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ニュージーランドのメンタルヘルスサービス計画 ニーズ対応方法について

6.マオリの人々へのサービス

6.1 はじめに

政府がマオリの人々の健康に対して望んでいる成果とは、マオリの人々のニーズに今まで以上に応えていき、適切な医療専門家、管理専門家および組織専門家を養成することによって、マオリの人々の健康を向上させていくことである。「Moving Forward」等の政策書で明確な目標として掲げられているように、マオリの人々のメンタルヘルスを向上させることが政府健康政策の最優先事項である。マオリの人々に質量ともに今まで以上のメンタルヘルスサービスを提供していくコミットメントは、結果的にマオリの人々にとって具体的なメンタルヘルス成果、マオリ文化に適したメンタルヘルス成果および回復として現れる必要がある。

メンタルヘルス委員会は、ワイタンギ条約で定められた政府の責任を認識し、マオリの人々の健康状態を向上させる政府の目的を全面的に支援しているため、現在マオリと非マオリのメンタルヘルス状態に差はみられない。(ニュージーランドの)全国メンタルヘルス基準はワイタンギ条約の原則に則しており、タンガタ・フェヌア (Tangata whenua:この地の人々)特有のニーズを反映している。マオリの人々へのサービス提供が条約締結者としてのマオリの人々の状況を理解し、政府の目標に沿っており、全国メンタルヘルス基準を実現できるものでなくてはならない。

マオリの人々が考える良好なメンタルヘルスとは、病気にかかっていない状態のみではない。住居、失業および文化的隔離等の精神衛生上に直接影響を与える問題を解決するために、さらに効果的な取り組みを実施していく必要がある。マオリの人々のメンタルヘルス状態を良い方向へ転換させていくために、建設的で組織的なアプローチが不可欠である。

本章では、マオリの人々が質の良いカウパパ・マオリ・サービスまたはマオリ文化に効果的な主流のサービスを自由に選べるように、メンタルヘルスサービスの提供方法に関する指針を述べていく。「マオリの人々がメンタルヘルスサービスの計画、開発および提供にかかわっていけるように」(ニュージーランドの)全国メンタルヘルス戦略を実施し、「Moving Forward」に定められている全国的な目的および目標を達成できるように、資金提供者およびサービス提供者両者に対する指示も示されている。

ニュージーランドのメンタルヘルスサービス計画「Working Document 1997」はマオリの人々のニーズを一部反映していたが、委員会の考えでは、マオリの人々に質の良いサービスを提供する際に起こる重大な障害には充分に対処しておらず、効果をもたらすうえで必要なリソースの性質や分量が考慮されていなかった。よって、委員会はマオリの人々と話し合いの場を持ち、この新計画への意見を寄せてもらうことを確約した。

これを実行に移し、カウパパ・マオリ・サービスの本質を十分に理解するために、委員会はニュージーランド各地のサービス提供者7団体を訪れ、全国で集会を9回開催した。集会の参加者には全体的な感想を述べてもらい、カウパパ・マオリ・サービスの提供について考え、労働力のニーズに特化した意見を出してもらった。

マオリの人々のメンタルヘルスサービスの問題に関する参加者の知識、長年メンタルヘルス分野で活動してきた経験、きわめて困難かつもどかしい状況の中でサービスを利用してきた体験が貴重な後押しとなり、本計画のマオリの人々に関する部分を改善するに至った。

委員会は、マオリの人々のメンタルヘルスサービスを質量ともに向上させることに焦点を絞るのが重要であると考えている。全クラウン代理店がマオリの人々の健康開発で得た成果をまとめ、マオリの人々の労働力開発を加速させる必要がある。また、マオリの人々へのサービスが、ワイタンギ条約の全3条項に則していなくてはならない。困難な問題を解決するために、具体的な目標の達成に向けて行動を起こしていくコミットメントが求められている。

6.2 重要課題

6.2.1 メンタルヘルスに関するサービスの不足と増え続ける不安

Mason Durieは、以下のように記している。「メンタルヘルス問題が、現在マオリの人々の健康に関して一番の不安事項となっている。心臓病等の疾患が減少している時期に、精神科への入院、アルコール乱用、薬物乱用、自殺および自殺未遂等が増加している」

