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ニュージーランドのメンタルヘルスサービス計画 ニーズ対応方法について

付録ⅴ

投入リソースガイドラインの開発

1997年11月刊行の『NZにおける精神医療サービスのための計画』は、地域の精神医療活動に関わるスタッフのリソースについて推定を行った作業文書である。精神疾患患者への医療と医療支援を行うのに必要な人数を算出する理論的モデルを基に推計した。モデルによる計算値について選択した精神医療サービス群を対象として評価を行った。その後本計画を諮問文書として配布し、回答の提出を求めた。メンタルヘルス委員会は協議期間中に個人および団体から59件を回収した。メンタルヘルス委員会では以下のような工程でさらに検討を加え、リソースガイドラインを見直した。

  • 疫学的な文献を調査し、(重症度とサービス利用の可能性も考慮した)特定の精神疾患群の患者に対する年齢層別の予測人員数を算出したモデルの構築を行った。
  • リソースガイドラインと、HFA(保険金局)が現在利用しているサービスとの比較を行った。
  • 初めの二段階で得られた情報を基に、勧告したリソースガイドラインを12人の専門家による会議で再検討した。ガイドラインには過去および現状相当のサービス実績、患者数の予測に関する情報が含まれる。会議では勧告したガイドラインについて、予測の正確さに関しての信頼度を投票によりランク付けし、リソースガイドラインの評価によりサービスの導入に伴ってリソースの追加が許されることになる地域での精神医療の状況においては、差益を得る機会についてもランク付けを行った。
  • 改定後のリソースガイドラインと特定分野のサービス(例えば理解された通りに要求されるレベルのリソースが整えられるかどうか)の関連について、救急サービス分野(子ども、青少年、高齢者、聴覚障害者、乳幼児と母親、その他特定の集団に対するサービス)にあたるスタッフとの協議
  • 保健省、保険金局各職員(一部は専門家委員会のメンバーでもある)との協議
  • メンタルヘルス委員会はMoving Forward達成に必要なリソースに関して改定後のリソースガイドラインが現時点でできるだけ正確な推計になるよう留意する。
  • ガイドラインは、国あるいは特定の地域や集団に対するサービスについて推計するために使用することを主に意図している。比較的小規模の集団 (個人経営の病院または医療機関)に適用することを意図しておらず、他のサービス供給されて来る特定の地域的な要素も考慮に入れていない。
  • 下記の表は、NZ人口10万人当たりの公的補助のある専門家による精神医療サービスを適切に供給するために必要と見込んだリソースの総数を、概略で示したものである。
サービスの種類 各年齢層人口10万人あたりのリソースガイドライン

0-14 15-19 20-64 65+ 合計
罹病者 - ベッドまたはケアパッケージ 1.30 3.00 31.10 5.30 40.70
地域医療 - ベッド/療養サービス、デイケアパッケージ 3.70 8.30 69.10 4.00 85.90
地域の精神医療 - FTE数 16.30 20.80 51.40 12.90 101.20
地域の支援 - FTE数 0.00 2.20 30.50 1.30 34.00
消費者と家族のための指導サービス、支援サービス - FTE数 0.00 0.40 5.50 0.60 6.50
新しい向精神薬へのアクセス - 人員数 0.00 31.20 175.70 18.10 225.00
アルコールおよび薬物離脱療法 - ベッドとケアパッケージ 0.00 0.20 2.80 0.00 3.00
アルコールおよび薬物 地域での療養 - ベッドとケアパッケージ 0.00 0.90 9.10 0.00 10.00
アルコールおよび薬物 地域での支援チーム- FTE数 0.00 0.90 13.90 1.40 16.20
アルコールおよび薬物 methadoneでの治療- 施設数 0.00 10.00 140.00 0.00 150.00
精神予防医学 - FTE数 3.30 2.80 3.90 0.00 10.00

