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障害者と災害時の情報保障
~新潟中越地震の経験と今後の防災活動~
シンポジウム報告書

■ディスカッション

静岡県のマニュアルづくりの取組みの状況

藤澤
マニュアルづくりですが、山梨県では積極的に本人参加で現地まで出向いて、状況を見ながら取り 組んでいるようですが、静岡県の場合は、どのぐらいの取組みですか?
前嶋
県で今考えているのは、市町村ごとの対応は人的な手話通訳や要約筆記、ガイドヘルパーなど 社会的資源の量の違いがあるので、具体的には各市町村が考えるべきと思います。県としては、 一般的な対応方針としてマニュアルを作成していくと考えています。ですから、現場へ行って 一つひとつではなく、当事者団体と話をしながら、作成するということです。

障害者への情報保障に対する市町村の理解

藤澤
前嶋さんの発言に、道路をつくることには真剣だけど、マニュアルのことには理解が浅いという 話がありました。最近の障害者福祉の流れは、障害者自立支援法の成立が間近ですし、市町村の 役割は大きいと思います。市町村がマニュアルへの理解が足りないという問題は、 大なり小なり全国的に抱えていると思いますが、行政の立場で前嶋さんと城野さんから、 何かご意見はありませんか。
城野
先の発表では、私があちこち出向いてるような印象があったかもしれませんが、一緒に やってくださる人がいます。私が4年前に消防防災課にいたときから、山梨県災害 ボランティア・コーディネーター養成講座を毎年実施しています。最初は40人ぐらいの参加でしたが、 去年は250人が集まりました。そこでは、地域でその人が具体的な活動をするために役に立つ研修をして、 育ったリーダーが市町村で活躍しています。資料もお互いにつくり合い、共有財産にしています。
防災は市町村が行うことが基本ですが、市町村だけでは何をしていいかわからない場合もあります。 それで、まず県で人材養成をし、育った人が、それぞれの地域で活躍できるようにするのです。 個人として動くと、何か役職があるわけでもないのに勝手なことをしてとなるので、育った人材が 地域で活躍できる位置づけをするよう、市町村にお願いしています。一部の市町村では、 意欲のある人、地域から信望が得られる人に役職を与えて活躍してもらうようになってきています。 県、市町村、地域ボランティア等が一体となって、それらの活動を充実していきたいと思います。
前嶋
私はちょっと厳しい見方をしています。手話通訳の派遣事業を市町村で実施するとき、全部の 市町村を回りました。そこでは、自分の町で聴覚に障害がある人の生活やニーズがまったく わかっていない、というのが実情だと思いました。情報保障の必要性について延々と説明をしたのですが、 なかなか当たり前のことだということがわかってもらえませんでした。
手話通訳と要約筆記事業は、今は補助金で実施していますが、点字はどうしてやらないのか、と尋ねると、 「必要だと言う人が少ないから」と答えが返ってきます。これでは、まだ地域で障害に対する理解が 進んでいるとは言えません。私は情報保障が当たり前とか、いかに障害理解を進めるかなど、もっと基本的な ところを押さえる仕事をしないといけないと思っています。