マオリの人々はメンタルヘルスサービスが満たしていないニーズを多く抱えており、不均衡な数のマオリが危機的状況にあり、急性発症を起こし、司法精神医学的サービスを受けている。マオリは、最入院率が非マオリよりはるかに高い。その割合は近年確実に上昇しており、現在も上昇傾向が続いている。また、マオリの人々はアルコールおよび薬物乱用者向けのサービスをきわめて多く受けており、アルコール乱用、薬物乱用および精神疾患が、精神病棟や精神病院に入院する主な理由となっている。

6.2.2 アクセス

ニュージーランドで適切な疫学の研究が確立するまで、マオリの人々のアクセスニーズの範囲は不明である。一方、委員会の提案によれば、マオリの人々のメンタルヘルスサービスへのアクセス目標値は、一般人口の2倍になるべきである。総人口(マオリの人々および非マオリの人々)の3%に対して、マオリの人々人口の6%がニーズに適したサービスにアクセスできるようにするのである。総人口の15%がマオリの人々であるため、ニュージーランドのメンタルヘルスサービス提供全体の26%がマオリの人々向けのものとなる必要がある。

6.2.3 マオリ文化に効果的なサービス

マオリの人々に効果的なサービスは、ファレ・タパ・ファ(Whare Tapa Wha :マオリの人々の健康と幸福の概念。魂・心・情・家族という4つの要素から考える)の4側面を表し、それに則している必要がある。

タハ・ワイルア(Taha wairua:精神的健康)
タハ・ヒネンガロ(Taha hinengaro:精神・情緒の健康)
タハ・ティナナ(Taha tinana:肉体的健康)
タハ・ファナウ(Taha whanau:家族の健康)

また、サービスが臨床治療とマオリの人々の発展を一体化させたものでなくてはならない。Mason Durieは、マオリ文化に効果的なサービスの資金を調達するための5原則をまとめている。

原則 対象
1. 選択 異なるサービスを選択できるサービス範囲が必要
2. 妥当性 文化的に有意義であり、実際のニーズに対応可能なサービス
3. 一体化 メンタルヘルスサービスが他のヘルスサービスと分離せずに相互に関係していること
4. 質 すべてのサービスで高水準の介護および治療が必要であり、それが成果に現れていること
5. 費用対効果 サービスに支払う価値があり、限られたリソースによって規模の利益が重要なものになる

6.2.4 財政的支援と契約による制約

カウパパ・マオリ・サービス提供者の多くは、政府の政策と実際の契約内容(および契約のプロセス)に明らかな矛盾があることにいら立ちを感じている。

契約が短期のものであること、非マオリの人々のモデルに基づいて方針を変更すること、メンタルヘルスに取り組む際のマオリの人々流のやり方に対して認識が乏しいこと、文化的相違が受け入れられないことによって、サービス提供のコストと内容は著しい影響を受けることになる。すなわち、これらのことすべてが、マオリの人々のサービス提供者に財政支援するのは危険であるという見方を助長し、マオリの人々のサービス提供者は破たんするところまで追い込まれていくようになる。

マオリの人々の再入院率が高いのは、マオリの人々のニーズが満たされていないため、相当異なるものが必要とされていることを示している。マオリの人々のメンタルヘルス状態が大幅に改善されるとすれば、マオリの人々の治療概念を受け入れ、サービス契約がこの概念をサポートできるようにすることが重要となる。

契約には、開発資金の調達目標を盛り込む必要がある。この資金は、臨床研修、文化研修および管理上の開発に利用することができる。マオリの人々のヘルスプロセスを如実に反映、支援し、サービスの性質とコストに見合った金額で公正にマオリの人々へのサービスに資金を割り当て、開発段階で提供者を支援する内容の複数年契約が必要である。

