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ニュージーランドのメンタルヘルスサービス計画 ニーズ対応方法について

2 ニーズとニーズグループ

2.1 ニーズに合うと良い成果が生まれる

メンタルヘルスサービスの最も重要な目標は精神疾患罹患者に良い治療効果と回復をもたらすことである。回復に必要な良い成果とは症状と障害の軽減、差別の減少および自己の回復をもたらすサービス利用者個人の才覚の涵養である。

優れた成果測定法の開発は優先事項であり、委員会は成果測定法の開発と利用の評価を全国メンタルヘルス戦略のモニタリングに含めるであろう。そのような成果測定法はサービスを利用する各個人と各グループが抱く健康と福祉の概念に当てはまらなければならない。例えば、マオリの人々へのサービスはマオリ文化に適した成果測定法を使用しなければならない。また委員会は、HFAと全ての提供者が全てのレベルにおける決定を健康の成果と回復の最大化に基づいていることを示すことができるかどうかを調べるであろう。

委員会からの情報によってHFA、衛生研究委員会および保健省が共同で作成しているメンタルヘルス研究開発戦略は、成果測定法の開発と利用に関する多くの目的を有する。

改善された成果を得ることに重点を置くサービスを計画するに当たっての最初の段階は、家族/ファナウ(whanau:拡大家族)のニーズを含む精神疾患罹患者のニーズの検討である。

2.2 精神疾患にかかる経済的コスト

世界保健機関による最近の統計によれば、精神疾患(アルコールおよび薬物乱用障害を含む)は1990年の「人間疾病の世界負担」全体の約11パーセントを占めている。この率は、2020年までに約15パーセントに増加すると見込まれている。世界中の精神疾患は全死亡の約1.4パーセント、障害を伴い生存した総年数の28パーセントを占めている。

1990年には、世界全体の障害の主要原因10のうち、5つは次の精神状態であった。
単極性うつ病、アルコール乱用、双極性情動障害(躁うつ病)統合失調症および強迫神経症

2.3 精神疾患の有病率と健康問題

ニュージーランドの或る調査によれば、人口の約20パーセントがいつかの時点で診断できる精神疾患(アルコールおよび薬物障害を含む)に罹患している。人口の約3パーセントは専門のメンタルヘルスサービスならびにアルコール乱用者および薬物乱用者へのサービスの治療を要する重篤な持続性、無力性精神疾患に罹っている。専門のメンタルヘルスサービスを要する子どもと青少年の数字は5パーセントと推定された。その他の17パーセントは重度、中程度および軽度よりも低い重症度の疾患と問題を有する。これらは通例専門のメンタルヘルスサービスの治療を要しない。

精神疾患の有病率は、マオリの人々ではもっと高い可能性がある。マオリの人々はマオリの人々以外の人々よりも危機、急性および司法精神医学的サービスの受診率がはるかに高いこととアルコールおよび薬物による障害の可能性がはるかに大きいことが知られている。マオリの人々と太平洋地域の人々の真の有病率を明らかにする調査が緊急に必要である。メンタルヘルス研究開発戦略は近くこの必要性に取り組むことになる。その取り組みはマオリの人々と太平洋地域の人々のメンタルヘルス問題の有病率と発病率の正確な測定を確保することを目的とする。

ニュージーランドにおける精神疾患の有病率と発病率の調査は全国メンタルヘルスの第1目標達成の進捗率を測定するために定期的に実施すべきである。

2.4 重篤な精神疾患罹患者におけるニーズグループ

全ての重篤な精神疾患罹患者には、優れた臨床ケアのニーズと対人関係、収入、住宅、教育、雇用、移動および余暇の機会を含む広範囲の心理社会的援助および支援のニーズがある。

各人のニーズは特に年齢、民族性またはその他の個人的要素に関連したニーズも含む。効果的であるためには、メンタルヘルスサービスは(および公衆衛生・一次医療サービス)は、次のニーズグループの特定の要求に応えるよう特に合わせて設定したアプローチを取らなければならない。

  • 成人
  • 子どもと青少年
  • 高齢者
  • マオリの人々
  • 太平洋地域の人々
  • 家族
  • 他の特別グループ

次節では各ニーズグループの特徴を見ることとする。各グループのニーズを満たすのに必要とされる基本的なサービスコンポーネントについては、第5節で概要を述べることとする。