メンタルヘルスサービスにアクセスする可能性のある人数を推計

保健省のサービスへのアクセス目標値を必要なサービスとして表わすため、メンタルヘルス委員会は、一定期間にサービスを利用すると思われる年齢層、需要別のグループの人数を推計するモデルを構築した。精神疾患をもつ総人口と特定の疾患のグループそれぞれについてモデルの構築を行った。人口10万人当たり、一定期間に公的補助のある専門家による精神医療サービスを利用するであろう人数をできるだけ正確に推計することを目標とした。

「できるだけ正確な推計」の根拠となる詳細な作業文書はメンタルヘルス委員会にて保管している。

同モデルは、Bushnellらによるモデルを元に構築した。Bushnellらの業績は同様にそれ以前のTolkien Reportに基づいて行われている。

精神医療サービスを利用する可能性のある人数を推計するモデルは以下三点の根拠からなる:

1. NZコミュニティでの精神疾患有病率。
有病率からDSM-IVと見られ恐らく時々は治療を必要とする総数が得られ、これが需要の上限値となる。
2. 精神疾患の重症度(または随伴する障害とニーズ)
全ての主だった疫学的研究によると、精神疾患の重症度が増すにつれ、治療が必要になる可能性が高くなること(および実際に発症している)が示されている。一方、重症度のより軽い症状の人々の多くは一人で、あるいは地域コミュニティの助けを借りて対処している。同時に複数の症状のある人(いわゆる合併症または薬物による精神疾患のグループ)は、通常より重度が高い(あるいは随伴する障害がある)。
3. 人々が様々な疾患・重度を理解された上で努める種々のサービスについて稼働率を実地に調査した。最近の疫学的精神医学研究では特定の疾患を持つ人がどのサービスを利用したかが調査された。専門家の精神医療サービスを受ける人(比較的重度な場合が多い)もあれば、一次医療を利用する人、(開業、ボランティア、慈善事業 各団体の)精神医療の専門家を訪れる人、あるいは家族や友人、プライベートな人脈からの助けを求め、支援を受けている人もいる。
利用の形態は実に様々な要素に影響されるため、公営のメンタルヘルスサービスに必要なレベルを推計するに当たって、利用率の妥当性についてはかなりの議論があった。この研究は、一般的な手法による一連の国際的な調査において観測された利用率を基にしており、これには1986年のクライストチャーチ 精神医学調査(ECA(Epidemiologic Catchment Area)の調査として知られている)も含む。普通の要求水準より高いとは言えサービスの利用レベルは低く見積もっているように思える。同様に、利用率を考えないと、どの瞬間を取ってもサービスが過剰に要求されるようになってしまう。

Bushnellモデルでは、疾患は3つ(重度、中等度、軽度)に分類され、ケアのレベルには以下の3種類がある。

  1. 高レベル -- 少なくとも週一回、サービスを受ける必要がある。
  2. 中レベル -- 一週間足らずで専門職のサービスを受けるが、時折と言うよりは頻繁に通う必要がある。
  3. 低レベル -- 主に非専門家によるコミュニティサポート、または社会福祉組織によるサポートを受け、時折専門家に受診する。

現在のモデルではBushnellのモデルに以下の二点の変更が加えられている。

  1. 罹病率について各年齢層で著しい差があると見られていることから、6つの年齢層を含めた。このことは保健省の子どもと青少年についての改定目標値で認められている。以下の3グループに分けて異なる目標値が設定されている。0-9 歳 (1%), 10-14 歳 (3.3%) 15-19 歳 (5.5%)
  2. ECAのサービス利用調査に基づく以下の4つのレベルのサービスを含めて サービスの利用に対する考え方を拡げる
    • 専門家による二次サービス
    • 一時医療ケア
    • コミュニティあるいは民間のメンタルヘルス専門家
    • 地域の機関やコミュニティのメンバーにより提供されるサポート
    • リソースガイドラインの作成に専門家の二次サービスまたは(本人と他の3レベルへの)指導・相談しか含まれていないのは、この部門だけが公営であり精神医療予算からHFAが購買しているものだからである。

以下の推計を作成するためにモデルを使用した:

