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障害者と災害時の情報保障
~新潟中越地震の経験と今後の防災活動~
シンポジウム報告書

シンポジウム「利用者が参画した防災活動とマニュアルづくり
~新潟県の経験と今後の展望(先進事例を交えて)~」

☆パネリスト

新潟県長岡市議会議員・新潟県視覚障害者福祉協会 藤田 芳雄

今回の災害の特徴

私は光を少し感じる程度で、全盲に近い視覚障害者です。このたびの災害をふり返って見ると、 大きな特徴として何点か挙げられます。そのひとつは中山間地の災害ということ。山古志村を 中心とした過疎地の被害であったことが特徴的でした。もう1つは、阪神・淡路大震災と大きく 違って、建物そのものよりも、地盤災害だったということです。土地そのものがひび割れ、 崩れ落ちましたが、その上に建っている建物の被害はそんなに大きくなかったということがあります。 今回、激甚災害に指定されるとき、大きな問題になったのですが、地震後、建物が、道路よりも1.8mも 下がっていた所がありました。エレベーターのようにストンと建物がそっくりそのまま落ちていたのです。 建物は残っていても使えない。これは今までの地震では考えられない災害の形でした。

もう1つは、何といっても余震災害です。阪神・淡路大震災のときは、強い地震が1回で おさまりましたが、今回は震度6弱、あるいは強の地震が1時間に4回も起きたのです。 笑い話ではなく、本当にあった話ですが、1回目の地震で傾きかけた家が2回目の地震で家が 元に戻ったという話もあります。こんなふうに2回目の地震で元に戻ったのはいいとしても、 もちろん倒壊した家屋がほとんどです。私の家も屋根瓦が落ち、壁もひび割れたままとなっています。 家具、食器なども半分は割れました。

つかみにくい住民の要望

私も議員としてあちこち聞いてまわりましたが、なかなか住民からの要望が見えてきませんでした。 地元紙の「新潟日報」には、「遠慮深い県民性」「つかみにくい要望」と言った記事が出ていましたが、 本当にそうだと思います。避難所で炊き出しを受けたときに「おいくらですか?」とお金を払おうとした 人もいたとかで、他人に迷惑をかけたくない、申し訳ないといった意識の強い土地柄です。同時に、 どんなに困っていても、あれをしてほしいといった要望をなかなか出してくれません。 一般の皆さんもそうなので、障害をもった方はなおさらです。避難所に行くよりも何よりも、 自分が行けば人に迷惑をかけてしまうという考えが根底にあったように思います。そういった県民性の中で、 障害者自身の要望や実態がなかなかつかみきれませんでした。

障害者への支援の状況

私も、今後いろいろなところで訴えていかなければいけないので、障害者の避難状況を聞いてみました。 まず長岡市の福祉担当の課長と話してみました。被災直後、3日間から1週間はパニック状態ですから、 はっきり言って、障害者がどうだとか、健常者がどうだとか、要介護、支援のお年寄りはどうだというふうな 問題ではなかったようです。つまり福祉課の職員は、福祉だけを担当していられなかったのです。 何をしていたかというと、避難所対策です。長岡市の場合、避難所が125ヶ所あり、5万人以上が 避難をしていましたので、全部に市の職員が張りつかねばならず、障害者のためにだけどうしようということは、 初動体制では全くできなかったのが実態でした。

今日のテーマは、「障害者と災害時の情報保障」ということですが、特に障害者に対する情報は どうだったのかと福祉課と話を進めた中で、防災無線という話が出ました。先ほど来、 防災マニュアルをつくるという話が出ていますが、これに対して私は異論があります。 10年前につくったマニュアルを、新たに地震が起こってから「これはいいな」と後から見て思った というぐらいですから、マニュアルがあればいいというものではありません。
防災無線も、大地震のときにどんな活躍をしたかと見ていたら、どこからでも一斉に使えるために、 みんなが一斉にしゃべるので、聞いているほうは何がなんだかわからず、まったく役に立たなかった とのことでした。

視覚障害者には、ガイドヘルパーの活躍は、初動体制の中では無理だったと言わざるを得ません。 ガイドヘルパーの方も被害を受けているので、要望は最小限にとどめてほしいのが、生活支援センター の言い分です。しかし、視覚障害者にとっては、緊急時に買い出しにも行けないし、給水車が来ても いけません。こんなときこそ、ガイドヘルパーが活躍すべきですので、解決しなければならない問題でしょう。
そんな訳で、やはり私は広域的なガイドヘルパーのネットワークづくりが、ぜひ必要だと思っています。 日頃から、地元のガイドヘルパーとの関係づくりだけでなく、他市町村との広域的な交流が必要だろうと 思っています。ガイドヘルパーだけではなく、聴覚障害であれば要約筆記、手話通訳に対しても広域的な ネットワークづくりが必要だと思います。

