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国の取り組み

山崎 一樹

内閣府防災担当付参事官(災害応急対策担当)

 

はじめに

みなさん、こんにちは。私の名前は山崎一樹です。よろしくお願いします。(以上、手話で)

私は10年前に少し手話の勉強をしました。私は役人の生活が25年になるのですが、1年間だけ福祉の仕事をさせていただきました。10年前に福岡市役所で障害者福祉の担当をし、手話の勉強をしたのですが、今はこれしか覚えていません。

当時はまだ、「災害時要援護者」という言葉はございませんで、「災害弱者」という言葉でした。私が当時、今で言うところの要援護者の名簿づくりを手がけたのですが、なかなか作るのが難しい状況でした。障害者団体の方や障害者の方とお話をしたことも当時はあったのですが、なかなか、名簿を作ること自体が、いろいろ困難な理由があると思っていました。その理由はあとでご紹介します。

それから10年経ち、去年の4月から内閣府で防災の仕事を担当することになりました。普段の仕事の中で、一番の私の役回りは、大きな災害があったときに、政府の対策本部を立ち上げることです。この後、チリ地震に伴う津波の話が出てくると思いますが、津波のあった3月28日は日曜日で、朝8時くらいに私の携帯電話が鳴り、「今日のお昼頃に津波が来る可能性がある」とのことでした。すぐに官邸に向かい、そこには危機管理センターがあるのですが、そこで津波対策を行いました。今回は情報を収集することが主でした。

官邸には、鳩山総理、防災担当大臣がお越しになり、夕方ぐらいまで、かなり緊張した状態で、情報収集や、自治体の対応について指示をする作業をしていました。

そのときの話題の1つとして、「要援護者対策はしっかり行われているか」、ということがありました。ちゃんと要援護者の方に避難指示、避難勧告が伝達されているか、政府の中でも大きな課題として取り上げられるようになっています。

冒頭、笹川会長のお話では、政府の取り組みはまだ必ずしも十分ではないという厳しいご指摘もありましたが、今日これまで政府でどのような対応を取ってきたか、今どういうことを課題と考えているか、これからどういうことを検討していくかを、皆さん方に参考として説明したいと思います。

災害時要援護者の避難支援について

「災害時要援護者」という言葉については、私から説明するまでもありませんが、お手元の資料にもありますので、ご覧ください。「具体例」の中に、障害者も含まれています。

なぜ災害時要援護者の方への避難支援なのかといえば、それは命に関わることだからです。いろいろな防災対策は必要かと思いますが、防災対策をした上で、さらに災害を受けてしまった場合は、安全を確保し、避難をしていただくことが、生命を守るために一番重要な課題になってきます。その点について、やはり重点的に取り組まなければという話があったのです。

そのきっかけになりましたのは、平成16年の大雨でした。よくご存じかと思いますが、平成16年7月に新潟県・福島県で大雨が発生し、このときは在宅の高齢者の方々に大きな被害が出ました。死者も出ました。これまで自宅にいる人が雨の被害で亡くなられる経験はそれほど多くなかったので、これは対策を講ずる必要があるとなったのが、1つの大きなきっかけです。

さらに申し上げますと、実はさらに10年前、平成10年にも、福島県で同じようなことがありました。このときには社会福祉施設に土砂が大量に流入しました。このときも9人が亡くなっています。歴史は繰り返します。去年7月にも豪雨がありました。山口県の特別養護老人ホームの施設に土砂災害が発生し、7名が亡くなりました。施設での災害があり、在宅の方々の災害があって、そしてまた施設での災害が起きたのです。政府としても取り組みを進めてきてはいますが、依然としてこのような状況が続いています。

集中豪雨等における情報伝達及び高齢者等の避難支援に関する検討会(平成16年度)

災害時の課題ですが、これは永遠の課題で、今でも同じような課題があるというのが、皆さま方共通の問題認識だと思います。平成16年度の「集中豪雨等における情報伝達及び高齢者等の避難支援に関する検討会」では、次の3つの課題が挙げられました。

