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ケアサービスへの公正なアクセス:実際的ガイダンス---実施に関するQアンドA

付属資料 自立へのリスクと受給資格の事例集

CASE EXAMPLES OF RISKS TO INDEPENDENCE AND ELIGIBILITY

はじめに

次の14事例はFACS政策ガイダンスの主要側面を説明するために作成され、自治体の実施を助けるものです。これらは政策ガイダンスの普及及び職員学習のために使うことができます。自治体は、その地方のニーズや関心事に応じて事例を追加できます。

事例集は単に説明用のものなので、注意深く使われるべきです。これらは決して決定的なものではありません。ニーズとリスクのよい査定とよい受給資格決定は、援助を求める個々人と判定を行う準備のできた有能な専門職との間の利用者中心の会話(person-centred conversations)によってなされることに、自治体は常に留意すべきです。単純化するために、殆どの事例では過去にほとんどあるいは全く社会サービス援助を受けてこなかったとして描かれています。実際には、記述されているいくつかのニーズの慢性的で長期にわたる性質からして、これはありそうにないことです。過去と現在の社会サービス利用を認識することが重要な2つのケースもまた紹介されています。

適格と認められたニーズを満たすために提供される支援の程度は、ニーズの数や自立へのリスクの深刻さと直接的な関係はないかもしれません。この事例集は提供されるサービスの種類を示唆するものではありません。

自治体は受給資格についてオールオアナシングの立場を取るべきではありません。例えば、自治体の受給資格基準が「危機的」と「重度」区分からなる場合、自立への「中等度」または「軽度」のリスクを生むニーズのある人を拒絶すべきではありません。このような場合に、自治体は役立つ情報と助言を与えることができ、適切な場合には他の機関に照会するべきです。加えて、地域を基盤とした予防を追求するために、その「中等度」または「軽度」のニーズをもつ人が社会的排斥や一般的な不健康状態に苦しむ集団や地域から来た人で、自治体としてその問題に取り組むために他の機関と協力しようと望むことも、考えられるかもしれません。

職員学習プログラムの一部として使う場合に、指導者は、示唆されている受給資格区分を除いて下記の事例集を示すことができます。学習の重要部分は、事例を議論し、その他のリスクを明らかにし、そのケースがどの受給資格区分に該当するかの合意を得ることでしょう。

自立への危機的リスク (Critical risks to independence)

Aさん、男性、39歳は70代後半の両親と自宅で暮らしている。彼には軽度の知的障害がある。また不安や抑うつの傾向があり、混乱時には暴力行為が起きて両親は怖がっている。

過去4年間地域の店でパートタイムで働いてきた。その仕事によって彼は自立と収入を得て自尊心を改善させてきた。またそれによって両親は自分たちのための有意義な時間を得てきた。その店はあと1ヶ月で閉店されることになり、Aさんは非常に落胆し、自宅でより頻繁に暴力を起こすようになった。最近彼は母親の顔を強く平手打ちし、深い切り傷と大きな心理的ダメージを負わせた。

他の仕事を見つける支援がなされなければ、彼の精神保健問題はエスカレートし、両親は重大な身体的危害を受けるおそれをもつと思われる。また両親は、もし彼に何か起きれば、両親のどちらかか両方とも生きてはいけないだろうと非常に心配している。

Bさん、男性、42歳は、79歳の父と自宅で暮らしている。Bさんには遺伝によるUsher症候群のため重複機能障害がある。生まれつきの重度のろうで、20代で徐々に視力を失った。彼は今では、ストローから見るようなトンネル視野を片眼に持つのみで、それも悪化しつつある。加えて、知的な発話はできず、Usher症候群による平衡機能の問題もある。彼はイギリス手話の触覚形態を用いて、主にさわってコミュニケーションをとっている。

