事者からの発信が少なく、安否確認も含め、出向いて確認するしかない場合があります。

●グループホームに住んでいる住民同士でも、協力し合えず、非常事態が発生したことを同室の人に伝えられないなどの例もあります。

●避難所での秩序のない生活になじめず、安定や安心を得ることが困難な場合があります。本人からみた安心を確保するための行動(使用禁止の場所で過ごすなど)が「規則違反」と見なされてしまい、このため病状が悪化したり、避難所にいることができなくなったりします。また、避難所に入る前に、自分が受け入れてもらえるかどうかとためらってしまう例もあります。

●普段服用している薬が飲めなくなったり、かかりつけの病院で受診することができないなど、医療に関する不安があります。入院が必要と思われる状況でありながら、災害時には、入院できる病院がなかったり、病院の雰囲気が落ち着かなかったりします。

●避難所などでは、住民の一部から「施設で面倒をみればいい」など偏見を受けることもあります。

(1)日ごろの備え

本人の備え

●普段から、一緒に住む家族や同室者、施設職員、または近隣の住民や「見守り隊」、民生委員や保健師などとよく話し合い、交流を深めておくことが必要です。

●できれば自分の障害のことを伝え、普段から相談や支援を求めることも練習しておくとよいでしょう。

●非常時に連絡を取り合える仲間や知人、施設職員など必要な連絡先を準備し、控えておきましょう。また、携帯電話は災害時にも大いに役立ちます。

●地域活動支援センターへの登録をすることで、安否確認をしてもらえる等の可能性が高まり、次への支援も受けやすくなります。

講習会のイラスト

●「防災カード(緊急時対応カード)」(仮称)を作り、携帯すると役立つでしょう。氏名、住所、血液型、自らの病気や障害について、緊急時連絡先、かかりつけの病院名と主治医、服用している薬の名前などを記載します。

●また、平時より2〜3日分の薬や、処方箋の写しを携帯しているとよいでしょう。

●市町村によっては災害時要援護者台帳等を作成し災害時の対応に備えています。グループホーム等の「利用者名簿」の開示を求められる場合があります。自らの個人情報の開示についてどうするか、よく検討しておきましょう。

●当事者の組織で、災害時マニュアルを作成しておくのも役立ちます。

周囲の備え

●自治会などで、精神障害者を含む要援護者への理解の促進を図りましょう。要援護者といわれる人に関する講演会、研修会の開催、パンフレットの作成と配布、障害者施設の見学や、利用者との交流会などはその方法です。

●緊急時の声かけと安否確認の体制や計画(誰が、誰を)を定めておくとよいでしょう。このためには、支援を望む人の情報の共有も必要です。

●要援護者のための「町内見守り活動」の対象に、障害者やその施設等を加えましょう。

●災害時には行政の窓口がパンク状態になることもあるので、行政以外の情報拠点が設置できれば望ましいでしょう(医療機関、福祉施設、NPO、その他)

●障害者施設・福祉施設(社会復帰施設、作業所、グループホーム、NPO等)は社会資源の一つであり、日ごろの災害への備えにあたってもその役割が期待されます。

−地域との顔の見える交流を積み重ねていくことが大切です。施設も日常から、地域の行事や寄り合いに参加し、また施設の行事に地域から参加を招くなど、積極的に地域との相互交流をはかりましょう。さらに、地域の防災訓練や防災計画策定にも参加しましょう。

−施設等は、災害時に地域に対して提供できる資源について考えておきましょう。例えば、スペースを避難場所として提供する、ワゴン車やマイクロバスを提供するなど。

−避難訓練は、災害の種類、程度(地震では、震度)、発生の季節や時刻などさまざまなケースを想定して行いましょう。通所メンバーの対応や、日ごろのつながりの弱い人への支援なども検討し、また、利用者(通所の単身者を含む)との連絡方法、連絡網の整備もしておきましょう。

●新潟県中越地震では、障害者関係の各施設や機関が、利用者の避難誘導、安否確認、その後の生活支援等を行ってきましたが、相互の連携やコーディネーションの不足が指摘されました。災害時の支援要請のルート、情報交換、相互支援などの連携について日ごろから話し合い、合意や協定をしておくことが大切でしょう。また、行政による支援も望まれます。

