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身体障害者の日常生活の向上に関する調査研究事業 平成7年度調査報告書

障害者の権利擁護・成年後見制度に関する一考察

<はじめに>

 まず、保護を必要とする人の身上監護や財産管理をすることを後見といい、我が国の民法は未成年後見と禁治産後見の制度を定めている。したがって、現行法における成年後見とは禁治産後見のことを指すことになるのであるが、最近この成年後見という分野で活発な議論が行われている。なぜ、いま成年後見制度が問われているのだろうか。
 現行民法は明治31年に施行された。当時、社会保障制度もほとんど整備されておらず社会福祉という言葉もなかった時代である。第二次世界対戦後、新憲法下の大改革で民法の身分法は多くの改正を受けた。しかし、意思能力の喪失・減退した障害者の保護については無能力者制度が存続し、それ以上の改正は行われなかった。その結果、戦後、発達していった社会福祉諸法と民法の無能力者制度の間に大きな溝ができてしまったと考えられる。
 確かに、ある意味においては、現行民法上の禁治産・準禁治産宣告による行為能力の剥奪・限定制度あるいは、法律行為の取消制度等は被保護者の利益となるものではあるがしかし、これはどちらかといえば、防御的な保護制度にすぎない。被保護者にとって最も重要なのは被保護状態に陥っているにもかかわらず可能な限り自己決定権が尊重され、自己の意思にしたがって普通の日常生活を送ることができるように社会的に援護することである。これを前者に対し被保護者の積極的保護ということができる。この積極的保護のために必要なのは原則として被保護者の能力を剥奪・限定せず、その自己決定権を尊重した上で身上監護を重視し必要とされる場合のみ必要とされる範囲できめ細かい援護の手をさしのべることである。
 ところで、この考え方の背後には新しい法の思想が流れているといえる。現行民法において被保護成年者を保護するための禁治産制度を含む無能力者制度は19世紀の市民法のもとで生まれている。市民法の無能力者制度はどちらかといえば本人の保護よりも第三者との取引の安定を重視しており、「能力」の判断基準は取引上の利害得失である。身分行為に行為能力の適用がなく、準用もされないというのが通説である。その根拠は「能力」の概念が取引上のそれだからといえるだろう。それに加え、わが国では家制度が存在したために、家産の維持という要因が無能力者制度を規定してきた。つまり、従来の無能力者制度は、建前としては本人の保護を図ることとされてはいたが、実際には、第三者との取引関係の安定を図ったり、あるいは家産を維持するためのものであったのである。

<新しい成年後見制度へ向かって>

新しい成年後見制度の必要性というのはヨーロッパで生まれたノーマライゼーションの思想とあいまって認識されてきた。障害者という社会的弱者にたいする考え方がしだいに進歩し、いかに障害を有していても人間は人間として等しく基本的人権を保障されるべきであるという考え方が徐々にではあるが定着してきた結果、意思表示が困難な障害者に対してもこのような視点にたった制度が考え出されたのである。
 後で触れることになるが、現在オーストラリア・ドイツにおいては成人に対する後見法が制定されている、その内容は多少の違いはあるが、日本の無能力者制度のような画一的な方式ではなく、かなり「本人」というものを重要視し、本人の可能なことはできるだけ、自分でできるような配慮がなされたものである。またイギリスでは持続的代理権が制度化されている。
 知的障害者・重度の身体障害者・痴呆性高齢者のように意思能力あるいは意思表示能力に障害のある人が自分の権利を主張するためになんらかの行動をおこすことはかなり困難なことである、そして各種の社会福祉立法のなかで最も遅れているのがこうした意思能力障害者に対する施策である。このような現状のなかで意思能力障害者に対する民事的救済の方法として成年後見制度について考察することは現時点で重要なことであろう。

<わが国における無能力者制度とその問題点>

無能力者制度
 民法総則第一章第二節は「能力」と題して、未成年者・禁治産者・準禁治産者の「能力」について定める。禁治産制度については、民法第七条乃至第十条、準禁治産者制度については、同法第十一条乃至第十三条において定められている。
「禁治産者はいかなる行為も単独では行うことができない。後見人の同意を得て行った行為であっても取り消すことができる」(民法第九条)
「準禁治産者は、一定の重要な行為をおこなうには保佐人の同意が必要であるがそれ以外は単独で行うことができる。(民法第十二条)
なお、以前には妻も能力が制限され、準禁治産者とほぼ同一に取り扱われたが、戦後の改正で改められた。(民法第十四条乃至第十八条「妻」の削除)

