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基調説明

矢澤 健司

(障害者放送協議会 災害時情報保障委員長)

1.まえがき

今年の1月にハイチに大地震が起こり多くの犠牲者がでました。2月の末にはチリでM8.8という巨大地震が起こり、津波が発生し日本まで到達して大津波警報が発令されました。1995年1月17日にM7.3の大震災が神戸・淡路地域を襲い、多くの人命を失い、建造物が破壊されました。この1年前に起こったロサンゼルス地震をTVニュースで報じられましたが、この時、専門家は日本の建造物は耐震設計されているので大丈夫だろうと、予測しました。しかし、神戸・淡路大震災はこの予測を裏切り、未曾有の被害をもたらしました。地震直後に火災が発生して町全体が火の海になり、幹線道路が破壊されたために消防活動や救助活動が思うように行うことができず、日本中の国民がTVの前で愕然として悲嘆にくれながら過ごした日の鮮明な思い出を残しました。

しかし、その後の普及活動は日本中から多くのボランティアが救援に駆け付け、一人ひとりの力が蓄積され、他の国に見られないほど急速に復興が進みました。政府はこのボランティア活動を応援するためにNPO法人の制度を作り、ボランティア活動や福祉活動を支援してきました。

しかし、その後も災害は止まることなく、日本だけでなく世界中で発生し、多くの犠牲者をだしましたが、その被害の大きさは、経験の量や質に反比例しており、構造物の耐震性や支援組織の体制に大きく依存して被害の拡大を抑えています。災害を未然に防ぐことは難しいが、被害を最小に抑える為に経験や知恵の積み重ねで実現できること考え、この委員会では災害時に必要な情報をいかに保障するか、検討を重ね防災マニュアルを作成してきました。

今回のシンポジューム、「障害者と災害」の目的は

  • この防災マニュアルの普及と啓発
  • 障害者の特徴・困難性の理解
  • 国の防災政策の理解
  • 地域での経験と実践からの学び
  • 防災マニュアルの評価と更なる改良に向けて

以上の目的のために国の取り組み、被災地からの報告及び各地の取り組み事例を報告をお願いし、より良い防災マニュアルの構築に寄与することを願っています。

2.災害時情報保障委員会の活動

災害時情報保障委員会は障害者放送協議会の委員会の1つとして2002年から活動を行ってきました。2002年10月に政府に対して「災害対策に関する要望について」1) 提出しました。この要望書では次のように述べています。

 

「多くの死傷者をだした阪神淡路大震災は、犠牲者の多くが高齢者等に見られるように、いわゆる災害弱者といわれる人達であったことは記憶に新しいところであります。また、この大震災では、障害者に対して、災害の発生や安否の確認、避難誘導、避難所生活などと、その情報の提供や獲得、設備や生活維持に必要な最小限度の医薬用品の確保が成されない等の多くの課題を残しました。」

 

平常時における対応、災害時における対応、及び被災後における対応についていくつかの要望を政府に届けました。

その後、2003年に委員会では障害をもつ人に関わる市町村の防災態勢実態調査を行い、2004年に防災マニュアルの検討に着手しました。また、「障害者と災害」に関する会議を東京、新潟、山梨で開催しました。2) 3) 4) 5) 6) また、内閣府の「災害時における障害者への情報提供に関する情報交換会」にも参加し、これらの調査・検討を踏まえ提案しました。

これらの提案が行われた後、2005年3月に国から災害時要援護者の避難支援ガイドラインが出され、翌年3月に改定版が出されました。2007年12月には「災害時要支援者の避難支援対策の推進について」の通知が出されました。

3.手引書「障害者と災害」

2006年からマニュアルの作成に着手しました。災害時の障害者の特徴や困難性を理解してもらえるように、それぞれの障害者団体に依頼して障害別のニーズと配慮事項を挙げてもらいました。

代表的な障害として、1)視覚障害 2)聴覚障害 3)肢体不自由 4)内部障害/難病 5)知的障害/発達障害 6)精神障害 を取り上げました。

それぞれの障害の特徴を紹介し、災害時に困ることを述べてもらいました。このことは支援をする場合に、どのような困難があるかを理解するのに必要なことで、適切な支援と良好なコミュニケーションを得ることができます。障害ごとに、(1)日頃の備え、(2)災害が起きた時、(3)避難しているとき(避難行動・避難生活)に対して述べてあり、それぞれ本人の対応、周囲の対応について記述してあります。

また、共通する事項として、緊急情報の入手と情報発信についても述べました。緊急情報は"いのち"に直結する問題で、障害に応じたキメの細かな情報保障が大切です。人と人のつながりが大切で、地域の結びつきが災害時に助けになります。また、新しくできた「避難準備情報」についても、どのようにすべての市民にわかりやすく伝えるか表現方法など日常的な学習が必要です。

障害者関係団体として情報の収集方法、発信の方法についても検討が必要です。避難所での情報保障もそれぞれの障害における課題も考慮しなければなりません。

4.情報の共有化とネットワーク作り

要援護者に関する情報の共有化と管理については国のガイドラインでも述べられており、大きな課題となっています。同意方式や手上げ方式など本人の意思に基づき要支援者リストを作る方式以外に、市町村が持っている情報を避難支援のために目的外利用・第三者提供が行われていますが、障害者の立場からすれば、強制的に個人情報をさらけ出すことに抵抗を感じる人も少なくないので慎重な取り扱いが必要です。

障害者自立支援法により措置制度から契約制度に変わり、詳細な情報は市町村よりも事業者が持つことが多くなりました。このことは情報の一元化ができない短所ですが、見方を変えると情報の分散は情報源の多重化になり、1つの情報源が被害を受けても、他の情報源から必要な情報を得ることができ、支援の可能性を増すことになります。このためには多くの組織が地域のネットワークで有機的につながりを持つことが必要です。そのため具体的な手段を各地域や団体で行われている活動や経験が重要です。

5.シンポジウムに期待すること

今回、このシンポジウムでは、行政ならびに民間が行っているさまざまな取り組みについてお話しいただきます。国が行っている全国規模の防災対策に基づき、各自治体の防災担当部署、消防署、民生委員、自治会などが中心になって要支援者のリスト作りや訓練が行われています。また、被災された地域では、その経験を生かし、災害時の支援の問題点を検討しつつ各組織のネットワークが展開され支援が行われています。このような実際被災された経験は防災マニュアル作成や訓練を行う際にとても重要で参考になります。各地域で行っている防災運動を紹介しあうことによって、よりよいマニュアルや防災訓練、また実際の災害時に役立つ情報を得るための機会になれば幸いです。

参考資料

1)要望書:災害対策に関する要望について(2002年10月15日)障害者放送協議会(別添)

2)シンポジウム:障害者と災害時の情報保障~みんなで作ろう災害マニュアル~(2004年2月18日)戸山サンライズ

3)シンポジウム:障害者と災害時の情報保障~新潟県中越地震の経験と今後の防災活動~(2005年2月28日)戸山サンライズ

4)シンポジウム:障害者と災害時の情報保障 ~中越地震の経験と新たな取り組み~(2005年10月10日)ホテルニューオータニ長岡 

5)シンポジウム:障害者と災害時の情報保障 ~災害発生後の支援と避難所における課題~(2006年2月17日)ウェルシティ甲府

6)シンポジウム:障害者と災害~障害者が提言する、地域における協働防災のすすめ~(2007年2月24日)戸山サンライズ