6.2.5 労働力の開発

心理学医、精神科医および作業療法士等の専門的資質を備えたメンタルヘルス分野で就労しているマオリの人々が、きわめて少ない。結果的に、回復にかかわる評価、治療および支援、教育の分野で、文化的相違が十分に理解される機会が少なくなっている。外部から専門家を招き、ファナウ(Whanau:拡大家族)にアドバイスおよびサポートをしてもらうことはできるが、望ましい結果を得るには、マオリの人々にメンタルヘルスサービスを提供するマオリの人々を大幅に増やす必要がある。さらに、メンタルヘルスをサポートするワーカーの技量を向上させるために、短期の研修を早急に実施する必要がある。それでも、高技能を持つ専門家が長期的に求められることに変わりはない。

マオリの人々と非マオリの人々に健康状態の差があるのは、あらゆる分野でマオリの人々の労働力が少ないためではない。その証拠に、メンタルヘルスセクターに新しい貴重な技量をたびたび提供しているマオリの人々コミュニティのメンタルヘルス労働者が出現してきている。しかし、キャリアの方向性を示さず、その他の正式な資格を取得するよう勧めていないサービス提供者もいる。この状況を打破することが必要である。マオリの人々コミュニティのメンタルヘルスワーカーが、研究プログラムに参加できるようにすることが急務である。そうすれば、低水準の技量にとどまらずに、一連の必要なサービスを提供できるようになる。精神疾患患者で資格および技能のあるマオリの人々が、メンタルヘルスサービス分野で就業できるようにするべきである。

6.2.6 不適切なパフォーマンス評価

パフォーマンス評価には、マオリの人々へのメンタルヘルスサービスの成果および結果が残らず含まれている必要がある。

パフォーマンス評価は西洋の例をもとに開発されたため、タンガタ・ファイオラ (Tangata whaiora:幸福や回復を求めている人々)の回復にきわめて重要な概念および活動の多くに完全にあてはまりそうにない。この問題に配慮していないため、とりわけ財政支援および特定アプローチへの承認を得る際に、マオリの人々へのメンタルヘルスサービスが不都合なものになっているのは明らかである。

ファレ・タパ・ファは、評価ツールとして利用可能かどうかを見極めるために、Mason Durieらによって現在開発が進められている。

健康に対するマオリの人々の認識が多岐に渡るため、パフォーマンス評価は、健康を広範囲に評価するために、目前の臨床指標を超えた評価でなければならず、ヘルスサービスは症状を除去するだけでなく、回復および健康も推進しなくてはならない。

いかなるパフォーマンス評価が採用されるとしても、健康および文化的アイデンティティに関するマオリの人々の観点をこれ以上無視するものであってはならない。

6.2.7 差別と回復

委員会は、断固として差別を許さない。これは、いかなる差別も容認しないということである。集会参加者からのフィードバックを見てみると、マオリの人々は公正にサービスを提供することが差別撤廃の出発点であると明確にしており、委員会もこの見解を支持している。委員会の「Map of the Journeys」には変更すべき箇所が記されており、7つの目標がそれぞれの方針とともに示されている。マオリの人々に関する部分は、以下の通りである。

  • 積極的なマオリの人々の参加
    マオリの人々(タンガタ・ファイオラ含む)がメンタルヘルスサービスに関する決定を下し、サービスを管理、実施する機会を得られるようにする
  • 前向きなマオリの人々の発展
    マオリの人々へのサービス提供を目的とした基準、方針および慣習の必要性を認識する
  • 差別撤廃
    マオリの人々の優先順位がメンタルヘルス分野で平等に考慮されるメンタルヘルス体制を整える

この方針に関する詳細は、添付1を参照のこと。

精神疾患に関するマオリの人々の見解が回復アプローチと一致しており、マオリの人々への全サービスがこの事実を反映している必要がある。精神疾患を抱えたマオリの人々は、マオリの人々として、タンガタ・ファイオラとして差別を受けている。差別が回復の障壁となっている。回復アプローチを成功させようとするなら、マオリの人々へのサービスが2つの差別の影響を減らす必要がある。

6.3 基本的なサービス・コンポーネント

6.3.1 マオリの人々のニーズを満たす

マオリの人々は、メンタルヘルスサービスを今まで以上に受けられるだけでなく、主流のサービスを利用するのか、カウパパ・マオリ・サービスか、その両方かを選択できるようになる必要がある。マオリの人々がアクセスするサービスはマオリの人々のニーズを満たし、期待に応え、アイデンティティを深めるものでなくてはならない。マオリの人々と効果的に協力していくためには、マオリの人々に幸福をもたらすコンポーネントを把握し、理解することが必要である。たとえば、マオリの人々の文化的アイデンティティがどのように定義されるかを把握し、そのアイデンティティを形作る価値、信仰および行動を認識することである。