課題の1つめは、市町村からきちんと伝達されているかどうかです。

課題2は、要援護者の情報が関係者の中で共有されているかどうかです。

課題3は、要援護者の方の避難を支援する人が、きちんと位置付けられているかどうかです。

少なくともこの3つの課題を乗り越えていく作業が必要であると理解してよいと思っています。

当時検討した内容の中での具体的な対応策の1つが、避難勧告が発令され、それが伝達されるとき、どのような方法がいいのかということです。その1つとして、「避難準備情報」という新しい考えを提示しています。避難準備情報というのは言葉を変えると、「要援護者の方々は避難してください」ということです。

また災害時要援護者の方の避難支援については、いろんな対応が必要ですが、あらかじめ「避難支援プラン」(避難支援計画)を策定することを挙げています。計画をつくる主体は市町村ですが、市町村に個々人の方の避難支援プランを作っていただくことを述べています。その前提として、手上げ方式、同意方式、関係機関共有方式という3つの方法のいずれかで、避難支援の前提になる、要援護者個々人の情報を共有し、避難支援のリストをつくる作業をお願いしたいということで、検討会はまとまりました。

災害時要援護者避難支援対策の取組について

これに基づいて、国で2つのガイドラインを作成しました。

1つは「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」です。

もう1つは、「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」です。これがこの前のチリ津波でも役だったと言われたものです。健常者も含め住民にどう避難勧告を伝えるか、というガイドラインです。

残された課題として、福祉関係者との連携のあり方や、あるいは避難所運営の際に要援護者の方をどう支援するかがありましたので、平成17年度に「災害時要援護者の避難対策に関する検討会」を開き、さらなる検討を進めました。

この中でいくつか障害者の方に関しての話も出てきます。1つは、実際に避難所を運営する場合の情報共有の例です。これまでは、避難所でも関係者がばらばらに対応していたのを、なるべく連携が取れるような「連絡会議」(要援護者避難支援連絡会議)をつくる必要があるのではないか、というご提案です。もう1つは、障害者団体による積極的な支援活動についてです。実際に計画を作る際、あるいは支援活動の際に、障害者団体の方にも活動をしていただくことが必要ではないかというものです。このような検討をさらに深め、それを受けまして、18年3月、皆様に「災害時要援護者の避難ガイドライン」の改訂版としてお示しさせていただきました。

その後も毎年度、いろいろな方法で普及・啓発に取り組んで来ましたが、なかなか市町村での検討が進まない状況です。なぜ進まないかについては、後ほど我々としての考えも説明させていただきます。

平成19年度には、それぞれの市町村で、どういう取り組みをするかの基本的考えとして「全体計画」をまず決めてくださいという通知を出し、参考となる「モデル計画」も示したうえで、21年度、つまり本年度末までに策定してくださいという数値目標を立てました。この実績については後でまた説明します。

平成20年度には、市町村を指導する消防庁と内閣府が共同で、全国の市町村を「全国キャラバン」として回りました。

本年度は、まだ課題が残っていることから、「災害時要援護者の避難支援対策に関する検討会」をさらに消防庁で立ち上げています。この検討会では、笹川会長などにもご発言を賜りました。以上が大きな流れです。

災害時要援護者の避難支援ガイドライン(平成18年改訂版)

さて既に申し上げたとおり、5年前の平成18年3月に、基本的考えとして「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」(改訂版)を示しました。我々は主として都道府県を通じて、各市町村での取り組みを検討してほしいとお伝えし、そのために5つの課題を提示しました。今振り返ると、国での検討結果としての課題を市町村に検討してくださいと申し上げたところが強いのではないかと感じます。先日、本年度の検討会で障害者団体の方にヒアリングをした際に感じたのですが、皆様のご意見が計画づくりや、災害が発生した際の応急対応に生かされるようにしなければいけないと思います。しかし、その場合でもこの5つの課題は変わらないだろうと思います。