どんなマニュアルが必要なのか

藤澤
内田さんの、「出先の最前線の担当者に、活動資材購入などの経費執行についての判断をゆだねた、 責任を与えた」という発言には感激しました。マニュアルがあるので、かえって実践ができないのなら、 マニュアルはいらないのではないかという考えの人もいます。「臨機応変に行動する」というマニュアルが あればいいのだという人もいます。合わせて、先ほどの話とつながりますが、これから市町村、社会福祉協議会の 果たす役割は大きいかと思います。そのあたりで何か感じることがあれば、ご発言をお願いします。
藤田
マニュアルはいらないということですが、誤解のないように申し上げますと、 「死んだマニュアルはいらない」という意味です。マニュアルがなければ動けないというのも 困ったものです。
昨日、長岡市における在住外国人の被災状況についてシンポジウムがあり、聞きに行きました。
外国人は障害者のパターンときわめて似ています。障害者についても、いろいろな障害があったり、 同じ障害の中でもいろいろなレベルがあって、視覚障害者を例にとれば、自分で何とか出歩ける人から、 一人歩きできない人までいろいろいます。外国人の中でもいろいろな言葉があって、そのうえ更に 日本語が使える人、使えない人がいて、目が見えない、聞こえないという意味では似ています。
今回、在住外国人はどうしたかとお聞きしたら、「勝手」と「自発」とおっしゃった言葉が印象に 残っています。勝手に自発的にやった、というのが効果的だったそうです。マニュアルがあることで、 それに縛られる支援する側、あるいはマニュアルがあることで安心してしまう支援を受ける側という 状況があってはならないと思います。そんなマニュアルなら、逆に無いほうがいいのではないかという ことです。
やはり今日聞きながら思ったのはマニュアルがあろうがなかろうが、日常どういった社会的関わりを してきたのかが大切ということです。どんなすばらしいマニュアルをつくっても、有効に機能しなければ 何の意味もないし、逆にないほうがいいのです。
もう1つは、1つのマニュアルではダメだということです。山梨県のお話を聞いて思いましたが、 いろいろなケース、パターンをいくつか用意しておくのです。100の災害があれば100の顔があると 言いましたが、このマニュアルさえあれば、ということは絶対あり得ません。これは今回の震災における私の体験を通じても 強く感じています。県外からの支援があったり、ご近所の底力があったり、いろいろ組み合わせながら 1つの防災体制をつくるべきだと思います。
内田
私どもは、県社協職員をいち早く派遣し、ある程度の裁量を委ね、活動に必要なものの購入に ついても判断を委ねました。結果的には、買い上げたものについては本部に請求してもらうことに なります。本来なら災害に関して、市町村災害対策本部や地元社協から経費を出してもらうのが 筋ですが、間に合わない状況なので、後ほど共同募金会から配分金をいただいたり、現地センターの 立ち上げのための資金を、公的部分として補助、支援するので、当座の立ち上げについてかかる費用は、 県社協職員にある程度判断を委ねるということをしていました。
ここで1つ感じたのは、事前に私ども県社協も、災害救援に関わる福祉救援ボランティアマニュアルを つくってはいましたが、ないよりはあったほうがいいということです。ただ、マニュアルどおりに はいかないのは事実です。
先ほど、藤田さんがおっしゃったように、性格とか、暮らし向きは、地域よってそれぞれ違うという ことを事前に理解しておかないといけないと思います。100の災害があれば100のマニュアルが必要だと、 いう話が出ましたが、市民性、県民性も理解しておかないと、「ボランティアが来ました。受け入れますか」 と尋ねても、簡単に受け入れません。
本来であれば、地元の方がキーパーソンとなって、外から来られたボランティアの受け入れについても、 コーディネートできればいいのですが、ほとんどの方が被災を受けていて、そんな状態ではありません。 役場や社協の職員といっても、たった3人しか社協職員がいないところもあって無理です。そんな状況の中で、 県外の職員がコーディネータとして本部の中心になって支援していかなければならないとなると、 なかなか難しい点もあります。助け合いの精神の強い地域ですので、逆に外部の方の受け入れには 一歩退くのです。その地域性をよく理解しておかないと、コーディネートが難しいのです。
夏の水害のときに、県外のボランティアが三条市で長い間活動していましたが、だんだんと信頼されて、 本音を言ってもらえるようになりました。マスコミから「何人ボランティアが必要ですか」、 「阪神・淡路大震災のときとどう違いますか」とよく聞かれますが、そんなに簡単には言えることでは ありません。単に大勢のボランテア云々の問題ではありません。できれば長期でいて頂ける方なら、 1人でも2人でもほしいのです。その中で地元の方とのコミュニケーションができ、信頼関係が結ばれる といいと思います。
結果論から申し上げますと、ふだんから福祉コミュニティづくりがいかに大事かということです。 守秘義務の問題もありますが、今、私どもが進めているのは、福祉教育に関するモデル地区支援事業です。 小学校を核として、地域の中のいろんな関係者の方が連携・協働して、児童・生徒の福祉教育活動推進の 支援をしていくというシステムです。学校を核としてネットワーク、福祉のコミュニティづくりを 進めています。指定地区は多くありませんが、社会福祉協議会の本来の仕事である、福祉コミュニティを もう一度見直したいと思います。
発言者
豊島区の障害者団体の役員でトヨダと言います。子どもは知的障害があります。マニュアルは ぜひつくってほしいと思います。というのは、役所の人は上を伺ってばかりで、区は都から指示が ないからと言って行動に移さないことが多いのです。
阪神・淡路大震災の半年後に、私たちは現地へ話を聞きに行きました。役所が名簿を出さないために、 各障害者団体の名簿だけの安否確認で、それ以外はできなかったそうです。人の命がかかっている ときに、名簿を出さないのは困ると思います。
それから避難所の問題について、まず障害者の場所を確保するのかというのが問題となります。 あらかじめ近所の人に言っておかないと、障害者施設に一般の人が入ってしまい、 障害者が結局入れないことになります。第一次的には小学校へ、第二次的に福祉施設に入れます となっていますが、最初から障害者用の場所に入れることを徹底してもらわないと大混乱が起こります。 マニュアルで全国統一しないと、プライバシーが守られない、だから行かない、となってしまいます ので、最低限のことは決めてほしいと思います。
藤澤
今の発言は、最低限のマニュアルづくりをして、そして全国各地で肉づけを、ということでした。
私どもの情報保障委員会で、兵庫県と宮城県と北海道の全市町村を対象に平成12年に調査をしました。 災害対策のマニュアルが「ある」と答えたところは76%、「ない」と答えたのが、24%でした。 北海道は「ない」が98ヶ所、「ある」が27ヶ所、宮城県は「ある」が31ヶ所、「ない」が6ヶ所、 兵庫県は「ある」が29ヶ所、「ない」が17ヶ所でした。
次の問いで、「ある」と答えた市町村に聞いたところ、障害をもつ人全般について、マニュアルで 述べられた項目が「ある」が23.4%でした。障害種別について個別に述べられた項目があるので5.1%。 特に設けていないが32%でした。
当事者が参加したマニュアルの重要性は、誰しもが認めるところです。当事者、災害弱者が参加する マニュアルづくりを進めるためには、障害者団体を含めて何をしたらいいかが課題です。 それぞれの立場で、ご意見をいただければと思います。

