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5.Disability Rights Commission

寺島 彰

平成17年3月9日(水)午後2時~4時

訪問者:寺島、川畑、阿由葉、小松、清成、谷、中村
対応者:Mr.Rod Robb Ms. Caroline Ellis

(1)背景

1995年に成立したイギリス障害差別法(Disability Discrimination Act 1995:以下DDA)は、成立当初から、障害者団体や障害者運動に携わっている人々の多くにより批判を受けてきた。これらの批判は、次の4つであった。①障害の定義を特定の機能の損傷および制限に限定していること。②障害者を差別することがやむを得ないことが証明されれば、その差別が正当化される規定があること。③多くの機関や組織が適用除外になっていること。④障害者の権利を強化していくために有効な機関がないことである。

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また、労働党も、次の三点で批判をしたとされている。それは、①「全国障害審議会」が障害者の権利保障について具体的な権限をもたないこと、②それまで3%に設定されていた割り当て雇用率の制度が十分機能していないとして廃止したこと、③法の適用範囲について20人未満の企業を除外したことである。

1997年5月1日の総選挙で労働党が圧勝したことで、それまで、野党の立場で批判をしていた労働党は、DDAを施行しつつ修正していくという政策を行っている。その修正の一つに、今回訪問した障害者権利委員会(Disability Rights Commission :DRC)がある。この機関は、「全国障害審議会」に代わるもので、米国障害者差別禁止法(ADA)にならって、雇用やアクセスにおいて障害者差別があった場合に、雇用主や事業者と交渉し差別撤廃を求め、それが不調に終わった場合は、裁判に訴えることを支援するという強力な権限をもっている。本機関は、2000年5月8日から、全国障害者審議会に設置され、差別された障害者を裁判で支援するという活動を開始した。

今回、同機関を訪問し直接お話を聞ける機会を得たので、その内容について報告する。

(2)DRCの概要

①目的

雇用、情報、公共交通自立生活などの権利擁護

②サービス内容

  • 電話によるヘルプライン
  • ケースワーク支援
  • 法的支援(裁判に訴える)
    専門家が権利擁護について相談にあたる。
    円満解決の原則で動いているが、そうならない場合は、裁判になる。裁判では、賠償金がある。
  • 啓蒙
    DDAの意味を説明したパンフの作成、学校などでの講演。

③予算

職員数200人、2,000万ポンド(小さな機関)

(障害者数1,000万人)

ロンドン、エディンバラ、マンチェスター、エーディフに事務所がある。

④最大の目標

雇用主とサービス提供者の情報提供・啓蒙→一般の人々の無知をなくす。→障害者のすべての生活の質を改善する。

1995年に出来たDDA以降2004年10月2つの重要な変化が起こった。

  • すべての事業主は障害者のためにアクセスを確保しなければならない。
  • 一人でも雇用すればDDAの対象になった。(以前)

これらの人々は、DDAの合理的調整(reasonable adjustment)をしなければならないという点が特殊。

合理的調整は、法律に定義もなく理解が難しい。資源があるとないではちがう。

⑤DDAの障害の定義

心身に永続的な障害があること。

⑥苦情に対する問題点

苦情を申し立てた人が障害者であること。

障害者が差別されている証拠があること。

⑦裁判は、本人の名前で行い、自分たちは、後方支援する。裁判経費は、この機関が出す。

⑧DDAの考え方

以前は、障害は病気とみられていて医学モデルに基づいて行動していたが、現在は、完全に社会モデルと結びついており、社会の側を変更しようとしている。これが合理的調整の背景である。

(質問)

最重度障害者の場合で統合できないような人の場合は、どうするのか。

(回答)

まばたきなどでしかコミュニケーションできないような困難な人の場合にでも何らかの方法でコミュニケーションをとることができる。介護者もいる。21世紀に障害者が社会からしめだされてはならない。

(質問)

この機関は、情報アクセスに対して特別な取り組みをしていないのか。

(回答)

