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取り組み事例 

大嶋 雄三 (特)CS障害者放送統一機構専務理事

 

はじめに

私どもは、厚生労働省と総務省のご参加いただき、聴覚障害者の緊急災害時における対策について調査・研究をしてきました。実際の訓練活動も全国で展開してきました。

2003年と2005年の2回にわたり、その結果をまとめた冊子を発表しました。特に、2005年に発表したものは、実践的に検証したもので、具体的でまとまったものになりましたので、これは全国の市町村に無料配布をしました。

これは全国の市町村からも感心を持たれ全て配布をしたために在庫がありません。ご希望があれば、統一機構のホームページを通じて申し込んでいただきますと、冊子はありませんがデータでお渡しできます。

チリ地震による津波情報の取り組み

2月7日、チリの大地震の影響を受けた津波が発生しましたが、このときに私たちが全国に放送した内容を少しだけDVDで紹介します。

【DVD上映】

これは、まだ本番をオンエアする手前の準備の映像です。簡単に説明すると、この左上の画面はNHKの災害ニュースで、ほとんど1日中やっていました。

下は、字幕を私どもが入れています。

右側に手話を入れて、これを全国に配信しました。

これは、オンエアが始まった段階の映像です。見ていただくとわかりますが、NHKの放送番組には字幕はまだ入っていません。もちろん手話も入っていません。つまり、字幕と手話が必要な人には、このNHKの放送は役に立っていないということです。

しかも、緊急時に役に立っていない。この時に、全国で避難指示まで出ましたけれども、避難勧告の段階と避難指示の段階について、知らなかったという方がいます。どうも地震があって津波が来そうだというのはニュースでわかっていたが、避難勧告や指示が出たことはわからなかったため、避難しなかった。--できなかったと言うべきだと思いますが、そういう聴覚障害者が1人いることが判明しました。たぶんもっとたくさんおられたのだと思います。

この問題については、今内閣府で行われている障がい者制度改革推進会議の中でも取り上げられ、どうして緊急時にNHKは字幕や手話を入れないかという質問が出されました。これに対し福島大臣は、各省庁間で問題にすると、はっきり約束しています。きわめて当然のことだろうと思います。

今のところ、NHKも民放も、通常番組では字幕を入れており、例えば7時のニュースには字幕を入れて放送をしています。ところが、災害が5時ごろに発生した場合、緊急放送を5時から始めますが、字幕については、通常番組である7時のニュースでないと入らない。こういう問題があります。

放送局は、緊急対応について、とりわけ聴覚障害者向けには体制がとれてないという実態があります。NHKや在京キー局がそうなのですから、まして地方に行けば、とてもそういう体制にはないわけです。

緊急災害が起きて、ニュースがどんどん流される段階で、その情報がつかみにくく、わからない障害者がたくさんいるんだということです。これが現場の実情だとよく認識していただきたいと思います。

「目で聴くテレビ」の緊急災害放送

今日は、お手元に配りましたレジュメに基づいて話をする予定でしたが、この通りですと時間がかかるので、割愛しながらお話しさせていただきます。

私どもが放送している番組は、「目で聴くテレビ」という名称で全国に放送しています。緊急時は「目で聴くテレビ緊急災害放送」という名称に変わります。この放送局は阪神大震災の教訓を受けて、緊急災害時には障害者に対して固有の情報提供をする、日本全国を1つにした拠点がなんとしても必要であるという趣旨から、全日本ろうあ連盟や全日本難聴者・中途失聴者団体連合会が中心になって立ち上げました。以来現在まで、ずっと電波を送り続けています。

これまでに私どもは、10年間、大きな災害がある場合には必ず緊急放送を行ってきました。この「目で聴くテレビ」本局の中には、緊急災害対策本部があります。責任者と関係スタッフが本部の委員として配置されています。通常時からそういう本部があるわけではありませんが、明確に役割を分担し、緊急災害時はそれぞれの役割を果たすわけです。本部長は緊急放送を開始するかどうかの判断をするなど、規定を全て定めております。

災害時に聴覚障害者は何に困るか

災害は、何といいましても現場が問題です。現場でどういう事態があるか、そして現場で障害者の皆さんがどういう事態に巻き込まれるか、これに対する対策が求められるわけです。聴覚障害者の場合について考えてみましょう。資料にお示ししたのは、以前行ったアンケートを参考にしたものです。

いざというときにどうしますか?

緊急災害時に情報が確実に伝わりますか?

放送を見ていても、字幕がない、手話がないとすれば、確実に伝わりません。

それから自分の安否をどのように伝えるか、あるいは、自分の家族や友人たちの安否をどのようにしてつかむか。これも、先ほどのように字幕もない、手話もない状況であれば、その手段というものは、基本的にないわけです。

ニュース番組で情報はつかめますか?