当事者参加のマニュアルづくり

城野
マニュアルをつくっても最終的には、地域の住民の方がやる気になって、要援護者の把握、 避難誘導、生活支援を含めて実際に毎年、体を動かして訓練してみる、そこまでいかなければ 本物にならないと思います。山梨県でも、役場が自ら動いているところは、まだそれほど多くは ありません。災害時の要援護者支援について、役場の所管が消防防災課なのか高齢者福祉課なのか 等が決まっていなくても、住民やボランティア団体、障害者団体などが地域で活動を始めました。 そういうところが動くと、市町村は動かざるを得ない、担当職員もやらざるを得ず、意識が 高まっています。地域やボランティア連絡協議会が動いているところは、必ず市町村も動いています。 役場もがんばらなければいけませんが、まず地域の当事者が問題の重要性を認識したうえで 自ら動くことが必要です。初めは全地域は難しいでしょうが、1ヶ所、2ヶ所から始まって、 だんだん広がっています。そういう地道な取組みを応援していきたいと思います。
前嶋
城野さんがおっしゃったことは、非常に重要だと思います。地域で話をしていくのが、 非常に重要だと思います。ある意味、当事者にマニュアルづくりは任せて欲しい、 というくらいで交渉するのです。本当はそんなことはしなくても、当事者が参加しているのは 当たり前という理解がなければならないのですが、なかなかそこまでできていないので、 当事者からマニュアルづくりを任せてと、声を出していくことが必要だと思います。
県レベルでは、県の団体と話をして、県職員を仲間にして、県は市町村に話をし、当事者団体は 県と連携をとりながら各地区で運動するのがいいと思います。
藤田
(今度の震災体験をとおして感じたことを)3点申し上げます。マニュアルをつくるのであれば、 下からの積み上げでつくるべきだと思います。その際に、マニュアルは1つで完璧なものは ありえないということです。
2つ目としては、今回の災害で一番強く訴えてきた事ですが、同じ障害を持つ人同士が避難できる 福祉避難所、あるいは二次的避難所を早急に設けてほしいということです。突発的な災害時に、 近所の避難所ではなく、いきなり障害をもつ人の為に指定された避難所に行けるかどうかは、 かなりの問題があります。とりあえず近くの学校体育館などの避難所に行き、落ち着いてから 福祉避難所に行くべきではと私は自分の体験を通して思いました。情報が共有でき、同じ障害を もった人同士が集まることで安心できます。
3つ目に、しかしその場合、同じ障害をもつ人が一ヶ所に30、40人が集まって避難し、そこが また危険な状態になった時の避難誘導の困難、誰が誘導するのか。誘導する人が常に10人も 待機しているのは難しいことですから、その課題があります。
最後になりますが、(災害当事者として)地元にいながら気づかないことがあって、逆にいると なおさら見えない点がわかって、今日は大変勉強になりました。機会がありましたら、今度は 新潟県でシンポジウムを開くことを考えていただければと思います。
内田
災害救援ボランティア本部は、県と合同で立ち上げたもので、平成17年度にはマニュアルを つくることになっています。皆さんからアドバイスをいただき、当事者が参画したマニュアル づくりにしたいと思います。
マニュアルは市町村が本気になってつくらないとダメです。県社協もつくったことありますが、 原則は、市町村が地域性を生かしてつくるべきものです。
私が今悩んでいるのは、被災者の方々の自立に向けての支援はどうするかということです。 除雪もそうですが、災害前は自力でやっていたわけです。それらを考えながら、自立に向けた 復興支援のボランティア活動の推進、支援はどうあるべきか悩んでいます。皆さんから お知恵を拝借したいと思います。