現行法の問題点
 意思能力障害者について、現行法では後見によって対処するということになっているがわが国の禁治産制度には、いくつかの問題点が指摘されている
 第一にわが国において禁治産・後見人制度は、財産法上の制度として構築されてきており、本人の身上監護は家族法上の付加的な制度といえる。しかし知的障害者をはじめとする障害者においてその身上監護をめぐる問題は最も重要なものの一つである。したがって、意思能力障害者に対する後見制度を考えるにあたっては、その身上監護をどうするかという問題を避けることはできない。すなわち禁治産・後見人制度が財産法、取引上の制度として形式的、画一的な処理を基本としていることは現状に適っているとは言い難い。意思能力障害者の能力に応じた意思を最大限に尊重するような制度的な保障が必要であるし身上監護についても十分配慮がなされるべきである。
 第二に民法第七条は禁治産宣告の要件として「心神喪失の常況に在るもの」と規定している、つまり意思能力のない状態が普通であるという状況に在るものという事である。そしてその判断は家庭裁判所で行われる(医学的・心理学的な所見を判断の材料とはするが)。人間の能力は多種多様であって、法律行為についての判断能力はあっても日常生活には不自由するとか、逆に通常の日常生活をおくることは十分に可能であっても法律行為についての判断能力が乏しいという場合もある。
 たとえ、法律的な判断であっても、このように多種多様な人間の能力というものを「心神喪失の常況に在る者」か「そうでない者」かのふたつに分けることはかなり困難なことではないかと思われる。このような問題は日本の禁治産制度が All or Nothing的な二者択一を求めるために起こるのであり、各自の能力に応じた段階的な保護制度の設立が望まれる。
 第三に「家庭裁判所は禁治産宣告をするには本人の心神の状況について必ず鑑定させなければならない」(家事審判規則第二四条)と定められており、そのこと自体は評価できるが、その鑑定費用は申し立て人の負担であり、また鑑定にも相当の期間がかかることなどから、非常に利用しにくいものになっている。
 意思能力障害者とされる人たちの中には、財産や収入のない人もあり、そのような人でも後見人による保護を必要とする場合もある。禁治産・後見人制度を利用したくても鑑定費用が支払えないために、この制度が利用できないというのは、意思能力障害者の保護のための制度であるべきであるという禁治産・後見人制度の趣旨に合わない。従って禁治産宣告をする場合には、本人の医学的、心理学的状態がどのような状態にあるかを判断の材料とすることはもちろんではあるが、そのための鑑定に関する負担はできうるかぎり軽減する必要がある。
 第四に禁治産制度は実際どのように運用されているかという点について見てみると、相続に基づく遺産分割の際に登記名義等を移転するために印鑑証明に代わる手続きとして利用されたり、あるいは意思能力障害者の財産に対する事実上の支配獲得の争いの手段として利用されることが多く、本人保護のための制度として機能していない現実がある。ただ、これは運用上の問題であり、家庭裁判所は財産の支配権争いの手段として利用されているとき、またはそのおそれがあるときは、利害関係のない者を後見人に選任するなどの考慮をするべきである。
 以上のことを含めた現行禁治産制度に寄せられている問題点の指摘を整理してみると以下のようになる。
民法の禁治産の要件である「心神喪失の常況」にあるかどうかの判定が非常に困難であること
鑑定費用の負担が大きいこと
鑑定に時間がかかること
戸籍や官報に記載される公示方法に対する抵抗感が否定できないこと
禁治産という名称が嫌われていること
公職選挙法による選挙権など、多数の法による資格制限があること
禁治産の申し立て人がかなり狭い範囲の近親者あるいは検察官に限られているために利用しにくい制度になっている
後見人になって資産を自由にしたい推定相続人(高齢者の場合)や縁故者間の紛争に利用されている
等が挙げられる。