下記コンポーネントの範囲は、マオリの人々のニーズを満たすために、メンタルヘルスサービス全般に盛り込まれていること。

コンポーネント 詳細 目的
文化的評価 タンガタ・ファイオラの治療法の付加として、マオリの人々の価値および治療慣習を提供可能な文化的状況および文化的ニーズを評価する 最も適切かつ効果的なサービスが、マオリの人々に提供されるようにする
ファナウおよびタンガタ・ファイオラの参加 下記活動にファナウおよびタンガタ・ファイオラが参加する
  • 評価および治療計画
  • 治療および支援の提供、回復教育
  • 早期介入プログラムおよび研修、ファナウへの教育支援
治療の基盤として重点が置かれるファナウンガタンガ(whanaungatanga:??)を促進する
マオリ語 タンガタ・ファイオラは、テ・レオ・マオリ(Te reo Maori :マオリ語)を選択可能 治療プロセスの重要部分として、マオリの人々の信仰および価値を表現する際に、マオリ語を使用できるようにする
ティカンガ・マオリ(Tikanga Maori:マオリの人々の知識と慣習) マオリの人々の法律および治療プロセスが認識され、身体的および精神的治療がいずれも実施される環境 マオリの人々の治療プロセスに不可欠なものとして、自らの価値および信仰を認識するマオリの人々のために環境を整える
治療プロセス マオリ治療法、プロセス、自然医学のほか、新薬および回復アプローチへのアクセスを含む臨床治療等あらゆる選択肢をマオリの人々に与える 文化を基盤にした治療がマオリの人々の治療プロセスに与える好影響を認識する
労働力 マオリの人々は、健康従事者、臨床医学者、管理職および医師決定者等の仕事に携わる タンガタ・ファイオラに対応しやすい環境およびサービス基準を設ける
マオリの人々にかかわるパフォーマンス評価 ファレ・タパ・ファ・モデルは、パフォーマンス評価に盛り込まれている パフォーマンス評価が目前の臨床指標を超えており、マオリの人々の健康評価を幅広く網羅すること

6.3.2 主流のサービス

主流サービスを受けるマオリの人々の精神疾患罹患者には、マオリの人々の治療アプローチが主流サービスで適切な選択肢として認められ、高く評価され、考慮されることを期待する権利がある。

評価プロセスおよび評価決定によって、主流サービスでのマオリの人々の回復が遅れることが多々ある。そのため、マオリの人々の健康従事者またはカウマツア(kaumatua)が必ず最初の連絡先となり、評価プロセスを始める際に立ち会うようにすることが重要である。主流サービスの臨床医学者が、トフンガ(tohunga:聖職者)およびマオリの人々のセラピストと協力関係を築くことが重要である。それによって、マオリの人々も同様のサービスを受けられるようになる。

主流サービスに従事するマオリの人々を新規採用し、仕事への定着率を高めるには、現在就業中のマオリの人々を育成し、人数を増やし、専門訓練を受けられるよう奨励、支援することに早急に取組む必要がある。これは、サービスが効果的にマオリの人々のニーズすべてを満たすために重要なことである。

6.3.3 カウパパ・マオリ・サービス

このサービスは治療の範囲を示し、サービスを支援することが可能である。これに含まれるのは、ファナウンガタンガ、ワカパパ(Whakapapa:家系)、文化的評価、タンガタ・ファイオラおよびそのファナウの社会的地位向上、テ・レオ・マオリ、ティカンガ・マオリ、カウマツアの指針、伝統的な治療法へのアクセス、主流ヘルスサービスへのアクセスおよびマオリの人々にかかわる品質パフォーマンス評価の利用等、基礎的な要素である。マオリの人々へのサービスは、臨床技術を持つマオリの人々を惹きつけ、定着させる方法を探すことが必要となるであろう。