【課題1】は、情報伝達体制の整備です。

チリの津波でも話題になりましたが、せっかくなのでご参加の皆様にお伺いしたいと思います。「避難勧告」と「避難指示」とはどう違うのでしょうか。どちらがより強いものだと思いますか? 避難勧告されたら逃げなきゃいけないんじゃないか、でも、指示をされるほうが強いんじゃないか、など、いろいろな感じを持たれると思います。

災害対策基本法では、災害の恐れが大きい場合は、市町村長がまず避難を勧告します。それでも足りないような大きな災害になりそうな場合は、避難の指示をします。逃げなさい、というわけです。順番から言うと、まず避難勧告を出して、避難指示をする。このように、法律上は考えられています。

災害はあっという間に来ることもあります。この前のチリ地震に伴う津波では、大津波警報ということで、避難勧告や指示を直ちに出した自治体もありました。でも、まったく出されないところもありました。今、分析しているところですが、海岸部を持つ市町村でも、防潮堤や防波堤がある場合、津波警報が出たからといって避難勧告や指示をすぐに出す必要があるか。これはケースバイケースの問題になってきます。この点、要援護者もそうですが、それぞれのお住まいの市町村がどんな状況にあるのかをよく認識する必要があります。

平成16年当時の議論では、要援護者には、さらに早い段階で情報提供の必要があるということで、「避難準備情報」という新しい概念を導入いたしました。これはまだ、災害対策基本法で示しているものではありませんが、避難行動をするのに、時間的余裕がある方には、あらかじめ市町村の役場から準備的情報として避難準備情報を出すよう、それぞれの自治体で考えてもらうよう提言しました。これは、避難支援者にとってみれば、まさに支援準備をすることになります。また、要援護者の方にとっては、避難準備情報は、まさに避難してください、という情報になります。これは、意外と市町村役場の方にも充分理解されていない内容です。避難準備情報なんだから、とりあえず準備をすればいい、というお考えの自治体もまだあるようです。

しかし、我々が当初考えたものは、避難準備情報は、要援護者にとっては、準備ではなく、避難していただく情報であるということです。それくらいの位置づけで、市町村役場から、要援護者の方に情報を伝達するものです。

【課題2】は、災害時要援護者情報の共有で、これも非常に大きな課題です。それぞれの自治体が一番悩んでいるものです。

情報収集・共有の方式として、手上げ方式、同意方式、関係機関共有方式が挙げられています。関係機関共有方式については、もちろん個人情報保護にも十分に配慮した上で、強制ではなく対応することが当然の前提となっていますが、なかなか市町村では、ここをクリアするのが難しいと、今でも多く伺っています。

冒頭のご説明にもありましたように、措置費から支援費に変わってきたことが大きな変化でして、自治体だけでは情報を把握できなくなっており、そのような認識は当時から私どもにもありました。これが実は今でも課題です。

【課題3】は、災害時要援護者の避難支援計画の具体化です。

個々の要援護者の方々をどうやって避難支援するかについては、言ってみればカルテをつくっていただくことになるのですが、それを我々は「個別計画」と言っています。

「個別計画」を作るに至るのが、市町村によってはなかなか難しいところが相当おありのようで、我々としては、市町村でどういう形で要援護者の支援を進めるかの基本的な考え方として、まず「全体計画」を作ってくださいと申し上げています。この計画に基づいて、要援護者ご本人の意見を聞いた上で、個別計画をつくってくださいと申し上げています。ガイドラインの改訂から5年ぐらい経ちますが、この点も難しいところがあると我々も認識しています。

【課題4】は、避難所における支援です。

福祉避難所の取り組みも実は市町村によってかなりバラツキがあります。福祉避難所の設置に対応している市町村は、厚労省の調査では全市町村の中で23.8%に留まっています。市町村もなかなか課題が多く、国としては市町村のご意見も伺いながら、しかしこういう状況は改善しなければという認識を持っています。