<わが国における成年後見への新たな取り組み>

 前にも述べたように、知的障害者・重度の身体障害者・痴呆性の高齢者等のように意思能力に瑕疵のある人あるいは意思能力があってもそれを表示できない人達のために幾つかの先駆的な取り組みが行われている。
<<東京精神薄弱者・痴呆性高齢者権利擁護センター(愛称:すてっぷ)>>
社会福祉法人東京都社会福祉協議会が東京都の補助を受けて運営する精神薄弱者や痴呆性高齢者の権利擁護機関であり平成3年10月31日に発足した。
精神薄弱者や痴呆性高齢者は、意思能力が十分でないために、様々な生活の場面で権利侵害を受けやすく、その侵害が放置されやすい状況におかれている。そこでこのような人々の権利を保障し地域での安定した生活を保障するために、相談に応じたり、意思の代弁や日常生活の援助を行い地域での安定した生活を継続できるような援助体制が必要である。「すてっぷ」は援助機関としての活動を行っている。
スタッフ:精神薄弱者・痴呆性高齢者の権利擁護のための啓発、見解の発表などを審議検討する権利擁護委員会と法律相談、生活相談、財産管理相談をする専門相談員、生活の援助を行う生活アシスタント、その他の職員で構成されている。
 専門相談員は弁護士や医師、養護学校や障害者の職業障害センター、作業所など精神薄弱者の教育や労働など生活の場にかかわっている専門家によって構成されている。生活アシスタントは、精神薄弱者、痴呆性高齢者の介助経験がある者が登録されており援助対象者の居住、就労地域、援助の内容などによって、個別に委嘱を受け、「すてっぷ」で作成された生活プラン、金銭管理プランに基づいて、援助対象者が地域で安定した生活が送れるように、訪問や相談などの活動を行う。彼らは研修を受け、援助対象者の生活状況について毎月1回「すてっぷ」に報告し、必要に応じた助言指導を受けることになっている。
活動:相談活動として法律相談、財産管理相談、日常生活全般に関する生活相談等を柱とした専門相談活動を行っている。これは相談だけに終わることなく、積極的に権利擁護活動ができるように、権利侵害事例の事実調査、確認などの調査活動や関係機関との連携による問題解決、当事者間の調整活動、日常生活の援助活動をも事業内容としている。アドバイスだけの相談ケースについても、「すてっぷ」の方から連絡をとり、事後の処理経過について調査し、権利擁護が図られたかどうかについて追跡をし、更なるアドバイスをするなどきめ細やかな対応がなされている。
 その他精神薄弱者・痴呆性高齢者の権利擁護について広く理解を得るための広報啓発活動もおこなわれている。
今後の課題:「すてっぷ」は法律に基づかない民間機関の形式をとっているため公的権限は皆無であり、従って、権利侵害事例の調査・解決についてなんら強制力を持たない。本人のための財産管理や交渉についても、本人との委任契約に基づき行動することになっているので本人の意思能力に問題がある場合は、委任契約をとること自体困難なこともある。
 また、精神薄弱者および痴呆性高齢者とその保護者が最も援助を求めている財産管理についても現在は財産保管サービスを行っているが、相談者たちは、本人の生活をより豊かにするような積極的な財産管理サービスを期待していると思われる。これらのことにいかにたいおうしていくかが今後の大きな課題であると思われる。

<中野区の財産保全サービス>

 日常行動が不自由な高齢者およびそれに準ずるものに対し、その財産管理を補助するため、東京都の中野区は昭和58年10月以来、「一人暮らし高齢者等財産保全サービス事業を行っている。この事業の対象者は、「「中野区内に住所を有することを原則とし、65才以上の一人暮らし高齢者またはこれに準ずる世帯であって、近隣に財産を管理すべき親族がおらず、財産の管理が困難な状況にあるもの」」である。ただし、意思を確認できる高齢者であることを要する。従って、契約時にはもちろんのサービス提供時にも意思能力がなければならないのであるが、サービスの提供時に若干判断能力が減退していたとしても、契約時とは異なりサービスの提供は行われている。保管の対象となるのは、金券・預貯金通帳・有価証券・証書(不動産権利書、遺言書など)である。
 法的には、「高齢者と中野区が「「財産保全行為委任契約」」を結び、中野区を代理人とするとともに、高齢者と区の指定銀行との間で「「中野区を代理人とする代理人届と預金などの保護預かり契約」」を結び保管対象物を寄託する。区は区の指定銀行と一括契約を結び預金の出し入れと保管物の出し入れ(貸金庫契約は利用者と銀行の契約)」を行っている。
 実際の運用では、高齢者福祉課の財産保全サービス担当職員が電話で依頼を受け、現金の出し入れ、支払いなどの手続きをとっている。この制度の利用者は、平成5年度中は14名であって、平成5年度3月末日の継続利用者数は10名である。予想よりも利用者はかなり少ない。
 原因は色々あると思われるがその中で思いつくのは
ホームヘルパーで用が足りていること
自分の財産を公的機関(というよりは、他人にということか)に知られたくないということ
等であろうか。「ホームヘルパーで用が足りる」ということは日常の買い物をしてくれるホームヘルパーが公共料金の支払いや、年金の受け取りを職務外ながら事実上代行しているからだと推測できる。ホームヘルパーを「使者」として法律構成すればよいという説もあるが、「単なる意思の伝達者」ということで、責任の所在が曖昧になるおそれがある。もし、そうであるならば、ホームヘルパーの法的位置付けの検討と事故防止のための対策の検討が必要になる。
 今まで述べてきたことからも分かるように、成年後見制度の対象者というのは、障害者だけではなく高齢者特に痴呆性高齢者も含まれ、その区別は曖昧である。これは「意思能力が不十分あるいは意思を表現することが困難」という状態にある人たちを援助するという目的を持つものだからである。
 障害者、高齢者と区別することは、本来類似したニードをもつ人たちに別々に対応することになり合理的ではない。また、(医学的な問題は別にしても)法的に「意思能力および意思表現の能力の有無」という点に着目するならば、知的障害者・身体障害者・(痴呆性)高齢者という区分を厳密にすることにあまり意味はないと思われるし、むしろ境界線上にある要援護者に対しても柔軟に対応できるメリットがある。