  • 重症度に応じた年齢層別の精神病有病者数(NZ人口全体または総人口10万人当たり)。これらを重症度に関するBushnellモデルに基づいて算出した。
  • 精神疾患患者のための援助サービスとして、専門家、一次医療ケア、その他のメンタルヘルス専門家、コミュニティの機関という4種類があり、これらのサービスを受けると思われる人数。ただしECAの調査による利用率の値に基づく。上記の調査では15歳以下の利用率については調査されていなかったため、控えめな値を採用した。0-14歳については、15歳以上の高々2倍がサービスを受けるものとした。

ここで計画の改訂に使ったモデルは次ページで図示した。(注:図は省略)

モデルでは 常に人口の20%に精神疾患があるが、サービスの需要が高いのは2%だけである。高需要者のうち90%は二次医療機関を受診するものとする。 精神疾患を罹患している人の多くは、(検査、精神安定、指導・相談を中心とする)支援を時折受診しながら、主に一次医療で提供するような穏やかな治療を受診すると考えられる。最後に、軽度な精神疾患だったり、疾患と呼べる程症状や障害が現れていない集団の人々がある。この集団ではほんの少数(11%)しか医療サービスを受けようとしないと予想され、地域での非医療的なサービスが主になるだろう。

このモデルでは各6グループの年齢層について次の表のような数の人々が6か月の間に二次医療や一次医療を利用するものと考えられる:

人口10万人当たりに必要なサービスレベル別のアクセス数
年齢層 専門家 一次
0-9 122 116
10-14 101 92
15-19 213 167
20-64 1956 1896
65-84 261 210
85+ 32 27
合計 2685 2508

利用の目標数とリソースガイドラインの妥当性を検証する

以下に掲げる表は新たに1997年に発表されたオーストラリアの精神衛生調査、成人健康調査(ABS)の内容と一致している。この調査は、合併障害を負った精神疾患全てについての情報を提供するものである。調査疾患の有無だけを扱っていた従来の調査に比べて、治療の需要をより正確に予測できるものになっている。今回の調査では過去12か月間を対象とした。

下表にはオーストラリアでの調査の概要を示す


ABS
12か月有病率
18歳以上人口に対する障害の重度別罹病率(%)
障害なし 軽度 中等度 重度
不安障害のみ 2.9 2.08 0.27 0.41 0.14
情動障害のみ 1.4 1.10 0.10 0.15 0.05
物質使用障害のみ 3.6 2.73 0.43 0.39 0.05
上記障害の合併 2.3 1.27 0.53 0.32 0.19
精神障害合計 10.2 7.18 1.33 1.28 0.42

オーストラリアでの調査には精神疾患は含まれていない(ただし躁病は含まれる)。
Bushnell(1994) の推計によると6か月の精神疾患の予測有病率は0.04%で、内訳にすると重度の有病率は0.024%、中等度の有病率は0.012%、軽度の有病率は0.004%である。これらに前述のオーストラリアのデータが含まれるならば、18歳を超える人口の3.07%が12か月の関連障害を伴う精神疾患に罹患することになる。このうち、0.444%が重度の障害、1.292%が中等度の障害、1.334%が軽度の障害である。

もうひとつの予測有病率の検証方法は、年齢層別に保健省の目標が達成されている場合に、サービスの利用者と精神医療従事者数の比により利用目標とリソースガイドラインの関係を調査することである。
この分析で確認したことは下記の表で概略として表わした。

保健省の利用目標 0-14 15-19 20-64 65+ 合計

1.0%, 3.9% 5.5% 3.0% 3.0% 2.9%
総人口10万人当たりの利用者数 446 392 1744 353 2935
地域サービスを担当するFTE数
(支援サービスを含まず)
16.3 20.5 50 12.8 99.6
精神医療従事者 一人当たりのサービス利用者数
(支援サービスを含まず)
27.4 19.1 34.9 27.6 29.5

こうした一連の証拠から、「極力正確な」推計を意図したメンタルヘルス委員会の見解が確認され、総人口の3%が公営のメンタルヘルス専門家の受診が6か月の期間中に必要であり、リソースガイドラインが利用目標達成に必要なリソースを「極力正確な」推計の概略として伝えていると言える。より多くの情報が収集できれば推計も改善して行くことも留意されるべきである。