【課題5】は、関係機関等の間の連携です。

要援護者の場合は、連携すべきさまざまな関係者が健常者の場合よりも多いという認識が当時からありました。これをクリアしなければなりません。

以上5つの課題を、これまでも国として整理した上で、自治体の方々に対応をお願いしたいと申し上げてきたのですが、どうしてクリアできないのでしょうか。

災害時要援護者対策の進捗状況

ちょうど1年前に調査した市町村における全体計画・個別計画の策定状況を見ますと、全体計画を「策定済」「策定中」に対して、まったく「未着手」が3分の1くらいあり、ちょっとショックでした。

個別計画を作っていきたいとして「整備中」のところが3分の1強。進めようという姿勢は見えるのですが、自治体によってかなりバラツキがあるというのが、ちょうど1年前の状況です。

私ども役人はすぐ言い訳を考えてしまいますが、対策が進まない理由について市町村の方々の意見を聞きますと、1つは、市町村の中で部局間の連携が不足している、「縦割りだ」ということです。具体的には、福祉担当部局と防災担当部局の連携が意外とできていない。私も市役所で仕事をしたことがあるのでわかるのですが、縦割りの壁をなかなか調整できないのが、皆様も頭を悩ませているところだと思います。

2つめの理由として、個人情報保護の問題があります。障害者団体の方々、障害者の方々は、我々健常者と違うポジションにおられることは十分認識しなくてはいけないと、恐らく市町村の役場の方も考えておられますが、これをクリアするのが難しいところがあります。

3つめの理由として、支援者の数が足りないことがあります。具体的にどの方が個々の要援護者を支援するか、その支援者が足りないということです。

以上は1年前の調査の結果ですが、私が着任したとき、前の方から引き継いでこのペーパーを見せられ、改善をしなければといろいろな取り組みをさせていただきました。1年後、再度調査したところ、次のような結果になっております。

まず全体計画については、3分の2くらいは策定済み、あるいは今年の3月までに策定予定となっています。もう1~2年くらいすると、ほとんどの自治体が、まずどういう形で取り組むか全体計画で定めるという状況にようやくたどり着きそうです。

一方、災害時要援護者の名簿の整備に関しては、8割ぐらいの市町村で整理が進んでいるとなっています。個別計画では、60%ぐらいが整備中です。

1年経って、若干は改善され、そこそこ進んできたというのが、数字の上での状況です。

皆さんがお感じになっている感覚と市町村の行政レベルと、どれぐらいの違いがあるのか、今日のシンポジウムでお話が出てくると思いますが、ぜひ私も参考にさせていただきたいと思います。

災害時要援護者避難支援対策に関する検討会(平成21年度)

さて本年度、笹川会長にもお越しいただきました「災害時要援護者の避難支援対策に関する検討会」ですが、資料にお示ししている写真は去年7月の施設での災害の状況です。丸い建物に土砂が流入しました。この写真はマスコミではなく、警察のヘリコプターが撮ったものです。この情報を当日のお昼くらいに私が入手しました。今は災害が起きると、消防、警察、自衛隊のヘリコプターから直ちに情報をもらい、内閣府防災担当でチェックしています。

これを見て、これは想像を絶する災害だと思いました。前日から気象情報をいただいていて、1時間あたりの雨量が100ミリを超えるということでした。最近「ゲリラ豪雨」という言葉がありますが、1時間当たりの雨量が50ミリを超えるのは相当ですが、100ミリ近くになるとのことでしたので、率直に言って、日本のどこかで災害が起こると感じていましたが、こういう形で福祉施設での災害があるとは思いませんでした。

これを見た瞬間に官邸にも情報を入れ、現地を調査しなければと、翌日私どもの政府調査団を現地に派遣し、その後、私も総理に随行して施設にお伺いしました。

10年前に施設災害があり、5年前に在宅の災害があり、また施設の災害が起きたということで、もう一度これまでの検討を振り返る必要があると、現在、消防庁で検討を進めています。

