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ニュージーランドのメンタルヘルスサービス計画 ニーズ対応方法について

4. ニーズを満たすのは誰か

4.1 全ての人、全ての部門が責務を共有する

誰もが精神疾患を抱える人々を尊重する責任がある。精神疾患の患者の生活に影響を与える決定を下す立場にある人たち-雇用主、家主、メディア、同じ地域の住民グループ、財とサービスの提供者など全ては患者が機会の平等を保障され、権利を護られているようにしなければならない。メンタルヘルス部門は、各機関、人権委員会やHealth Disability Commissionerの支援を受けてこのメッセージをコミュニティ内で普及させていかなくてはならない。

精神疾患の患者へのスティグマと差別に立ち向かうHFAプログラムは、より広いコミュニティと全てのサービス部門が自らの責任を理解する助けとなる。

政策に携わる分野全てと、産業界全体が国のメンタルヘルスに影響を持つ。最も直接的な影響があるのは保健、住居、福祉、仕事と収入、教育、雇用、司法(法廷と処分を含む)、警察、地方自治体、コミュニティの機関である。

メンタルヘルスサービスの改善だけでは精神衛生上の問題を解決できない。最良の結果は、ニュージーランド国民の精神衛生上のニーズに対して、全ての部門が貢献することを約束して初めて達成される。良好なメンタルヘルスには暴力、虐待、貧困、不平等をなくし、機会均等、教育、そして人生のあらゆる局面への参加を促進することが必要である。こうした環境を整備するために、他部門が重要な役割を果たす。メンタルヘルス以外のサービス提供者が、精神疾患を抱える人たちにサービスを提供することは精神疾患の患者にとってより大きな利益をもたらす。幅広い支援及び要求される回復へのオプションを提供する責任は、医療保健のみならず、他の部門にもかかっている。住居、雇用、職業訓練、あるいはレクリエーションといったサービスは、住宅供給、雇用または地方自治体が提供または資金を提供しているが、精神病患者の回復にとってメンタルヘルスサービスと同じくらい重要である。メンタルヘルス部門は積極的に他部門と提携し、その責任を果たすよう支援しなくてはならない。

Moving Forwardが掲げる7つの原則の1つがメンタルヘルス部門は「部門を越えて活動し、コミュニティの精神衛生と健康を向上し、維持するための方針やプログラムを展開、実施を推進する」である。

この理念は全部門に適用されなくてはならない。保健省とHFAは実現に責任がある。達成のための1つのやり方としては、主要部門の新規方針提案の際にメンタルヘルスへの影響の評価を加え、その提案が国の保健目標に対してどのような効果をもつかの評価と併用する。

4.2 公衆衛生サービスの責務

精神疾患の個人およびコミュニティへの経済的負担は今後20年で増加していくと見られる。増加を止める、あるいは削減に転じるには、精神障害の初期兆候が既にあらわれている人たちに対する、有効かつ革新的な医療の行為や、リスクに直面している人たちを対象とした予防プログラムだけでは十分ではない。予防が難しい深刻な障害が存在する一方で、飲酒や薬物乱用など予防が可能なものもある。その他の例としてはある種のうつ病、自殺、また貧しい社会状況、貧困、虐待や暴力、アルコールや薬物関係の問題、そして差別や疎外など、から生み出される多くの障害がある。

マオリの人々は統計的にみて不釣合いなほど予防可能な障害が占める割合が大きい。強力な公衆衛生イニシアティブによりマオリの人々のコミュニティを強化し、こうした問題に対応できるようにする必要がある。マオリの人々に対し公衆衛生サービスが果たすことができる役割についての詳しい議論は6.3.6を参照。

メンタルヘルス委員会が将来のサービス提供に影響を与えると考える方針や議論の資料は数多くある。例えば文章によれば:

  • 行動障害の初期症状をあらわしている若者たちは、将来的にアルコールや薬物による障害、心的状態の障害、自殺を含む何らかの行動をとるリスクに対して脆弱である。
  • マオリの人々はそうでない人々よりも自傷行為の割合が高い。教育の整備および家族/Whanauサポートプログラムによってこのリスクは減らせる。
  • 暴力や性的虐待の被害者は後に精神疾患に陥る可能性が高いと考えられている。公衆衛生のイニシアティブであらゆる形の暴力を削減することで、後の精神疾患や心理的苦痛を防ぐことができるであろう。

若年層の自殺予防に対する政府の戦略は、自殺予防を理解する枠組みを提供し、自殺率の低減を図る方法を示唆している。より効率的なメンタルヘルスサービスや医療の介入の重要性を認めるとともに、この戦略はより幅広い公衆衛生イニシアティブの重要性も強調している。マオリの人々に関する戦略は、社会の全ての側面にマオリの人々が参加することの重要性をはっきりと認めている。

マオリの人々の精神衛生を強化するための公衆衛生アプローチとして5つの点からなる計画が提案されている。

  1. 若者に対し、マオリ社会における言語、土地および強力なWhanauといった諸制度へのアクセスを強化、特定、提供する。
  2. 社会および経済への積極的な参加、特に教育と雇用への参加を増加させる。
  3. 保健サービスをマオリの人々の現実に合わせる。効果的な一次医療へのアクセスの増加、マオリの人々に対する一般の一次サービスにおいてもメンタルヘルスを重視することを含む。
  4. マオリの人々労働力の強化。全てのレベルで働く専門家およびコミュニティワーカーを含む。
  5. 自治と管理を強化し、コミュニティが問題へのアプローチを自分たちで展開していけるようにする。