このようなサービスを提供するには、必要な管理技術および経営技術を有する人材を適切な管理体制に配置することが必須である。

カウパパ・マオリ・サービスは、主流サービス内で提供することが可能である。

6.3.4 マオリ・アドボカシーとサポートサービス

マオリ・アドボカシー・ワーカーおよびサポートワーカーが、主流サービス、カウパパ・マオリ・サービスおよび資金提供機関で必要とされている。このワーカーは、資金提供者、サービス提供者、健康サービス機関、社会サービス機関およびその他法定機関と協力し、タンガタ・ファイオラおよびファナウのニーズを満たすように取り組み、タンガタ・ファイオラおよびファナウがサービスを受け、自らの権利を理解できるように支援する。

6.3.5 早期の介入

マオリの人々がメンタルヘルスサービスを受けるのは病状がかなり進んでからであり、結果的にサービスを受ける頃には重症になっていることが多い。また、評価および治療のために強制的に入院させられた結果として、精神障害者施設に収容される傾向も強い。

入院率および再入院率の高さに効果的に対応していくために重要な手段が、早期介入プログラムおよびサービスの導入である。

統合失調症または双極性情動障害等の重篤な精神疾患が、教育、カウンセリングまたは教養を高めることによって予防可能になる根拠はないが、制限条件の少ない管理体制の下で早期診断および早期治療を実施すれば、予防できる可能性はある。マオリの人々のメンタルヘルスサービスが他よりも効果的な分野が3つあり、いずれも重篤な精神疾患とかかわっている。

  • 適切な文化内容の範囲で専門家の診断サービスを提供可能なコミュニティのメンタルヘルスセンターで早期介入すれば、適切な管理計画を開発することによって、手遅れの入院または強制入院に大きく影響を及ぼすことができる可能性がある
  • 既往の精神障害を抱えた人、コミュニティ支援および回復教育の必要な人とのかかわり、フォローアップを通じたマオリの人々ワーカーによるコミュニティ支援。このワーカーは、マオリの人々のネットワークおよびコミュニティ・リソースに精通しており、ファナウおよびハプ(hapu:準部族)と心を通わせることができる傾向にある
  • マオリの人々が、支援体制の整った施設およびカウパパ・マオリ・サービスを選択肢できる雇用サービス等の障害者支援サービスを受けられるようにする

精神疾患の発症、青少年による自殺の警告的徴候およびどのようなサービスがどこで受けられるか等について、マオリの人々が情報を入手できるように早急に対応する必要がある。

6.3.6 公衆衛生サービス

Mason Durieは、公衆衛生および幅広い社会方針の対応が、重篤な精神疾患(アルコール乱用および薬物乱用含む)を発症するマオリ青少年を減少させる鍵であると主張しており、公衆衛生プログラムには下記が必要であると記している。

  • コミュニティで精神疾患への理解を深め、差別を減らす
  • 危険因子を減らし、早期介入を促進する
  • 差別、貧困、社会からの孤立、薬物乱用およびホームレス等、精神疾患罹患者に偏った影響を及ぼす社会問題に幅広く取り組む
  • 他ヘルスサービスおよび他部門への相談および連携を推進する
  • 精神的な安定性を向上させる

強力な公衆衛生イニシアティブが、マオリの人々には早急に必要である。そのイニシアティブによって、医療専門家および健康専門家が介入するのを待つのではなく、コミュニティが自ら問題を解決できるようにするべきである。

マオリの人々のメンタルヘルスを向上させるために、公衆衛生アプローチが5点提唱されている。

  1. 青少年に力を与え、存在を認め、言語、土地および強力なファナウ等マオリの人々社会の慣習に接することができるようにする
  2. 教育および雇用への参加を増やすことによって、社会および経済へ積極的に参加する
  3. 効果的な一次医療サービスへのアクセスが増加し、マオリの人々へ一般的な一次医療サービスを提供する際にメンタル・ヘルスを重視することが増えている現実に伴い、ヘルスサービスを再編する
  4. あらゆる階層で従事する専門家およびコミュニティ・ワーカー等マオリの人々の労働力を増強する
  5. 自主性および自己管理を強化し、コミュニティ自らが問題の解決法を考えられるようにする