Websiteが最大の情報提供媒体。

多くの印刷物がある。知的障害者には、専用の簡単な表現のWebがある。印刷物も用意している。

(3)DDAの使命

①政府に対して法律改正などの助言をする役割と責任。

現在、法律を強化しようとしている。現在、法案が議会で議論されている。

  • 公的機関は、社会にある障害者差別に対して積極的な行動をとらねばならない。
  • すべての公共交通機関はアクセスを補償しなければならない。
  • バス停で障害者がいるとバスが止まらない。
  • HIV、がん、多発性硬化症などに対象をひろげる。
  • 住宅に関する権利の獲得 賃貸住宅の家賃、期間、アクセスについて家主は、明確に示さなければならない。住宅改造に対し家主は、合理的配慮をしなければならない。

(質問)

障害者であることを示すならば、プライバシーの問題があるのではないか。どのように、障害者であることを示すのか。

(回答)

この法律の保護をうけたければ、自分が障害者であることを示さなければならない。そういうことで差別がされるとしたらそれが問題で、それを改善するのが我々の役割である。

1,000万人の障害者が顧客になるのだから、この法律を遵守することで経営的な効果もあるという説得をすることある。

DDAは、大胆な実験である。これによって社会が根本的に変わる可能性がある。これまでは、小さな変化の積み重ねであったが、あまり、効果はなかった。まだ、はじまったばかりで、いろいろやることが多いが、20年、30年後を見据えて取り組んで行きたい。

多くの障害者が社会から締め出されている。障害児に対すサービスも提供する必要がある。

すべての裁判ケースを持っていく資金はない。サポートするケースは、次の二つに注意して選択する。

  • このケースを取り上げることで法律の不明瞭な点を明確にできるか。
  • ケースを取り上げることで、多くの障害者に利益があるかどうか

(質問)

12万件のケースの中で裁判に持ち込むケースなどを教えて欲しい。

(回答)

半分くらいが相談だけ、半分くらいは、本当の苦情。自分で裁判をすることも助言する。ここで裁判を支援するのは、100件/1年。

(4)DDAの将来

現在、人種、性別、障害者委員会がある。来年2006年、宗教、年齢、性向(sexorientation)について対象にして、一つの委員会にする。(Commission for equality and human rights)

非常に期待しているが、新しい組織のなかで障害者は一部になるので、一番遅れている障害者の権利を促進できるかが不安である。

(5)委員の構成

法律では、委員長は、政府が使命する。10人以上で、障害者委員が半分以上であることとされている。実際は、15人の委員がいる。2人ポリオ、2人視覚障害者、1人聴覚障害者、1人知的障害者、2人脊髄損傷である。

募集は、新聞などの一般の媒体を通じて行う。応募者の中から最も適した人を指名していく。5年前に募集したときは、6,000名応募があった。

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(質問)

知的障害者は、自分の意見を十分伝えられるような配慮はどのようなものがあるか。

(回答)

それは、自分の仕事である。会議の一週間前にその委員に会って、わかりやすい言葉で会議の内容を伝える。会議では、サポートワーカーがつく。これが、自分たちの役割である。

(質問)

任期はどのくらいか。

(回答)

5年前に15人からはじまった。全員が同時に抜けないように徐々に委員の交代をしている。無給だが、一回の会議で£146もらえる。年間20日ある。欠員は、公募する。委員長は、常勤。雇用・年金省の下にあり予算はそこから来るが、従属しているのではなく、独立している機関(DWP)である。

(質問)

雇用・年金省の下にあるからといって雇用を強調しているわけではない。雇用、輸送、保険、サービスへのアクセスなど広範にわたっている。

(質問)

障害者団体との協力関係はあるのか。

外部団体と交流は積極的に行っている。障害者団体からの要望を受け、政府に報告書を出す。

(質問)

具体的にはどのようにしているのか。

(回答)

実施基準を作りサービス基準を書いている。例)各分野について基準を設けている。

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