●実効性のあるプランの作成するためには、当事者、関係者の参加が大切です。

(2)災害が起きたとき

本人の対応

●声を出して危険の発生について同居者や隣人、隣室の人に伝え合いましょう。いざというときは、遠くの支援者より身近な仲間が頼りになります。

●正確な情報を得ることに努めましょう。ラジオや携帯電話は、災害時、情報を得るのに役立ちます。外出時には、近くにいる人に安全な場所や避難場所などについての情報を聞きましょう。また、どうしてよいかわからない時に相談できる人を決め、お願いしておくとよいでしょう。

●施設利用者は、原則的には職員の指示に従いましょう。

●大きな地震のときは、慌てて屋外に飛び出さず、頭を保護したり机やテーブルの下に隠れる等の行動をとりましょう。

●日ごろから準備しておいた「防災カード」、常備薬、その他の非常用品を持ち出しましょう。

周囲の対応

災害時の周囲の対応のイラスト

●避難してきた人に対しては「ここに居てよい」ことのメッセージを、肯定的に、隣人的態度で伝えましょう。

●状況やとるべき行動を具体的に伝えましょう。

●状況に応じて柔軟性をもって対応しましょう。

●事前に取り決めておいた体制に従い、安否確認や連絡網に従った必要な連絡をしましょう。

●必要に応じて精神障害者関係団体、施設、個人に呼びかけ、ボランティア経験のある人からの支援を要請しましょう。

(3)避難しているとき(避難行動・避難生活)

本人の対応

●誰でも、いきなり知らないところで知らない人と暮らすことは、不安で落ち着かないものです。心身の不調を感じたら避難所のスタッフや保健師に声をかけ、自分の気持ちを伝えましょう。また状況が許せば、日頃支援してくれている人(主治医、精神保健福祉士、社会復帰施設や作業所等、保健師、精神保健相談員等)と連絡をとりましょう。

●必要な支援についてうまく伝えられないときは、「防災カード」などを活用し、提示するとよいでしょう。

●避難所では役に立てることもあります。慣れてきたらできることを手伝ってみましょう。役割を持つことで、自信と安定につながったとの声もありました。

●避難所では、自分のいやすい場所を確保しましょう。仲間や知り合いがいたら一緒になるのもよいでしょう。

●避難所のほかに、居場所として、地域活動支援センター、自宅やアパートなどが使えるようであれば、ストレスを軽減できるかもしれません。周囲の理解と協力も得ながら、自分のリズムを崩さずにすむ可能性を探ってみましょう。

周囲の対応

●避難所には、「要援護者」用窓口や「相談室」の設置が求められます。支援を必要としていても自ら言い出せない人、遠慮している人もいます。必要な情報を求めることができなかったり、救援物資を受け取れない人もいます。不安と混乱から避難所で落ち着いて過ごせず、夜も眠れず、動きまわっていて、周囲から苦情が出てしまう例などもあります。他人に迷惑をかけたくないという思いから避難所に行ってはみるものの利用しない人もいます。そうした人たちを見つけ出し支援するには、適切な精神保健福祉士等の配置が求められます。

●日頃より顔なじみになっている専門家(保健師、精神保健福祉士〔PSW〕等)は、できるだけ避難しているところに出むき、様子を見たり話に耳を傾けるとよいでしょう。授産施設や地域活動支援センターのスタッフが毎日訪問してきてくれたのでこころ強かったという声は多いです。

●支援を必要とする人が、居場所を確保できるように配慮しましょう。例えば、ついたてや間仕切りを利用したり、人の少ない静かな環境(体育館でなく教室など)を提供したりといった配慮です。

●この意味で、精神障害者が利用できる「福祉避難所」が設置できれば望ましいでしょう。この場合、当事者本人の希望で利用できることとし(強制であってはならない)、また家族も一緒に利用できることが望ましいです。精神障害者施設は、このような福祉避難所としての資源になりうるでしょう。

●精神障害に対応した適切な支援を届けるため、医療機関、行政、ボランティアに関する情報が得られるネットワークが求められます。また、情報、物資、薬などは、対策本部までは届くが避難所や個人に届かないケースが多くありました。支援が「届く」システムが必要です。

●避難生活が長期にわたる場合、「心のケア」にも長期にわたる「見守り隊」が必要です。

 

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