6.3.7 精神疾患、アルコール問題および薬物問題を抱えるマオリの人々へのサービス

アルコール乱用および薬物乱用、精神疾患が、マオリの人々が初めて入院する主な理由となっており、1993年の初入院全体の32%を占めている。1984年から1993年の間に、アルコールおよび薬物乱用で初めて入院したマオリの人々女性は49%増加した。薬物が原因の精神疾患による入院が、アルコールおよび薬物乱用で精神病院に入院したマオリの人々全体の21%を占めているが、非マオリの人々では5%である。National Acuity Reviewによれば、マオリの人々がサービスを受けるのは遅く、精神疾患およびアルコール問題を抱えるマオリの人々がとりわけ不利な状況に立たされていることは明らかである。サービスがいずれの症状を抱えるマオリの人々にとっても効果的であり、カウパパ・マオリ・アプローチが含まれている必要がある。アルコールおよび薬物乱用のメンタルサービスすべてが、コミュニティ評価・治療および収容介護のサービスにカウパパ・マオリ・プログラムを盛り込んでいなくてはならない。

急性発症のマオリの人々が精神疾患治療のみを受けている場合、現在の精神疾患サービスで取り組まれていない薬物乱用の問題が数多く見られている。また、大麻および幻覚剤を使用しているマオリの人々の現状および増加現象、このような薬物と精神科へ入院するマオリの人々との関係性が深刻に懸念されている。

6.3.8 司法精神医学的サービス

マオリの人々は司法精神医学サービスを利用することが多く、このサービスをマオリの人々のニーズに見合うようにする必要がある。マオリの人々は非マオリの人々より危険であると考えられており、慎重に処置されている。マオリの人々の38%は法執行機関または福祉サービスから照会されたものであり、非マオリの人々は27%になっている。入院した男性マオリの人々の3分の1は強制入院であり、非マオリの人々の男性より2.5倍多い。マオリの人々の囚人数は常に不均衡な数字を示しており、囚人人口の50%以上がマオリの人々である。

HFAおよびサービス提供者(カウパパ・マオリおよび主流ともに)は下記に重点を置くこと。

  • 予防
  • カウパパ・マオリを重視した早期介入プログラムの開発
  • 包括的および総合的な治療アプローチ
  • 文化的ニーズに注目する
  • 包括的なニーズ評価、ニーズを満たす回復支援および回復教育
  • 退院計画の調整
  • 保険金局(HFA)、メンタルヘルスサービス提供者、刑務局、警察、裁判局、教育省、住宅省および労働税収局等部門間で相互に協力する
  • マオリの人々労働力に司法精神医学の特殊分野技能を提供する

6.3.9 子どもと青少年

メンタルヘルスサービスは、とりわけタマリキ(Tamariki:子ども)およびランガタヒ(rangatahi:青少年)のニーズを認識し、それに対応していなくてはならない。マオリの人々の子どもおよび青少年は、カウパパ・マオリおよび適切な主流サービス両者を受けられる必要がある。マオリの人々は、非マオリの人々よりも平均年齢が若い。1996年の国勢調査では、0-14歳全体の23.6%、15-17歳の19.7%がマオリの人々であった。子どもおよび青少年にサービスを提供する専門の複合コミュニティチームには、アルコールおよび薬物乱用のサービス提供が盛り込まれており、マオリの人々へのサービスについて具体的に記されていることが必要である(カウパパ・マオリ・サービスの提供含む)。

マオリの人々青少年の自殺が増加傾向にある。最近発行された青少年の自殺防止に関する政府戦略計画には、自殺率を減らすために実施する必要のある戦略が示されている。さらに効果的なメンタルヘルスサービスおよび臨床的介入が重要であると認識されているが、戦略計画は幅広い公衆衛生イニシアティブの重要性も重視している。

6.3.10 マオリの人々のメンタルヘルスサービス分野での労働力

マオリの人々に適切なサービスを提供することが可能になれば、あらゆる専門分野で(必要基準を十分に満たす知識および臨床技術のある)マオリの人々労働力が相当数必要となる。さらに、経営管理部門で技量のあるマオリの人々提供者を育成することも必須である。マオリの人々のメンタルヘルスおよび臨床診療の評価を調査することが、高水準を確立し維持するうえできわめて重要となる。