2.4.1 成人

多くの成人はその回復を助ける支援と教育を必要とする。このニーズの範囲は生活環境と精神疾患の種類によって決まる。

重篤な精神疾患の成人には様々の異なるニーズがある。

短期間ではあるが重大な疾患のある人々
限られた時間にのみ臨床サービスへのアクセスを必要とする人々
急性症状の、あるいは危機的な状態にある人々
広範囲の危機サービス(強制的治療を要する場合を含む)への迅速なアクセスを要することがある重度の急性症状を示している人々
重度の持続性または再発性の疾患のある人々
最近診断された疾患のある人、定期的に現れる疾患のある人および持続性の重度で複雑な疾患のある人を含む。これらの人々はケアと追跡の継続性を確保する枠組み内で、一連のサービス(早期介入を含む)へのアクセスを必要とする。
支援ニーズのある重度の疾患および障害を持つ人々
臨床治療ニーズのほか、生活環境と機能水準に関する支援ニーズを有する人々
これらの人々は幅広いニーズの評価へのアクセスとそのニーズが連続したサービスにより統合的に満たされることを確保するサービスの調整へのアクセスを必要とする。最も重度の精神疾患罹患者中の或る成人グループは、回復に一層の重点を置き生活の質の改善をもたらすサービスが必要であることを明らかにしている。このグループの人々は、その主要なニーズは次のニーズであると述べている。
  • より柔軟な収容施設の選択肢
  • 雇用および教育支援の増大
  • 自助/消費者運営の雇用活動協同組合
  • 治療およびサービスの決定に対するより大きな関与
  • サービスの反応度と統合の改善
  • 地域社会において高く評価された役割
安全な環境において長期的に組織化された支援に対するニーズがある人々
行動が地域社会に危険を与えるような持続性の問題をかかえる小グループの人々。
以前は、このような人々は精神病院で生活していた。委員会はこれらの人々のために新様式の長期的な安全な収容施設が必要であると考える。その施設は病院内または地域社会の長期ケア施設で、総合メンタルヘルスサービスの一環として運営され回復のための集中支援および教育が行われる。
他の特別のメンタルヘルスニーズのある人々
特定の症状および診断により極めて専門のサービスを要する人々。この症状とは、重度のアルコールおよび薬物障害を有する複合精神疾患、摂食障害、精神障害の悪化を伴う頭部損傷、ボーダーライン人格障害、知的障害を伴う精神疾患および「母子疾患」である。
アルコールおよび薬物の問題をかかえる人々
主要なメンタルヘルス問題が薬物またはアルコールの依存症であり、アルコール乱用者および薬物乱用者へのサービス(メタドン・サービスを含む)へのアクセスを要する人々

2.4.2 家族

重篤な精神疾患罹患者は孤立の病人ではない。家族とファナウ(whanau: 拡大家族)と他の多くの人は、疾患をどのように考えていようとも、疾患により影響を受けることを避けられない。重篤な精神疾患罹患者の生活は、患者が愛し心にかけている人々の生活と患者を愛し心配している人々の生活と密接な関係がある。近親者のほか、他の親戚、友人、隣人および仕事仲間がおり、これらの人々は患者の生活に役割を担い、したがってその治療又は管理プログラムに参加することが必要になる。

精神疾患を持つ人々の中には、家族が直接に介護の役割を果たさない場合に家族がその治療と支援に関与することを好まない人もいる。家族がどの程度治療と支援に関与するかは精神疾患罹患者が決定しなければならない。メンタルヘルスサービスは、その希望を尊重する必要がある。

精神疾患を持つ個人のみを対象とする介入は部分的な対応をしているにすぎず、したがって部分的にしか効果がない。十分に効果的な介入は疾患に罹患した全ての人々のニーズを認め評価する。家族ぐるみメンタルヘルスサービスは次のことを実施しなければならない。

  • 家族全体の感情的、教育的、社会的および臨床的ニーズに留意すること
  • 精神疾患罹患者と主な家族の者の強み、問題および目標を評価すること
  • 患者の治療と支援の全ての要素(薬剤を含む)を調整するプランを作成すること。これにより、家族内外の全ての関係者は協同的な支援関係で同じ目標に向けて取り組み、家族は回復を助長し家族内の良好な関係を維持するために疾病に対処するのに必要な技術と戦略を与えられる。
  • 患者と主な家族の者に疾患とその治療に関する情報を提供すること

研究の結果は、このように提供されているサービスには大きな臨床的、社会的および経済的利益があることを明確に示している。

患者の生活に関与する人々は次のことを目指すべきである。

  • 情報の交換と家族の者、患者、メンタルヘルス労働者および臨床医はお互いに学び合うプロセスを持つこと
  • 家族と患者と介護人の間の開かれた協力関係を早期に作ること

この目的を達成するために、これらの主要な人々は定期的に連絡し会合することが不可欠である。

家族とファナウの生活は、精神疾患および精神疾患に対する十分に効果的なメンタルヘルスサービスの有無により直接影響を受けるので、家族とファナウは全ての段階のサービスのプランニングに参加することが不可欠である。

家族のニーズはファナウの支援と関与を強く擁護するマオリがよく認識している。ファナウのストレスは疾患を悪化させることがあり、そのため、タンガタ・ファイオラ(tangata whaiola:幸福と回復を求める人々)へのサービスの必要性を増す。ファナウのニーズを特定して対応することで、タンガタ・ファイオラに対するファナウの不安の影響は減少しサービスへのニーズも減る。ファナウの力はタンガタ・ファイオラに対する疾患の影響を和らげ、それによりサ-ビスへのニーズも減らすことができる。

