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平成18年度厚生労働科学研究
障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

エンパワメントの概念からみる地域力の構成要素

武田 康晴(華頂短期大学社会福祉学科専任講師)

武田 すみません、手短にやらせていただきます。

パワーポイントは、実は私、これを作ったのが2回目でして、操作は小田島さんのほうにやっていただくという格好の悪いことになっていますけれど、よろしくお願いします。資料としてはですね、資料集の52ページから資料がついております。資料集と、不慣れなパワーポイントを見ながら話を聞いて頂ければと思います。

私に与えられたテーマは「エンパワメントの概念から見る地域力の構成要素」ですが、障害者福祉ないし障害をもつ人たち地域における生活ということを考えていったときに、このエンパワメントという考え方が重要だということで、最近すごく注目されています。それは皆さんご存じの通りだと思います。

昨年のこの研究でも、このエンパワメントをテーマとして研究を進めてきたということもありまして、エンパワメントの概念から見る今回のテーマ、エンパワメントと地域力の構成要素がどういうふうに関係しているのかということを中心に発表させていただきます。

まず、その前段として、パワーポイントのほうにも出ていますが、「地域力分析の留意点」ということで、地域力というものを見ていくときに、先ほど谷口さんの発表にもあった分析の留意点と同じですが、再現の可能性と安定性、あるいは普遍性というようなものがすごく重要なのではないかということです。それは、エンパワメントの要素及び分類と合わせて後でご説明していきますけれども、その際にもこの再現可能性・安定性・普遍性といったものが重要な要素となってきます。

1つずつごく簡単に見ていくと、まず1点目の再現可能性ということですが、障害をもつ別の人が同じ行動をとるときにもその仕組みが同様に機能するかどうかということで、例えば先ほど小田島さんの話の中にも少しありましたが、その人がもともと障害をもつ前に、例えば市役所で働いていた誰々さんがとか、あるいはそうでなくても、例えば障害をもつ子どもの親御さんが自治会の何かの役をやっているAさんなのかそうではないBさんなのかによって変わってくるのかこないのか、それは相手が誰であっても機能するような地域力であるのかという視点です。

そして2点目の安定性ということは、その仕組みが機能するときもあるし機能しないときもあるといったことではなく、いつもある程度安定して機能していくのかということです。3点目の普遍性というところは、これも先ほどの小田島さんの発表の中にもありましたが、例えばすごく良い、質も量も機能している地域力があるけれども、それは高齢者に対してであって、障害をもつ人たちには、同じ地域で生活しているにも関わらず地域力が機能していない、そういうような意味で、対象を限定した地域力なのか、あるいはある程度の普遍性があるのかというような視点です。

このへんのところを踏まえまして、次のところなのですが、今日は報告書が間に合わなかったということで、参考として、私が主に調査に入りましたN県T地区とありますが、小田島さんのところでさんざん十津川、十津川と出てきましたけれども、奈良県の十津川の特徴と、それからフリードマンの「力の剥奪モデル」に基づく分析枠組みによる十津川の地域力の分析について報告させて頂きます。資料の最後のところにパワーポイントを印刷した資料がありますが、今日お配りした資料を見る際に参考にしていただけたらと思って一応つけさせて頂いております。

そのへんの内容を見ていくときりがないというところもあるので、少し簡単に言うと、例えばですね、N県T地区における地域力の特徴として、主なものを3つ拾ってあります。

「高齢者福祉に関する地域力の充実」という、一方で高齢者福祉に関しては公助、あるいは社協を中心とした互助、ないしは社協がバックアップしたボランティア活動といった共助などが充実していて、もともとの地域性みたいなもので住民のつながり、地域のつながり、地縁がすごく充実していたということもあるのですが、ずっとそこで暮らしてきた地域で暮らす高齢者にはすごく地域力が整っているという半面で、その地域力というのが障害をもつ人たちには全くと言っていいほど機能していない現状が見られます。では障害をもつ人たちはどうやって暮らしているのだろうと調査していってみると、結局そこの地域に1軒だけ入所施設がありまして、そこに全員が入所しているという状況です。地域の人たちも、障害をもつ人たちのことを、地域の自治会の人たちとか老人クラブの人にも聞き取りで回ったのですが、障害をもつ人というと「ああ、その問題だったら○○施設に聞いてください」みたいな形で、障害者のことはその施設がやるものだと地域の人たちもおっしゃっているし、あるいは親御さんもそう思っていて、そこがゴールで、そこに入れれば安心みたいなところがあったり、あるいはご本人なんかもあまり疑問を感じていないような状況がある。もちろん入所施設の利用者の方たちにも話を聞いたのですが、そういうふうな感じです。