メンタルヘルスサービスを利用しているマオリの人々は多いが、健康従事者、管理者および意思決定者としては印象が薄い。サービス提供者の文化的背景が、いかにサービスの結果に影響を及ぼしているかを示す根拠は十二分にある。メンタルヘルスセクターに精神疾患にかかったことのある人を含めたマオリの人々を新規採用するために、特定リソースを財政支援することが急務である。また、現在の労働力および研修の実施状況を維持するためには、なんらかの戦略が必要となる。

マオリの人々は、自らの文化的期待に沿ったメンタルヘルスサービスを受けることができなくてはならない。そのためには、テ・レオ・マオリおよびティカンガ・マオリに精通しており、メンタルヘルス研修を受けたマオリの人々ワーカーを増やす必要がある。現在、マオリの人々のメンタルヘルス専門家および研修者が圧倒的に少ない。中等教育機関および高等教育機関で学んでいるマオリの人々に、メンタルヘルスセクターで就業可能な職種の情報を提供する必要がある。さらに、教育分野と健康分野が協力すれば、「Moving Forward」で定められた国全体の目標に沿って、マオリの人々を対象とした教育の場が増えるであろう。

2005年7月までに、マオリの人々のメンタルヘルスサービスでの労働力(臨床医を含む)は、1997/98年の基準から50%増加しているはずである。

集会のフィードバックから得られた主なメッセージには、下記のニーズが含まれている。

  • マオリの人々ヘルスワーカーの研修プログラム作成
  • テ・レオ・マオリおよびティカンガ・マオリを理解する研修プログラム
  • 現在のマオリの人々労働力を維持するための対策
  • 地方での研修プログラム
  • 精神医学、臨床心理学、看護および福祉事業等マオリの人々労働力の少ない分野で、マオリの人々が学べるよう奨学金を支給する
  • 経営、管理、コンピュータ、経理の学習者を含むマオリの人々労働力の技術開発を促進する
  • メンタルヘルスに従事している非マオリの人々が、患者のマオリの人々に対して文化的に支障なく対応できるように、十分な知識を備えられるようにする

1997年12月に臨床研修局(CTA)が発行した「マオリの人々向けの臨床研修戦略計画(仮訳:A strategic plan for post-entry clinical training for Maori)」によれば、マオリの人々の優先度およびプロセスに従った開発モデルを利用して、マオリの人々健康従事者の教育を開始する必要がある。この戦略は、主流サービスがマオリの人々のニーズへ対応できるようにしていき、マオリの人々がCTAビジネスおよびメンタルヘルス・セクターに参加できるようにすることを目標としている。

昨年、CTAはテ・ワナンガ・オ・ラウカワ(Te Wananga O Raukawa:??)と協力し、研修プログラムの試作版を開発した。これは、健康の専門資格を有するマオリの人々の技量を向上させる上級研修プログラムである。試作版の評価およびCTAマオリの人々健康従事者戦略計画のHFAによる検討の結果、CTAは1999年のプログラムへ引き続き資金を提供し、同種のプログラムを幅広く導入していく意向である。

6.4 原則を行動に移す

ヘルスサービスだけでは、マオリの人々のメンタルヘルスを向上させることはできない。Mason DurieがPuahouで示しているように、社会、政治、経済の分野を広く網羅する強固なコミュニティ開発アプローチが必要である。

しかし、そのためには強力かつ適切で受けやすいヘルスサービスが必要となる。マオリの人々のメンタルヘルスサービスを効果的なものにするためには、重要な成功因子がいくつもある。それに必要な条件は下記の通りである。

  • 効果的な財政支援およびメンタルヘルスサービスの提供
  • マオリの人々提供者組織を持続的に発展させる
  • 幅広い公衆衛生戦略および1次医療戦略に取り入れるマオリの人々向けメンタルヘルスサービス戦略の必要性

この重要な成功因子は、資金提供者およびサービス提供者のパフォーマンス評価の基本として使用されることになる。各重要成功因子に対する資金提供者およびサービス提供者のパフォーマンスを評価する際の質問表が、添付IIに記載されている。