<諸外国の成年後見制度>

 わが国においては多くの場合、家族や家事援助者による(無権)代理や事務管理に依って、身上監護、財産管理事務が処理されているようである。この点に関して欧米諸国では立法改革を行っている。これらは、大きく2つの種類に分けることができる。
<<持続的代理権授与制度>>
これは英国法律委員会の報告書「「無能力の本人」」における勧告に基づいて制定され1986年3月10日に施行されたものであるが、コモン・ローの原則(本人と代理人とを同一視する、つまり代理人のなす行為は本人にも為すことのできる行為でなければならない)を修正して、「持続的」(enduring)代理人の選任を可能にした。この結果意思能力のあるうちに代理権を授与しておけば、錯乱したり、さらには、痴呆状態になったときにでも自分のために働くことのできる代理人の選任が可能となったのである。 ただし、持続的代理権授与法は、コモン・ローおよび1971年の代理権授与法を補完するものであり、本人の事後的な意思能力喪失後も持続する代理権の創設のみを可能とした法律である。
よって、持続的代理権が創設されない代理関係には適用されない。例えば顧客による銀行への支払委託(mandate)は依然としてコモン・ローの原則に従い顧客の意思能力喪失によって終了する。
 この法律は、財産管理を念頭においたものであり、身上監護は対象とされていない。本人が意思能力を喪失したときの身上監護は相変わらず後見(guardianship)制度によって行われているが、この分野での後見制度の不備が目立っており、成年者を対象とした後見法の改正も企図されている。

<成年者世話法>

大陸法系のドイツ・オーストラリアでは、法定後見法の改正により本人の必要に応じて世話人が選任されるとする、部分的・段階的後見制度によって、欠けている能力を補充する方法がとられている。
 ドイツ民法(BGB)の成年後見法に関する規定は1990年6月1日の改正法によって全面的に修正され成年者世話法として成立した。改正法は3本の柱から成り立っている。
「行為能力剥奪の宣告制度ないし後見制度に関する基本的な考え方および用語の変更」行為能力剥奪の宣告制度が廃止され、従来の成年者にたいする「後見および保護」は「世話と支援(Betreuung)」という新しい制度に変更された。つまり、世話人(Betreuer)が選任されても被世話人(Betreute)の行為能力が自動的に剥奪または制限されることはなくなり、個々の事例において必要な場合にのみ裁判所は世話人に同意権を与えるという形をとる。また、身上の監護が重視されている。
「対象者を支援する組織の設立」一人又は複数の自然人を選任しただけでは世話と支援が十分でない場合、裁判所は法人である世話人協会(Betreuung sverein)を世話人として選任することができその為の組織を設立した。
「手続法の改革」世話人の選任には被世話人を含む当事者から直接意見を聴取しなければならず、詳細な鑑定を必要とする。世話人は最長でも5年ごとに新たに選任されなければならない。当事者は行為能力の有無に関係なく手続能力を有するものとする。
これらの中で、いくつか注目されるのは、まず行為能力剥奪の宣告制度を定めていないことである(ドイツ民法第6条・第104条第3号・第114条は削除された)。世話と支援はあくまでも、被世話人に対する助成措置であり、補充的性格を持つものである。また、被世話人の行為能力は原則として制限もされない、つまりドイツ新民法第1901条は世話人と被世話人の相互関係において、支援を受ける側である被世話人の尊厳を重要視する立場に立つのである。
 また、旧法下においては条文上身上監護が重視されることもなく実態も財産管理に圧倒的なウエイトが置かれていた。これは、当時の保護の内容に占める身上監護の割合がわずか2%だったということからも分かる。しかし、新法の中では身上監護についても規定され、とりわけ健康への配慮および被世話人の自由が重視されている。
*被世話人が収容されているか居住している施設・ホーム・その他の組織と依存関係にある者、または、緊密な関係にある者は世話人として選任できないことが定められている。これは、過去において何度も問題となってきた世話人の側における利害対立の問題を事前に回避するための規定である。