聴覚障害者への対応については、市の福祉担当課が地震から1ヶ月半ほどたってから、 被災者生活再建支援制度について、聴覚障害者の方に集まって頂き、説明しました。
また、安否確認については行政では無理です。もちろん、地元のネットワークが大きな役割を 果たしますが、これを脇において考えると、どこが活躍したのでしょうか。私が調べたところでは、 日常的に行き来のある、聴覚障害者でいえば手話サークル、視覚障害者であればその福祉協会、 ガイドヘルパー、点字・点訳ボランティアなどが、いち早く行政よりも先に安否確認を行いました。

長岡市の福祉の担当者は、この自発的な活動を、何とか組織化、ネットワーク化すべきだと 考えています。今回は自発的でしたが、ダブって活動しても意味がありません。たとえば 点訳の会とガイドヘルパーの会が、同じ所へ何回も安否確認しても無駄になります。
特に今回の地震で一番大変だったのは、避難所の問題です。何と言っても、自宅避難者という、 自宅で避難せざるを得なかった要介護度の高い高齢者、あるいは重度の障害者の皆さんに対する 問題です。遠慮しているからということではなく、どうしても避難所に足が向かないという実態が あり、自宅で避難せざるを得ない人たちをどうやってフォローしていくかは、大きな問題だと思います。 特にひとり暮らしで聴覚に障害をもった高齢者の問題は、本人にはいっさい情報が入ってこない という事で重大です。

避難支援リストの作成に関する問題点

内閣府の丸山さんは、障害者リスト、あるいは高齢者のリストを柔軟に運用していきたいと おっしゃり、すばらしいご発言だと思いました。長岡市の場合は、プライバシー保護がクリアできない 限りは、リストを示すわけにはいかないとなっています。国が柔軟な対応を今後示すということで あれば、地方自治体でも柔軟にできます。ただ、そのリストも誰が保管するのかという問題もあります。 地震のときにそこまで取りに行くこともできませんから、役所に置いても仕方がありません。 普段から、地元に置いておく必要があります。

もしこれが間違って福祉サービス業者にわたった場合、車イスや介護ベッドなどを売り込みに来るので はないかといった心配もあり、二の足を踏むところでもあります。改めてもう一度、いざというとき あなたのところに駆けつけていいか、支援にいってもいいか、そのリストに挙げてもいいか、 ということで了解をとったうえでつくることが必要だと思っています。

新潟県人の場合は、自分から要望を出さないし、役所からの指示がないと、なかなか自発的には 動かないという県民性がややあるようです。このあたりも今後、併せて考えていかなければと 思っています。不安な気持ちをどこに訴えるかも、マスコミが聞いたところによると、 ほとんどの場合、「わからない」という回答だったそうです。このあたりも今後のマニュアルづくりの ポイントかと思っています。

地域のコミュニティづくりが最大の防災対策

長岡市ではきわめてスムースに障害者の避難ができ、事故はありませんでした。 市の福祉の担当課長に今後どうするのかと尋ねたら、いざというとき、何かをしようと 思ってもダメだと言いました。マニュアルをつくり、それで、日頃から守ろうとしても、 これは莫大なお金とエネルギーを要する仕事となる。それよりも防災対策うんぬんの前に、 日常的に障害者が地域でどう活動しているかと言う、(日常的な)障害者の社会参加のほうが 大きな意味があるし、それがマニュアルとなる。

立派なマニュアルをつくっても、いざというときに、終わってから改めて見直しても仕方がない ということです。やはり普段から障害をもった皆さんが、どれだけ社会参加ができるかの地盤を つくることに、力を注いでいきたいということです。したがって、課長も言っているように普段の 障害者施策が最大の防災対策だと言うことです。
避難所の問題も考えることが必要ですが、本当に最大の防災対策は地域のネットワークです。

このたびの地震では、建物が(重い雪に耐えられるような)雪国仕様なので、大きい地震でも、 十分に耐えて家の倒壊をくいとめました。それと同時に昔ながらの地域のネットワークが 強く残っていたことが、幸いなことに被害を最小限にくいとめたのだと思います。 100の災害があれば、100の顔があると思います。地域のコミュニティだけを大事にすれば よいわけではありません。スマトラ沖地震の例からもわかるように、地域全体が津波にのまれて しまえば、助け合うことができないのです。ですから最低限、われわれ障害者がどうしたら地域に 社会参加できるか、地域とのコミュニケーションの機会をいかに多くつくるか、これが当面する 最大の防災対策だろうと思います。

発行
2005年3月
編集・発行人
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