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平成17年度厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究推進事業報告書

資料1:調査で使用した想定例

[事例1]

 A氏:35歳男性。22歳時、大学の級友が皆、自分のことを馬鹿にしていると感じるようになった。幻聴(「頭が悪い」と言われる)や妄想(自分の生活が盗聴・盗撮されている)が出現した。徐々に自室に閉じこもりがちになり、独語や壁を叩く行為が見られるようになった。両親とともにB病院精神科を受診し医療保護入院となった。そこで統合失調症と診断され、抗精神病薬による治療で寛解状態となり1ヵ月ほどで退院した。しかしその後、服薬が不規則になり再発して入院、ということを数度繰り返した。c 今回の入院は1年前からの継続である。A氏は服薬について「病院にいる時は○○さん(看護師)たちに頼まれるから飲んでいる。外にいる時は飲まなくてもいいんです。」と話している。今回の入院中に自宅外泊した際にも、母親より「薬が捨ててあった」との報告があった。現在の症状は服薬により安定しており、他の入院患者と交流する姿がよくみられる。病棟では、看護師が薬を渡して声かけすると服薬する。
親しくしていた同室の患者が退院したことをきっかけにA氏は退院を強く希望するようになり、「こんな所にいると本当に病気になってしまうよ。はやく退院して、一人暮らしして、働きたいですね!」と意気込みをみせている。自宅は姉の家族も同居しており、A氏と姉はあまり折り合いがよくない。  母親は本人をできるだけサポートしたいと話している。自宅近くのアパートが、退院先として候補に挙がっている。
身体合併症は特にない。月に数回、バスで外出し買い物をすることを楽しみにしている。単身生活の経験はないが、作業療法の一環として料理の経験があり、小遣いは自分で管理している。自宅と病院は同じ地域に属し、バスで通うことができる範囲内である。

[事例2]

 C氏:36歳女性。短大を卒業しすぐに就職した。内気な性格であったが仕事を真面目にこなすので職場では評判がよかった。しかし1年経った20歳時から、職場の同僚女性が壁の向こう側から命令してきたり、壁を叩いてメッセージを送ってくるので仕事がはかどらない、と上司に話すようになった。また、母親が他の似た人にすり替わったと頻回に警察に相談した。半年ほど経って、隣家が自分のことを町内に放送していると憤慨し、投石して窓を壊したため警察に通報され、母親の同意によってD病院に医療保護入院となった。入院当初は治療を拒み、ほとんど部屋から出なかったが、医師及び看護スタッフの関わりにより1ヵ月ほどで徐々に薬物治療を受け入れ、退院となった。その後は外来通院で維持されていた。就職はせず、家でたまに内職をしていた。4年前に母親が急病により他界した。母の死から1週間ほどして近所の知り合いがC氏宅を訪問したところ、C氏がおびえた様子でうずくまっており、「声が怖いことを言ってくる」と訴えた。また、食事を取っていない様子で衰弱していたので、知り合いがD病院に運び、任意入院となった。父親はC氏の幼少の頃に離別しており、その後音信不通である。近郊に住むおば(母親の姉)が財産の管理を行っている。
入院から4年を経過し、たまに幻聴があるもののC氏はそれほど苦にならないと話している。服薬は自己管理している。病院のスタッフが、C氏とおばを交えて退院について数回話し合い、生活訓練施設の利用、その後自宅退院というプランを立てた。しかし、いつもC氏は「お母さんもいないし、ご飯を作ったり掃除をする自信がない。家に帰っても1人で不安だ。このままずっとここにおいてほしい。」と泣いてしまう。月に1度、病院のスタッフの付き添いのもと、近くの商店街で買い物をする以外にはほとんど外出しない。作業療法で絵を描くこと、書道を習うことを楽しみにしているが、料理はあまり好きでないようである。

[事例3]

 E氏:22歳男性。高校在学中の17歳時から引きこもりがちとなった。一方で突然夜中に家を出て数週間放浪し、警察に保護されるということが数回あった。1年ほど経過してF病院を受診し、統合失調症と診断されて薬物治療を開始した。外来での治療は順調であったが、高校を卒業して家業を手伝うようになると、多忙のため通院や服薬が不規則となった。
半年ほど前から、突然全裸になったり、食事をとろうとしなかったりと、おかしな行動をするようになった。何をしているのか問うと「いろいろな人が話しかけてきてうるさい。それをやめさせるためにいろいろやっている。」と答えた。発話はしばしば支離滅裂となったり、同じ言葉を繰り返したりした。そのうちに全く食事をとらなくなり、4ヵ月前にF病院の急性期治療病棟に医療保護入院となった。薬物治療の結果、幻聴をある程度無視することができるようになり、異常な行動は減少した。1ヵ月前に急性期治療病棟から亜急性期病棟(開放)に転棟となった。病棟ではあまり他の入院患者と交流せず、臥床がちである。主治医が退院について話をすると、「仕事が忙しいから早く退院しなければと思うけど、まだやる気が出ず自信がない」と言っている。」
自宅は両親と妹との同居である。家は父方の親族でいくつかの事業を営んでいる。E氏の父親が経営者で、父親は跡継ぎとしてE氏に期待をかけている。父親は、「入院までしたのだから、完全に治して戻ってきなさい。」と言いE氏が戻り次第仕事(得意先回り)に復帰させることを予定している。母親はE氏の症状への対応や今後の治療の見通しについて不安を感じて、主治医や看護師に何度か相談をしている。父親は母親に「そうやって甘やかすから、精神的に一人前にならないんだ。」と言っているようである。妹は中学生であり、特に問題なく学校生活・家庭生活を送っている。自宅と病院は同じ地域に属し、バスで通うことができる範囲内である。