 これらの制度を現地で視察してきた人の話を参考までに引用する。
「「具体的印象としては、オーストラリア・ドイツでは、精神薄弱者に対して、世話人は財産の管理問題ばかりでなく、日常生活上の相談にも身上監護にも気を配っており、専門家の組織(世話人協会)ができていて、多くの場合専門の世話人が選任されること、専門医の鑑定については鑑定医のリストが裁判所にあって、精神鑑定は迅速に行われているということであった。世話人の報酬は、基準が定められており、州の予算にも計上されている。ドイツでも多くの家族が世話しているというが、それでも制度の新設にはかなりの財政支出をしたと思われる。・・・・それに比較するとEPAは経済的な制度で、説かれているところよりも実際はかなり手を抜いた制度の印象を受けた。保護裁判所は持続的代理権授与状を登録受付するほかは、殆どなにもしていないようだ。裁判所は無能力者の財産管理人の監督で手一杯なのではなかろうか。」」

<日本における成年後見制度の可能性>

 はじめに述べたように、日本において後見は未成年後見と禁治産後見に二分されており、近ごろ注目を集めている被保護成年者の財産管理・身上監護に関する問題は、禁治産後見の下で処理されるものと従来は考えられてきた。しかし、禁治産後見が必ずしもうまく機能していない現実のなかで、今後は、障害者・高齢者を含む被保護成年者の支援体制が必要であることは明らかである。
 最近では日本においても成年後見制度についての議論が盛んとなり、立法の私案も発表されており、これらはだいたい二つの系統に分かれている。
*「禁治産・準禁治産制度は廃止し、しかし、内容的には現行制度を活かしてその内容を一本化し段階的な行為能力の制限というか意思能力の不十分な程度に応じて、その不十分な部分を補完する後見保佐の制度を設ける」これは、大陸法系の影響を強く受けたものであるである。
*「諸外国の制度をみてみると、大きく分けて、ドイツの法定後見型とイギリスの任意代理型の二つの流れがある、わが国においては、その双方を採用するのが望ましいと考える」本人の意思を尊重する立場からは基本的には任意代理が望ましいが、それを補完するものとして法定の成年後見制度をおき、両者が並立していくべきだという考え方である。
 両方とも、現行法の廃止ということでは一致しており前者は成年後見法一本で、後者は持続的代理権授与法の補完という形で成年後見法を位置付けるという立場をとっている。
 現在、法制審議会・民法部会・財産法小委員会においてどのような立法改革を行うべきかという議論がなされており、近いうちには、わが国の成年後見制度がどのような形のものになるかが明らかになる。

参考文献

新井 誠 「「高齢社会の成年後見法」」有斐閣 1994.9 
新井 誠 「「高齢社会と信託」」有斐閣 1995.7
明山 和夫「「扶養法と社会福祉」」有斐閣 1973
関東弁護士連合会編「「障害者の人権」」明石書店 1995.10
我妻 栄「「新版民法案内 2総則」」コンメンタール刊行会/一粒社1967.11
岩志 和一郎「ドイツにおける意思決定の代行」「「判例タイムス」」831号1995.9p17~p23
新美 育文「イギリスにおける意思決定の代行」「「同号」」p23~p29
新井 誠「高齢者の意思能力喪失と代理・委任」「「ジュリスト」」943号1989.10.15p60~p66
新井 誠「統計からみたドイツ成年者世話法の運用状況」「「ジュリスト」」1038号1994.2.1
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額田 洋一「成年後見要綱 私案」「「ジュリスト」」1055号1994.11.1p101~p108


出典
「身体障害者の日常生活環境の向上に関する調査研究事業 平成7年度調査報告書」
13頁~22頁

発行者:財団法人 障害者リハビリテーション協会
発行年月:平成8年3月