彼は自分では調理ができず、全面的に父に頼っている。彼は家の内外で頻繁に転ぶ。人々と会う機会が制限され、また訓練された人によるコミュニケーション支援やガイドヘルプの利用も制限されているため、新しい関係を形成する能力も制限されている。彼の父は丈夫で元気であり彼に非常に尽くしているが、対応してゆくことにますます困難を感じている。Bさんと父親が援助を受けなければ、Bさんは孤立し、全面的に依存的になるかもしれない。同時に、父親はそのサポートを減らすか停止する必要があるかもしれず、そうなったらBさんが居住施設ケアに移行するおそれが出てくる。

Cさん、女性、51歳は、14歳の末娘と自宅で暮らしている。Cさんには何回も精神病院に入院するなど長期にわたる精神保健問題があり、また軽度の知的障害もある。彼女には2人の娘がいる。彼女はその母親の助けを得てうまく最初の娘(今は成人)を育て上げた。しかし、その母親は今では、2番目の子ども、カレン(同様に知的障害がある)のケアのために多くの助けをするには虚弱となり過ぎた。

カレンの父親はカレンと監督者付きで合うことは認められているが、Cさんとはカレンが2歳の時以降離婚している。彼は児童虐待を申し立てられている。カレンは情緒的ネグレクトのために数年間児童保護登録されており、カレンのケアは児童家庭ソーシャルワークチームのソーシャルワーカーによる監督を受けている。

いろいろな子育て課題と技術の支援のために、毎日の出張サポートと専門支援がCさんには提供されている。ここには、カレンに健康な食事を保つこと、カレンに人間関係・生活スタイル・セックスについてアドバイスを与えること、適切なしつけを維持し、家庭学習(宿題)・テレビ・その他のレジャー活動のバランスをとること、安全な方法で父親がカレンの生活に関わるようにすること、学校でのカレンを支援し確実に登校するようにすること、安全で適切なレジャー活動に参加するよう励ますこと、カレンが大人になることの計画を立てること、そして、カレンの時折の困難な行動に対処すること、が含まれる。加えて知的障害チームは、Cさんの金銭管理やいくつかの家庭管理課題を支援するために資金提供をしている。合同精神保健チームも適当な時と方法で関与している。もしこの支援がなくなったら、Cさんはカレンに対応できず、カレンは彼女から離されてしまうだろう。そして、Cさん自身の精神保健も相当悪くなり、精神医療ケアへの再入院につながるかもしれない。

Dさん、女性、90歳は一人暮らしである。尿失禁が毎日、予測できない状況で起こり、また骨粗鬆(そしょう)症にもかかっている。彼女は入浴やシャワーで体を洗うことができず、助ける人は誰もいない。失禁と、失禁しても適切に洗うことができないこととは、このプライドが高い自立した人を激しく苦しめている。

加えて、その他の身辺処理や家事の遂行にも大きな困難がある。Dさんに入浴と洗身の支援がなされないと、重大な身体的不健康が発生し、社会的孤立と抑うつもまた起こりそうである。

自立への重度リスク (Substantial risks to independence)

Eさん、男性、20歳で、大学の学部1年生である。常に聡明な彼の母親は、一人親で、彼に高い希望を抱いてきた。しかし夏の間に、学校を離れたあとで、オートバイに乗っていて衝突事故に遭い、背骨と頭にけがをした。集中的なリハビリテーションのあとで、Eさんは授業を始めることができた。かれはまだ定期的な理学療法を受けており、熱心なスカッシュ選手になりつつあり、良い学科成績を得てきた。

しかし、大学の彼の教員たちは講義やゼミでの彼の混乱させるような行動や時々の汚い言葉遣いに、にますます懸念を示すようになってきた。教員たちは彼に、出て行くように求めることになるかもしれないと警告した。Eさんの長期の回復を監督している病院の顧問医は、Eさんとその身近な人々に、かれの抑えの効かない言動は頭部外傷によるものだとアドバイスした。

この状況は単にEさんだけでなく母親をも苦しめるもので、母親は自分だけで彼を支え、かつ3人の弟たちを世話する事を困難に感じてきている。両方とも抑うつ状態となってきた。Eさんは自分の行動に気づいており、彼自身と身近な環境をよりよくコントロールしたいと望んでいる。