2.4.3 子どもと青少年

子どもと青少年の特別の異なるメンタルヘルスサービスのニーズは、次のことを含む特に計画されたサービスを必要とする。

  • 発達に重点を置くこと
  • 発生する精神医学的問題に重点を置くこと
  • 子どもと青少年に特有の障害に重点を置くこと
  • 集中的家族関与を含むこと
  • 青少年自殺リスクに特に留意すること
  • 他の健康社会サービスとの強固な協議と連絡を行うこと
  • 教育や社会福祉などの他の部門からのサービスとよく調整すること
  • 子どもと青少年の特別の身体的、文化的および感情的ニーズを認める環境でサービスを提供すること
  • 青少年に容易にアクセスできること(移動性を含む)

2.4.4 高齢者

高齢者はその生活段階と環境に適したメンタルヘルスサービスを必要とする。高齢者には異なる種類の精神疾患があり、孤独と身体的な弱さや疾病を伴うことが多い。

2.4.5 マオリの人々

マオリの人々の健康は健康部門の改善の優先事項であり、全ての政府機関はマオリの健康増進に得られた利益を強固にし、マオリの労働力の参加を促進する要がある。

委員会はワイタンギ条約による政府の義務を認め、マオリとマオリ以外の人々との間の現在のメンタルヘルス状態の格差をなくすためにマオリの健康状態を良くしようとする政府の目的を全面的に支持する。委員会はマオリの人々に対するより多くのより良いメンタルヘルスサービスの開発を本計画の重要部分と見なす。

マオリの人々に対するサービスは条約の三つの条全部を反映するように提供しなければならない。このことは、主流のメンタルヘルスサービス内に所在するマオリ・サービスならびにイウィ(部族:iwi)および/または他のマオリ提供者が行う別個のカウパパ・マオリ・サービスの提供を意味する。

2.4.6 太平洋地域の人々

太平洋地域の人々も特定の文化的ニーズを有する。サービスはその言語、習慣、価値および文化を認め肯定しなければならない。太平洋地域の人々はその文化を肯定する主流のサービスと十分な地方人口がある場所がどこであれ太平洋地域の人々が運営する別個のサービスの双方に対するアクセスが必要であることを明らかにしている。

2.4.7 司法精神医学的サービスを利用しているする人々

司法精神医学的専門メンタルヘルスサービスは、裁判所または刑務所から付託された精神疾患(その疑いがある疾患)罹患者もしくは犯罪行為を犯す恐れが大きい、したがってその者と他の者の安全を確保するために専門サービスを必要とする精神疾患罹患者を取り扱う。

2.4.8 異文化および社会グループ

異文化および社会グループの人々(難民、亡命者、新移民、全く耳の聞こえない人々、視覚障害者等)は、そのニーズと期待に応えるように計画され提供されるメンタルヘルスサービスを利用できなければならない。文化的に信頼できる鋭敏なサービスは次の人や行為を必要とする。

  • 言語、態度・考え方、信条および行動が異なる個人およびフループの受容
  • メンタルヘルスに関する他の文化の考え方の知識と理解
  • スタッフ(外国からの健康管理専門家を含む)の文化的訓練および文化専門労働者の訓練
  • 通訳とクライアント支援労働者
  • 文化的に受容できる適切なケアおよび治療の選択肢の提供
  • 文化的アプローチおよび療法における家族および人の文化または社会グループの役割の検討
  • サービスプランニングおよび評価目的のための情報収集(民族性を含む)
  • 異文化および社会グループが利用するサービスの企画、プランニング、提供および評価への文化代表の関与

2.5 地域社会全体のニーズ

直接に精神疾患に罹患していない人々は情報、知識および保証を必要とする。それらの人々は次のことを知る必要がある。

  • 良いメンタルヘルスを維持し精神疾患に関する情報を得る方法
  • 精神疾患罹患者を支援し援助する方法
  • 精神疾患罹患者に対する差別行為を特定し阻止する方法
  • 精神疾患罹患者は個人であり、たいていは前向きの生活をしていること
  • 人々は、精神疾患罹患者から傷害を受ける可能性と同じように地域社会の誰からでも傷害を受ける可能性があること
  • 精神疾患それ自体は他人が危険である以上に人々を危険にするものではないこと
  • メンタルヘルスサービスは全ての重篤な精神疾患罹患者に有効な治療と支援を与えること(地域社会に危険である少数の人々を収容する保護施設を含む)

精神疾患罹患者は定義上は脅威であると広く認識されている。この認識は精神疾患罹患者に対する差別を生むことが多い。この差別は不必要な苦痛を引き起こし、回復を遅らせメンタルヘルスサービスへのアクセスを阻害する働きをする。しかし、これは誤った認識である。大半の精神疾患罹患者は一般住民が与える危険よりも大きな危険を他人の安全に与えない。概して、精神疾病罹患者は他人を傷つけるよりも大きい自傷と他傷の危険がある。

重篤な精神疾患のある人々の中から、他人にわずかに大きい危険を与える人々のグループ、特にアルコールまたは薬物の乱用により悪化した場合、未治療の活動性症状のある人々を特定することは可能である。

メンタルヘルスサービスは、提供するサービスが良いものであり、地域社会がこれを認め制度を信用できることを確信しなければならない。

メンタルヘルスサービスの安全性を改善するための危険の特定と戦略については5.10において詳述する。