また検討会では当事者の意見ということで、障害者団体2団体から意見聴取をさせていただいたところです。

今後の課題

これを受けて今後どうするのか。これは、まだ政府部内でも十分検討してない、これから内容を固めていかなければならない、ホットなものですが、今、避難のあり方等について、大きく分けて4つほど課題があるかなと整理しています。この4つについて、来年度4月以降に、政府全体として考えなければいけないと考えています。

チリ地震の津波対応の際に、官邸内で、「要援護者は大丈夫か」という認識がありました。これは、この10年間、特にガイドライン作成以降5年は取り組みが進んできたはずですが、依然十分ではない、ということです。

この4つの課題は私が書いたものですが、「災害時要援護者対策」を「避難所のあり方」のところに入れていますが、これでは足りないんじゃないかと考えています。例えば、「災害情報のあり方」にも要援護者対策は必要かと思います。わかりやすい災害情報は、受け手によって違います。要援護者にとってわかりやすい災害情報をどういう形で伝えるかは、今日のシンポジウムの趣旨にも合致すると思います。

今日のシンポジウムを聞かせていただき、内容を再検討しまして、私どもだけではなく、政府全体で、もう1度取り組みのてこ入れをしようと考えます。

ちょうど去年から大雨の災害があり、今回、津波がありまして、やはり問題がいっぱい出てきたなと思っております。

災害の現場は市町村、それを指導する都道府県です。私ども国は、基本的考えを示す役割分担にはなっていますが、皆さんからみると行政はみんな一緒だろうと思います。

今申し上げたことは、21年度中に整備して、4月からはもう少し本腰を入れて検討したいと思っています。

今日は私もぜひ勉強させていただきたいと思います。

駆け足になりましたが、これまでの政府の取り組みと、今、何を課題として考えているかを簡単にご説明させていただきました。

多分、この説明では足りない部分もあると思いますので、その点、私も勉強させていただきます。ありがとうございました。

<質疑応答>

●会場 ガイドラインや、具体的な計画の話をいろいろといただきましたが、この中で重視すべきなのは、支援機器との関係だと思います。つまり、自治体と要援護者を結ぶにも、やはり人が仲立ちするだけでは、なかなかうまく行かないと思います。

ガイドライン等の説明の中で、支援機器の話がまったく出てきていません。携帯電話やインターネットがこれほど普及しています。私は視覚障害者ですが、視覚障害者もそういうものを利用しています。インターネットはまだ現状、少ないかもしれませんが、少なくとも携帯電話については、相当数の者が持っています。

こういう支援機器との関係を、ガイドラインや、あるいは自治体の計画に入れることも、これからは考えるべきではないかと思います。今のご説明にはそういう視点がないように思いました。

 

●山崎 そういうご質問も想定していました。災害情報の伝達手段は、おそらく受け手によって違うと思います。いろいろなメディアがありますので、多様な手段を活用して災害情報を伝達していくことは、課題として認識しています。

これは5年前、10年前もあった問題です。どうして進まないのか、最近頭を悩ませています。例えば携帯電話の利用についてですが、障害者の間でも、携帯電話の利用は飛躍的に増えていると思います。それを災害情報の伝達にどう使っていくかは非常に重要な課題だという認識は持っていますので、次のガイドラインではきちんと出していきたいと思います。

去年の兵庫県佐用町の大雨は、非常に特色があって、これまでは高齢者の方が比較的災害に遭っていたのに対し、高齢者だけでなく、若い方の避難のしかたが十分でなかったことがあります。また車で移動した方が亡くなっています。情報伝達のツールの話も重要です。どうやって正確な情報を伝えるかは、非常に大きな課題だと思います。車での移動の方には、カーナビで情報伝達することも必要だという意見が、検討会でも出ています。

