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9.BBC
ITFC字幕製作の現場見学

川畑 順洋

平成17年3月10日(木)午後3時~5時

訪問者:寺島・川畑・阿由葉・小松・中村

BBCの建物の中に字幕付与を専門に行う会社がある。ITFCである。

その字幕製作現場を見学した。

字幕作業には、放送する数日前に録画してある番組のビデオテープ等を見ながら字幕を完了させる「事前字幕」と、ニュースやスポーツ等の中継で字幕を入れる「生字幕」の二種類がある。

現在BBCで行なっている字幕番組の50%以上が「生字幕」である。「生字幕」の作業は字幕オペレータに相当のプレッシャーがかかるようだ。

1.事前字幕

写真1

ひとつの番組を仕上げるのに、大勢の専門家集団が分散で作業していた。オペレータのほとんどが若者で、男性が7割程か。このフロアーだけで100人は超えていると思う。コンピュータに釘付けのプロ集団が、サーバーに格納された動画と字幕原稿を、目の前のパソコン上に取り出し、丁寧に字幕を挿入している。

画像の動きにあわせ、あらかじめ用意された字幕を画面上にプロットする作業であるが、コンピュータにうつる画面の表示時間に合わせ、長い字幕はその場で短く再作成し、画像を保護しつつ字幕の位置を微妙に変更していた。

用意された原稿の字幕変更の場合、どこの部分を、どのように変更したかサーバーのメモファイルに変更データとして落としていた。事後に字幕作成者の了解が必要なようで、たぶんインターネットメールで修正確認の情報交換を行なっているのだろう。

また、完成した字幕付画像データは、全体管理している部署にインターネットで送信し、再度チェックを受け、修正があれば作成オペレータにフィードバックされている。

画面上には、赤、青、緑等に色分けされたメッセージが次々と流れている。

机の前には電話は無く、整然と、また無言で続けられるこの作業に高度情報化時代の凄さを感じた。メッセージに写るto India、from Indiaの文字が気になった。

英国で字幕産業は、急成長している事業のひとつである。莫大な時間と費用がかかるこの事業は、インターネットを駆使し、英語圏の安価な人件費をフルに活用する事で、成り立っているのではないだろうか。当然字幕作品は英語圏に大量に輸出されるだろう。

「See Here」の現場に英語圏である南アフリカ人がスタッフとして参加していた。聴覚障害者で研修生(?)と紹介されたような気がする。

日本が英国と同じように.これを行うとすると莫大なコストの吸収はどうするか。これは私の考え過ぎだろうか。

英国民がBBCに支払う聴視料は月額約2000円で日本とほぼ同額である。

2.生字幕

2.1キーボード入力字幕

小さな部屋に、二人の女性が作業をしていた。突然の私達の訪問に驚いた様子であったが、私達の質問に丁寧な回答が返ってきた。

写真2

この機器はイギリスの裁判所で速記用として使用していたものを、字幕が始まった35年前に放送局の字幕付与用に改良し使用がはじまった。今はコンピュータの入力端末として、それを再々改造し使用している。伝統ある機器は、使いやすく、故障に強いため、安心して使用できるとのことだ。

入力者はパソコン画面を見ながら特殊なキーボードで字幕を入力する。事前原稿がある場合は、よく使用する文字とか文章をあらかじめ字幕データとしてパソコンに登録しておき、それに名前をつけておく。例えば「The Internet is an essential tool」なら「TI」といった具合。

それをニュースの流れに沿って字幕を送り出すのである。事前原稿のないものは、その場で、アナウンサー、または出演者の声に合わせて即作成し、送り出す。

生番組はオペレータ2人で入力するが、入力のベテランであっても30分の緊張はきついとのことだ。

生放送中に入力端末にトラブルが発生した場合のため、予備の機器があるという。

2.2音声認識字幕

BBCが最も力を入れている最新の生字幕挿入の部屋を見学した。

若い男性職員が作業中であった。

写真3

早速、音声認識字幕入力を行なってもらった。

音声認識装置の使い方は、音声入力担当者がレシーバから聞こえてくる放送の音声をマイクの前で反復し、その声をコンピュータが認識し文字にする。2~3秒遅れて、画面に字幕が表示される。

5分程行なったが字幕表示は完璧だった。

担当者の話しでは、普通の話し方では、90%程の正確度であるが、言い回しに癖のある単語、語句は入力する前に繰り返し練習するという。この方法でほぼ100%正確になるという。

声の調子を保つため、緊張した時間は15分が限度とのこと。

BBCでは、着々と進む字幕の100%達成には欠かせない機器として、改良を加えたこの種の新しい音声入力機器の開発が始まっているようだ。

利用するとして、日本語の同音異義語のことが頭をかすめた。

問題は人材であるようだ。長時間緊張の続くこの作業の訓練はプロのアナウンサーよりも厳しいという。報酬はとの質問に、情報機器を駆使し、自分の能力を充分に出し切っている今の仕事に手ごたえを感じつつ「充分ではない」と笑いながら答えていた。年の割には高額のようだ。

3.ナレーション入力

ひとりの女性オペレータがナレーションを挿入する作業をしていた。音声、音楽付の画像データと、外部で収録されたナレーションデータはインターネットで送信されている。この二つをドッキングさせ一つの作品に仕上げるのだが、デジタルデータであるため、音質が確保され、お互いの音を壊すことはない。

オペレータはヘッドホーンをかけ、音の入力位置、音量等の確認調整を繰り返していた。

三つの現場を見学した後での説明者の話を総合すると、放送のデジタル化は、作品制作に大きな変化がある。

コンピュータを駆使することによって、製作者が頭に描いたことのほとんどが短期間に実現できる、繰り返しのシミュレーションも可能である。

ただ、この世界は膨大な情報機器の投資とコンピュータを操作する人材の確保が必要である。デジタル化によって映像技術の進歩に加速がつき、視聴者から高品質の作品が求められる。音質、字幕もそのひとつで、コスト競争は激しい。