4.3 一次医療サービスの責務

一次医療サービスは、精神疾患や精神的な問題を抱えた人たちに対する治療およびサポートの提供という自らの責任を認識し、その責務を果たしていかなくてはならない。それには一次医療サービスは:

  • 精神疾患の患者に対しアクセスしやすくなること
  • 回復アプローチを活用すること
  • 精神疾患を抱える人たちへの差別に対しゼロ容認とすること
  • 重度の精神疾患を持つ人の特定および治療に関し、より大きな責任を担うこと
  • 精神的に問題を抱えているが、まだ安定した状態の人に対し、より適切なフォローアップを行うこと
  • こうした人たちを対象としたサービス提供の調整を主導すること
  • 個人および家族の精神衛生をいかにしてまもり、また改善していくかについて情報、助言、サポートを提供すること
  • スタッフおよびコミュニティに対し、精神疾患への理解を促進すること
  • 患者間の相互支援および自助のイニシアティブを育てること

一次医療は患者の家族や介護者に対して、より効果的な支援を提供しなければならない。彼らはしばしば自分自身について不安を感じている。その不安を特定し、早期支援を差し伸べる必要がある。

メンタルヘルスサービスの提供に関する一次医療サービスの貢献を強化することを目的として、全国レベルで多くのパイロット・プログラムが行われている。これらのパイロット・プログラムから得られた知識は部門全体で共有されるべきである。特に一般開業医の全面的な関与に必要な条件(および研修)に関する情報が必要である。利用料の問題についても一次医療サービスは対処しなくてはならない。利用料が一次医療サービスの利用の妨げになるかもしれない(軽度あるいは中程度の患者に対し、実際には一次医療サービスを利用したほうが適切な治療が受けられるのに、彼らがメンタルヘルスサービスの方に行ってしまうなど)あるいは患者はいかなるサービスも受けなくなってしまうかもしれない。

一次医療ケアは専門家による評価と診断の後、治療計画があり、サポートが利用可能で、条件が安定している時、現行の臨床での治療を提供できなければならない。最善の一次メンタルヘルスケアの方が安く上がるとは限らないが、より良い治療をもたらし、患者は早期に診断され、紹介や、より包括的なフォローアップやサポートが得られる。

一般開業医はメンタルヘルスサービスを受ける際の最初の窓口である。とはいえ、コミュニティ内(特にマオリや太平洋地域のコミュニティ)では一般開業医を利用しない人も多く、この人たちは早期にメンタルヘルスケアにかかることができない。一次医療サービスはこの根本的な問題に対処しなくてはならない。

多くの一次メンタルヘルスサービスはコミュニティのソーシャルサービスや学校のカウンセリングサービスによって提供されている。彼らは包括的なメンタルヘルスサービスという観点から、大変重要な貢献者であり、メンタルヘルスサービスの計画で考慮されるべきである。マオリの人々の一次メンタルヘルスサービスの幅が広くなるということは、メンタルヘルスサービスに対するニーズに対応できるということで、適切な時に早期の医療介入を提供できるということである。

HFAは1999年7月までに、一次メンタルヘルスサービスの完全なサービス展開計画を作成している。この計画により以下が提供される。

  • 精神障害の初期徴候を示す人々に対する、一次メンタルヘルスケアによる特定、評価、治療、紹介の改善。
  • マオリの人々(特にRangatahi)および太平洋地域の人々が有効な一次メンタルヘルスサービスを受けやすい環境の整備。
  • 若年層が第一次メンタルヘルスサービスを受けやすい環境の整備。自殺のリスク評価を含む。
  • 全ての一次医療サービスとコミュニティの他の機関との間の関係構築の支援。
  • 総合医療サービス(General Medical Services)の助成金、医薬品の入手、精神疾患治療向け資金に必要だと思われる変更点の検討
  • 労働力の育成と研修

4.4 メンタルヘルスサービスの責務

メンタルヘルスサービスはきわめて重度の精神疾患患者に対する幅広いケアの提供や、精神障害をもつ人を介護する家族やその他介護サービスに対し専門的な支援やサポートを行う責任がある。全ての分野のメンタルサービスは以下を行うことができるものとする。

  • 回復アプローチの活用
  • 差別に対するゼロ容認
  • 早期介入
  • 評価と治療
  • 危機への対応
  • リスクの見極め、リスク削減、安全
  • コンサルティング、一次医療とその他2次医療との橋渡し
  • 回復教育とサポート。自助オプションを含む
  • サービス利用者の権利擁護

これらの要素を調整し、精神疾患を持つ全ての人が自分たちのニーズにあったサービスを受けられるようにしなければならない。

さらに、メンタルヘルスサービスは専門的な臨床的対応およびサポート(あるいは地域センターの専門家へのアクセス)を個人の特定のニーズ(第2章、ニーズとニーズグループにまとめられているものなど)に対して提供できるようでなくてはならない。