もう一つは、現場で非常に大事になっている、避難場所がどこであるかという情報は、日常的に市町村の防災課が発表しています。しかし、災害が起こったとき、自分がどこに行かなければいけないかは、起こったときに知るのが大半です。ですから、みんながそのときになって移動を始めます。聴覚障害者に対しても、どこどこですよと、声で知らせるわけですが、これではまったく伝わらないんです。

緊急時、先日の津波のときもそうですが、広報車が市町村に回されます。広報車は緊急事態を音声で知らせ避難してくださいと伝えていますが、それがまったくわからない。

一番危険だったと私どもが思っているのは、原子力施設での事故が発生したときです。周辺住民が避難しているのに、聴覚障害者の方がスーパーマーケットに物を買いに行っています。ところがスーパーに行ってみると買い物客が誰もいない。「不思議だな」と思って、周囲の人にいろいろな形で情報を尋ね、ようやく情報を知ったわけですが、するとそこは、本来近付いてはいけない危険区域になっていて、知らずにそこへ入っていたことがわかったんですね。

このように、情報は非常に重要だということです。

今日は放送に関連した話に絞りますが、聴覚障害者の場合は、災害発生から避難するまで、そして避難してからあとすべての過程で、手話通訳者あるいは要約筆記者という援助者が必ず必要です。その配置がどうなっているかが非常に重要な問題です。

「目で聴くテレビ」緊急時情報発信システム

私どもの緊急時情報発信システムの概要を資料にお示ししています。全国に40カ所の聴覚障害者情報提供施設がつくられていますが、今、これらの施設とのネットワークを組んでいます。災害が発生した場合、当該地域の情報提供施設から、周囲に住んでいる聴覚障害者の安否なども含めていろいろな情報をいただいて、それを放送するという方法をとっています。

また、市町村やあるいは災害体策本部との関係も進めてています。2005年12月に静岡県で緊急災害訓練をやりましたが、このとき、静岡県知事の提案で、緊急時における情報保障の提携を私どもと結ぶことになり、現在もなお静岡県との間では緊急災害時の情報提供契約が続いています。どういうことかというと、私どもの拠点は大阪で、電波を発信しているのも大阪です。仮に静岡県で災害が起きた場合、静岡県から情報をいただき、その情報を、私どもの衛星電波を通じて、全国に送ります。静岡県の人は、それを見ることができるという仕組みです。

それともう一つ、非常に重要なことは、私どもは、通常は障害者に固有の文化・スポーツなどの放送番組を流していることです。緊急時だけ何かを放送するという計画は、結局、緊急時に役に立たないんです。そういう意味で、通常の利用の方法を定着させながら、緊急時には、そのまま切り替えが出来るという方法をとっています。

「目で聴くテレビ」緊急災害放送システムを資料にお示ししています。こんな図を見ても、あまりわかりませんよね。軸は大阪の放送局から衛星に対して電波を発信して、全国に放送をしています。情報の全国的な収集ネットワークとして、各地の情報提供施設との間でインターネットを通じたネットワークが組まれています。

もう一つ、災害はどこで起こるかわかりません。大阪で起こる可能性もあります。起こったその場所からいろいろな情報を出すのは不可能なんですね。今までやってみてもほとんど不可能でした。静岡で災害が起きて、静岡でやれというのは無理な話です。人の問題、機器の問題から言っても無理です。ですので、例えば静岡で災害が起きたら、神戸で支援する方法がとれるように、全国的な通信ネットワークを持っています。現に今、広島、東京、大阪と、この3つの拠点から文字配信を行えるようになっています。今後も、兵庫、和歌山、新潟と増やす計画を持っています。

最後に

今、国の障がい者制度改革推進会議の内容を、全国に生中継しています。この中継については、現在、東京で言えば都盲協、大阪ではライトハウス、埼玉では個人の方ですが、いずれも視覚障害者関係者がこの放送を見たい、聞きたいと、受信機を配置しています。

私どもは聴覚障害者に対する情報提供を専門的に行ってきましたが、他の分野にも利用できる方法を、今後進めていきたいと考えております。

ただ、一番大きな問題は、財政問題です。緊急災害時にかかるお金は、大変なものです。国はそのための特別予算を持っています。市町村もです。それがきちんとこのような活動に有効に活用されるようにしてほしいとお願いします。

今回は時間が押してしまい、準備していた内容を十分発言できませんでしたが、これで私の話を終わります。

 

緊急災害時の取り組み[HTML版]

 

緊急災害時の取り組み[PDF:677KB]