もし支援がなければ、短期間のうちに彼の教育は危機となり得る。もし彼の感情をコントロールし周囲の者が彼を理解するような支援がなければ、長期的には、かれはますます孤立しストレスを高め、その結果彼と母親の精神保健のリスクが生じるだろう。

Fさん、男性、54歳とFさん、女性、53歳。彼らは結婚していて同居している。ともに移動に制限をもたらす身体障害があり、Fさんは精神保健問題の経歴がある。彼らの生活習慣は無秩序で、その結果しばしば処方された薬を飲み忘れ、家計のやりくりに失敗し、請求書への対応を間違える。彼らだけでは大きなものの洗濯やその他の力のいる家事(heavy housework)ができない。彼らは調理した食事を準備したり、健康的な食事を維持することができない。加えて、両者とも階段の昇降や地域の店に行くことができない。これらについて援助してくれる人はいない。彼らは、その他の身辺処理や家事の課題は多少相互に支援しあってやりくりしているが、かなり時間や努力を要している。

彼らが個々にあるいはカップルとして支援されない場合、自宅の清潔さ、不十分な食事、服薬の間違いによって健康問題が深刻化するかもしれない。彼らは自宅で孤立する危険があり、借金を抱えてガス、電気、水道の供給が危うくなる可能性がある。Fさんは統合失調症の再発の危険がある。

Gさん、女性、81歳は一人暮らし。彼女は慢性関節炎により次第に虚弱になりつつあり、アルツハイマー病の初期段階となっている。現在は、近くに住む娘が日に3回助けに来てくれるので、ほとんどの身辺処理をこなせている。しかしその娘は、2ヶ月以内に移住する予定で、その出発準備期には週に1回しか訪問できない。彼女なしではGさんは着たり、シャンプーを使ったり髪を整えたり、入浴したりすることは完全には出来ない。いつも服薬を覚えているとは考えにくい。健康な食事を続けること、力のいる家事(heavy housework)および家計管理に支援が必要である。彼女は毎週の買い物を一人で行うことが出来ず、夜間家に鍵をかけるには声かけが必要とされる。娘の出発の前にも後にも、もしGさんに支援がなければ、自宅で自立して生きる能力は危うくなる。

自立への中等度リスク (Moderate risks to independence)

Hさん、女性、27歳は夫と2人の子どもと暮らしている。彼女は、裏口の外で氷に滑って背骨を損傷して以来、6ヶ月間車いすに乗っている。この事故の後彼女は、子育ての責任をすぐに修正して維持しようと決意した。子どもは2人とも小学校に通っているが、けがの後はHさんは子どもの学校の送迎に援助を必要とするようになった。夫が朝の支援を試みてきて、夫の上司は非常によく理解を示してくれていた。しかしこの夫は、遅い出勤が続くようだと仕事を失うのではないかとおそれている。この不安に対処すべく、Hさんは近所の人に放課後子どもを迎えに行ってもらうことにしたが、Hさんはこの隣人に支援に感謝しつつも、その支援によって無力感も感じている。一層悪いことに、夜間Hさんはすぐに疲れて子どもたちの学習や就寝準備を助けることが出来ない。Hさんはこれらを行うことが好きだが、この事態によって一層無力感を強めている。

事故の前にはHさんはフィットネスの講師として働いてきた。今彼女は日中は疲れていらいらして落ち着かないので、再訓練を受けてIT技術者になりたいと思っている。参加したいと思うコースを見たが、彼女も夫もコース受講料を支払うことが困難だとおもうであろう。Hさんは支援がなければ、彼女が望むような子育ての役割を遂行できず、より多くの時間家に閉じこもって孤立するだろう。