一方、十津川村は「親切・優しさ・人間味のある住民気質」ということを村のスローガンにしていて、もしも障害をもっている人が地域にいたらどうなのかというような話を色んな立場の人に繰り返し、1人につき1時間から1時間半聞き取って回ったのですが、そうしたら、「それは困っている人がいたらいくらでも助けるに決まっている」みたいな感じでした。ただ、そこに出会いが、チャンスがないのかな…という、そのへんをつなぐ役割とか将来的なビジョン、どうしていったらどうなるのかみたいなところをやはり誰かがつないでいく、そういう役割が必要なんだということをすごく痛切に感じました。

そのようなことが、十津川、それからその次のO県K地区、これも沖縄県宮古島市の狩俣地区ですけれども、2つの地域について書いてありますので、ご参考にしていただけたらと思います。

それとその次なのですが、もう1つは、これは以上2つの地域だけではなくて9つの地域すべてを分析して見えてきた論点の主なものを挙げてあります。

1つひとつ説明していると時間もないので、簡単にいくとですね、「地域力の分析により見えてきた論点」ということで、まず1番目は、先ほどの話の中にもありましたが、「(1)普遍化していない地域力」ということで、高齢者に機能しているが障害者に機能していないということが、これは十津川だけではなくて他の地域でも見られました、ということです。

それと、2番目は「(2)自然環境による地域特性」です。これは先ほどの谷口さんの話の中に、旭川では布団を蹴飛ばしてストーブが消えちゃうと死んじゃうといった話がありましたけれども、逆に沖縄県なんかの場合は、道で寝ていてもまあ大丈夫みたいな、そういう地域とではぜんぜん違うなというところとか、あるいは十津川なんかの場合は、和泉村の話しも先ほど出ましたけれども、山間部で端から端までがものすごく長くて、例えば1つの社会福祉協議会が村全体をやろうと思っても、結局その本体があるところから村の一番端まで行くのに車で2時間くらいかかるみたいな状況があったり、そういった地域性というのは現実問題としてすごく影響があるということです。

3番目は「(3)キーパーソン、キー組織」ということで、谷口さんのお話の中にも随所に出てきたところです。

4番目は「(4)地域内、地区間格差の存在」ということで、よく大きい話しで「わが国は」みたいな範囲で語られる場合、地方とか都市とかそういうような形で語られるけれども、いざ地域に入ってみると、その地域の中でも格差がすごくある。中心部と住宅地とでは非常に大きな格差がある。そんなところが、入ってみたのでわかってきたというのはあります。どうしても中心部に資源が集中しているという状況にあるのではないかということです。

5番目は「(5)必要性対応型の潜在的な地域力」ということで、必要性が生じた場合に地域力が機能するかしないかという視点も一つ重要だということです。

6番目の「(6)配慮の普遍化と組織化」というのは、就労に関して、先ほど小田島さんの話の中にもありましたが、私が調査に入ったところでも、基本的に絶対数が少ないということはあるのだと思います。例えば、役場が管理している公衆トイレの清掃という仕事があるのですが、それは知的障害をもったダウン症のHさんに配慮として回すといった事例がありました。しかし、あくまでも配慮なので、結局それは安定していないのですね。後で事例の報告なども見ていただくとわかるのですが、結局それはたまたまそのとき回ってきただけで、その前任者は障害のない人だったりする。つまり、仕組みになっていないので、例えば結局その彼女が何らかの形で辞めた場合に、その枠というのは今度どうなるのかわからない。やはり配慮は配慮でしかないのか、それをどう普遍化していくかといったところがすごく重要ではないかということです。

7番目の「(7)当事者参画による…」、このへんも話はもう出たところです。

8番目の「(8)自助・互助・共助・公助の関係」というところで、このへんは後でエンパワメントの話の中にもすごく重要な部分として出てきます。

最後に「(9)互助・共助による外出や余暇の拡大」ですが、どうしてもやはり最低限の保障といったレベルで、公助がもう一杯いっぱいみたいな状況の中で、やはり豊かさの部分では共助、互助が担う部分というのはどうしても大きくなるというあたりが、地域の分析の中から見えてきました。

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