伝達手段の話と、あとは実際に流す情報をいかにわかりやすく、理解される情報とするかというコンテンツの話と、両方の議論が必要です。

先日の津波情報でも同様です。1つ目の波より2つめ、3つめのほうが大きい可能性がありますが、これについて、一般の国民に浸透した理解があったわけではなかったようです。「1つめの波が小さかったから」と避難をやめてしまった方が相当数あったようです。気象庁では最初から、2波3波はすぐに来るのではない、5時間ほどたってからだということも言っていましたし、その情報は最初から流していたのですが、十分伝わっていないし、理解されていない状況がありました。

 

●会場 杉並区でも、先ほど言われた要援護者名簿を作りました。2万名ぐらいです。区で原簿を作り、その方にダイレクトメールを送って、助けてほしい人は助け合いネットワークに登録して欲しい、という方式で進めています。

助けられるほうは、そういう形で名簿化されていますが、助けるほうも必要だということがあると思います。

東京で大きな地震があったら、東京の中、あるいは杉並区の中で助け合うのは難しいでしょう。東京で地震が起こったとき、どこの地域が、県が、地震の被害がないのか把握し、そういうところから助けに行くということを、国である程度想定してやってくれるとありがたいです。そういう考え方はありますでしょうか。

 

●会場 普段IT通信で働いている視覚障害者です。役所は縦割りという話がありました。災害は時と場合を選びません。要援護者が学校、職場、駅、交通機関等で災害に遭うこともあると思います。官公庁の横の連携はいかがですか。

 

●山崎 最初の杉並区の方の質問ですが、この前、ちょうど杉並区役所に話を伺いに行きました。要援護者についてではなく、最近河川氾濫があったため、都市水害についててお話を伺いました。

さて国がどう支援するかについてですが、首都直下地震、東海地震、東南海地震という3つのパターンでは、それぞれの市町村、都道府県だけで対応できない事態になります。例えば救急救助、自衛隊なども関わります。また、物資の調達、広域医療の問題もあります。病院では手当できない人を自衛隊のヘリで外にお連れするような、そういう個々の分野で広域的な支援のための具体的な計画をすでに持っています。

まだ十分じゃないと思うのは、ボランティアの対応についてです。大きな震災になると、ボランティアの方が支援に入ってくることになると思います。社会福祉協議会のネットワークを通じて入ってこられる方が多く、去年の事例でも、対応は社協を中心に行いましたが、大きな災害だとまだ経験がないので、なかなかうまく行くかわかりません。来年の総合防災訓練では、静岡県の東海沖地震の訓練をしようとしています。今、静岡県あるいは全国のボランティアグループと、大規模震災では広域的なボランティア支援はどうするかを検討しています。おそらく障害者団体の方々もそこに入っていただけるとよいと思います。首都直下の場合は大変だと思います。今、やっと考えている、考えなければいけないと担当の私が思っているぐらいで申し訳ないのですが、皆さんが声を出してもらえるといいと思います。

 

2つめの行政の縦割りに関する質問については、最近あまり評判が良くないようですが、政府は各行政分野ごとに省庁がそれぞれ責任を持って、それなりにしっかりやってきているつもりです。

災害時には官邸に関係省庁の偉い方々が集まって、そこで対応を検討する仕組みができています。チリ地震でもそうでした。去年の8月、佐用町の大雨があったときは、駿河湾の地震も起きました。2ついっぺんに起きて、これは大変だ、オペレーションセンターとして2つ一緒にオペレーションしなくてはということになりました。

今は、初動対応、つまり災害が起こってすぐに政府としてどういう対応をするかについては、縦割りは減ってきています。課題となるのは、そういう時期を過ぎて、復旧・復興の段階になったとき、きちんと各省庁を束ねて官邸や総理が対応する仕組み作りだろうと思います。それもやらなければと、今は対応を考えているところです。

縦割りがすぐになくなりますとは、私の立場ではなかなか言えないのですが、このようなことでいかがでしょう。

 

災害時要援護者の避難支援対策について[PDF:1,394KB]