Iさん、男性、36歳は、一人暮らし。彼には知的障害と身体障害がある。6ヶ月前に彼の結婚は破綻し、それ以来彼の住戸の清潔さの維持に問題を抱えるようになった。情緒的には離婚の混乱から回復したと思われる(子どもがいなかったことによって助けられた)。しかしIさんは彼の通常の社会活動に参加しようと望まない。彼の友達は電話し続け、彼が受け入れそうな支援を申し出ている。加えて、週に3回支援スタッフが訪問し、洗濯、力のいる家事、買い物および請求書の支払いの確認を行っている。地域のデイケアセンターの利用を勧められているが、彼は決めかねている。継続的な支援がなければ、また友人が彼の生活の中に戻ってこなければ、Iさんは自宅でもがくだろう。

Jさん、女性、57歳は、夫と成人した息子と暮らしている。彼女は2年前に脳卒中を発病し、よい回復を見せたがある程度の障害が残った。彼女の状態は当分の間は安定し続けると予測されている。彼女はかなり上手に大部分の身辺処理課題をこなすが、家事、外出および戸外の歩き回りにはある程度困難が伴う。住宅の改造によって、屋内ではかなり自由に動ける。夫と息子は大きな情緒的支援を行っているが、実際的な課題での支援は仕事があるために夜までは難しい。

昼間の支援がなければ、ますます長い時間を屋内で過ごし、移動が困難となり、孤独感を増やすだろう。彼女は主婦としての彼女の役割の価値を高く評価しているので、家事のある部分を遂行できないことによって彼女の志気は影響される。彼女は地域のボランテイア活動に参加したいと望み、またある程度の支援があればパートタイムでの仕事もこなせるであろうが、これらについては誰に相談したらよいか知らない。

Kさん、女性、77歳は、一人暮らし。1年前の腰の手術以来、移動が制約されている。力のいる家事はできず、外出して地域の店にゆく自信がない。5年前に夫を亡くしてから、請求書の扱いや自宅の修繕などに際して興奮するようになった。20マイルの距離に住んでいる彼女の姉妹が時々来てこれらの仕事を助けるが、遠いことと姉妹にも自分の家族のことがあるので、助けには限界もある。その他の点ではその他の日常の課題は十分にこなしている。家庭内と買い物の援助がないと、Kさんの自立はある程度危険な状態となる。彼女の姉妹は、毎週の家事支援と一定の自信形成の支援とがあれば、時間の経過とともに正常な状態が生まれると考えている。

自立への軽度リスク (Low risks to independence)

Lさん、男性、22歳は一人暮らし。彼にはアスペルガー症候群がある。彼は地域の会計事務所でよい職を得ている。彼は静かな社会生活を営んでおり、孤独好きのようである。最近、身近な友人との激しい口論の後、問題が表面化した。その結果彼はその関係を絶った。そのけんか以来、彼の仕事の仕方はマイナスの影響を受け、彼の社会生活は以前より制限された。

支援がなければ、また(あるいは)友人関係が修復されないと、Lさんは不確かな時間を過ごすことになろう。

Mさん、男性、57歳は、一人暮らし。彼は弱視で、軽度の身体障害がある。自分の洗濯を定期的に行うことが容易でなく、また、2,3ブロック離れて住んでいる成人した娘に助けてもらうのは嫌だと思っている。他には誰も助ける人はいない。その他の点では、ほとんどの身辺処理と家事は、しばしば娘の助けがあり、十分にこなしている。助けがなければ、あるいは毎週洗濯する方法を見いださないと、Mさんは自分が望んでいるよりも清潔でない衣服を着て、清潔でないシーツで寝なければならないだろう。

Nさん、女性、66歳は夫と暮らしている。彼女には身体障害がある。全身を洗うことはでき、夫がシャワーの場所までゆくのを助けてくれるが、入浴することはできない。彼女は、ときどきは夫や他の家族の援助を得て、他のすべての身辺処理と家事をこなすことはできる。援助がなければ、定期的に入浴することなしですまさねばならない。彼女の衛生状態と健康は危険な状態ではない。