■質疑応答

障害者支援の中身

質問者
神奈川県逗子市の身体障害者団体の者です。中越地震で、市会議員の藤田さんのおかげで 障害者は助けられたと聞いています。視覚障害者を中心に支援をしたのか、他の障害者にどのような ご苦労があったのか、聞かせてください。
藤田
視覚障害者と聴覚障害者のコミュニケーションはとりにくいものです。私がやったのはとりあえず、 行政に対して働きかけることでした。足りないものは何かをしっかり把握し、それを各障害者団体に 情報を逐一返すことでした。それは情報の共有と言えると思います。とっさの場合に行政ができる ことはきわめて限られています。常に知り得た情報は各団体、当事者に返すようにと常々申し上げてきました。 私のできる範囲はそういう部分だけだったかもしれません。いずれにしても、それが最も大切だと 思います。

火災・津波があった場合

質問者
私は自然災害関係の仕事をしている者です。今回新潟では、幸いにして火事が起こらず、 また静岡で予想されるケースと違い、津波なども発生しませんでしたが、もしそういうことが 起きてしまったら、と想像すると恐ろしくなります。もし火事や津波があったとして、 一刻を争うような事態になったとき、障害者の方々、支援を必要とする方のコミュニケーションの 状況などを考えたら、どうなっていたかと思い返されることがあったら、伺えればと思います。
内田
想像でしかないので、お答えは非常に難しいですね。先ほど話したように、社会福祉協議会 そのものは、普段からどういう方が地域に住んでいるか、どういう障害をもっている方が住んでいるかを、 だいたいは把握しておかなければなりませんが、いざそういう状態になって、社会福祉協議会自体の 建物も社協職員も被害を受けた場合、果たして対応ができるかどうかといったら、これは正直な ところ答えられないです。
普段からのネットワークと言葉で言えば簡単ですが、要するに人間関係をどうつくっていくかです。 お互いにコンセンサスを得る場をつくるには、何らかのきっかけづくり、仕掛けをしなければ なりません。福祉教育のモデル地区支援事業が、まさにそのきっかけづくりにつながると思います。
お互いにコミュニケーションを結ぶ場をつくっていけば、火災発生時に、「あの人はあそこにいる」と 見えてくるのではないかと思います。自分もパニックにはなるとは思いますが、仲間、友だちをつくる 場をもっと広くつくっていかなければなりません。

福祉相談員の関わり

質問者
福井県からやってきました。12月に「障害者災害フォーラム」を開きました。そのとき、 それぞれの障害者の立場から、福井水害における被災状況や、今後の避難体制をどのように したらいいか、情報の問題などのシンポジウムをしました。そのとき出た意見は、日頃の コミュニケーションの大切さです。ただ、町内会といっても、知らない人が来たのではパニックを 起こしてしまいます。町内づき合いだからいいということでもありません。 そのときに注目されたのは、城野さんの話の中にもあった福祉相談員です。
福井県でも、今度身体障害者の福祉相談員150人の研修会もあります。知的障害者にも相談員がいます。 精神障害者には相談員制度がないので、施設に出入りしている人とか、施設職員に相談員になって もらいたいという声もありました。
そこで城野さんに、相談員はどのように山梨県では関わっているのか、どういう役割をされているか、 ぜひお聞かせ願いたいと思います。
城野
山梨県でも、身体障害者の相談員については、山梨県身体障害者連合福祉会が事務局になり、 各市町村にお願いしています。知的障害者については、県障害者相談所が事務局となり、 主に保護者にやってもらっています。ただ問題は相談員の高齢化です。私どもとしては、本当に 地域で動いていただける方にお願いしたいので、高齢化はこれからの課題です。相談員の研修も 県でも何度かしています。この間も防災マニュアル研修を100人以上の相談員さんに集まって いただいて開催しました。
市町村ごと、小中学校単位で、そこにいる相談員、民生委員、学校の先生など入ってもらって、 そこの地域でどうするかという具体的な話し合いを支援するなかで、相談員も参加してもらう機会を つくっていきたいと思っています。
藤澤
今日は、災害に対するたくさんの課題が提起されました。防災マニュアルづくりに当事者が 参加するにはどうしたらいいかと、県の担当者に質問すると、障害者団体の皆さんがもう少し交渉して くださいと言われます。でも、障害者団体が動かないと何も進まないようでは困るのです。
しかし、今日は参加している行政の方もたくさんいて、今日のお話を聞いて、当事者の参加の 大切さをわかっていただけたと思いますので、手始めに何か1つ行動を起こしてもらうことが 将来の大きな輪につながると思います。
情報保障委員会でも、マニュアルづくりのマニュアルをつくって、皆さんに提示したいと思っています。 本日はありがとうございました。
発行
2005年3月
編集・発行人
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